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第二章「陰になり日向になり」
第四話「エスコートはお姉さんにおまかせ?」
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今日はほたか先輩と約束しているお買い物の日。
私の登山靴を買う予定なのだ。
待ち合わせの学校の校門前に約束よりも三十分ほど早く着いてしまったので、私は自転車を降りてぼんやりと空を見上げていた。
二日間ほど降り続いた雨もやみ、土曜日の午後は気持ちいいぐらいに晴れ渡っている。
早く着きすぎてしまったのは、ほたか先輩との二人きりのショッピングが楽しみだったからだ。
(ほたか先輩って、やっぱり山のお店が好きなのかな?)
あれほどの山好きなら、登山用品店ではしゃぐ姿は目に見えるようだ。
専門家によるマニアックなトークにエスコートされながらのショッピングは、もしかするとバラエティ番組並みに楽しいかもしれない。
そういえば自転車で来るように言われてたけど、お店は遠いのだろうか。
出雲市内の移動と言えば、学生なら自転車が一般的だ。電車は一時間に一、二本しか走らない二両電車しかないし、バスに乗るぐらいなら自転車のほうが自由がきくというわけだ。
「ましろちゃ~ん。お待たせ~」
のんびりした声と共にほたか先輩が現れる。先輩は前後に大きなカゴがついた自転車に乗っていた。
「荷物がいっぱい運べそうですね……。まさか、自転車でもトレーニングですか?」
「も~、ましろちゃん! お姉さんを何だと思ってるの? お買い物に便利だからに決まってるよぉ」
「そ、そうですよね! ちょっと安心しました!」
「今日は休息日だから、さすがに無理しないよぉ」
休息日とは、きっと負荷をかけた筋肉を休ませる日のことなんだろう。
「今日は……っていうことは、自転車トレーニング自体はやってるんですね……」
ほたか先輩は、やっぱり期待を裏切らない人だった。
ここまでこだわりのある生き方を貫いていると、清々しくなってくる。
何はともあれ先輩と無事に合流できたので、私も自転車にまたがってペダルに足を置く。
すると突然、ほたか先輩が遠くの人影に向かって手を振り始めた。
先輩の視線を追うと、その先にはなんと剱さんが歩いているのだった。
「な……なんで剱さんも来るんですかぁ!」
「お姉さんが声をかけたんだよ~。部活に顔を出してくれないから、寂しくなっちゃったの」
「あうぅ……」
私がほたか先輩の後ろに隠れて警戒していると、剱さんはムッとしたように眉間にしわを寄せた。
「ア、アタシが来ちゃ、悪いかよ。買い物だろ? ちょうど必要なものがあったんだよ」
そう言って、剱さんは足を前に突き出す。
その足には革製のゴツイ靴が身につけられていた。
靴は渋みのある茶色で、一見しただけで、しっかりと使い込まれたものだとわかる。
「美嶺ちゃん、もう登山靴を持ってたんだね!」
「親の趣味に付き合いがてらって感じっすけど」
「革とは渋いねえ……。お手入れが大変でしょう?」
「まあ。ちょうどワックスと目止め剤が切れてたんで、買いたかったんすよ」
ほたか先輩は感心するように剱さんの靴を見つめている。
私の素人目にもかなり本格的な靴に見えるし、親の趣味という話も出ていたし、剱さんは意外にも登山のサラブレッドなのかもしれない。
「美嶺ちゃんも合流できたし、出発だよ! 浜山公園通りまで行くけど、大丈夫?」
その言葉を受けて、私は頭の中で地図を広げる。浜山公園通りというと、今いる学校から五、六キロぐらいは離れていると思う。そのあたりには大きなショッピングモールがあるので、目的のお店もその中にあるのだろう。
すると、剱さんがいぶかしげな表情をした。
「遠いじゃないですか。駅前の通りの山道具屋のほうが近いっすよ」
「えっと……。……。そんなところにお店があったっけ?」
ほたか先輩は聞き返したけど、私は妙な間があったことを見逃さなかった。
剱さん自身はその違和感に気が付いていないようで、かまわず行き先変更を主張する。
「ほら、結構前からあるじゃないですか。その店のほうが近いし、店員の対応もいいし、オススメっすよ」
「お姉さん、今日は遠くまで走りたいなー」
「アタシ、自転車を持ってないんすよ。近いほうに行きましょう」
剱さんは押しが強い。ほたか先輩を問答無用で説き伏せてしまった。
結局は近いほうのお店に行くことになったけど、ほたか先輩はそこに行くのを避けてるような気がする。
変なお店なんだろうか。
剱さんがオススメするというから、怖いお店なのかもしれない。
空はこんなにいい天気なのに、私の心はたちまち暗雲が立ち込めてくるのだった。
私の登山靴を買う予定なのだ。
待ち合わせの学校の校門前に約束よりも三十分ほど早く着いてしまったので、私は自転車を降りてぼんやりと空を見上げていた。
二日間ほど降り続いた雨もやみ、土曜日の午後は気持ちいいぐらいに晴れ渡っている。
早く着きすぎてしまったのは、ほたか先輩との二人きりのショッピングが楽しみだったからだ。
(ほたか先輩って、やっぱり山のお店が好きなのかな?)
あれほどの山好きなら、登山用品店ではしゃぐ姿は目に見えるようだ。
専門家によるマニアックなトークにエスコートされながらのショッピングは、もしかするとバラエティ番組並みに楽しいかもしれない。
そういえば自転車で来るように言われてたけど、お店は遠いのだろうか。
出雲市内の移動と言えば、学生なら自転車が一般的だ。電車は一時間に一、二本しか走らない二両電車しかないし、バスに乗るぐらいなら自転車のほうが自由がきくというわけだ。
「ましろちゃ~ん。お待たせ~」
のんびりした声と共にほたか先輩が現れる。先輩は前後に大きなカゴがついた自転車に乗っていた。
「荷物がいっぱい運べそうですね……。まさか、自転車でもトレーニングですか?」
「も~、ましろちゃん! お姉さんを何だと思ってるの? お買い物に便利だからに決まってるよぉ」
「そ、そうですよね! ちょっと安心しました!」
「今日は休息日だから、さすがに無理しないよぉ」
休息日とは、きっと負荷をかけた筋肉を休ませる日のことなんだろう。
「今日は……っていうことは、自転車トレーニング自体はやってるんですね……」
ほたか先輩は、やっぱり期待を裏切らない人だった。
ここまでこだわりのある生き方を貫いていると、清々しくなってくる。
何はともあれ先輩と無事に合流できたので、私も自転車にまたがってペダルに足を置く。
すると突然、ほたか先輩が遠くの人影に向かって手を振り始めた。
先輩の視線を追うと、その先にはなんと剱さんが歩いているのだった。
「な……なんで剱さんも来るんですかぁ!」
「お姉さんが声をかけたんだよ~。部活に顔を出してくれないから、寂しくなっちゃったの」
「あうぅ……」
私がほたか先輩の後ろに隠れて警戒していると、剱さんはムッとしたように眉間にしわを寄せた。
「ア、アタシが来ちゃ、悪いかよ。買い物だろ? ちょうど必要なものがあったんだよ」
そう言って、剱さんは足を前に突き出す。
その足には革製のゴツイ靴が身につけられていた。
靴は渋みのある茶色で、一見しただけで、しっかりと使い込まれたものだとわかる。
「美嶺ちゃん、もう登山靴を持ってたんだね!」
「親の趣味に付き合いがてらって感じっすけど」
「革とは渋いねえ……。お手入れが大変でしょう?」
「まあ。ちょうどワックスと目止め剤が切れてたんで、買いたかったんすよ」
ほたか先輩は感心するように剱さんの靴を見つめている。
私の素人目にもかなり本格的な靴に見えるし、親の趣味という話も出ていたし、剱さんは意外にも登山のサラブレッドなのかもしれない。
「美嶺ちゃんも合流できたし、出発だよ! 浜山公園通りまで行くけど、大丈夫?」
その言葉を受けて、私は頭の中で地図を広げる。浜山公園通りというと、今いる学校から五、六キロぐらいは離れていると思う。そのあたりには大きなショッピングモールがあるので、目的のお店もその中にあるのだろう。
すると、剱さんがいぶかしげな表情をした。
「遠いじゃないですか。駅前の通りの山道具屋のほうが近いっすよ」
「えっと……。……。そんなところにお店があったっけ?」
ほたか先輩は聞き返したけど、私は妙な間があったことを見逃さなかった。
剱さん自身はその違和感に気が付いていないようで、かまわず行き先変更を主張する。
「ほら、結構前からあるじゃないですか。その店のほうが近いし、店員の対応もいいし、オススメっすよ」
「お姉さん、今日は遠くまで走りたいなー」
「アタシ、自転車を持ってないんすよ。近いほうに行きましょう」
剱さんは押しが強い。ほたか先輩を問答無用で説き伏せてしまった。
結局は近いほうのお店に行くことになったけど、ほたか先輩はそこに行くのを避けてるような気がする。
変なお店なんだろうか。
剱さんがオススメするというから、怖いお店なのかもしれない。
空はこんなにいい天気なのに、私の心はたちまち暗雲が立ち込めてくるのだった。
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