バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
17 / 133
第二章「陰になり日向になり」

第一話「ましろは飛雨に、喜び勇む」

しおりを挟む
「ましろぉ……。初日からサボるなんて、ダメなのだよ」
「あぅぅ。小桃ちゃん、あんまり引っ張らないで……」

 終業のチャイムが鳴ってしばらくした頃。
 私がいつまでも教室から出ないので、小桃ちゃんは手を引いて、強引に部室棟に連れて行こうとしていた。
 だけど、私の足は重い。
 いざ登山部に入部することを決めたというのに、剱さんも一緒だと考えると憂鬱なのだ。


 校舎と部室棟をつなぐ渡り廊下に出ると、冷たい風に乗って雨粒が降り注いできた。
 今日は朝から雨が降っていて、四月も下旬だというのに肌寒い。渡り廊下の細い屋根なんてないも同然のように、コンクリートの床はぐっしょりと濡れていた。
 この雨はたぶん天の神様のお恵みなのだ。「休んでいいよ」と言ってくれているに違いない。

「こんなに雨降ってるし、運動部なら、きっと休みだよぉ……」
「先輩が待ってるかもしれないし、とりあえず部室に顔を出すのだよ」
「あぅぅ~。小桃ちゃんはまじめすぎるよぉ~」

 私があんまりにも動かないので、小桃ちゃんは少し困ったように微笑んで、私の頭をやさしくなでてくれた。

「ましろって基本的に臆病なのに、いざっていう時にはすっごい行動力を出すじゃない? 今だって、思い切って行動すればいいのだよ」

 そう言われると、ちょっと恥ずかしくなる。
 自分でも分かってる。でもそれは大抵はダメな方向にばかり力が発揮されてしまうわけなので、私にとっては悩みの種だった。
 私は追い詰められると、とんでもない事をしてしまうのだ。
 昨日だって、妄想ノートを回収しようとして剱《つるぎ》さんを転ばせてしまうし、逃げようとして二階から飛び降りるし、自分でもどうかと思う。

(というか、昨日の行動はぜ~んぶ、剱さんがらみだよ、私! 剱さんがいるだけで、私は死んじゃうのでは?)

 小桃ちゃんが元気づけてくれたのに、私はいっそう落ち込んでしまった。
 私が部室の前でモジモジしていると、小桃ちゃんは勢いよく部室の扉を開け、私の背中を押した。
 私はつんのめって一歩、二歩と歩みを進める。
 なんとか倒れないように踏みとどまった時、もうそこは登山部の部室の中だった。

「あぅー、小桃ちゃん! な、なんで押すのかね?」
「がんばるのだよ! ほたか先輩も、ましろをお願いしますね~」

 小桃ちゃんは笑うと、扉を閉めて去っていった。


 ▽ ▽ ▽


(こ、ここ、心の準備ができてないのに、強引すぎるよ、小桃ちゃん!)

 私は慌てて身構え、とっさに部室の中に視線を巡らせる。
 しかし部室にいたのは体操服姿のほたか先輩と千景《ちかげ》さん。二人だけだった。
 剱さんの姿はどこにもない。

「ましろちゃ~ん! 今日からよろしくね!」
「お……お邪魔……します。……ところで剱さんは?」
「えへへ。えっとね……帰っちゃったみたい」
「……え? 初日から、いきなりですか?」

 サボろうとしていた自分のことを完全に棚に上げて、私は驚いた。

「天城《あまぎ》先生が見たらしいの。詳しくは分からないけどね、呼び止めてもダメだったみたいなの」

 そう言って、ほたか先輩は寂しそうに笑った。
 先輩は部活に熱い人だから、残念さも人一倍かもしれない。

 でも、私の気分はとても晴れやかになった!
 剱さんは不良なんて言われているし、考えてみれば部活をサボるぐらいは普通にありえそうだ。ひょっとしたら、雨だから帰っちゃったのかもしれない。
 そう考えると、今日の雨は本当に神様のお恵みに思えてきた。
 ほたか先輩には申し訳ないけど、なんか元気になってしまう。

「あ、あの。ほたか先輩!」

 私は姿勢を正し、ひときわ明るい声であいさつする。

「そういえば昨日はきちんと名乗れていませんでした。私、一年の空木ましろです! 登山経験は小学校の遠足ぐらいなんですが、よろしくお願いしますっ!」

 深々とお辞儀をすると、千景さんはコクリとうなずいてくれる。
 ほたか先輩も少し明るさを取り戻してくれたのか、やさしく微笑んでくれた。

「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったねぇ。お姉さんは梓川《あずさがわ》ほたか。二年生だよ! 大好きなのは北アルプスの森林限界《しんりんげんかい》。特技はフリークライミング! 垂直の壁をね、自分の力だけで登るの!」
「ほたかは……クライミングの競技で、優勝してる」

 千景さんもつぶやくように補足してくれる。
 優勝と聞いて、私は昨日のほたか先輩との出会いを思い出した。
 部室棟の横にある崖を難なく登ってきたのだ。その姿を想像すると、大会での活躍も目に浮かぶようだった。
 ハーフパンツの体操服姿からは、ほたか先輩の均整の取れた脚線美がのぞいている。
 しなやかな曲線を描くふくらはぎと、たるみのない引き締まった太もも。そしてすべすべのお肌。

(ふおおぉ。最高の被写体ですよ! イラストのモデルになって欲しくてたまりません!)

 私は興奮する気持ちを決して顔に出さないように気を付けつつ、脚線美を見つめ続けた。
 私が煩悩《ぼんのう》を全開にしてるなんて気づいていないように、ほたか先輩は屈託なく微笑んでいる。

「じゃあ、次、千景ちゃんね!」

 ほたか先輩に促され、千景さんはおずおずと私に視線を向けた。

「……ボクは伊吹《いぶき》千景《ちかげ》。特技は……特にないです」

 か細い声でそうつぶやくと、自信なさそうに視線を落とす。

「何言ってるの! 千景ちゃんはね、知識がすご~く豊富なんだよ!」
「要領が悪いから、全部覚えようとしてるだけ。でも、とっさに使えないから、意味がない。力も弱いし、いつもほたかに迷惑をかけてる」
「も~、千景ちゃん! お姉さんは千景ちゃんがいないとダメなんだから、そんな風に言っちゃダメ!」

 千景さんは妙に後ろ向きだ。自分に自信がないのだろうか?
 私はもったいないなあと思った。
 千景さんは自分の魅力に気が付いていない。前髪で隠れているけど、素顔はかわいいし、片目隠しキャラなんて、最高にそそるのに!
 しかもボクッ娘《こ》で小っちゃくて、おっぱいが大きいんですよ?
 あと、いい匂いがするし!

(もお~、一人でどんだけ属性を盛るんですか!)

 私は心の声を大にして叫んだ。
 ドン引きされるので、絶対に声には出せないけど。

 私がジレンマに苦しんでいるうちに、ほたか先輩は千景さんを抱きしめて頬ずりしている。
 私は二人の抱擁《ほうよう》の真ん中に飛び込みたい気持ちを必死に抑え、気になっていたことを質問する。

「そういえば……登山部は今まで、お二人だけだったんですか?」
「うん。そうだよ! うちの部は三年生はいないんだ~。二年生も二人だけなの。よろしくね!」

 そう言って微笑むほたか先輩を見て、私の心には安堵感が広がっていく。
 新しい人間関係に飛び込むことは不安だったけど、この二人の先輩のことは昨日のやり取りもあり、とても親しみを感じている。
 人見知りの私にとって、まだ出会っていない誰かのことを考えるだけで不安があったので、この状況はとてもありがたかった。

(入ってよかった、登山部に……)

 私がしみじみと噛みしめていると、ほたか先輩はおもむろに大きなペットボトルを何本もリュックに詰め込み始めた。
 見たところ、ペットボトルは二リットルの大きなものだ。中には水がたっぷり詰まっている。
 ほたか先輩の動きは止まらない。

「あ、あぅ……。何をしてるんですか? それって、部活に関係するんでしょうか?」
「うん、今日の部活をはじめよっか! 今日は雨だから、階段で歩荷《ぼっか》トレーニングだよ~」

 ぼっか。
 聞きなれない単語に私は首をかしげる。それなのに、嫌な予感が渦巻いている。

「ぼっか……って、何をするんですか?」
「えっとね、水をたくさん背負って、階段を上り下りするの! 体力がつくよ!」

 ほたか先輩は笑顔のままでペットボトルを詰め込み続ける。

「あぅ……。どう見ても二リットルのボトルですけど……。何キロ背負うんですか?」
「今日は三十キロにしとこうかな!」

 前言撤回。
 ほたか先輩は鬼でした。
 ペットボトルが十五本も詰まった大きなリュックに手をかけるが、全然持ち上がらない。
 三十キロとは私の体重の半分よりも重いのだ。
 私の心には急速に暗雲が立ち込めていく。

(ムリムリムリ! しかも階段昇り降り? 雨だし、ゆっくりティータイムにしましょうよ~)

 私が目を白黒させているのに、ほたか先輩は大きなリュックを軽々と背負って笑っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...