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閑話
地獄へのカウントダウン
しおりを挟む◇ グリーン
『すいません、楠木先生。つーことで響は明日機嫌悪いです』
「きみたちは日々どうでもいいことで喧嘩しますね」
『あいつすぐ切れるんだよ、更年期かな』
「それ言ったらまた喧嘩になりますよ」
『知らねーよ、付き合ってられるかあんな馬鹿』
「そういうこと言わないんですよ。先に折れてあげなさい。ホルモン治療は精神不安になるんですよ……」
鮫島の愚痴を一通り聞いてから、続木の話をすると『知ってます、知ってます。美人ですよね。直属の上司なんですよ』と彼は楽しそうな声をあげた。ので「彼女は婚活中なので指輪をして出勤してあげてください」と頼むと、彼はケラケラ笑って『俺みたいな醜男には興味ないでしょ。でも先生が言うならつけていきますよ』と言った。続木が顔面で男を選ぶのであれば水戸を選んでいるはずなので、わたしとしては鮫島の対応にほっと息を吐くしかできなかった。
◇
「キャンプですか?」
「俺は虫嫌いだから行かねえけど、この馬鹿コンビと続木は行くっつーから先生も行けば?」
「はあ、……休みとれたら行きますかね。でも続木も来るんですか? 女性ですよね? わたしたちと雑魚寝するつもりですか?」
わたしの質問にブルーもイエローもピンクさえも首をかしげた。
「ここにレッドに手出すやついないし安全でしょ?」
「それにレッドが『アウトドアもできますを婚活でアピールするための写真撮影』が目的なので、このキャンプ……」
「そういう……そういうことでいいんですか、水戸……?」
「なんで俺に聞く? 金は出してやるからちゃんと続木の面倒見なね。怪我させないように」
水戸は本当にそう思っているような顔をしていて、わたしとしては肩をすくめるしかない。
「それで今日続木は?」
「あいつは今日合コンだよ」
「スケジュール把握するほどの関係なのになぜあと一歩踏み込まないんですか?」
「うるせえ、洗脳するぞ」
「困ったら人の脳みそいじる癖直した方がいいですよ」
「うるせえうるせえ、ほっとけ。別にいいだろ。とにかくあいつは合コン。そろそろ一次会終わるだろうから電話かけてやろうか? メンツがくそだったらこっち合流するんじゃねえの? ……なんだよその目は。洗脳するぞ」
「やめなさいってば……」
水戸が電話をかけると続木はすぐ電話に出たらしく、しかも「合流するってよ」ということになったらしい。どうやらメンツがくそだったのだろう。すると水戸くんは彼女を迎えに行くと言い出した。水戸が車で来たことや、珍しく酒を飲んでなかったことからしても、はなから彼女を迎えに行くつもりだったんだろう。だったらと、全員で移動にすることになった。
新宿の繁華街外れに車を止めてのろのろぐだぐたと歩いていると、タクシー乗り場の近くで水戸が足を止めた。
「これ、続木のだ」
「なんです?」
彼は地面に落ちていたネックレスを拾っていた。
「俺が続木にやったネックレス……これ、俺が作ったやつだから他に持ってるやついないし……」
「作ったんですかそれ?」
「執着がえぐい」
「そこまでして何故告白しないのか」
水戸はわたしたちの言葉を無視し、スマホを取り出した。どうやらレッドに電話をかけているらしい。わたしたちはとりあえず足を止めて彼の様子を見る。
「……、……出ないな……」
「続木?」
「うん……、……あ? あいつ今ホテルにいるな」
「え、水戸くん、なにしてる?」
「あいつのスマホの位置情報とってる。は? どういうことだ?」
「え、水戸さん、なにしてんの? 位置情報とってるって……」
わたしは慌てているイエローとピンクの腕を引いて水戸と距離をとった。いやな気配がしていたからだ。水戸がまた電話をかける。今度はそれを切ることなく留守電になるまで水戸は待ち続ける。
スマホが無機質は呼び出し音をやめメッセージを求めると、彼はゆっくりと口を開いた。
「俺の、続木に、なにしてんだ……?」
地獄の底から響くようなその声がキれた学生の声と同じだと気が付いた時にはすでに水戸は走り出していた。わたしたちは慌てて彼をおいかけ、車に乗り込んだ彼をなんとか止めて、彼を助手席にうつし、運転席にはすーさんを座らせた。
「どこいきゃいいの、水戸くん!」
「どけ! 俺が運転する!!」
「ダメだよ、今の水戸くんには運転させられねえよ。俺も酒はいってないし、俺がやる」
「……わかった、ナビいれる」
水戸くんはナビを設定したあと、血走った目で「急いで、すーさん」と言った。その声には理性が戻っていたが、ギリギリだった。
ギリギリのところで、なんとか戻ってきてくれただけだ。導火線に火はついている。
わたしは肩で息をしながら、これでレッドに何かあったら完全にアウトだな、と思った。
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