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Shot03
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「アッハッハッハッハッ!」
ここはマーモット商会トルーチュ支店応接室。
高級そうなソファーで腹を抱えて笑う銀狐と苦虫を噛み潰したような俺が顔を突合せていた。
「笑い過ぎじゃねぇか? 腐れ狐」
「アッハッハッハッハッ、ご、ごめんなさい。ま、まさか、まさかあの魔弾が、かかか、カモられるなんて、ね。……プッ! くぁっはっはっはっ! む、無理ぃ! ガマンとか無理ぃ! アッハッハッハッハッ!」
「そうか、鉛が食いたきゃそう言いな」
てめぇの胃袋に直接、腹いっぱいご馳走してやるからよ。
銀狐を睨みつけ、ゆっくりと腰のモーゼルに手を伸ばす。
「はっはっはっ。久しぶりに笑わせてもらったわ。謝るからそう怖い顔をしないで頂戴」
「危うくぶっぱなす所だったよ。俺の引き金は軽いんだ」
これはお互い軽い挨拶の様なものだ。
ここで俺が銃を抜かないのを銀狐はよく知っている、だが流石にこれ以上機嫌を損ねるのも不味いとは分かっている。
「で、どうするの? 探し出して海にでも沈める?」
「いや、いい。俺が間抜けだったんだ。それより、そっちはどうなんだ? 商会のシマだろ?」
「あら、うちは何もしないわ。だって被害は出てませんもの。今のところはね。誰かさんが昼食代はきっちり払ってくれてるし」
「ちっ、あの金髪赤眼のガキには今度会ったらお仕置きしてやるさ」
俺がアイツの特徴を言った途端、銀狐の瞳が鋭く細められ、雰囲気が変わる。
「へぇ……ねぇ、それってこの娘の事じゃない?」
銀狐はそう言って懐から一枚の写真を取り出す。
これも遺物として商会が保持しているポラロイドカメラによって撮られた物だ。
写真には街角の雑踏が収められ、その中にフードを被った例の娘の顔もバッチリと写っていた。
高々食い逃げに貴重な写真フィルムを使って撮影するあたり相当重要な人物に見える。
「こないだの話の続き、聞きたい?」
「勧誘ならNoだが?」
「違うわよ。積み荷のお話」
お互いソファーに座り直す。
「どうやら、あの積荷はただの物じゃ無かったみたいでね? 集積所から自分の足で逃げ出したみたいなの」
「なるほどね、それがこの娘ってわけか。だが、たかが娘一人に随分と大騒ぎじゃねぇか?」
「彼女、人間じゃ無いらしいわ」
「あの食いっぷりだ、アレが実はモンゴリアン・デス・ワームって言われたって驚きゃしねぇよ」
「そのモンゴ……なんとかが何かは知らないけど。この娘、『吸血鬼』なのよ」
「ブフゥッ!」
俺はその言葉に飲んでいたお茶を盛大にふきだしていた。
あのマヌケ顔が吸血鬼だと?
「ちょっと、汚いわね!」
「おまっ、吸血鬼ってアレか? 怪力無双、変幻自在、神出鬼没。コウモリや霧に姿を変えて、動物や昆虫を使役し、頭を吹っ飛ばしても死なない程の再生力。血を吸われればご同族か歩く死体に早変わりだ」
「はっはっはっ、まさか。確かに怪力はオーガやトロールでも相手にならないらしいし、自己再生の能力でとっても死ににくいみたいよ。でも、コウモリになるとか、血を吸われると吸血鬼になるとかは聞いた事が無いわね」
「じゃあ、超が付く程の怪力で物凄く頑丈な娘なわけか? なんでそんなのがこの街に?」
「持ち込んだのはべニート・ファミリーの本部連中よ。どうやらロッソは本部から来た若いのに好き勝手やられた挙句、吸血鬼には逃げられてその火消しに走り回ってるみたいよ。賞金稼ぎを呼び込んでるのも表向きは貴女の首、裏では吸血鬼を追っかけてるわ」
「あの豚。……にしてもちょっと強いくらいの吸血鬼に何を慌ててる? それに何しに帝国に持ち込んだ?」
「さぁね、どうせ貴女にぶつける気だったんじゃないの? シスターも知っててほっといてるみたいだし」
「あぁ、気が付いてねぇ訳がねぇな。分かった上で連絡会で積荷だの奪われただの言ってたんだろ」
「まぁ、吸血鬼が自分以外の組を潰してくれれば万々歳だし。御せないと分かれば総力を持って潰す段取りでしょ」
「まぁ、良いよ、ここの連中はそういう奴ばっかりだからな。ちょっと用事が出来たんで帰るぜ」
そう言ってソファーから立ち上がる俺を銀狐が呼び止める。
「あら、貴女に頼まれてた商品。見て行かないのかしら?」
「今度でいい。ちょっくら豚の所に昼飯代請求しに行ってくる」
そう言って商会を後にした。
※※※※※※
「一体アレのレンタルと輸送にどれだけの金を掛けたと思ってる! なぜ集積所の警備を手薄にした!?」
「勝手な事をやったのはそっちだろう! 自分のケツぐらい自分で拭いたらどうだ!? 集積所の警備なんぞより魔弾の抹殺に人手が必要なんだ!」
べニート・ファミリーの事務所二階の頭目執務室、そこで言い争う男が二人。
一人はデブの豚であるべニート・ファミリートルーチュの頭目・ロッソ。
もう一人は小綺麗な格好をした優男。べニート・ファミリー本部では一目置かれ次の頭目の一人に確定している出世頭アルバート・フランツァーノ。通称ソニーと呼ばれている男だ。
「いいか、ここじゃどうかは知らねぇが。国に帰りゃあ俺は次期大頭目だ、こんな所で燻ってるてめぇとは格が違うんだよ! すぐに構成員と冒険者と賞金稼ぎをかき集めて吸血鬼探しに行かせろ! 二度は言わねぇぞ、ロッソ・アルカポーン!」
「吸血鬼がなんだ! てめぇ勝手に賞金稼ぎ共をあのパープルヘッドにけし掛けたな? 吸血鬼なんぞを連れ込んだのがウチだってのも直ぐにバレる。しかもだ、もうその吸血鬼とやらはあのパープルヘッドに会っちまって、しかもヤツを獲物に食い逃げまでしやがった! 最悪だ、最悪だよ! あのキチガイの紫頭は直ぐにここに来るぞ! 昼飯代の回収と俺をバラしにだ! そん時にゃ、ソニー、てめぇも額でタバコが吸える身体になってるだろうよ!」
「てめぇも本部の幹部連中もビビりの集まりか!? 俺が吸血鬼を探してるのも、アレが『乳粥王子』の持ちもんだからだ。事がすんだら返さなきゃならねぇ。ガキ一人消すぐらい俺にかかりゃあ直ぐに終わるんだ」
「ソニー、知らねぇんだ、おめぇは。あの女の恐ろしさが! 『乳粥王子』がまだ生きてんのも、婚約者の顔が『半分焼けた』だけで済んでんのも、あの女は何か企んでやがるんだ!」
終わりの見えない言い争い。
ともすれば、永遠に続くかと思えた罵倒の応酬も第三者の介入によって終焉を迎える。
頭目の執務室に、ドアを突き破って血だるまの男が飛び込んで来たのだ。
木製の品の良いドアは木っ端微塵に弾け飛び、部屋の中央でいがみ合っていた二人の間を男が飛んでゆく、やがて通りに向かって備えられた窓をぶち破って落ちていった。
当然、男が自ら飛び込んだ訳では無い。
何者かがとてつもない『怪力』で投げ込んだ様だった。
「ハロー、ハロー、ゴロツキ共。我を探している様なので、わざわざコチラから出向いてやったぞ?」
「き、吸血鬼!?」
血だらけの構成員を片手で引き摺りながら入って来たのは、件の吸血鬼であった。
吸血鬼も返り血か、それとも自身の血か、その姿は血まみれだ。
「ち、丁度いい! お前に相手をさせようと思ってた女がここに来る、そいつを殺せば手荒な真似をせずに王国へかへぶしっ!?」
ソニーが言い切るまでに吸血鬼はその剛腕で血まみれの部下を投げ付けていた。
大人ひとりをほぼ顔面で受け止めたソニーは浮き上がり背中から事務机へとダイブする。
「貴様はバカか? せっかく王国の束縛から離れられたと言うのに、自から鳥かごに帰るわけが無かろう。これはただのお礼参りじゃよ」
この吸血鬼は自分たちを殺しに来た。
その事実に恐怖よりも憤怒が勝ったソニーは顔を真っ赤にして吸血鬼を睨み付ける。
しかし、この街でそれなりの期間、頭目として過ごして来たロッソは違った。
ロッソは窓の外を見た瞬間、自分から窓に向かって駆け出していた。
肥満体に似合わぬその速さにソニーも吸血鬼も反応が遅れる。
時間の流れが遅くなったかのような、その刹那、ロッソは二階の窓から身を投げ出した。
「パァアーープゥーールゥーーヘェーーーッド!!!」
叫び声を上げながら落ちていくロッソ。
その肥満体が窓の外に見えなくなった時、開けた視界には向かいの建物の屋根から筒を肩に抱えてコチラに向ける『魔弾』の姿があった。
その筒が『ドッ』という音と共に少量の煙と発光を放ち、そして周囲の砂埃を巻き上げた次の瞬間。
先の宣言の通り、執務室は木っ端微塵に吹っ飛ばされていた。
※※※※※※
「ちっ!」
ロッソの野郎、直前で気が付きやがった。
俺は弾頭を撃ち込んだ後のSMAWロケットランチャー(バズーカとでも思って貰えるといい)をカバンにしまい、代わりに先日買ったトミーガンを取り出す。
一発しか入っていない30発マガジンを差し込んだ俺は弾薬室へ弾を装填すると銃口をべニートの事務所に向けて引き金を引いた。
『トトトトトトトトトッ!!』
発射音ひとつで止まると思われた発砲は、止まることは無く、シカゴ・タイプライターの異名に恥じない軽快な音で木製の事務所を穴だらけの廃墟へと変えて行く。
長々と続くトミーガンの咆哮はとうの昔にマガジンの最大装填数すら越えてなおその銃口からはまだ弾を吐き出し続ける。
銃身が焦げ付く直前で射撃を終えた俺は銃を下ろし、タバコを取り出し火を付けた。
トミーガンからマガジンを取り外すとそこには装填した時と同じ一発の弾丸が。
コレが俺の能力『複製』。
『魔弾』と呼ばれる所以だ。
触れている物をもう一つ作り出す力。
この力のおかげで、どんな銃だろうと弾丸が一発あれば内部で複製を作って弾切れにならずにぶっぱなす事が出来る。
勿論、銃そのものも複製出来るから部品取りに複製を作っておけば修理も出来るし、オリジナルを残しておけばいくらでも替えがきく。
おかげで弾切れや故障に悩まされずに日々射撃と整備を続けた努力の結晶が今の俺を支えてる。
それに一人だけズルして無限バンダナ装備状態ってのもあるが。
それに複製出来るのは銃や弾だけじゃなく、服や食い物、金なんかも複製し放題だ。
勿論、金なんか複製したら通貨危機よろしく面倒事になるんで生活費はちゃーんと稼いでいるし、生物なんかは何が起きるかわからねぇんで複製した事は無い。
この能力ってヤツはこの世界じゃそんなに珍しいもんでも無い。
何人かには一人は持って産まれてくるもんだし、気が付かないか役に立たないってだけで使えるけど使わないヤツも沢山いる。
さっき逃げ出したロッソのヤツも体格に合わない『俊足』なんて能力持ちだ。
「まぁ、役に立たなそうな能力も要は使い方次第なんだがな」
俺はそう独りごちるとボロボロになった事務所に向かって声を張り上げた。
「おおぉぉいっ!! ロッソぉー! 聴こえてるかぁっ!? てめぇんトコのペットのエサ代! 回収しに来たぞぉ! この程度でくたばるタマじゃねぇのは知ってる! 事務所が更地になる前に面ァだしやがれ!」
しかし、事務所だった物から一切の返事は無い。
「そうかい、なら遠慮はいらねぇな?」
俺はさっき使ったSMAWに手を伸ばした。
その時、事務所の前の通りにゆっくりと人影が現れる。
それは両手を上げて震えながらコチラを見上げるロッソだった。
「ま、待て魔弾! て、手違いなんだ! ほんの不幸な事故だ! そんなこたぁ、ゆっくり茶でもして話をすればわかる事だ、そうだろ?」
「手違いだァ? 手違いだの事故だので命狙われて、昼飯代までガメられたんじゃたまったもんじゃねぇぞ!」
「そ、その通りだ。本部の命令でもちょっとやり過ぎた。当然昼飯代は返す。なんなら例の吸血鬼の首だって持ってって貰って構わねぇ。まだ事務所に居るはずだ。だから手打ちにしよう、コレからは命狙うのも格好だけにする! だから引いてくれ魔弾!」
ロッソがそう言った瞬間、事務所の残骸で何かが光を反射した。
俺はすぐさま腰のモーゼルを抜き放つ。
『ダァン! ダァン!』
モーゼルから発射された二発の弾丸は寸分の狂いも無く、事務所から飛んで来た二本のナイフを撃ち落とす。
「ソニーか!? やめろ!!」
ロッソが叫んでいるがもう遅い、残骸から飛び出した優男に向かって引き金を引く。
しかし、打ち出した弾丸は男が持っていた死体に阻まれてしまった。
男は掴んでいた死体を投げ捨てると体を捻って反対の手で数本のナイフを投げ付ける。
当然、今度もナイフを撃ち落とす。
その気になりゃあ銃弾でビリヤードだって出来る、飛んでくるナイフ程度撃ち落とすのはわけない。
飛び出した男を見るに投擲系の能力者だろう。
埃まみれで血だらけだが、あの身のこなしださっきの死体の返り血だろう。
すると何事か、事務所にいた男が道に飛び出して来た。
男を撃ち抜こうと銃口を向ける。
「っ!? やっべっ!!」
しかし、事務所から飛んで来た『壁の残骸』を躱すため慌てて屋根から飛び降りた。
2回転3回転して衝撃を吸収した俺はすぐさま近くの物陰へと隠れる。
建物を見あげればさっきまで立っていた所には見事に壁が突き刺さっていた。
「ちっ! やっぱバケモンかよ!」
ロッソのヤツも物陰に隠れたんだろう、相変わらず逃げ足の早いヤツだ。
道を見ればソニーとか言う優男も樽の影に隠れて様子を伺っている。
そして、崩れた建物から壁を投げた犯人が姿を現した。
「まったく、建物ごと吹き飛ばされるとは。規格外なヤツめ。獲物の横取りは感心せんぞ?」
「建物の壁をぶん投げて来る規格外に言われたかねぇぜ。それにソイツは元々俺の獲物だし、てめぇは食い逃げ犯だろうが」
「クソっ! なんなんだアイツら! 吸血鬼はともかく、あの紫頭も十分バケモノじゃねえか!」
日も傾き出したトルーチュの通りで、『魔弾』『吸血鬼』『マフィア』の三つ巴の戦いの火蓋が切って落とされた。
ここはマーモット商会トルーチュ支店応接室。
高級そうなソファーで腹を抱えて笑う銀狐と苦虫を噛み潰したような俺が顔を突合せていた。
「笑い過ぎじゃねぇか? 腐れ狐」
「アッハッハッハッハッ、ご、ごめんなさい。ま、まさか、まさかあの魔弾が、かかか、カモられるなんて、ね。……プッ! くぁっはっはっはっ! む、無理ぃ! ガマンとか無理ぃ! アッハッハッハッハッ!」
「そうか、鉛が食いたきゃそう言いな」
てめぇの胃袋に直接、腹いっぱいご馳走してやるからよ。
銀狐を睨みつけ、ゆっくりと腰のモーゼルに手を伸ばす。
「はっはっはっ。久しぶりに笑わせてもらったわ。謝るからそう怖い顔をしないで頂戴」
「危うくぶっぱなす所だったよ。俺の引き金は軽いんだ」
これはお互い軽い挨拶の様なものだ。
ここで俺が銃を抜かないのを銀狐はよく知っている、だが流石にこれ以上機嫌を損ねるのも不味いとは分かっている。
「で、どうするの? 探し出して海にでも沈める?」
「いや、いい。俺が間抜けだったんだ。それより、そっちはどうなんだ? 商会のシマだろ?」
「あら、うちは何もしないわ。だって被害は出てませんもの。今のところはね。誰かさんが昼食代はきっちり払ってくれてるし」
「ちっ、あの金髪赤眼のガキには今度会ったらお仕置きしてやるさ」
俺がアイツの特徴を言った途端、銀狐の瞳が鋭く細められ、雰囲気が変わる。
「へぇ……ねぇ、それってこの娘の事じゃない?」
銀狐はそう言って懐から一枚の写真を取り出す。
これも遺物として商会が保持しているポラロイドカメラによって撮られた物だ。
写真には街角の雑踏が収められ、その中にフードを被った例の娘の顔もバッチリと写っていた。
高々食い逃げに貴重な写真フィルムを使って撮影するあたり相当重要な人物に見える。
「こないだの話の続き、聞きたい?」
「勧誘ならNoだが?」
「違うわよ。積み荷のお話」
お互いソファーに座り直す。
「どうやら、あの積荷はただの物じゃ無かったみたいでね? 集積所から自分の足で逃げ出したみたいなの」
「なるほどね、それがこの娘ってわけか。だが、たかが娘一人に随分と大騒ぎじゃねぇか?」
「彼女、人間じゃ無いらしいわ」
「あの食いっぷりだ、アレが実はモンゴリアン・デス・ワームって言われたって驚きゃしねぇよ」
「そのモンゴ……なんとかが何かは知らないけど。この娘、『吸血鬼』なのよ」
「ブフゥッ!」
俺はその言葉に飲んでいたお茶を盛大にふきだしていた。
あのマヌケ顔が吸血鬼だと?
「ちょっと、汚いわね!」
「おまっ、吸血鬼ってアレか? 怪力無双、変幻自在、神出鬼没。コウモリや霧に姿を変えて、動物や昆虫を使役し、頭を吹っ飛ばしても死なない程の再生力。血を吸われればご同族か歩く死体に早変わりだ」
「はっはっはっ、まさか。確かに怪力はオーガやトロールでも相手にならないらしいし、自己再生の能力でとっても死ににくいみたいよ。でも、コウモリになるとか、血を吸われると吸血鬼になるとかは聞いた事が無いわね」
「じゃあ、超が付く程の怪力で物凄く頑丈な娘なわけか? なんでそんなのがこの街に?」
「持ち込んだのはべニート・ファミリーの本部連中よ。どうやらロッソは本部から来た若いのに好き勝手やられた挙句、吸血鬼には逃げられてその火消しに走り回ってるみたいよ。賞金稼ぎを呼び込んでるのも表向きは貴女の首、裏では吸血鬼を追っかけてるわ」
「あの豚。……にしてもちょっと強いくらいの吸血鬼に何を慌ててる? それに何しに帝国に持ち込んだ?」
「さぁね、どうせ貴女にぶつける気だったんじゃないの? シスターも知っててほっといてるみたいだし」
「あぁ、気が付いてねぇ訳がねぇな。分かった上で連絡会で積荷だの奪われただの言ってたんだろ」
「まぁ、吸血鬼が自分以外の組を潰してくれれば万々歳だし。御せないと分かれば総力を持って潰す段取りでしょ」
「まぁ、良いよ、ここの連中はそういう奴ばっかりだからな。ちょっと用事が出来たんで帰るぜ」
そう言ってソファーから立ち上がる俺を銀狐が呼び止める。
「あら、貴女に頼まれてた商品。見て行かないのかしら?」
「今度でいい。ちょっくら豚の所に昼飯代請求しに行ってくる」
そう言って商会を後にした。
※※※※※※
「一体アレのレンタルと輸送にどれだけの金を掛けたと思ってる! なぜ集積所の警備を手薄にした!?」
「勝手な事をやったのはそっちだろう! 自分のケツぐらい自分で拭いたらどうだ!? 集積所の警備なんぞより魔弾の抹殺に人手が必要なんだ!」
べニート・ファミリーの事務所二階の頭目執務室、そこで言い争う男が二人。
一人はデブの豚であるべニート・ファミリートルーチュの頭目・ロッソ。
もう一人は小綺麗な格好をした優男。べニート・ファミリー本部では一目置かれ次の頭目の一人に確定している出世頭アルバート・フランツァーノ。通称ソニーと呼ばれている男だ。
「いいか、ここじゃどうかは知らねぇが。国に帰りゃあ俺は次期大頭目だ、こんな所で燻ってるてめぇとは格が違うんだよ! すぐに構成員と冒険者と賞金稼ぎをかき集めて吸血鬼探しに行かせろ! 二度は言わねぇぞ、ロッソ・アルカポーン!」
「吸血鬼がなんだ! てめぇ勝手に賞金稼ぎ共をあのパープルヘッドにけし掛けたな? 吸血鬼なんぞを連れ込んだのがウチだってのも直ぐにバレる。しかもだ、もうその吸血鬼とやらはあのパープルヘッドに会っちまって、しかもヤツを獲物に食い逃げまでしやがった! 最悪だ、最悪だよ! あのキチガイの紫頭は直ぐにここに来るぞ! 昼飯代の回収と俺をバラしにだ! そん時にゃ、ソニー、てめぇも額でタバコが吸える身体になってるだろうよ!」
「てめぇも本部の幹部連中もビビりの集まりか!? 俺が吸血鬼を探してるのも、アレが『乳粥王子』の持ちもんだからだ。事がすんだら返さなきゃならねぇ。ガキ一人消すぐらい俺にかかりゃあ直ぐに終わるんだ」
「ソニー、知らねぇんだ、おめぇは。あの女の恐ろしさが! 『乳粥王子』がまだ生きてんのも、婚約者の顔が『半分焼けた』だけで済んでんのも、あの女は何か企んでやがるんだ!」
終わりの見えない言い争い。
ともすれば、永遠に続くかと思えた罵倒の応酬も第三者の介入によって終焉を迎える。
頭目の執務室に、ドアを突き破って血だるまの男が飛び込んで来たのだ。
木製の品の良いドアは木っ端微塵に弾け飛び、部屋の中央でいがみ合っていた二人の間を男が飛んでゆく、やがて通りに向かって備えられた窓をぶち破って落ちていった。
当然、男が自ら飛び込んだ訳では無い。
何者かがとてつもない『怪力』で投げ込んだ様だった。
「ハロー、ハロー、ゴロツキ共。我を探している様なので、わざわざコチラから出向いてやったぞ?」
「き、吸血鬼!?」
血だらけの構成員を片手で引き摺りながら入って来たのは、件の吸血鬼であった。
吸血鬼も返り血か、それとも自身の血か、その姿は血まみれだ。
「ち、丁度いい! お前に相手をさせようと思ってた女がここに来る、そいつを殺せば手荒な真似をせずに王国へかへぶしっ!?」
ソニーが言い切るまでに吸血鬼はその剛腕で血まみれの部下を投げ付けていた。
大人ひとりをほぼ顔面で受け止めたソニーは浮き上がり背中から事務机へとダイブする。
「貴様はバカか? せっかく王国の束縛から離れられたと言うのに、自から鳥かごに帰るわけが無かろう。これはただのお礼参りじゃよ」
この吸血鬼は自分たちを殺しに来た。
その事実に恐怖よりも憤怒が勝ったソニーは顔を真っ赤にして吸血鬼を睨み付ける。
しかし、この街でそれなりの期間、頭目として過ごして来たロッソは違った。
ロッソは窓の外を見た瞬間、自分から窓に向かって駆け出していた。
肥満体に似合わぬその速さにソニーも吸血鬼も反応が遅れる。
時間の流れが遅くなったかのような、その刹那、ロッソは二階の窓から身を投げ出した。
「パァアーープゥーールゥーーヘェーーーッド!!!」
叫び声を上げながら落ちていくロッソ。
その肥満体が窓の外に見えなくなった時、開けた視界には向かいの建物の屋根から筒を肩に抱えてコチラに向ける『魔弾』の姿があった。
その筒が『ドッ』という音と共に少量の煙と発光を放ち、そして周囲の砂埃を巻き上げた次の瞬間。
先の宣言の通り、執務室は木っ端微塵に吹っ飛ばされていた。
※※※※※※
「ちっ!」
ロッソの野郎、直前で気が付きやがった。
俺は弾頭を撃ち込んだ後のSMAWロケットランチャー(バズーカとでも思って貰えるといい)をカバンにしまい、代わりに先日買ったトミーガンを取り出す。
一発しか入っていない30発マガジンを差し込んだ俺は弾薬室へ弾を装填すると銃口をべニートの事務所に向けて引き金を引いた。
『トトトトトトトトトッ!!』
発射音ひとつで止まると思われた発砲は、止まることは無く、シカゴ・タイプライターの異名に恥じない軽快な音で木製の事務所を穴だらけの廃墟へと変えて行く。
長々と続くトミーガンの咆哮はとうの昔にマガジンの最大装填数すら越えてなおその銃口からはまだ弾を吐き出し続ける。
銃身が焦げ付く直前で射撃を終えた俺は銃を下ろし、タバコを取り出し火を付けた。
トミーガンからマガジンを取り外すとそこには装填した時と同じ一発の弾丸が。
コレが俺の能力『複製』。
『魔弾』と呼ばれる所以だ。
触れている物をもう一つ作り出す力。
この力のおかげで、どんな銃だろうと弾丸が一発あれば内部で複製を作って弾切れにならずにぶっぱなす事が出来る。
勿論、銃そのものも複製出来るから部品取りに複製を作っておけば修理も出来るし、オリジナルを残しておけばいくらでも替えがきく。
おかげで弾切れや故障に悩まされずに日々射撃と整備を続けた努力の結晶が今の俺を支えてる。
それに一人だけズルして無限バンダナ装備状態ってのもあるが。
それに複製出来るのは銃や弾だけじゃなく、服や食い物、金なんかも複製し放題だ。
勿論、金なんか複製したら通貨危機よろしく面倒事になるんで生活費はちゃーんと稼いでいるし、生物なんかは何が起きるかわからねぇんで複製した事は無い。
この能力ってヤツはこの世界じゃそんなに珍しいもんでも無い。
何人かには一人は持って産まれてくるもんだし、気が付かないか役に立たないってだけで使えるけど使わないヤツも沢山いる。
さっき逃げ出したロッソのヤツも体格に合わない『俊足』なんて能力持ちだ。
「まぁ、役に立たなそうな能力も要は使い方次第なんだがな」
俺はそう独りごちるとボロボロになった事務所に向かって声を張り上げた。
「おおぉぉいっ!! ロッソぉー! 聴こえてるかぁっ!? てめぇんトコのペットのエサ代! 回収しに来たぞぉ! この程度でくたばるタマじゃねぇのは知ってる! 事務所が更地になる前に面ァだしやがれ!」
しかし、事務所だった物から一切の返事は無い。
「そうかい、なら遠慮はいらねぇな?」
俺はさっき使ったSMAWに手を伸ばした。
その時、事務所の前の通りにゆっくりと人影が現れる。
それは両手を上げて震えながらコチラを見上げるロッソだった。
「ま、待て魔弾! て、手違いなんだ! ほんの不幸な事故だ! そんなこたぁ、ゆっくり茶でもして話をすればわかる事だ、そうだろ?」
「手違いだァ? 手違いだの事故だので命狙われて、昼飯代までガメられたんじゃたまったもんじゃねぇぞ!」
「そ、その通りだ。本部の命令でもちょっとやり過ぎた。当然昼飯代は返す。なんなら例の吸血鬼の首だって持ってって貰って構わねぇ。まだ事務所に居るはずだ。だから手打ちにしよう、コレからは命狙うのも格好だけにする! だから引いてくれ魔弾!」
ロッソがそう言った瞬間、事務所の残骸で何かが光を反射した。
俺はすぐさま腰のモーゼルを抜き放つ。
『ダァン! ダァン!』
モーゼルから発射された二発の弾丸は寸分の狂いも無く、事務所から飛んで来た二本のナイフを撃ち落とす。
「ソニーか!? やめろ!!」
ロッソが叫んでいるがもう遅い、残骸から飛び出した優男に向かって引き金を引く。
しかし、打ち出した弾丸は男が持っていた死体に阻まれてしまった。
男は掴んでいた死体を投げ捨てると体を捻って反対の手で数本のナイフを投げ付ける。
当然、今度もナイフを撃ち落とす。
その気になりゃあ銃弾でビリヤードだって出来る、飛んでくるナイフ程度撃ち落とすのはわけない。
飛び出した男を見るに投擲系の能力者だろう。
埃まみれで血だらけだが、あの身のこなしださっきの死体の返り血だろう。
すると何事か、事務所にいた男が道に飛び出して来た。
男を撃ち抜こうと銃口を向ける。
「っ!? やっべっ!!」
しかし、事務所から飛んで来た『壁の残骸』を躱すため慌てて屋根から飛び降りた。
2回転3回転して衝撃を吸収した俺はすぐさま近くの物陰へと隠れる。
建物を見あげればさっきまで立っていた所には見事に壁が突き刺さっていた。
「ちっ! やっぱバケモンかよ!」
ロッソのヤツも物陰に隠れたんだろう、相変わらず逃げ足の早いヤツだ。
道を見ればソニーとか言う優男も樽の影に隠れて様子を伺っている。
そして、崩れた建物から壁を投げた犯人が姿を現した。
「まったく、建物ごと吹き飛ばされるとは。規格外なヤツめ。獲物の横取りは感心せんぞ?」
「建物の壁をぶん投げて来る規格外に言われたかねぇぜ。それにソイツは元々俺の獲物だし、てめぇは食い逃げ犯だろうが」
「クソっ! なんなんだアイツら! 吸血鬼はともかく、あの紫頭も十分バケモノじゃねえか!」
日も傾き出したトルーチュの通りで、『魔弾』『吸血鬼』『マフィア』の三つ巴の戦いの火蓋が切って落とされた。
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マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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