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第二章「陰になり日向になり」
第二十一話「素顔のままで」
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道具の山の下敷きになっていた百合香さんを無事に救助した頃。
銀髪のままの千景さんが私を見上げて微笑んだ。
「安心しましたのです」
唐突に投げかけられた言葉の意味が解らず、私は戸惑ってしまう。
「えっと……。私がなにか……?」
「ましろさんが自分の絵をきちんと認めていたのだと分かって、安心したのです。……ましろさんは絵を見せてくれたとき、とても恥ずかしそうにしてました。……その時、ましろさんもボクのように、自分の絵を恥ずかしい嫌いな物と思っているのではないかと、心配してたのです」
その言葉を聞いて、私の心が震えた。
千景さんは自分自身が大変な状況にあったのに、私のことも気にかけてくれてたのだ。
「……そんな。わざわざ私のことを心配してくれてたなんて……」
「……あんな魅力的な絵を描けるということは、とてもたくさんの時間と想いを費やしていたに決まっているのです。だから、ましろさんが自分の絵を大切に思っていてくれて……とても、安心したのです」
そう言って、千景さんはにっこりと笑ってくれた。
「千景……さん……」
目の前の少女は、まるで後光がさしているように見える。
千景さんの微笑みに、私の心は高鳴り、震え続けた。
……この感覚は、かつて小桃ちゃんに救われたときの気持ちと同じ。
言葉は違えど、千景さんは小桃ちゃんと同じことを言ってくれたのだ。
私は自分が嫌われてもいいと思えるほど、千景さんを救いたかった。
でも、同時に違和感を覚えていた。
「救う」だなんて、そんなおこがましいことを私がしていいのだろうか。
だって、それはちっとも公平じゃない。
私はどっちが上とか下とか考えたくなかったのだ……。
だから、なおのこと千景さんの言葉はうれしかった。
千景さんも私を救ってくれていたんだ。
もう、こうなっては想いを心にとどめることなんて、できるはずがなかった。
想いは言葉となり、私の中から飛び出していく。
「わ、私と……友達になってください!」
……友達。
それは私にとって、とても大事な、特別な存在。
本当に心から友達と呼べる人は、そう何人もいない。
こんな気持ちは重過ぎるって自分でも分かってるし、相手に押し付ける気なんてサラサラない。
……でも、もう我慢できなかったのだ。
私は答えを待つ。
……答えを待つ。
でも、いつまでも千景さんの言葉はなかった。
千景さんの表情を伺うように覗くと、千景さんは床を見つめてうつむいている。
最悪の想像が心を駆け巡り、とても平穏ではいられなくなってしまう。
「……先輩と後輩で友達なんて、変……でしょうか?」
そう尋ねるのがやっとだった。
学年が違うから友達になるのは変。
……そう言う理由なら、なんとか自分を納得させられる気がした。
その時、千景さんがぽつりぽつりと呟くように話し始めた。
「ましろさんはボクのことを、すごいと言ってくれたのです。……でも、すごいなんて、すぐにはどうしても思えません。ヒカリはまだまだ必要で、このウィッグはまだ手放せないのです。千景はヒカリの影に隠れていないと何もできない、ダメな奴なのです」
千景さんの沈黙は拒絶の言葉ではなかった。
私の言葉を静かに噛みしめてくれていたのだ。
そして同時に、人が変わる難しさを伝えてくれてもいた。
「あぅぅ……。そんなにダメって、言わないでください……」
そう懇願した時、千景さんの表情に光が灯った。
頑なに着け続けていた銀髪のウィッグを、千景さんは自らの手でそっと取り去る。
「でも、ましろさんになら見せられます。……特別でもなんでもない、ただの千景を。……そこに歳の差なんて、ないのです」
千景さんは、とてもうれしそうに微笑み、手を差し伸べてくれた。
「ボクの友達に……なってください」
その恥ずかしそうに微笑む千景さんを、私はきっと忘れない。
千景さんに初めて会ったのは、部活を嫌がって先生から逃げ続けていたあの昼休み。
一方的にぶつかったりして迷惑をかけた私なのに、思いやりのある声をかけてくれた。
思えば、あの時から千景さんの素顔に魅了されっぱなしだった。
私よりもひとつ年上の女の子。
私を登山部に誘ってくれたの仲間。
そして……大切な友達。
これから大会が始まって、たくさんの大変なことがあるかもしれない。
でも千景さんが見せてくれた素顔の笑顔を思い出せば、どんなことだって乗り越えられる気がする。
「よろしく……お願いします」
私は満面の笑みを浮かべ、差し伸べられた千景さんのきれいな手を包み込むように握りしめた。
第二章「陰になり日向になり」 完
銀髪のままの千景さんが私を見上げて微笑んだ。
「安心しましたのです」
唐突に投げかけられた言葉の意味が解らず、私は戸惑ってしまう。
「えっと……。私がなにか……?」
「ましろさんが自分の絵をきちんと認めていたのだと分かって、安心したのです。……ましろさんは絵を見せてくれたとき、とても恥ずかしそうにしてました。……その時、ましろさんもボクのように、自分の絵を恥ずかしい嫌いな物と思っているのではないかと、心配してたのです」
その言葉を聞いて、私の心が震えた。
千景さんは自分自身が大変な状況にあったのに、私のことも気にかけてくれてたのだ。
「……そんな。わざわざ私のことを心配してくれてたなんて……」
「……あんな魅力的な絵を描けるということは、とてもたくさんの時間と想いを費やしていたに決まっているのです。だから、ましろさんが自分の絵を大切に思っていてくれて……とても、安心したのです」
そう言って、千景さんはにっこりと笑ってくれた。
「千景……さん……」
目の前の少女は、まるで後光がさしているように見える。
千景さんの微笑みに、私の心は高鳴り、震え続けた。
……この感覚は、かつて小桃ちゃんに救われたときの気持ちと同じ。
言葉は違えど、千景さんは小桃ちゃんと同じことを言ってくれたのだ。
私は自分が嫌われてもいいと思えるほど、千景さんを救いたかった。
でも、同時に違和感を覚えていた。
「救う」だなんて、そんなおこがましいことを私がしていいのだろうか。
だって、それはちっとも公平じゃない。
私はどっちが上とか下とか考えたくなかったのだ……。
だから、なおのこと千景さんの言葉はうれしかった。
千景さんも私を救ってくれていたんだ。
もう、こうなっては想いを心にとどめることなんて、できるはずがなかった。
想いは言葉となり、私の中から飛び出していく。
「わ、私と……友達になってください!」
……友達。
それは私にとって、とても大事な、特別な存在。
本当に心から友達と呼べる人は、そう何人もいない。
こんな気持ちは重過ぎるって自分でも分かってるし、相手に押し付ける気なんてサラサラない。
……でも、もう我慢できなかったのだ。
私は答えを待つ。
……答えを待つ。
でも、いつまでも千景さんの言葉はなかった。
千景さんの表情を伺うように覗くと、千景さんは床を見つめてうつむいている。
最悪の想像が心を駆け巡り、とても平穏ではいられなくなってしまう。
「……先輩と後輩で友達なんて、変……でしょうか?」
そう尋ねるのがやっとだった。
学年が違うから友達になるのは変。
……そう言う理由なら、なんとか自分を納得させられる気がした。
その時、千景さんがぽつりぽつりと呟くように話し始めた。
「ましろさんはボクのことを、すごいと言ってくれたのです。……でも、すごいなんて、すぐにはどうしても思えません。ヒカリはまだまだ必要で、このウィッグはまだ手放せないのです。千景はヒカリの影に隠れていないと何もできない、ダメな奴なのです」
千景さんの沈黙は拒絶の言葉ではなかった。
私の言葉を静かに噛みしめてくれていたのだ。
そして同時に、人が変わる難しさを伝えてくれてもいた。
「あぅぅ……。そんなにダメって、言わないでください……」
そう懇願した時、千景さんの表情に光が灯った。
頑なに着け続けていた銀髪のウィッグを、千景さんは自らの手でそっと取り去る。
「でも、ましろさんになら見せられます。……特別でもなんでもない、ただの千景を。……そこに歳の差なんて、ないのです」
千景さんは、とてもうれしそうに微笑み、手を差し伸べてくれた。
「ボクの友達に……なってください」
その恥ずかしそうに微笑む千景さんを、私はきっと忘れない。
千景さんに初めて会ったのは、部活を嫌がって先生から逃げ続けていたあの昼休み。
一方的にぶつかったりして迷惑をかけた私なのに、思いやりのある声をかけてくれた。
思えば、あの時から千景さんの素顔に魅了されっぱなしだった。
私よりもひとつ年上の女の子。
私を登山部に誘ってくれたの仲間。
そして……大切な友達。
これから大会が始まって、たくさんの大変なことがあるかもしれない。
でも千景さんが見せてくれた素顔の笑顔を思い出せば、どんなことだって乗り越えられる気がする。
「よろしく……お願いします」
私は満面の笑みを浮かべ、差し伸べられた千景さんのきれいな手を包み込むように握りしめた。
第二章「陰になり日向になり」 完
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