16 / 35
第2部/鎖女の話をした少女の話
先輩との幸せすぎるデート
しおりを挟む
――夕方、駅前のファーストフード店。
英美香は二人の友人と寄り道していた。
「莉々子のやつ、最っ悪!」
注文したものを受け取って席に着いた瞬間、英美香がキレた。
叩きつけられたテーブルがガタッと揺れる。
「急にうちらの柏木先輩に近づいて! あんな地味で、毎日つまんなさそうな顔して、そのくせ自分からは何もしようとしないやつがさー!」
英美香が紙コップを握りつぶした。その拍子に中身のコーラがこぼれる。
「ああもうこぼれた! 莉々子め!」
もはや八つ当たりに近い英美香を、友人の一人がいさめる。
「落ち着きなよ~。はい、ティッシュ」
「でもキレるの分かる~。莉々子、マジでチョーシ乗ってるしね」
ポテトを食べながら別の友人が賛同した。
「しかも明日、一緒に映画と買い物に行くとか。ふざけんなってのー」
「そもそもなんで柏木先輩が莉々子なんかに!? キッカケは何なのよ!」
依然お怒りモードの英美香に、友人が「あーそれね」と答える。
「どうやら『お化け』関連らしーよ」
「お化け?」
鎖女
「……っていうのに、莉々子が狙われてるんだって。祐奈との会話でうっすら聞いた」
「立ち聞きじゃん。やば。っていうか何?」
鎖女
「って……」
「さあ?」
英美香はスマホを出して調べ始めた。
少し時間はかかったが、該当する投稿をSNSで発見した。
「鎖女っていうのは――」
英美香が説明するのを、友人たちは耳を傾けた。
*
「莉々子ー! こっちこっち!」
ラフなパンツスタイルの祐奈が、街中の映画館の入口前で手を振る。
朝から快晴で、涼しい空気が気持ちいい。絶好のお出かけ日和だ。
「祐奈、お待たせ!」
「大丈夫だよ、上映時間まで余裕あるし。あれ、柏木先輩は?」
祐奈が首を捻る。すると、「莉々子!」とあたしを呼ぶ声が飛んできた。
返事して振り向くとそこには、バイクに跨った柏木先輩。
Tシャツに薄手のジャケットを羽織って、クールだけど品のあるコーデ。
ヘルメットからその尊顔を出すと、周囲の注目が一瞬で集まった。
「バイクを停めてくるから、俺が戻ってくるまで絶対に一人になるなよ。――すまないが、莉々子を頼む」
そう言って先輩はあたしを祐奈に託す。
祐奈はニヤニヤしながら「はあーい」と返事をした。
バイクが走り出すと、あたしの二の腕をツンツンついてくる。
「おいおい何ですか今のは~。バイクで送ってもらって? 一人になるなって言われて? さらに友達に『よろしく頼む』って?」
うわー祐奈、悪いカオ!
「彼氏では? まごうことなき彼ぴでは~~?」
「やーめーてーよぉ!」
あたしは満面真っ赤で否定する。口では。
「先輩はあたしを守ってくれるだけだって!」
「はいはい、そういうことにしといたげる! ってか、今日のコーデ可愛いじゃん。いつもTシャツデニムなのに」
祐奈はあたしの全身――オフショルのトップスにくすみピンクのスカートという甘めコーデを見て、褒めてくれた。
(クローゼットから全部出して、必死でコーデ組んだんだもんね)
先輩はどんな感じの女の子が好きなんだろ、とか。
考えるのすごく楽しかった。
「……誰かのことを想って服装を考えるのって、超楽しいんだね」
祐奈が「よっ、恋する乙女!」と囃し立てた後、柏木先輩が走ってきた。
「待たせてすまない。……どうした、莉々子。頬が紅潮している」
「! な、なんでもないです!」
あたしたちのやりとりに、祐奈はずっとニマニマしていた。
何事もなく映画が終わった。
外に出ると、ますます日差しが強くなっていた。
「映画最高だったー!」と祐奈が満面の笑みで伸びをする。
「若い刑事役の俳優さんが、わたしの推しなんですよー!」
祐奈がパンフレットをぎゅっと抱きしめて言うと、柏木先輩が頷いた。
「脇役かと思いきや物語のキーパーソンだったし、いい味を出していたな」
「そーなんです! わたし、あの人の演技が大好きで、いつか共演できたらなぁって夢見てます!」
臆面もなく夢を語る親友に、あたしは言った。
「昔からの夢だもんね。祐奈なら、いつか叶えられるよ!」
(これは、本心)
少し前までキラキラする祐奈がまぶしくて、素直に応援できなかったけど
今は心からそう思えちゃう。
柏木先輩のおかげだ。
心に余裕があるって最高だなぁ。
「それじゃ、わたしはここでお暇しまーす!」
「うん。午後から部活なんだよね」
「そうそう。なにやら顧問から重大発表があるらしいの。ではでは先輩、失礼します! ジュースとポップコーンごちそうさまでした!」
ビシッと敬礼する祐奈。
「今日はありがとう。すまなかったな、邪魔して」
祐奈はいえいえと言った後、あたしに耳打ちした。
「デート楽しんできてね。また報告よろしく!」
「!」
あたしが何か言う前に、祐奈はスタコラサと去っていく。
もう、からかっちゃって。……嬉しいけどっ。
「このあとは買い物だったか?」
「は、はい! あ、すぐに終わらせますんで!」
「ゆっくり見ればいい。せっかくの休日だし」
先輩はあたしを優しい眼差しで見下ろした。
「ほら、どこの店に行きたいんだ?」
「……」
(先輩は、あたしをキュンさせる天才ですか?)
無自覚な恋泥棒さんと、映画館近くのファッションビルに入る。
あたしはずっと浮き足立っていた。それこそ羽が生えたみたいに。
先輩にトップスの色を選んでもらったり。
ペットカートに乗ったトイプードルを見かけて、可愛いって言い合ったり。
フードコートでゴハンしたり。細マッチョでたくさん食べる先輩推せる!
ショップ店員さんから「見て見て、すごいイケメン!」「隣の子、彼女かな? うらやましい~!」って言われたり、ほんとに幸せでたまらなかった。
夏服とコスメと念願のルームウェアを買って、最後は本屋さん。
ここで、勉強熱心な子だってアピールしちゃうもんね。
……なんて計画していたら、雑誌コーナーに思いがけない顔があった。
(ウソ! 英美香たち、なんでいるの!?)
量産系ワンピに身を包んだ、英美香たちだった。
向こうもあたしに気づいたらしく、瞬時に両目を吊り上げた。
今日も今日とて視線で殺してきそうな……。
ていうかなんでここにいるの。
まさか尾行してきたとか? 怖い!
「莉々子?」
冷や汗を流していると、柏木先輩が呼んだ。
「オススメの数学の参考書だが、あれがいいぞ。俺も使っているが分かりやすい」
「ありがとうございます。……よいしょっと」
棚の一番上にある参考書を取ろうとしたけど、手が届かない。
難儀していると、先輩が参考書を取ってくれた。
「ほら」と差し出されて、あたしは今日中にキュン死にしちゃうんじゃないかと怖くなった。
……ついでに背後の英美香たちがブチギレる気配も怖いけど。
でも、先輩の優しさと幸せを全力で噛み締めた。
英美香は二人の友人と寄り道していた。
「莉々子のやつ、最っ悪!」
注文したものを受け取って席に着いた瞬間、英美香がキレた。
叩きつけられたテーブルがガタッと揺れる。
「急にうちらの柏木先輩に近づいて! あんな地味で、毎日つまんなさそうな顔して、そのくせ自分からは何もしようとしないやつがさー!」
英美香が紙コップを握りつぶした。その拍子に中身のコーラがこぼれる。
「ああもうこぼれた! 莉々子め!」
もはや八つ当たりに近い英美香を、友人の一人がいさめる。
「落ち着きなよ~。はい、ティッシュ」
「でもキレるの分かる~。莉々子、マジでチョーシ乗ってるしね」
ポテトを食べながら別の友人が賛同した。
「しかも明日、一緒に映画と買い物に行くとか。ふざけんなってのー」
「そもそもなんで柏木先輩が莉々子なんかに!? キッカケは何なのよ!」
依然お怒りモードの英美香に、友人が「あーそれね」と答える。
「どうやら『お化け』関連らしーよ」
「お化け?」
鎖女
「……っていうのに、莉々子が狙われてるんだって。祐奈との会話でうっすら聞いた」
「立ち聞きじゃん。やば。っていうか何?」
鎖女
「って……」
「さあ?」
英美香はスマホを出して調べ始めた。
少し時間はかかったが、該当する投稿をSNSで発見した。
「鎖女っていうのは――」
英美香が説明するのを、友人たちは耳を傾けた。
*
「莉々子ー! こっちこっち!」
ラフなパンツスタイルの祐奈が、街中の映画館の入口前で手を振る。
朝から快晴で、涼しい空気が気持ちいい。絶好のお出かけ日和だ。
「祐奈、お待たせ!」
「大丈夫だよ、上映時間まで余裕あるし。あれ、柏木先輩は?」
祐奈が首を捻る。すると、「莉々子!」とあたしを呼ぶ声が飛んできた。
返事して振り向くとそこには、バイクに跨った柏木先輩。
Tシャツに薄手のジャケットを羽織って、クールだけど品のあるコーデ。
ヘルメットからその尊顔を出すと、周囲の注目が一瞬で集まった。
「バイクを停めてくるから、俺が戻ってくるまで絶対に一人になるなよ。――すまないが、莉々子を頼む」
そう言って先輩はあたしを祐奈に託す。
祐奈はニヤニヤしながら「はあーい」と返事をした。
バイクが走り出すと、あたしの二の腕をツンツンついてくる。
「おいおい何ですか今のは~。バイクで送ってもらって? 一人になるなって言われて? さらに友達に『よろしく頼む』って?」
うわー祐奈、悪いカオ!
「彼氏では? まごうことなき彼ぴでは~~?」
「やーめーてーよぉ!」
あたしは満面真っ赤で否定する。口では。
「先輩はあたしを守ってくれるだけだって!」
「はいはい、そういうことにしといたげる! ってか、今日のコーデ可愛いじゃん。いつもTシャツデニムなのに」
祐奈はあたしの全身――オフショルのトップスにくすみピンクのスカートという甘めコーデを見て、褒めてくれた。
(クローゼットから全部出して、必死でコーデ組んだんだもんね)
先輩はどんな感じの女の子が好きなんだろ、とか。
考えるのすごく楽しかった。
「……誰かのことを想って服装を考えるのって、超楽しいんだね」
祐奈が「よっ、恋する乙女!」と囃し立てた後、柏木先輩が走ってきた。
「待たせてすまない。……どうした、莉々子。頬が紅潮している」
「! な、なんでもないです!」
あたしたちのやりとりに、祐奈はずっとニマニマしていた。
何事もなく映画が終わった。
外に出ると、ますます日差しが強くなっていた。
「映画最高だったー!」と祐奈が満面の笑みで伸びをする。
「若い刑事役の俳優さんが、わたしの推しなんですよー!」
祐奈がパンフレットをぎゅっと抱きしめて言うと、柏木先輩が頷いた。
「脇役かと思いきや物語のキーパーソンだったし、いい味を出していたな」
「そーなんです! わたし、あの人の演技が大好きで、いつか共演できたらなぁって夢見てます!」
臆面もなく夢を語る親友に、あたしは言った。
「昔からの夢だもんね。祐奈なら、いつか叶えられるよ!」
(これは、本心)
少し前までキラキラする祐奈がまぶしくて、素直に応援できなかったけど
今は心からそう思えちゃう。
柏木先輩のおかげだ。
心に余裕があるって最高だなぁ。
「それじゃ、わたしはここでお暇しまーす!」
「うん。午後から部活なんだよね」
「そうそう。なにやら顧問から重大発表があるらしいの。ではでは先輩、失礼します! ジュースとポップコーンごちそうさまでした!」
ビシッと敬礼する祐奈。
「今日はありがとう。すまなかったな、邪魔して」
祐奈はいえいえと言った後、あたしに耳打ちした。
「デート楽しんできてね。また報告よろしく!」
「!」
あたしが何か言う前に、祐奈はスタコラサと去っていく。
もう、からかっちゃって。……嬉しいけどっ。
「このあとは買い物だったか?」
「は、はい! あ、すぐに終わらせますんで!」
「ゆっくり見ればいい。せっかくの休日だし」
先輩はあたしを優しい眼差しで見下ろした。
「ほら、どこの店に行きたいんだ?」
「……」
(先輩は、あたしをキュンさせる天才ですか?)
無自覚な恋泥棒さんと、映画館近くのファッションビルに入る。
あたしはずっと浮き足立っていた。それこそ羽が生えたみたいに。
先輩にトップスの色を選んでもらったり。
ペットカートに乗ったトイプードルを見かけて、可愛いって言い合ったり。
フードコートでゴハンしたり。細マッチョでたくさん食べる先輩推せる!
ショップ店員さんから「見て見て、すごいイケメン!」「隣の子、彼女かな? うらやましい~!」って言われたり、ほんとに幸せでたまらなかった。
夏服とコスメと念願のルームウェアを買って、最後は本屋さん。
ここで、勉強熱心な子だってアピールしちゃうもんね。
……なんて計画していたら、雑誌コーナーに思いがけない顔があった。
(ウソ! 英美香たち、なんでいるの!?)
量産系ワンピに身を包んだ、英美香たちだった。
向こうもあたしに気づいたらしく、瞬時に両目を吊り上げた。
今日も今日とて視線で殺してきそうな……。
ていうかなんでここにいるの。
まさか尾行してきたとか? 怖い!
「莉々子?」
冷や汗を流していると、柏木先輩が呼んだ。
「オススメの数学の参考書だが、あれがいいぞ。俺も使っているが分かりやすい」
「ありがとうございます。……よいしょっと」
棚の一番上にある参考書を取ろうとしたけど、手が届かない。
難儀していると、先輩が参考書を取ってくれた。
「ほら」と差し出されて、あたしは今日中にキュン死にしちゃうんじゃないかと怖くなった。
……ついでに背後の英美香たちがブチギレる気配も怖いけど。
でも、先輩の優しさと幸せを全力で噛み締めた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる