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第一章「ぶかつ狂騒曲」
第十六話「私、決めました」
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「みなさ~ん。ロッカーで遊んじゃ、ダメですよぉ?」
「あぅぅ。あまちゃん先生。これは仕方のない理由がありまして……」
千景さんと私がロッカーから出ると、あまちゃん先生は微笑んだ。
「無所属のふたりがそろってるってことは、登山部に入ってくれるのかな?」
そう言いながら、あまちゃん先生は剱さんににじり寄る。
「いや、別に……あたしは……」
剱さんは言葉を濁し、後ずさった。
彼女は登山部に入るつもりがないのだろうか?
……まあ、剱さんはなんか怖いので、私としてはありがたいけど。
そして私はというと、はっきりと答えを出せないまま、先輩たちの顔を見比べていた。
千景さんは無表情なのでよくわからないけど、ほたか先輩は見るからに期待を込めた目で私を見つめている。
ほたか先輩には悪いことを言った後ろめたさがあるし、遠い地に憧れる仲間として、応援したい気持ちが膨らんでいるのは事実だった。
ここまで来て、「競争が嫌い」なんて理由で拒絶するのも、もう限界かもしれない。
私は大きくため息をつき、スカートのポケットに手を突っ込む。
ポケットの中には、折りたたんだ入部届が入っていた。それは登山部に入ろうと、私自身が書いていたものだ。
「こんなに汚くてすみません……。実は、元々書いてました……」
登山部への入部という結果が同じだとしても、勝手に入れられるのと自分の意志で入るのとでは、天と地ほどの違いがある……と私は思う。
入部届のシワを伸ばしながら、ほたか先輩におずおずと差し出した。
「あの……入部します」
「ましろちゃん……!」
ほたか先輩は感極まったのか、飛びつくように抱きしめてくれた。
その勢いで私は尻もちをついてしまったが、ほたか先輩はうれしさが抑えられない雰囲気で私に頬ずりしてくる。
すべすべで柔らかい頬っぺたが触れ合い、私は照れくさくてたまらなくなってしまった。
自分の頬が熱くなっているのがわかる。
千景さんといい、なんか……なんか触れ合いが過剰じゃないかな?
体育会系ってこれが、ふ、普通なんだろうか?
千景さんは背中に寄り添ってくれるし、うれしいけど恥ずかしい!
「お姉さん、うれしい! うれしいよぉ……」
「あぅ……。大会で役に立てるか、心配ですけど……」
「ぜんぜん大丈夫! お姉さん、頑張るから! 参加してくれるだけでうれしいから!」
ほたか先輩は満面の笑みで歓迎してくれる。
こんなに喜んでもらえると、私もなんだかうれしかった。
千景さんも無表情なりに、噛みしめるようにうなずいてくれる。
でも、そんな時にあまちゃん先生は咳ばらいをして、ほたか先輩の肩を叩いた。
「水を差すようだけど……。あと一人いないと、大会に出れないわよ」
あまちゃん先生の指摘を受けて、ほたか先輩は見ればわかるほどに落ち込んでしまう。
すると、今度は剱さんが手を挙げた。
「アタシが入るよ。体力はあるんで、役に立ちますよ」
ほたか先輩と先生が現れてから、ずっとおとなしいと思っていた剱さん。
さっきのやり取りだと入部しない感じだったのに、一転して入部を言い出すなんて、意味が解らなかった。
「あうぅ……なんで?」
剱さんが入らなそうだから安心してたのに、これは全くの予想外だった。
いまさら入部を断るわけにもいかないけど、これじゃあ不安以外のなにものでもない。
私がおどおどしていると、剱さんは私の手の中に硬い板状のものを滑り込ませる。
それは私の妄想ノートだった。
意外なことに、何もせずに返してくれたようだ。
「脅かして悪かった。……聞きたいことがあったんだよ」
剱さんは、顔を真っ赤にして怒っていたのが嘘だったみたいに、涼しい顔をしている。
謝ってるけど、先生がいるから暴れないだけかもしれない。
私は警戒心を解くことなんてできず、ノートを抱きしめながら彼女をにらみ続けた。
「あうぅ。聞きたいことって……な、なに?」
「二人きりになれたら話す。……じゃあな」
剱さんはそう言って、なんかカッコよくターンして私に背を向けると、颯爽と去っていった。
ふたりきり?
人目のないところで決闘でもするの?
……え、なに怖い。
私は剱さんの背中に釘付けになったように、動くことが出来なかった。
こうして激動の一日は幕を下ろし、部活動の幕が上がる。
私は合宿ついでにアキバに行けることを夢見ながら、未知の世界に一歩を踏み出すのだった。
まさか、近いうちにみんなのアイドルになってしまうなんて、思いもせずに――。
第一章「ぶかつ狂騒曲」 完
==========
【後書き】
ましろさんの入部と心の成長を描く第一章が完結しました!
もし「面白い!」、「続きが気になる!」と思っていただけましたら、お気に入り登録やご感想をぜひよろしくお願いいたします!
本作を書き進めるモチベーションとなります!
引き続き第二章へと続きます。
次話からの新展開にご期待ください!
「あぅぅ。あまちゃん先生。これは仕方のない理由がありまして……」
千景さんと私がロッカーから出ると、あまちゃん先生は微笑んだ。
「無所属のふたりがそろってるってことは、登山部に入ってくれるのかな?」
そう言いながら、あまちゃん先生は剱さんににじり寄る。
「いや、別に……あたしは……」
剱さんは言葉を濁し、後ずさった。
彼女は登山部に入るつもりがないのだろうか?
……まあ、剱さんはなんか怖いので、私としてはありがたいけど。
そして私はというと、はっきりと答えを出せないまま、先輩たちの顔を見比べていた。
千景さんは無表情なのでよくわからないけど、ほたか先輩は見るからに期待を込めた目で私を見つめている。
ほたか先輩には悪いことを言った後ろめたさがあるし、遠い地に憧れる仲間として、応援したい気持ちが膨らんでいるのは事実だった。
ここまで来て、「競争が嫌い」なんて理由で拒絶するのも、もう限界かもしれない。
私は大きくため息をつき、スカートのポケットに手を突っ込む。
ポケットの中には、折りたたんだ入部届が入っていた。それは登山部に入ろうと、私自身が書いていたものだ。
「こんなに汚くてすみません……。実は、元々書いてました……」
登山部への入部という結果が同じだとしても、勝手に入れられるのと自分の意志で入るのとでは、天と地ほどの違いがある……と私は思う。
入部届のシワを伸ばしながら、ほたか先輩におずおずと差し出した。
「あの……入部します」
「ましろちゃん……!」
ほたか先輩は感極まったのか、飛びつくように抱きしめてくれた。
その勢いで私は尻もちをついてしまったが、ほたか先輩はうれしさが抑えられない雰囲気で私に頬ずりしてくる。
すべすべで柔らかい頬っぺたが触れ合い、私は照れくさくてたまらなくなってしまった。
自分の頬が熱くなっているのがわかる。
千景さんといい、なんか……なんか触れ合いが過剰じゃないかな?
体育会系ってこれが、ふ、普通なんだろうか?
千景さんは背中に寄り添ってくれるし、うれしいけど恥ずかしい!
「お姉さん、うれしい! うれしいよぉ……」
「あぅ……。大会で役に立てるか、心配ですけど……」
「ぜんぜん大丈夫! お姉さん、頑張るから! 参加してくれるだけでうれしいから!」
ほたか先輩は満面の笑みで歓迎してくれる。
こんなに喜んでもらえると、私もなんだかうれしかった。
千景さんも無表情なりに、噛みしめるようにうなずいてくれる。
でも、そんな時にあまちゃん先生は咳ばらいをして、ほたか先輩の肩を叩いた。
「水を差すようだけど……。あと一人いないと、大会に出れないわよ」
あまちゃん先生の指摘を受けて、ほたか先輩は見ればわかるほどに落ち込んでしまう。
すると、今度は剱さんが手を挙げた。
「アタシが入るよ。体力はあるんで、役に立ちますよ」
ほたか先輩と先生が現れてから、ずっとおとなしいと思っていた剱さん。
さっきのやり取りだと入部しない感じだったのに、一転して入部を言い出すなんて、意味が解らなかった。
「あうぅ……なんで?」
剱さんが入らなそうだから安心してたのに、これは全くの予想外だった。
いまさら入部を断るわけにもいかないけど、これじゃあ不安以外のなにものでもない。
私がおどおどしていると、剱さんは私の手の中に硬い板状のものを滑り込ませる。
それは私の妄想ノートだった。
意外なことに、何もせずに返してくれたようだ。
「脅かして悪かった。……聞きたいことがあったんだよ」
剱さんは、顔を真っ赤にして怒っていたのが嘘だったみたいに、涼しい顔をしている。
謝ってるけど、先生がいるから暴れないだけかもしれない。
私は警戒心を解くことなんてできず、ノートを抱きしめながら彼女をにらみ続けた。
「あうぅ。聞きたいことって……な、なに?」
「二人きりになれたら話す。……じゃあな」
剱さんはそう言って、なんかカッコよくターンして私に背を向けると、颯爽と去っていった。
ふたりきり?
人目のないところで決闘でもするの?
……え、なに怖い。
私は剱さんの背中に釘付けになったように、動くことが出来なかった。
こうして激動の一日は幕を下ろし、部活動の幕が上がる。
私は合宿ついでにアキバに行けることを夢見ながら、未知の世界に一歩を踏み出すのだった。
まさか、近いうちにみんなのアイドルになってしまうなんて、思いもせずに――。
第一章「ぶかつ狂騒曲」 完
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【後書き】
ましろさんの入部と心の成長を描く第一章が完結しました!
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次話からの新展開にご期待ください!
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