16 / 133
第一章「ぶかつ狂騒曲」
第十六話「私、決めました」
しおりを挟む
「みなさ~ん。ロッカーで遊んじゃ、ダメですよぉ?」
「あぅぅ。あまちゃん先生。これは仕方のない理由がありまして……」
千景さんと私がロッカーから出ると、あまちゃん先生は微笑んだ。
「無所属のふたりがそろってるってことは、登山部に入ってくれるのかな?」
そう言いながら、あまちゃん先生は剱さんににじり寄る。
「いや、別に……あたしは……」
剱さんは言葉を濁し、後ずさった。
彼女は登山部に入るつもりがないのだろうか?
……まあ、剱さんはなんか怖いので、私としてはありがたいけど。
そして私はというと、はっきりと答えを出せないまま、先輩たちの顔を見比べていた。
千景さんは無表情なのでよくわからないけど、ほたか先輩は見るからに期待を込めた目で私を見つめている。
ほたか先輩には悪いことを言った後ろめたさがあるし、遠い地に憧れる仲間として、応援したい気持ちが膨らんでいるのは事実だった。
ここまで来て、「競争が嫌い」なんて理由で拒絶するのも、もう限界かもしれない。
私は大きくため息をつき、スカートのポケットに手を突っ込む。
ポケットの中には、折りたたんだ入部届が入っていた。それは登山部に入ろうと、私自身が書いていたものだ。
「こんなに汚くてすみません……。実は、元々書いてました……」
登山部への入部という結果が同じだとしても、勝手に入れられるのと自分の意志で入るのとでは、天と地ほどの違いがある……と私は思う。
入部届のシワを伸ばしながら、ほたか先輩におずおずと差し出した。
「あの……入部します」
「ましろちゃん……!」
ほたか先輩は感極まったのか、飛びつくように抱きしめてくれた。
その勢いで私は尻もちをついてしまったが、ほたか先輩はうれしさが抑えられない雰囲気で私に頬ずりしてくる。
すべすべで柔らかい頬っぺたが触れ合い、私は照れくさくてたまらなくなってしまった。
自分の頬が熱くなっているのがわかる。
千景さんといい、なんか……なんか触れ合いが過剰じゃないかな?
体育会系ってこれが、ふ、普通なんだろうか?
千景さんは背中に寄り添ってくれるし、うれしいけど恥ずかしい!
「お姉さん、うれしい! うれしいよぉ……」
「あぅ……。大会で役に立てるか、心配ですけど……」
「ぜんぜん大丈夫! お姉さん、頑張るから! 参加してくれるだけでうれしいから!」
ほたか先輩は満面の笑みで歓迎してくれる。
こんなに喜んでもらえると、私もなんだかうれしかった。
千景さんも無表情なりに、噛みしめるようにうなずいてくれる。
でも、そんな時にあまちゃん先生は咳ばらいをして、ほたか先輩の肩を叩いた。
「水を差すようだけど……。あと一人いないと、大会に出れないわよ」
あまちゃん先生の指摘を受けて、ほたか先輩は見ればわかるほどに落ち込んでしまう。
すると、今度は剱さんが手を挙げた。
「アタシが入るよ。体力はあるんで、役に立ちますよ」
ほたか先輩と先生が現れてから、ずっとおとなしいと思っていた剱さん。
さっきのやり取りだと入部しない感じだったのに、一転して入部を言い出すなんて、意味が解らなかった。
「あうぅ……なんで?」
剱さんが入らなそうだから安心してたのに、これは全くの予想外だった。
いまさら入部を断るわけにもいかないけど、これじゃあ不安以外のなにものでもない。
私がおどおどしていると、剱さんは私の手の中に硬い板状のものを滑り込ませる。
それは私の妄想ノートだった。
意外なことに、何もせずに返してくれたようだ。
「脅かして悪かった。……聞きたいことがあったんだよ」
剱さんは、顔を真っ赤にして怒っていたのが嘘だったみたいに、涼しい顔をしている。
謝ってるけど、先生がいるから暴れないだけかもしれない。
私は警戒心を解くことなんてできず、ノートを抱きしめながら彼女をにらみ続けた。
「あうぅ。聞きたいことって……な、なに?」
「二人きりになれたら話す。……じゃあな」
剱さんはそう言って、なんかカッコよくターンして私に背を向けると、颯爽と去っていった。
ふたりきり?
人目のないところで決闘でもするの?
……え、なに怖い。
私は剱さんの背中に釘付けになったように、動くことが出来なかった。
こうして激動の一日は幕を下ろし、部活動の幕が上がる。
私は合宿ついでにアキバに行けることを夢見ながら、未知の世界に一歩を踏み出すのだった。
まさか、近いうちにみんなのアイドルになってしまうなんて、思いもせずに――。
第一章「ぶかつ狂騒曲」 完
==========
【後書き】
ましろさんの入部と心の成長を描く第一章が完結しました!
もし「面白い!」、「続きが気になる!」と思っていただけましたら、お気に入り登録やご感想をぜひよろしくお願いいたします!
本作を書き進めるモチベーションとなります!
引き続き第二章へと続きます。
次話からの新展開にご期待ください!
「あぅぅ。あまちゃん先生。これは仕方のない理由がありまして……」
千景さんと私がロッカーから出ると、あまちゃん先生は微笑んだ。
「無所属のふたりがそろってるってことは、登山部に入ってくれるのかな?」
そう言いながら、あまちゃん先生は剱さんににじり寄る。
「いや、別に……あたしは……」
剱さんは言葉を濁し、後ずさった。
彼女は登山部に入るつもりがないのだろうか?
……まあ、剱さんはなんか怖いので、私としてはありがたいけど。
そして私はというと、はっきりと答えを出せないまま、先輩たちの顔を見比べていた。
千景さんは無表情なのでよくわからないけど、ほたか先輩は見るからに期待を込めた目で私を見つめている。
ほたか先輩には悪いことを言った後ろめたさがあるし、遠い地に憧れる仲間として、応援したい気持ちが膨らんでいるのは事実だった。
ここまで来て、「競争が嫌い」なんて理由で拒絶するのも、もう限界かもしれない。
私は大きくため息をつき、スカートのポケットに手を突っ込む。
ポケットの中には、折りたたんだ入部届が入っていた。それは登山部に入ろうと、私自身が書いていたものだ。
「こんなに汚くてすみません……。実は、元々書いてました……」
登山部への入部という結果が同じだとしても、勝手に入れられるのと自分の意志で入るのとでは、天と地ほどの違いがある……と私は思う。
入部届のシワを伸ばしながら、ほたか先輩におずおずと差し出した。
「あの……入部します」
「ましろちゃん……!」
ほたか先輩は感極まったのか、飛びつくように抱きしめてくれた。
その勢いで私は尻もちをついてしまったが、ほたか先輩はうれしさが抑えられない雰囲気で私に頬ずりしてくる。
すべすべで柔らかい頬っぺたが触れ合い、私は照れくさくてたまらなくなってしまった。
自分の頬が熱くなっているのがわかる。
千景さんといい、なんか……なんか触れ合いが過剰じゃないかな?
体育会系ってこれが、ふ、普通なんだろうか?
千景さんは背中に寄り添ってくれるし、うれしいけど恥ずかしい!
「お姉さん、うれしい! うれしいよぉ……」
「あぅ……。大会で役に立てるか、心配ですけど……」
「ぜんぜん大丈夫! お姉さん、頑張るから! 参加してくれるだけでうれしいから!」
ほたか先輩は満面の笑みで歓迎してくれる。
こんなに喜んでもらえると、私もなんだかうれしかった。
千景さんも無表情なりに、噛みしめるようにうなずいてくれる。
でも、そんな時にあまちゃん先生は咳ばらいをして、ほたか先輩の肩を叩いた。
「水を差すようだけど……。あと一人いないと、大会に出れないわよ」
あまちゃん先生の指摘を受けて、ほたか先輩は見ればわかるほどに落ち込んでしまう。
すると、今度は剱さんが手を挙げた。
「アタシが入るよ。体力はあるんで、役に立ちますよ」
ほたか先輩と先生が現れてから、ずっとおとなしいと思っていた剱さん。
さっきのやり取りだと入部しない感じだったのに、一転して入部を言い出すなんて、意味が解らなかった。
「あうぅ……なんで?」
剱さんが入らなそうだから安心してたのに、これは全くの予想外だった。
いまさら入部を断るわけにもいかないけど、これじゃあ不安以外のなにものでもない。
私がおどおどしていると、剱さんは私の手の中に硬い板状のものを滑り込ませる。
それは私の妄想ノートだった。
意外なことに、何もせずに返してくれたようだ。
「脅かして悪かった。……聞きたいことがあったんだよ」
剱さんは、顔を真っ赤にして怒っていたのが嘘だったみたいに、涼しい顔をしている。
謝ってるけど、先生がいるから暴れないだけかもしれない。
私は警戒心を解くことなんてできず、ノートを抱きしめながら彼女をにらみ続けた。
「あうぅ。聞きたいことって……な、なに?」
「二人きりになれたら話す。……じゃあな」
剱さんはそう言って、なんかカッコよくターンして私に背を向けると、颯爽と去っていった。
ふたりきり?
人目のないところで決闘でもするの?
……え、なに怖い。
私は剱さんの背中に釘付けになったように、動くことが出来なかった。
こうして激動の一日は幕を下ろし、部活動の幕が上がる。
私は合宿ついでにアキバに行けることを夢見ながら、未知の世界に一歩を踏み出すのだった。
まさか、近いうちにみんなのアイドルになってしまうなんて、思いもせずに――。
第一章「ぶかつ狂騒曲」 完
==========
【後書き】
ましろさんの入部と心の成長を描く第一章が完結しました!
もし「面白い!」、「続きが気になる!」と思っていただけましたら、お気に入り登録やご感想をぜひよろしくお願いいたします!
本作を書き進めるモチベーションとなります!
引き続き第二章へと続きます。
次話からの新展開にご期待ください!
0
あなたにおすすめの小説
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
