あの視線の主人【高校〜のストーリー】

kouji

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衝突

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 「結人」

 その名を呼んだのは、徹ではなく、別の声だった。

 歩き出した徹の背後から、はるとの声が飛んだ。
 夕暮れの駅前、立ち止まる人々のざわめきの中に、張り詰めた空気が生まれる。

 「……待ってください」

 徹の足が止まる。

 「結人は、僕と約束していたんです」

 徹はゆっくりと振り返る。
 その表情は、相変わらず穏やかで、けれど、その目の奥には、鋭い光が宿っていた。

 「そうか。……でも、君と過ごす時間より、僕と帰ることを選んだ。それだけのことじゃないの?」

 「……結人は、何も言っていません」

 はるとの声は静かだったが、そのまなざしはまっすぐだった。
 視線の先で、結人は少しうつむき、二人のあいだで固まっていた。

 「結人、行かないで」

 その一言に、結人の肩が揺れる。

 すると、徹がゆっくりと結人の腰に手をまわした。
 まるで所有を示すように、そして、そのまま優しい声で囁いた。

 「結人、帰ろう。」

 「‥‥」

 結人は困った顔をしていた。


 徹は微笑んだ。

 「君は、結人の全部を知らない。彼がどんなふうに育って、何に怯えて、何を隠してるのか……知っているのは僕だけだ」

 「……それを、利用してるんですね」

 「違う。守ってるんだよ」

 その瞬間、結人が顔を上げた。
 視線がはるとをとらえる。

 何か言いかけた唇は、すぐに閉じられる。
 そして、結人はそっと、徹の腕の中に身を預けた。

 その姿に、はるとは一歩、踏み出すことができなかった。

 徹はそのまま、ゆっくりと歩き出す。
 振り返らずに、ただ結人だけを連れて。

 静かに引かれた境界線。
 その日、はるとは初めて、結人の「現在」に触れることができなかった。
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