21 / 44
記事①
【テレビ番組:〈再生P!〉の未編集テープ:三日目②】
中葉さんはかず彦さんの部屋に入った。
薄暗く、ひんやりと冷たく、だが空気がこもってカビ臭い和室。
かず彦さんが額を畳に打ちつけていた。
「やめろ、やめるんだ」
中葉さんはかず彦さんの頭と、細すぎる肩を抑えた。
あまり風呂に入っていない人間特有の、酸化した脂のにおいがしたそうだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をさらし、道で転んだ子どものようにかず彦さんは泣き叫んだ。
「さち乃っ……ごめん、ぼくの、ぼくのせいだ……っ」
黒ずんだ爪を、肉が削げ落ちた頬に立てる。
「ぼくがこんなだから……ゴミだから、クズだからっ……ぼくのせいでさち乃が死んだぁあああ……っ」
顔面を引っ掻こうとするのを、中葉さんが手首を押さえて止める。彼の手首は少し力を入れたら折れそうだったという。
「あんなに苦しんでいたのに。ゆうべ家を出る前に、『痛い』って叫んでいたのに……心配だったけど、怖くて様子も見にいけなかった……」
かず彦さんはギリギリと歯軋りをし、涎と共に「死ぬべきなのはぼくなのに」とこぼした。
「ぼくが死ねばよかったんだ……ぼくも、死にたい……死にたいぃいいい……っ」
その嘆きを耳にするや、中葉さんは反射的に否定した。
「母親の前で、そんなこと言ったらダメだ!」
「!」
中葉さんの言葉に、かず彦さんはゆっくりと顔を上げた。
腫れぼったい瞳を、母親の方に向ける。
「かずくん……」
涙に濡れた顔を、親子は見合わせる。
しばし無言で見つめ合った。
やがてかず彦さんの全身から力が抜けて、
「ごめん……お母さん、ごめん……」
うずくまって、そう謝り出した。
かず彦さんの、亡き妹と母親への謝罪は長く続いた。
その間、中葉さんたち番組スタッフはずっと傍についていた。
普段ならば、こんなカウンセラーや福祉士めいたことはしない。
けれどどうしても、この家族を放っておけなかったと、前島さんも後藤さんも後ほど吐露したらしい。
番組スタッフは撤収したのは、夜が深まる頃だった。
そして――
1週間後の、6月27日(水曜日)。
最初の予定では、撮影最終日になるはずだったその日、なつ子さんに連絡を取った。
その後の様子を伺うためと、撮影を続けるか、番組の制作をどうするか九重家の意向を聞くためだった。
前島さんはお蔵入りを覚悟していたが、なつ子さんの返事は、予想外のものだった。
「どうぞ来てください」
驚いたが、なつこさんが望むなら最後まで付き合おうと前島さんは考えたそうで、番組スタッフは再び九重家を訪れた。
そこには先客がいた。
堤さんという女性だった。
薄暗く、ひんやりと冷たく、だが空気がこもってカビ臭い和室。
かず彦さんが額を畳に打ちつけていた。
「やめろ、やめるんだ」
中葉さんはかず彦さんの頭と、細すぎる肩を抑えた。
あまり風呂に入っていない人間特有の、酸化した脂のにおいがしたそうだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をさらし、道で転んだ子どものようにかず彦さんは泣き叫んだ。
「さち乃っ……ごめん、ぼくの、ぼくのせいだ……っ」
黒ずんだ爪を、肉が削げ落ちた頬に立てる。
「ぼくがこんなだから……ゴミだから、クズだからっ……ぼくのせいでさち乃が死んだぁあああ……っ」
顔面を引っ掻こうとするのを、中葉さんが手首を押さえて止める。彼の手首は少し力を入れたら折れそうだったという。
「あんなに苦しんでいたのに。ゆうべ家を出る前に、『痛い』って叫んでいたのに……心配だったけど、怖くて様子も見にいけなかった……」
かず彦さんはギリギリと歯軋りをし、涎と共に「死ぬべきなのはぼくなのに」とこぼした。
「ぼくが死ねばよかったんだ……ぼくも、死にたい……死にたいぃいいい……っ」
その嘆きを耳にするや、中葉さんは反射的に否定した。
「母親の前で、そんなこと言ったらダメだ!」
「!」
中葉さんの言葉に、かず彦さんはゆっくりと顔を上げた。
腫れぼったい瞳を、母親の方に向ける。
「かずくん……」
涙に濡れた顔を、親子は見合わせる。
しばし無言で見つめ合った。
やがてかず彦さんの全身から力が抜けて、
「ごめん……お母さん、ごめん……」
うずくまって、そう謝り出した。
かず彦さんの、亡き妹と母親への謝罪は長く続いた。
その間、中葉さんたち番組スタッフはずっと傍についていた。
普段ならば、こんなカウンセラーや福祉士めいたことはしない。
けれどどうしても、この家族を放っておけなかったと、前島さんも後藤さんも後ほど吐露したらしい。
番組スタッフは撤収したのは、夜が深まる頃だった。
そして――
1週間後の、6月27日(水曜日)。
最初の予定では、撮影最終日になるはずだったその日、なつ子さんに連絡を取った。
その後の様子を伺うためと、撮影を続けるか、番組の制作をどうするか九重家の意向を聞くためだった。
前島さんはお蔵入りを覚悟していたが、なつ子さんの返事は、予想外のものだった。
「どうぞ来てください」
驚いたが、なつこさんが望むなら最後まで付き合おうと前島さんは考えたそうで、番組スタッフは再び九重家を訪れた。
そこには先客がいた。
堤さんという女性だった。
あなたにおすすめの小説
私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?※これはあくまでフィクションです。
芝 稍重
ホラー
私は子供の頃から夢日記を書いています。
この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。
(※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)
表紙はぱくたそのフリー写真です
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。