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先生視点
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しおりを挟む随分と面倒な事になった。
ノラを拾った時にニュイを放置した事でニュイは案の定人間を食い荒らした挙句にアルバート家の人間を“吸血鬼化”させたのだという。
なぜそんな真似をしたのか連盟に詰められたニュイは「だって吸血鬼減ってたんでしょ?」と純粋な瞳で返したのだとか。
人間を吸血鬼化させるのは百五十年ほど前に人間との協議の結果禁止になっている。
最近は人間と吸血鬼との恋愛で寿命を気にしたものや長命に目をつけた人間達が自ら吸血鬼化を望みはしているが人間側ではかなり厳しく取り締まっているとの事だった。
吸血鬼側はよほど深く人間を愛していない限りは吸血鬼化などさせないと聞いている。
事実キーラン自身もノラを吸血鬼化させたいか?と聞かれたら拒否するだろう。吸血鬼なんて碌なもんじゃない。
今回、ニュイが起こした騒動は有名なアルバート家の吸血鬼化、吸血鬼化できなかった全ての人間は死んでしまっていたため大きく注目されてしまい人間側から抗議が送られてきた。
キーランにもずっとニュイを放置し後処理を怠った事の責任を問う連絡が様々な形で来ていたのだが流石にキーランが動かなければいけないレベルになっていたようだった。
短く見積もっても半年ほど家を空けることになりそうな事にノラにとっての初めての長期の留守番をキーランは乗り気になれなかった。
ならば誰かに預けようかとも考えたが教師を辞めて以降疎遠になったものも多く、“人間”を預けるほどの信頼できるものは限られてくる。
それこそ最近親しい吸血鬼など、今日もやってくるラルフくらいだろう。
あれから半年、ラルフは屋敷にやってきてキーランの見解を聞いたりキーランが趣味で進めている研究の手伝いをしていた。
今日も聞かされていた時間道理に来たラルフがノラに連れられて居間までやってきた。
ノラは相変わらずラルフに好意を抱いているようで目すら合わせられないようだ。
一方でラルフはずっと通っていたためか人間であるノラにも慣れたようだった。
親し気に話したりするわけでもないがこれならいけるのではないか、とキーランは思いニッコリと笑ってラルフに話しかけた。
「ラルフ君、非常に困っていることがあるので先生の頼みを聞いてもらえませんか?」
「え」
「いつも私の時間を使って差し上げてるじゃあないですか、たまには私のお願いも聞いてください」
明らかに嫌な予感がしてラルフは固まったが確かにキーランには恩がある。しかしこの元教師、昔から嫌な無茶振りをしてくる事がある。学生時代の嫌な記憶を思い出してラルフは怪訝な顔を隠しもせずにキーランに言葉を返した。
「内容を聞いてからでないと、返答できないのですが……」
内容を聞いてからでは断られるだろうから恩を盾にごり押ししてやろうと思ったのだが。
流石に義理堅いラルフでも駄目だったか。
大事な話が始まりそうだとノラが部屋から出ようとしているところを引き留めてキーランはこちらに来るように呼んだ。
「……先生?」
隣に立った戸惑っているノラの背を押してキーランは顔をしかめているラルフに言った。
「ノラさんを預かってほしいんんです」
「は?」
「えっ?」
******
結果からいうとラルフにノラを預ける事はできそうだった。
ラルフにはこのお願いが聞けないならと別の無茶振りを出すとラルフはしぶしぶといった様子で了承した。
ラルフも今回の一件の内情をよく知る高位の吸血鬼だ。預け先を探している理由はよくわかっていたのだろう。
ノラは黙って大きく首を振って拒否していたがラルフが承諾したのを見てピタリと止まる。
顔を青くしたり赤くしたり口をパクパクとさせるノラは面白かったが少し落ち着かせるために部屋を一度出てもらった。
「……しかし先生、信頼は嬉しいが年頃だろう本当にいいのか」
その言葉に驚く。人間嫌いのシュバルツ家の者だ。手を出す出さない以前の問題だと思っていたのだが、最近の吸血鬼の若者がそれほど柔軟なのか。
「最初に言ったじゃないですか」
「?」
「私のペットを預かっていただけますか?」
「……はい」
ラルフは大きなため息をつきながら答えた。
彼も人間に慣れるいい機会だろうとキーランは満足気に頷いた。
******
帰っていくラルフを見送くるとキーランは後ろでそれを見ていたノラを呼んで居間まで戻った。
いまだに整理が付いていないノラのために質問するまでキーランは紅茶を飲んで静かに待つ。
「先生、本当にその、ラルフさんのところに行かないといけないんですか?」
「嫌ですか?」
「う、嫌とかじゃなくて、あの……先生はどうしても行かなきゃいけないんですか?」
「ええ、困ったことにね」
話をすり替えて話したノラにおいでとキーランが手を振ると駆け寄ってくる。
ノラには家を空ける理由を深く話せない。さっさとあの家の事は忘れてほしかったからだ。
ノラの丸い頭を撫でると目を細めてキーランの座っている椅子にもたれかかった。
「……危ない事じゃないですよね?」
「はい、大丈夫ですよ」
嘘ではない。今回はニュイが付いてくるわけでもない。そこまでの大事にはならないと予想していた。
ノラは上目でキーランを見つめながらその言葉を真実だと捉えたのかもう一度椅子に頭を預けて「それなら先生を待っています」と呟いた。
「いい子」
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