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先生視点
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しおりを挟む預け先さえ決まってしまえば行動は早い。三日後にはノラをラルフのもとに預けてキーランは連盟へと向かった。
ラルフは定期的にノラの事を報告してくれると言ってくれたが連絡がつかない事もあるし未だに情報端末は慣れていないし見る時間もあるかわからない。
急用の時だけそちらに連絡を入れてくれればできるだけこちらから連絡を入れるとラルフに伝えた。
ノラは察しがいい子だ。アランが酷い真似さえしなければノラもラルフの機嫌を損ねることもない。
どちらかと言えばノラの中で燻っている恋情が心配であるが、まあ大丈夫だろう。
一応預けたその日の晩にラルフに連絡を入れてノラの様子を聞くと借りてきた猫のように大人しくしているそうだ。
電話で入れ替わるようにしてノラと変わったが「早く帰ってきてください……」と消え入りそうな声を発した。
やはり思い人と一緒に暮らすというのは刺激が強かっただろうか。
「まだ一日も経ってないですよ」と笑うと電話越しに唸り声が聞こえてまたキーランは笑った。
******
次に連絡を入れたのは一週間後でノラが眠っている時間だった。関係は比較良好なようだったが「何か困ったことは?」と聞くと「未だに他人が家にいる事に慣れません」とラルフは当てつけるように言った。
「私は寂しいんですけどねえ」
「……それなら早く帰ってきてあげたらどうですか?」
それから一か月で連絡を入れるとノラがどういう風に一日を過ごしているのか、何の本を呼んでいるだとか家事を手伝ってくれているだとか。
以前と比べれば随分と仲良くなったようだった。
ノラの事もよく見てくれている事にラルフに預けて良かったとキーランは安心した。
以前の連絡時に眠っていた事が悔しかったのかノラは遅くまで起きていたようで酷く眠そうに最近の近況を話した。
大抵はラルフの話した通りで、ノラも随分とラルフに心を許しているようだった。
******
しばらくは小まめに連絡を入れられていたがそれもすぐに終わり長期的に連絡を入れることができなくなった。
明らかにここ十年サボっていた分を押し付けられている。明らかに関係ない事まで気が付けば押し付けられていてうんざりとした。
情報端末は一応確認していたが何の連絡もない事に安心しつつ二か月ほど開けて連絡を入れると電話口でノラの声が大きく響いた。
「先生!!大丈夫だった!?」
「おやマァ」
大きな声に驚きつつも元気で大変よろしいと近況を喜んでいると近くにいるのかラルフが「ノラ大きな声をだすと先生が驚いてしまうだろう」と諫める声が聞こえてきた。
「あ……ごめんなさい先生、耳大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよノラさんお元気なようで何よりです」
「ノラ、少し近況報告するから先生との話は後にして少し向こうに行っててくれるか?」
「……聞いてちゃ駄目ですか?」
「ダメだ」
「はあい」
そのやり取りと声色で随分と仲良くなった事を察した。そのまま電話の相手がラルフに変わるとノラの近況報告が始まる。
キーランの連絡を待つために深夜まで起きていること以外は普段のノラと変わりはないようだった。
しかし、その後の話は不穏だ。
ラルフの家の者、シュバルツ家の者がノラを見つけてしまったというのだ。どうも勝手にラルフの家に入ってきて悶着が起きたらしい。
すぐに追い払ったが面倒事になりそうだと。
「それは申し訳ないことになりましたね、家の人達もうるさいでしょうに」
「いや、それはどうでもいいんです」
「ノラの方が察して気にしてしまっているようで……」
……シュバルツ家は酷い人間差別をする者が多い。差別だけならまだしも危害を加えているという噂も立っているほどに。
ラルフは三男で比較的に自由のきく立場とはいえ家の者たちの締め付けは凄い事だろう。
ラルフも妙齢の吸血鬼の男性だ。人間の女とともに暮らしているとなってはあられもない醜聞も立つだろう。
私のような古い吸血鬼の娯楽では済まないだろうに。
最近の若い吸血鬼の中でも珍しい“昔ながらの”お堅いプライドと思考を持った吸血鬼であるあのラルフが……?
「おやおやおやおや」
「ど、どうしたんだ先生」
「いやいや随分と仲良くなったものだなあと」
「……」
「ん?」
「そういえば近況報告以外に先生に言ってやりたい事があった事を思い出しました」
ここ最近の鬱憤を晴らすようにからかい気分でキーランはほうほうと頷いた。
「僕に嘘をついたな、先生。彼女はけしてペットなどではなかったぞ」
その言葉に察して驚く。帰る頃には婚約を結びたいと頭を下げられてもおかしくない。
キーランにとってノラはペットで生徒で娘のようなものだ。
ラルフとノラが結ばれればノラは家を出ていくのだろうが雪の中に捨てられていたノラの事を思うと寂しさはあったが嬉しく思いキーランは少し目を伏せてから微笑んだ。
ペットだ先生だなどと思いつつも自身も親の気持ちを理解することが出来ていたとは。
「……ならば、できるだけ早く帰らねばいけませんね、帰る楽しみが増えましたよ」
「……はい、ノラも心配して待ってます」
「ただし、お家の事はしっかりと対策しなさい、今の状況ではとてもではないですが許してあげられませんよ」
「もちろんです」
話が終わるとノラに代わりますとラルフはノラを呼びに行く。
それ以降は元気なノラの話を聞いて過ごした。
ラルフとの関係を揶揄うと恥ずかしがりながらも嬉しそうな事が電話越しに伝わってきた。
「さっさと終わらせてしまおうと思います次は迎えにいきますよノラさん」
「本当ですか! ……長くなる?」
「少しだけね」
「気を付けて帰ってきてくださいね、先生」
「ええ」
この後奇妙な事にキーランは渇きを覚えた。
それを一人になる寂しさからくるものかもしれないと思ってどこまでも身勝手で醜い吸血鬼の本能に嫌気が差して、血液錠剤を一つ二つと大量に手の平に移してからキーランはそれを飲み干した。
******
あれから三か月、忙しなく動き回ってやっと一旦の終わりが見えた。
長年の吸血鬼と人間の積もりに積もった問題が表面化しただけにすぎない。
今回話し合った人間達の寿命が来て新しい世代が台頭すれば再び同じような事で争う事はわかっていた。だからこそ吸血鬼達もあまりこの問題には乗り気ではなかったのだ。
しかし今回は明らかに事が大きすぎたため新たな世代にならなくてもまた確実に火種になりえるだろうが私もある程度の責任を一旦は果たせただろう。
またこの問題が起きれば呼び出されるだろう事を憂鬱に思いながら仕事を終えたキーランはラルフの元へ行こうと考えて一度止まる。
家に帰る前に連絡くらいは入れておくべきだろうと一か月ぶりに自分の端末を起動するとラルフからのメッセージが入っていて驚いた。
この端末にラルフから連絡を入れるという事は何か急用があったという事だ。ノラに何かあったのかと急いで中を見ると二週間前からのノラの様子ラルフから送られてきていた。
ノラが妙に気だるげにしていたため念のために医者を家に呼んだ。魔力酔いを起こしていると言われたが原因がわからない。古く珍しい病気だったために対応が遅れた。
もしかしたら家の人間が来た時にノラに何かをしていったのかもしれない、との事だった。
魔力酔いとは魔力が少ないものが魔力を大量に浴びることで起きる症状で昔は吸血鬼の魔力に当てられた魔力を持たない人間が発病していたものだ。
昨今は魔力を持たないものの方が希少とも言えるため過去に消えた病気であった。
ノラは所有魔力量が少ないため発病したのだろう。
最初は身体に倦怠感が出るだけの病気のため発覚が難しく、ゆっくりと魔力で蝕まれ続けた身体はそのまま細胞が停止していき最終的には眠るようにして死に至る病だ。
解決法は魔力の無い場所で療養し魔力を身体から抜くという至って単純な方法だがラルフの口ぶりだとそれでも解決できなかったのだろう。
だとすれば解決方はたった一つだが……。
その後のラルフの行動が見えてキーランはすぐに動いた。
最後の連絡は昨日のもので録音音声で残されていた。それを聞きながらラルフの家に向かう。
「先生、守ってやれなかった、不甲斐ない、申し訳ありませんでした」
「犯人を見つけ出してできる限りの事を行いましたが、ノラが目を開けなくなってしまったんです」
「先生の許可も、ノラの承諾も無いですが僕はノラを失いたくないので最後の手段を取ろうと思います」
魔力酔いは人間の身体だから起き得る事だった。
元々人間の身体は魔力の耐性が少ない。
ならば耐性のある身体にする事ができるのならば……?
「……申し訳ありません、ノラを、吸血鬼にします」
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