バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
51 / 133
第三章「ペンは剱より強し」

第十四話「暗い森の中で」

しおりを挟む
美嶺みれいちゃん、戻ってこないね……。何かあったの?」

 私とほたか先輩はテントの前に広げたシートの上に調理器具と材料を並べながら、あたりの森を眺め見る。

「……あぅぅ。なんといいますか……、説明しづらいというか……」
「そう……。もう夕ご飯を作らなくっちゃいけない時間なんだけど、どうしよっか」

 ほたか先輩はすこし心配そうにしている。
 私はというと、剱さんが残した言葉で頭がいっぱいだった。


『アタシが仲良くなりたいのは、伊吹いぶきさんじゃねえ! お前なんだよ!』
 その言葉を思い出すと、心臓が早鐘はやがねを打つようにうるさく高鳴ってしまう。



「ましろさん、大丈夫?」
「あぅ?」

 私の意識を現実に呼び戻してくれたのは千景さんだった。
 私は千景さんが持っているお鍋をのぞき見る。
 その中には水に浸されたお米が入っていた。

「だ、大丈夫です! ……あの、もしかして、お鍋でご飯を炊くんですか?」
「うん」
「そっか、キャンプでは炊飯器なんて使えないですもんね!」

 これがいわゆる『飯盒炊爨はんごうすいさん』という奴なのだろう。
 私が知っているのはアニメで見たことのある『飯盒はんごう』と呼ばれる楕円形の黒いお鍋だけど、千景さんが持っているのは円筒形の大きな銀色のお鍋だ。千景さんのお店でも見たことのある、いくつも重ねることのできるタイプのお鍋のようだ。
 ほたか先輩は時計に視線を落とし、つぶやいた。

「み、美嶺ちゃんも、お腹が減れば帰ってくるよね? ……それまでに美味しいご飯を作ろっか!」

 ほたか先輩はシチューの材料をザックから取り出していく。
 鶏肉は傷んでしまわないように、事前にしっかりと火を通してある。
 あとは野菜を切って煮込んでいくだけだ。

「これ、使って」

 そう言って千景さんが取り出したのは、常温保存できる手のひら大の牛乳のパックだった。
 部室にも持ってきていたので、千景さんのお気に入りかもしれない。
 しかも牛乳パックは一本だけではない。ザックからは次から次へと……なんと十本も出てきた。

「これはシチュー用。これは食後用。……これはおかわり用と明日の分。もしよければ、みんなも」
「千景さん……。本当に牛乳が好きなんですね?」
「うん!」

 千景さんは静かだけど、とてもうれしそうに微笑んだ。


 ほたか先輩は小さなガスボンベの上に何かの器具をつなげている。

「それは何ですか?」
「これはねえ、シングルバーナーって言うの。こうやって金属の板の部分を広げて放射状に固定すると……ほら、ガスコンロになるんだよっ」

 最初は小さく折りたたまれていた金属の器具が、あっという間に立派なコンロに早変わりした。
 先輩はもう一つのコンロもセッティングすると、二台のコンロの周りを風よけの板で覆い、鍋を置く。
 一つはシチュー用の鍋で、もう一つはお米の入った鍋だ。

 ほたか先輩はとても真剣な表情で、お米の入ったお鍋のほうのコンロに火をつけた。
 やっぱりお米を炊くためには火加減がとても大事なのだろう。
 ほたか先輩のいつもは見られない鋭い視線は、なんだかカッコいい。


 ▽ ▽ ▽


「美嶺さん。……遅い」

 千景さんは野菜を煮込む手を止めて、腕時計を見た。
 確かに太陽は沈み、空は濃い藍色に染まっている。
 山に慣れている剱さんのことだから危ない真似はしないと思うけど、さすがにご飯の準備が進んでいるのに戻らないのは不安になった。
 大会を想定した合宿だから、大会の決まりごとに従ってスマホは誰も持ってきていない。

「あの……すみません。剱さんを探してきます……」
「う、うん。……そうだね、お姉さんたちはご飯で手が離せないから、お願いできるかな?」

 私は心配そうなほたか先輩に頭を下げると、登山靴を履いて立ち上がった。



(あぅぅ……。ノートの事とか、あんなに顔真っ赤にしてたから怒ってたと思ってたのに……、実は仲良くしたいと思ってた? ……なのに逃げるなんて、恥ずかしがり屋さんなのかなっ?)

 私は剱さんの行動に翻弄されていた数日のことを思うと、悶々としてくる。
 これは彼女を見つけ出して、今までの行動を問いたださないと気が済まない!

 アスレチックや展望台など、テントの近くを一通り巡ってみたけど彼女は見つからなかったので、もしかすると森の中に隠れているかもしれない。
 私は思い切って森の中に足を踏み入れ、力強く笛を吹いた。
 学校の裏山での経験があるので、念のために握りしめていた笛だ。
 これをピーピー吹き鳴らせば、さすがの剱さんも私に気が付くと思った。

「剱さ~ん、ご飯だから出てくるんだよ~! お願いだから出てきて~」


 ▽ ▽ ▽


「ひぎゃあああぁぁぁぁあぁ……!」

 ヘヘヘ、ヘビがいた!
 私ってヘビに呪われてる?

 あれは森の中を五分ほど歩いてた時のことだ。
 後ろでパキッて音がしたので剱さんかなって振り返ったら……。
 地面からまっすぐにヘビが立ち上がって、こっちをにらんでいた。
 もう、その姿を見た瞬間に頭が真っ白になって……気が付くと全速力で走っていた。

「でっ、でっ、出てきて剱さん! たたた、助けてぇっ!」

 真っ暗な森の中、自分がどこを走ってるのかも分からない。
 月が照らす淡い光を頼りに、必死に走る。
 ……剱さんの、あの頼もしい背中を求めて。

 すると、ふいに足元の感触が消えた。
 ……斜面だ。
 走る勢いのまま、滑ってしまう。

(ま、また落ちるの……?)

 その時、私の手が何者かにつかまれた。


「行くな!」

 頭上から響く女性の声。
 見上げると、森の真上に月明かり。そして、月に照らされる剱さんの姿があった。
 彼女は私の手をつかみ、必死に引っ張り上げようとしてくれている。

「わ、私……、重いよ?」

 すると、剱さんの鍛え上げられた拳は燃え上がるように熱く、そして強く握りしめられた。

「お前の命、オレにも背負わせろよ……」

 それはマンガ『終カル』に出てきたケイジの名台詞……!
 剱さんは月光を背負いながら、力強く微笑む。
 私の胸が、とくんと高鳴った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...