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第二章「陰になり日向になり」
第十六話「姫の心の鍵穴はどこ?」
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「あぅぅ……。千景さん、大変です! 出られなくなっちゃいましたっ!」
押しても引いても倉庫の扉はびくともしない
扉の内側には鍵穴らしきものは何もないので、おそらく廊下側からしか開けることができない仕組みなのだろう。
倉庫の扉を閉めた張本人のお姉さんは鼻歌交じりに立ち去ってしまった。さっきから大声で助けを呼んでるのに、まったく何の反応も帰ってこない。お店の閉店時間も過ぎているので、すでに帰ってしまったのかもしれなかった。
幸いにも倉庫の中に照明のスイッチがあったので、真っ暗闇だけは避けることが出来た。しかし明るくなったと言っても問題が解決したわけではない。最悪の場合、明日の開店時間までこのままということもあり得るのだ。
「あのぅ、千景さん。ここって千景さんのご両親のお店なんですよね? さすがに今もお店にいらっしゃるはず……ですよね?」
「いる。……だけど声は、届かないはず。この時間、母はカフェで明日の仕込み。父は二階の事務室で仕事……してるはず」
「なるほど。ひとまずお店に電話をかけますね」
「無理……。営業時間外は、アナウンスが切り替わる」
「あぅ。そうですか……」
私は無念に思いながら、このお店の電話番号を探そうと開いたスマホのブラウザを閉じる。
その時、画面の右上に見てはいけない大変な物が見えてしまった。
「電源……あと一パーセントです」
確かにこのスマホは今日の朝、家を出るときに充電器から外して以来、一度も充電していない。
さすがに登山用品店の倉庫の中に都合よく充電器があるわけがないし、倉庫を脱出できない限り、電池はあと一パーセント限りということだ。
千景さんが電話か何かを持っていることを期待したが、恐怖で凍り付いた表情のまま、首を横に振るだけだった。
この絶望的な状況の中で、私は必死に頭を働かせる。
あと一パーセントでできることって何だろう。
アプリを開いた時点できっとアウトだ。ネットで調べものをしようものなら、文字を入力している段階で電池が切れるだろう。むしろ、放っておくだけで数分もしないうちにスマホはただの機械の板に変わってしまう。
倉庫からの脱出に最短でたどり着ける方法……。
今思いつくのは「一度きりの電話」というアイデアだけだった。
「警察に電話しましょう!」
「ダメ! ……お店に、迷惑がかかる」
千景さんは青ざめた表情で必死に首を振った。
千景さんを元気づけたいのに、落ち込ませるのは本意ではない。
考えたあげく、この状況で電話できる相手はたった一人しか思いつかなかった。
「千景さん。……ほたか先輩の電話番号は覚えていますか?」
「……大丈夫。暗記、してる」
「ほたか先輩にかけます。いいですね?」
私の言葉に、千景さんはコクリとうなづいた。
余計な話をしている暇はない。
ほたか先輩の電話番号を教えてもらいながら、スマホの画面にすかさず番号を打ち込む。
打ち込んでいる間にも電池が切れてしまわないか心配だったが、何とかコール音を聞くまでにたどり着くことが出来た。
しかし、ほたか先輩は出なかった。
それでも幸いなことに、留守番電話に切り替わる。
「ましろです! 千景さんとお店の倉庫にとじこめら……」
言いかけた途中で、スマホが短い振動と共に動かなくなってしまった。
頭の中が真っ白になったまま、私は呆然と床に座り込んでいた。
横を見ると、千景さんは闇をまとっているかのように暗くなっている。
「ボクが……、ボクが、逃げなければ……よかった」
「あぅぅ。そんなことないです。そもそも私が追いかけなければ、こんなことにならなかったです……」
「違う。そもそも、ボクがましろさんを……避けたから。……ううん。生まれてきたのが、すべての間違い」
「ち、千景さん! さすがにだいぶ鬱ですよ? そんなこと、ないですよぉ」
私は上手い言い方が思いつかず、気休め程度のフォローしかできない。
明日の開店時間までここに閉じ込められたままだとすると、千景さんの心が壊れてしまいかねない。
なにか脱出手段はないものかと、私は倉庫の中を当てもなくうろついた。
漫画とかだと、こういう時には壁の排気口や天井の穴を通って脱出するのがよくあるパターンだ。
だから、念入りに壁や天井を見渡しながら歩く。
しかし人が通れそうな穴は何一つなかった。
私は期待が空振りに終わったことに落胆しながら、千景さんがうずくまっている場所まで戻ろうとする。
その時、棚の一角に違和感を覚えた。
他の棚は所狭しと商品が並んでいるのに、この幅五十センチほどの隙間には、商品とは思えないような女の子向けのデザインの文房具やデスクライト、そして本が並べられ、小さなパイプ椅子までも置いてある。
それはまるで、小さな勉強机だった。
机の上に並んでいる本は、どう見ても売り物ではない。付箋紙まみれで、ページをめくった折り目が付いている。ざっと見ただけでも、登山の本や商品のカタログが十数冊は並んでいた。
さらに机の上にはノートが開かれた状態で置いてあり、登山靴の形の特徴や機能に関して事細かく記されている。そんなノートが、見る限りでは二十冊以上は置かれている。
そのノートの筆跡は、部室で見たことのある千景さんの文字そのままだった。
「……勝手に見ては、ダメ」
突然声をかけられ、心臓が飛び上がるほどに驚いた。
背後を振り向くと、そこには陰鬱な表情の千景さんが立っていた。
押しても引いても倉庫の扉はびくともしない
扉の内側には鍵穴らしきものは何もないので、おそらく廊下側からしか開けることができない仕組みなのだろう。
倉庫の扉を閉めた張本人のお姉さんは鼻歌交じりに立ち去ってしまった。さっきから大声で助けを呼んでるのに、まったく何の反応も帰ってこない。お店の閉店時間も過ぎているので、すでに帰ってしまったのかもしれなかった。
幸いにも倉庫の中に照明のスイッチがあったので、真っ暗闇だけは避けることが出来た。しかし明るくなったと言っても問題が解決したわけではない。最悪の場合、明日の開店時間までこのままということもあり得るのだ。
「あのぅ、千景さん。ここって千景さんのご両親のお店なんですよね? さすがに今もお店にいらっしゃるはず……ですよね?」
「いる。……だけど声は、届かないはず。この時間、母はカフェで明日の仕込み。父は二階の事務室で仕事……してるはず」
「なるほど。ひとまずお店に電話をかけますね」
「無理……。営業時間外は、アナウンスが切り替わる」
「あぅ。そうですか……」
私は無念に思いながら、このお店の電話番号を探そうと開いたスマホのブラウザを閉じる。
その時、画面の右上に見てはいけない大変な物が見えてしまった。
「電源……あと一パーセントです」
確かにこのスマホは今日の朝、家を出るときに充電器から外して以来、一度も充電していない。
さすがに登山用品店の倉庫の中に都合よく充電器があるわけがないし、倉庫を脱出できない限り、電池はあと一パーセント限りということだ。
千景さんが電話か何かを持っていることを期待したが、恐怖で凍り付いた表情のまま、首を横に振るだけだった。
この絶望的な状況の中で、私は必死に頭を働かせる。
あと一パーセントでできることって何だろう。
アプリを開いた時点できっとアウトだ。ネットで調べものをしようものなら、文字を入力している段階で電池が切れるだろう。むしろ、放っておくだけで数分もしないうちにスマホはただの機械の板に変わってしまう。
倉庫からの脱出に最短でたどり着ける方法……。
今思いつくのは「一度きりの電話」というアイデアだけだった。
「警察に電話しましょう!」
「ダメ! ……お店に、迷惑がかかる」
千景さんは青ざめた表情で必死に首を振った。
千景さんを元気づけたいのに、落ち込ませるのは本意ではない。
考えたあげく、この状況で電話できる相手はたった一人しか思いつかなかった。
「千景さん。……ほたか先輩の電話番号は覚えていますか?」
「……大丈夫。暗記、してる」
「ほたか先輩にかけます。いいですね?」
私の言葉に、千景さんはコクリとうなづいた。
余計な話をしている暇はない。
ほたか先輩の電話番号を教えてもらいながら、スマホの画面にすかさず番号を打ち込む。
打ち込んでいる間にも電池が切れてしまわないか心配だったが、何とかコール音を聞くまでにたどり着くことが出来た。
しかし、ほたか先輩は出なかった。
それでも幸いなことに、留守番電話に切り替わる。
「ましろです! 千景さんとお店の倉庫にとじこめら……」
言いかけた途中で、スマホが短い振動と共に動かなくなってしまった。
頭の中が真っ白になったまま、私は呆然と床に座り込んでいた。
横を見ると、千景さんは闇をまとっているかのように暗くなっている。
「ボクが……、ボクが、逃げなければ……よかった」
「あぅぅ。そんなことないです。そもそも私が追いかけなければ、こんなことにならなかったです……」
「違う。そもそも、ボクがましろさんを……避けたから。……ううん。生まれてきたのが、すべての間違い」
「ち、千景さん! さすがにだいぶ鬱ですよ? そんなこと、ないですよぉ」
私は上手い言い方が思いつかず、気休め程度のフォローしかできない。
明日の開店時間までここに閉じ込められたままだとすると、千景さんの心が壊れてしまいかねない。
なにか脱出手段はないものかと、私は倉庫の中を当てもなくうろついた。
漫画とかだと、こういう時には壁の排気口や天井の穴を通って脱出するのがよくあるパターンだ。
だから、念入りに壁や天井を見渡しながら歩く。
しかし人が通れそうな穴は何一つなかった。
私は期待が空振りに終わったことに落胆しながら、千景さんがうずくまっている場所まで戻ろうとする。
その時、棚の一角に違和感を覚えた。
他の棚は所狭しと商品が並んでいるのに、この幅五十センチほどの隙間には、商品とは思えないような女の子向けのデザインの文房具やデスクライト、そして本が並べられ、小さなパイプ椅子までも置いてある。
それはまるで、小さな勉強机だった。
机の上に並んでいる本は、どう見ても売り物ではない。付箋紙まみれで、ページをめくった折り目が付いている。ざっと見ただけでも、登山の本や商品のカタログが十数冊は並んでいた。
さらに机の上にはノートが開かれた状態で置いてあり、登山靴の形の特徴や機能に関して事細かく記されている。そんなノートが、見る限りでは二十冊以上は置かれている。
そのノートの筆跡は、部室で見たことのある千景さんの文字そのままだった。
「……勝手に見ては、ダメ」
突然声をかけられ、心臓が飛び上がるほどに驚いた。
背後を振り向くと、そこには陰鬱な表情の千景さんが立っていた。
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