45 / 67
衝突
しおりを挟む
「結人」
その名を呼んだのは、徹ではなく、別の声だった。
歩き出した徹の背後から、はるとの声が飛んだ。
夕暮れの駅前、立ち止まる人々のざわめきの中に、張り詰めた空気が生まれる。
「……待ってください」
徹の足が止まる。
「結人は、僕と約束していたんです」
徹はゆっくりと振り返る。
その表情は、相変わらず穏やかで、けれど、その目の奥には、鋭い光が宿っていた。
「そうか。……でも、君と過ごす時間より、僕と帰ることを選んだ。それだけのことじゃないの?」
「……結人は、何も言っていません」
はるとの声は静かだったが、そのまなざしはまっすぐだった。
視線の先で、結人は少しうつむき、二人のあいだで固まっていた。
「結人、行かないで」
その一言に、結人の肩が揺れる。
すると、徹がゆっくりと結人の腰に手をまわした。
まるで所有を示すように、そして、そのまま優しい声で囁いた。
「結人、帰ろう。」
「‥‥」
結人は困った顔をしていた。
徹は微笑んだ。
「君は、結人の全部を知らない。彼がどんなふうに育って、何に怯えて、何を隠してるのか……知っているのは僕だけだ」
「……それを、利用してるんですね」
「違う。守ってるんだよ」
その瞬間、結人が顔を上げた。
視線がはるとをとらえる。
何か言いかけた唇は、すぐに閉じられる。
そして、結人はそっと、徹の腕の中に身を預けた。
その姿に、はるとは一歩、踏み出すことができなかった。
徹はそのまま、ゆっくりと歩き出す。
振り返らずに、ただ結人だけを連れて。
静かに引かれた境界線。
その日、はるとは初めて、結人の「現在」に触れることができなかった。
その名を呼んだのは、徹ではなく、別の声だった。
歩き出した徹の背後から、はるとの声が飛んだ。
夕暮れの駅前、立ち止まる人々のざわめきの中に、張り詰めた空気が生まれる。
「……待ってください」
徹の足が止まる。
「結人は、僕と約束していたんです」
徹はゆっくりと振り返る。
その表情は、相変わらず穏やかで、けれど、その目の奥には、鋭い光が宿っていた。
「そうか。……でも、君と過ごす時間より、僕と帰ることを選んだ。それだけのことじゃないの?」
「……結人は、何も言っていません」
はるとの声は静かだったが、そのまなざしはまっすぐだった。
視線の先で、結人は少しうつむき、二人のあいだで固まっていた。
「結人、行かないで」
その一言に、結人の肩が揺れる。
すると、徹がゆっくりと結人の腰に手をまわした。
まるで所有を示すように、そして、そのまま優しい声で囁いた。
「結人、帰ろう。」
「‥‥」
結人は困った顔をしていた。
徹は微笑んだ。
「君は、結人の全部を知らない。彼がどんなふうに育って、何に怯えて、何を隠してるのか……知っているのは僕だけだ」
「……それを、利用してるんですね」
「違う。守ってるんだよ」
その瞬間、結人が顔を上げた。
視線がはるとをとらえる。
何か言いかけた唇は、すぐに閉じられる。
そして、結人はそっと、徹の腕の中に身を預けた。
その姿に、はるとは一歩、踏み出すことができなかった。
徹はそのまま、ゆっくりと歩き出す。
振り返らずに、ただ結人だけを連れて。
静かに引かれた境界線。
その日、はるとは初めて、結人の「現在」に触れることができなかった。
1
あなたにおすすめの小説
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる