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先生視点
08
しおりを挟むしくじった。
戦争に行って一か月ほど、事態は収束に向かっていた。今回の戦争は一部の吸血鬼嫌いの過激派の強硬だった。
群れない人間に負ける理由はない。
相手は少数で兵器を持ち出したがそれで殺せたのはごく少数の油断した弱い吸血鬼のみでほとんどの吸血鬼に致命傷を与えるまでに至らなかった。
別にキーランがいなくともこの戦の結果は何一つ変わらなかった事だろう。
結果的に吸血鬼の力を見せつける事になったのは人間達の最後の抵抗だったのだろうか。この戦争の結末は人間達に警鐘されたに違いない。
“吸血鬼はやっぱり恐ろしい生き物だった”と。
結局深く根付いた人間と吸血鬼の関係に終わりが来ることなどないのかもしれない。発端が違うだけで歴史が何度も繰り返されるのをキーランは何回も見てきたのだから。
******
仕事をしている体で血と土埃の匂いが蔓延する崩壊した街を歩いていると何かを啜るような音が瓦礫の向こうでしている事に気が付いた。
明らかに吸血鬼が血を啜っている音だ。
随分と下品に貪っているであろう事が想像つく音にある人物の顔が浮かんでその場を離れようとしたが「あーキーランだぁ」という戦場に似つかわしくない間延びした呑気な声に見つかってしまったと立ち去る足を止めて名を呼びながら振り返った。
「……ニュイ」
そして振り返った事をすぐに後悔する。無視してしまえばよかった。振り返った先にいた彼は身体がついていない人間の腕を口にくわえながら瓦礫を超えてきていた。
……これでは吸血鬼ではなく食人鬼だな。
何やらもごもごと話しながらこちらに歩いてくる事に不快感を覚えてその腕を口からはなしてから喋ってくれというと名案だと言わんばかりに表情を変えた。
腕を粗雑に投げ捨てると何事も無かったかのように話しかけてくる。
「いやぁ、なんだか久しぶりじゃない?元気だったぁ?」
「二十年ですよそこまで空いてもないでしょうに」
「んー……前は会話は無くても会合に来てるのは見てたからさあそれも無くなっちゃったでしょ?」
「今までは連盟に睨まれたくないから大人しくしてたじゃない、聞いたよ? 招集に駄々こねてたらしいじゃん?」
思わずキーランは黙った。できる限り会わないようにしていたがまさか逐一存在の確認をされていたとは思わなかった。
この人に詮索を入れられるのは癪に障ったため無視してさっさと離れてしまおうと踵を返す。しかしそれを咎めるようにニュイは名を呼んでキーランを引き留めた。
「君、人間の匂いがするよ」
目の前にニュイが後ろから回したであろう血だらけの手が見えてすぐに離れる。
しかし指を口の中に入れられて血液を入れられたのを認識し、不快になったのですぐに唾とともに吐き出すとニュイは「行儀が悪いなぁ!」と笑ってこちらを見ていた。
今まで害が無かったからと軽率にニュイに背を向けるべきではなかったと後悔する。
すぐに吐き出したものの舌の上にじんわりと広がった血液の味に何か違和感を感じる。
……血液とはこんなに美味いものだっただろうか。
身体が熱く動機を感じてニュイを睨みつけながら距離を取る。
これは吸血衝動だろうか、酷く短絡的になってニュイに対して苛立ちを抑えられない。
「おいしいでしょ?私の血」
先ほどまでくわえていた腕の血かと思えばニュイの血を入れられたらしい。この程度の戦でニュイが傷を負った可能性などあるわけもなく、この嫌がらせのために自分で傷をつけたに違いなかった。
口を開けば罵倒が飛び出しそうだったため黙って睨みつけているとニュイはペラペラと喋り始めた。
「こんなご時世にそんなに匂いが付くほど人間とべったりしてるなんて奇特な事するねぇ? まあこの場だと私以外に気づく奴いないだろうけどさあ? ふふ、いや君が他人に興味を持っているのはいい事さ私も古い吸血鬼仲間としてずっと孤独に生きる君をちょーっとだけ心配していたからさ? なんせ孤独歌って生きてきた吸血鬼って皆狂っていったでしょ? アハ」
「そんな君が人間を傍に置いてるっていうからちょっかいかけたくなっちゃって、ゴメンね?」
「……この血はどういう事ですか」
「ん?いやあ美味しいものっていっぱい食べたくなるでしょ? それだけだよぉ魔法とかじゃないから安心してよ血を飲んだら落ち着くからさあ」
「あ、でも僕の血は分けてあげないよ? その人間の血を飲んでおいでよ」
まくし立てて話すニュイが何を言っているのかわからず呆然と見つめているとニュイは血まみれの口角をニィっとあげて話を続けた。
「いまだに理性をどうにか保とうとしているんだなって思ったんだよ」
「本能に従えばいいじゃないか何も悪い事じゃないんだよ? キーラン」
そう言いながらニュイは再度キーランに近づいてくる。しかし吸血衝動のせいで頭が回っていない。正常な判断をおこなえない。
酷く眩暈がしてグラグラと足元がおぼつかないキーランの首にニュイは腕を回して耳に口を近づけた。
「だって」
「私たちは冷血で獰猛な化け物なんだ、人間の真似事なんてしなくたっていい」
「食べてあげなよ、それが私たちの愛情表現だろ?」
それを聞いてキーランは自身がノラに噛みついた事を思い出した。当てつけのようにラルフの噛み後から噛んだ時、ノラの甘い血が口の中に入ってそれを思う存分本能のまま堪能した後、青白く何も発しないまま目を開きもしないノラを見て自己嫌悪に陥った。
ノラを食べる?馬鹿を言うな。あんな姿はもう見たくない。
思い切りニュイの身体を引きはがして距離を取る。
「ふふ、まあ時間を置けば落ち着くよ」
「耐えられるなら、だけどねえ?」
まるで嵐だ。散々暴れ散らかしてニュイは去っていた。
他の吸血鬼に見られれば吸血衝動に陥っているのは一目でわかる事だろう。
もうやるべき事は終わったのだ早く帰ろう。
この血の匂い塗れの場所から離れることができれば少し落ち着くはずだと転移魔法を使ってその場から去った。
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