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第二章「陰になり日向になり」
第八話「千景さんをまもり隊、結成です!」
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私はほたか先輩と一緒にお店を出て、歩道の隅で周囲の様子をうかがった。
話が少しだけ長くなるから、お店の中で立ち話はまずいということだ。
駅前の通りといっても田舎だから歩いている人は少ないし、ここなら気兼ねなく話を聞くことが出来る。
「このお店が千景ちゃんのご両親のお店って言うことは……もう気が付いてるのかな?」
ほたか先輩は真剣なまなざしで確認してきた。
私は黙ったまま、首を縦に振る。
店員さんの制服に「伊吹」の名前が書いてあったので容易に推察できた。千景さんが隠したくても、お店の名前まではどうしようもないのだろう。
「千景ちゃんはおうちのお手伝いをしてるの。そしてまずわかっていて欲しいのは、学校での千景ちゃんが本来の千景ちゃんということなの。あの店員さんとしての姿はお店のことを想って演じてる姿で、とても無理して頑張ってる。ましろちゃんのことだってしっかり気が付いてるけど、正体がバレてないと信じてるから、初対面の店員さんという設定で頑張ってるんだよ」
ほたか先輩は私の動揺を察してなのか、私が最初に気になっていたことについて説明してくれた。
「千景ちゃんは……ちょっと恥ずかしがり屋さんなところがあるんだけど、接客をする以上は普通にしゃべれないと困る……。必死に頑張った結果、別人みたいに変身できるようになったということなの。でも、自分自身とのギャップが大きくて恥ずかしいって、千景ちゃんは言ってたの。もしこのことが知り合いにバレたら、絶対に耐えられないって……」
ほたか先輩の説明で、ようやく今日の先輩の違和感が納得できた。
学校の近くにあるいいお店なのに、妙に避けていた理由。
先輩は千景さんのお店がイヤなんじゃなくて、千景さんを守ろうとしていたのだ。
千景さんのことがわかってきたと同時に、私はなんかムカムカしてきた。
「千景さんが頑張ってるっていうことはすごくよくわかりました。でも、そんなの可哀想ですよ! まだ高校生の娘に無理させるなんて、親が悪いと思います!」
「違うの。もちろん、千景ちゃんのご両親も同じように頑張ってた。……でも」
ほたか先輩は悲しそうな顔になる。
その表情を見て、私は察してしまった。
なにか深刻な事情があるんだって……。
(まさか、千景さんのご両親は……病気……? 死……?)
私は最悪の状況さえも覚悟する。
「お父様はね……笑顔が怖くって、お客さんが減っちゃったの……! 普通にしてても怖いから、表に出るのを禁止にされてるみたい……」
「へ?」
「お母様は千景ちゃんとそっくりで可愛らしい方なんだけどね、口下手を隠して演技をすると、他のことがてんでダメになっちゃう極端なところがあってね、お店が潰れかけたの……!」
「ふぇ?」
「そんなご両親を心配して、千景ちゃんがお店に立つようになったのが一年前。そこからは一気にお店が明るくなって、お客さんが来るようになった。千景ちゃんは救世主なんだよ! ……最近はようやく店員さんが増えて千景ちゃんの負担も減ったけど、千景ちゃん目当てに来る常連さんも多いから、どうしてもやめられないみたいで……」
「あぅぅ。……千景さんの足測定とか、人気なのは分かります」
まさかの、コントのような家族だった。
いや、絶対に笑っちゃだめなんだけど……。
すごくつらい境遇があるんだと想像していた分だけ、私はドッと気が抜けてしまった。
すると、ほたか先輩は私の手をぎゅっと握りしめる。
「約束してほしいの! 他の誰にも言わないのはもちろん、千景ちゃんにも気付いてることを悟られないようにしてほしいの」
「私は誰にも言いふらさないですよ。千景さんのこと……大切ですし。で、でも先輩がそんなに必死になるなんて……。もしバレちゃったらどうなるんですか?」
「去年、私が知っちゃったときはね……、教室に来なくなっちゃった。保健室までは来てたみたいだけど、お姉さんと顔を合わせてくれなくなっちゃったの。……本当に失敗しちゃった。……もう、あんな辛そうな千景ちゃんには戻って欲しくないの」
「ど、どうやって仲直りしたんですか?」
すると、ほたか先輩の顔は真っ赤に染まってしまった。
「どうすればいいかわからなかったから、千景ちゃんと同じぐらいに恥ずかしい想いをすればいいと思って、誰にも言えない秘密をぜ~んぶ千景ちゃんに教えちゃった」
「な、なにを教えたんですか?」
「言えるわけ、ないよお!」
ほたか先輩は顔を手で覆い、うずくまって悶え始める。
無理に聞き出すつもりはもちろんないけど、ほたか先輩の恥ずかしいことって何だろう。
いや、むしろ問題は私のほうだ。
もし千景さんに気付かれるようなことがあれば、私も自分の秘密を暴露することになるということだ。
妄想ノートだけで足りるかな。千景さんの匂いや指に興奮してたことまで言う羽目になっちゃうのかな。
千景さんをまもりたい気持ちは本気だけど、同時にこれは私をまもることでもある。
秘密にしたい趣味の世界は、絶対にリアルの生活に持ち込まない。
尋ねないマナーはオタクの嗜みなのだ。
私はうずくまるほたか先輩の肩にそっと手を置いた。
「ほたか先輩! 私がんばります! 絶対に千景さんをまもります!」
「ありがとう……」
先輩は恥ずかしさで目を潤ませながら、微笑んでくれた。
やるべきことは明確だ。
さっさと靴を買い終わり、剱さんを連れて店を出るのだ。
作戦開始。
私たちは固い決意を胸に秘め、伊吹アウトドアスポーツへと舞い戻るのだった。
話が少しだけ長くなるから、お店の中で立ち話はまずいということだ。
駅前の通りといっても田舎だから歩いている人は少ないし、ここなら気兼ねなく話を聞くことが出来る。
「このお店が千景ちゃんのご両親のお店って言うことは……もう気が付いてるのかな?」
ほたか先輩は真剣なまなざしで確認してきた。
私は黙ったまま、首を縦に振る。
店員さんの制服に「伊吹」の名前が書いてあったので容易に推察できた。千景さんが隠したくても、お店の名前まではどうしようもないのだろう。
「千景ちゃんはおうちのお手伝いをしてるの。そしてまずわかっていて欲しいのは、学校での千景ちゃんが本来の千景ちゃんということなの。あの店員さんとしての姿はお店のことを想って演じてる姿で、とても無理して頑張ってる。ましろちゃんのことだってしっかり気が付いてるけど、正体がバレてないと信じてるから、初対面の店員さんという設定で頑張ってるんだよ」
ほたか先輩は私の動揺を察してなのか、私が最初に気になっていたことについて説明してくれた。
「千景ちゃんは……ちょっと恥ずかしがり屋さんなところがあるんだけど、接客をする以上は普通にしゃべれないと困る……。必死に頑張った結果、別人みたいに変身できるようになったということなの。でも、自分自身とのギャップが大きくて恥ずかしいって、千景ちゃんは言ってたの。もしこのことが知り合いにバレたら、絶対に耐えられないって……」
ほたか先輩の説明で、ようやく今日の先輩の違和感が納得できた。
学校の近くにあるいいお店なのに、妙に避けていた理由。
先輩は千景さんのお店がイヤなんじゃなくて、千景さんを守ろうとしていたのだ。
千景さんのことがわかってきたと同時に、私はなんかムカムカしてきた。
「千景さんが頑張ってるっていうことはすごくよくわかりました。でも、そんなの可哀想ですよ! まだ高校生の娘に無理させるなんて、親が悪いと思います!」
「違うの。もちろん、千景ちゃんのご両親も同じように頑張ってた。……でも」
ほたか先輩は悲しそうな顔になる。
その表情を見て、私は察してしまった。
なにか深刻な事情があるんだって……。
(まさか、千景さんのご両親は……病気……? 死……?)
私は最悪の状況さえも覚悟する。
「お父様はね……笑顔が怖くって、お客さんが減っちゃったの……! 普通にしてても怖いから、表に出るのを禁止にされてるみたい……」
「へ?」
「お母様は千景ちゃんとそっくりで可愛らしい方なんだけどね、口下手を隠して演技をすると、他のことがてんでダメになっちゃう極端なところがあってね、お店が潰れかけたの……!」
「ふぇ?」
「そんなご両親を心配して、千景ちゃんがお店に立つようになったのが一年前。そこからは一気にお店が明るくなって、お客さんが来るようになった。千景ちゃんは救世主なんだよ! ……最近はようやく店員さんが増えて千景ちゃんの負担も減ったけど、千景ちゃん目当てに来る常連さんも多いから、どうしてもやめられないみたいで……」
「あぅぅ。……千景さんの足測定とか、人気なのは分かります」
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いや、絶対に笑っちゃだめなんだけど……。
すごくつらい境遇があるんだと想像していた分だけ、私はドッと気が抜けてしまった。
すると、ほたか先輩は私の手をぎゅっと握りしめる。
「約束してほしいの! 他の誰にも言わないのはもちろん、千景ちゃんにも気付いてることを悟られないようにしてほしいの」
「私は誰にも言いふらさないですよ。千景さんのこと……大切ですし。で、でも先輩がそんなに必死になるなんて……。もしバレちゃったらどうなるんですか?」
「去年、私が知っちゃったときはね……、教室に来なくなっちゃった。保健室までは来てたみたいだけど、お姉さんと顔を合わせてくれなくなっちゃったの。……本当に失敗しちゃった。……もう、あんな辛そうな千景ちゃんには戻って欲しくないの」
「ど、どうやって仲直りしたんですか?」
すると、ほたか先輩の顔は真っ赤に染まってしまった。
「どうすればいいかわからなかったから、千景ちゃんと同じぐらいに恥ずかしい想いをすればいいと思って、誰にも言えない秘密をぜ~んぶ千景ちゃんに教えちゃった」
「な、なにを教えたんですか?」
「言えるわけ、ないよお!」
ほたか先輩は顔を手で覆い、うずくまって悶え始める。
無理に聞き出すつもりはもちろんないけど、ほたか先輩の恥ずかしいことって何だろう。
いや、むしろ問題は私のほうだ。
もし千景さんに気付かれるようなことがあれば、私も自分の秘密を暴露することになるということだ。
妄想ノートだけで足りるかな。千景さんの匂いや指に興奮してたことまで言う羽目になっちゃうのかな。
千景さんをまもりたい気持ちは本気だけど、同時にこれは私をまもることでもある。
秘密にしたい趣味の世界は、絶対にリアルの生活に持ち込まない。
尋ねないマナーはオタクの嗜みなのだ。
私はうずくまるほたか先輩の肩にそっと手を置いた。
「ほたか先輩! 私がんばります! 絶対に千景さんをまもります!」
「ありがとう……」
先輩は恥ずかしさで目を潤ませながら、微笑んでくれた。
やるべきことは明確だ。
さっさと靴を買い終わり、剱さんを連れて店を出るのだ。
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