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Shot12
しおりを挟む「ところでそこの窓からは出れねぇのか?」
逃げ込んだ部屋、書斎であろう一角の窓を見て疑問をぶつける。
するとスオウが悲しそうに声を上げた。
「すいません、ボクは生まれつき片足が動かせなくて。2階から飛び降りるなんて、とても」
確かにスオウは部屋に入ってからずっと足を投げ出して座っていた。
松葉杖のようなものは見えないが、普段は壁を支えにして移動しているらしい。
「若を抱えるのは問題無い。しかし、その間無防備になる。危険」
「確かに、空中では戦いにくいからの」
「わーったよ。とすると、とりあえずあのジャガイモ野郎をなんとか突破しねぇとならねぇわけだ」
各々が述べる欠点から窓からの脱出は諦め、正面突破する方法を考え始める。
近くの壁に身体を預けてポケットからタバコを取り出した。
「ミス・コチニール、申し訳ないですが非常事態ですしタバコは……」
「非常事態だからだよ。……わーったよ。ったく、どこの世界でも喫煙者はコレだ」
出したタバコをポケットにしまう。
これじゃあベランダでタバコを吸う父親の気分だ、なんで他の部屋にも結界とやらを貼らなかったんだか。
……いや、ちょっと待てよ?
「おい、アウレア。お前、この部屋の床ぐらいぶっ壊せるだろ?」
「んー? まぁ出来ると思うが?」
何も馬鹿正直に正面からやり合う事も、窓なんぞから逃げる必要もねぇ。
オレの火薬とアウレアの馬鹿力で道なんて作っちまえばいい。
「ま、まさか屋敷を壊すつもりじゃ……」
スオウが不安そうに問いかけてくるが、正直他人の屋敷がどうなろうと知ったこっちゃない。
「屋敷とてめぇの命、どっちが大事だよ? この下の部屋は?」
「え、えっと。使用人の寝室だったかと……」
「ならクッションになるもんはあるな。おい、アウレア。床をぶち抜いたら、直ぐに飛び降りて、ベッドでもクローゼットでも何でもいいから積み上げろ。そいつを足場にしてオレたちは下に降りる」
「わかった。先に降りる時から援護を頼むぞ?」
そう言ってアウレアは部屋の中央に立つと仁王立ちになる。
オレは動く方の腕でモーゼルを構える、応急処置はしたが右腕は当分使い物になりそうも無い。
「ぬおおおおりゃあああああっ!!!」
そしてアウレアは飛び上がるとその拳で部屋の床をぶち抜いた。
「「「「あ」」」」
当然、自分の足元をぶち抜いた為に床とともに下の階へと落ちていった。
「ぬわあああああっ!?」
「ったく、あのバカ……」
「だ、大丈夫でしょうか?」
スオウが心配そうな声を上げるが、あの吸血鬼の事だ、大丈夫だろう。例のジャガイモが下に居なければ、だが。
一応、下の階へと声を掛けておこう。
オレは銃を構えつつ穴から下の階を覗き込む。
「おーい、死んでるかー?」
「い、生きておるに決まっとろうが!」
「そいつぁ良かった。ならさっさと足場を作んな」
「吸血鬼使いが荒すぎじゃろう!」
「うるせぇ、普段の飯代ぐらいは働いて貰わねぇと商売上がったりだぜ」
アウレアはブツブツと文句を言いながら使用人達のベッドや部屋にある家具を穴の下へ運んでいく。
使われているシーツや枕類はあくまで使用人の物な為、薄っぺらくてクッションにはなりそうも無いが、家具を積み上げればそれなりの足場にはなった。
これなら足の悪いスオウでも何とか降りれるだろう、だが一応素早く動ける様に例のエルフ娘に背負って貰うことにする。おっと、ダークエルフだったな。
「あぁ、屋敷が」
「こんな死体だらけの屋敷なんぞ気にするこたぁねえよ。ぶっ潰して新しく立て直しゃ良いんだ。アウレア、外への扉をこさえてくれ」
「はいよー」
「家は玄関から出入りするものでしょう……」
スオウに気休めな慰めを適当に投げ掛けて、アウレアに次の指示を出す。
それを見たスオウは呆れた様な、諦めた様な表情でそうこぼしていたが、これを当然の如く無視する。
「近くの林に車が隠してある、そこまでたどり着ければゲームセット。オレたちの勝ちだ」
「車って。魔導車ですか? 何者なんですか、あなた達は……」
「ただのしがない何でも屋さ」
オレたちは家具を足場にして下の部屋へと降りた。
アウレアはもう壁に大穴を開けて待っている。
「外の様子は、見る限り大丈夫そうじゃぞ?」
「わかった、どこからあの気持ち悪い触手が飛んでくるか分からねぇ。しっかり見張ってろよ」
「若、大丈夫?」
「うん、なんとか」
オレたちは警戒しながら外へと出た。
そこはちょうど屋敷の表側であり、オレたちがフォードを隠した林もちゃんと見える。
あとはターゲットを連れて逃げれば任務完了だ。
あのジャガイモに仕返しが出来ないのは少し癪だが、護衛対象を連れている時に派手に戦う訳にもいかない。
周囲を警戒し、壁の穴から出たオレたちは林に向かって走り出した。
すると突然背後から轟音が鳴り響く。
「な、なんですか!?」
スオウが驚いて声をあげている。
オレも走るスピードは落とさずに背後にある屋敷を振り返って見た。
そこには、屋敷を半壊させ暴れ回る腐れジャガイモの姿がある。
玄関付近はキレイさっぱりぶっ壊されて随分と風通しが良くなってやがる。
ジャガイモはエントランスが有ったその場所から触手を振り回しどんどん屋敷を解体していく。
「あぁ、屋敷が……お爺様の屋敷が……」
「奴さん、餌に逃げられてご立腹の様じゃぞぉ?」
「随分、手榴弾がトサカに来たらしいな」
するとヤツは屋敷から逃げ出すオレたちに気が付いたらしい、ヤツの触手が物凄い音と共にこちらへと襲いかかって来る。
「アウレア! 牽制しながら全力疾走! 林まで走れぇ!」
「こんのっ! 簡単にっ! 言ってっ! くれるわぁ!」
オレたちを串刺しにしようと襲いかかる触手を飛んだり跳ねたり、身体を捻って転がり回って、下手なダンスの様に紙一重で回避していく。
林まで走るオレたちの周りを轟音と土埃をたてて触手が突き刺さる、それはまるで触手の林の様だ。
そんな中、アウレアのリボルバーとシェーレの剣技だけが触手の攻撃を相殺できる唯一の手段、二人は懸命に触手を撃ち落とし切り落として行く。
オレも空いてる腕で射撃をするが焼け石に水、9mm弾じゃ牽制にすらならない程の猛攻だ。
「クソォ! あのジャガイモ、何本触手持ってんだよぉ!?」
「パーピュア! もう弾が無いぞ! あと一発じゃ!」
「若を守りながらでは限界」
流石の二人も弾切れと荷物持ちでは満足に戦えず、残弾の無いアウレアが徒手空拳で果敢に戦っているが、いくら自慢の怪力と言えど数の暴力と移動しながらの戦闘では上手くいかない。
林まではもう少しの所なのに、このままではみんな仲良く串刺しだ。
しかし、オレたちがあるラインを越えた途端に触手の嵐が止まった。
「な、何じゃ? 急に触手の勢いが無くなったぞ」
さっきまで勢い良く襲いかかって来た触手達はその勢いを失って力なく地面に落ちる。
すると、その場所からコチラにはやって来なくなってしまった。
「……は、ははは! ラッキーだぜ、どうやら触手の攻撃範囲はあそこまで見たいだな!」
安堵感からオレは笑いを堪えられなくなってしまった、ざまー見やがれ!
「お、おい。パーピュア? ヤツの様子が……」
「あん?」
アウレアの不安そうな声に触手の主を見る。
すると目に入ったのは、ついさっきまでエントランス部分に転がっていたジャガイモから六本の脚が生えてきた所だった。
ジャガイモ野郎はその六本の蜘蛛のような脚で立ち上がると徐々にこちらへ動き出す。
「脚ィ!? あの野郎動けんのかよォ!?」
「まぁ、そりゃそうじゃろうなぁ……」
「モンスターだろうと動物。なんら不思議では無い」
「言ってる場合ですか!? は、早く逃げないとこっちに来ますよぉ!?」
スオウの叫びにまた全力疾走で林に駆け出した。
肩越しに振り返ると、脚の生えたジャガイモはのそのそと非常にスローペースで進んでいる。
「……あれ? もしかしてアイツ遅いんじゃねぇか?」
そのノロさに油断したのもつかの間、ヤツの背中がパカッと割れるとそこから轟音と共に人間大の塊が空高く打ち出された。
「生きた自走迫撃砲かよアイツは!」
「こんのぉ! コレでも喰らえぇ!!」
それを見たアウレアが足元の石を拾って砲弾へと投げ付ける。
吸血鬼の馬鹿力で射出された拳大の石は砲弾を掠めて空の彼方に消えていってしまった。コイツ銃火器なんて必要ねぇんじゃ……。
布を裂くような音と共に砲弾はこちらへ落ちてくる。
「う、腕がぁ! やっぱ無理かのぉ?」
「あんなの撃ち落とそうなんて無理に決まってるじゃないですか!」
「お、おい! アウレア! アレ!」
やはり多少無理をして投げたのか肩の痛みに耐えるアウレアに向かって声を掛ける。
指さす先には、先程の銃弾で出来た傷から裂けて行き、中に詰まった大量の弾子がその姿を見せていた。
「な、何じゃありゃあ!?」
「り、榴散弾!? あんなの完全に軍用兵器じゃねぇか!!」
空高くから迫り来る弾子の雨、屋敷から離れたこの周辺にはその死の豪雨から逃れる場所は無い。
もはやここまでかと死を覚悟したその直後、一陣の風が吹き抜けた。
その風の強さと言えば、オレとアウレアが吹っ飛ばされて地面を転がるレベルである。
そして、おそらく上空ではさらに強い風が吹き荒れたのであろう、迫り来る弾丸の雨は風に流されて全く違う場所へと降り注いだ。
地面に這いつくばってその場所を眺めるオレとアウレア。
高高度から投下された無数の弾丸の雨によって大地は瞬く間に耕され、轟音と共に土を舞いあげていた。
あの範囲に自分たちが居たかと思うとゾッとする。
「今度は何だ!? こんちくしょう!」
「ご、ごめんなさい! ボクの能力です!」
「先に言えボケェ!」
そう何回も突風で吹っ飛ばされちゃたまったもんじゃない!
とにかく一難去った今、オレたちは林に隠したフォードに向かって走る。
「はぁ、はぁ、な、なんとかたどり着いたか!」
「おいパーピュア! 早く車を出さんか!」
先程の逃走劇でだいぶ距離が縮んだおかげか、オレたちはなんとか車にたどり着いた。
しかし、ジャガイモ野郎は最初の遅さが嘘のように物凄い速度でこちらに走ってくる。
その背中では次の砲弾が準備されていた。
悠長にエンジンをかけている暇はなさそうだ。
オレは何か使える物は無いかと荷台を覗き込むとそこに積まれた木箱の事を思い出す。
『面白い物を仕入れたからサービスで付けておくわ。あなたぐらいしか使えないでしょうし』
銀狐のプレゼントの木箱。
その木箱の中身を見たオレは小躍りしそうになるほど喜んだ。
「全く、胡散臭いキツネ女が女神に思えるぜ!」
オレは嬉嬉として木箱に飛び付いていた。
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