バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第三章「ペンは剱より強し」

第十三話「本当の気持ち」

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「出来た! テントが出来ました!」

 すべてのペグを地面に打ち終わると同時に、テントが無事に完成していた。
 張り綱は剱さんの指導の下、きれいにピンと張られている。
 テントを覆っているフライシートもたるみなく張られ、我ながらいい仕事をやり切った気分になった。
 これだけきれいに張れているのなら、台風が来てもへっちゃらに違いない!

「ペグは四十五度に打ち込む! 覚えたよ!」
「ああ。そうすれば抜けにくいからな。……しかし空木うつぎって、やっぱり手先が器用だな。ペグ打ちは初めてのはずなのに、ハンマーで指を叩かないのは大したもんだよ」
「そうかな。……えへへ。あまり褒めても、何も出ないよぉ~」

 ストレートに褒められることには慣れてないので、なんでもないことのはずなのにニヤニヤしてしまう。
 そう言えば得意分野であるイラストだって、他人に見せることをしないので、褒められたことは数えるほどしかない。


「二人とも、お疲れ様~!」

 ほたか先輩も、荷物をかたずけながら笑顔をくれる。

「テントって、結構簡単に張れるんですね!」
「いや、そうでもないだろ。張り始めてから四〇分はたってる。大会だと一〇分以内だっていうから、結構練習しないと厳しいんじゃないか?」
「今回は初めてだから、仕方がない。……学校で、練習あるのみ」

 千景さんはハンマーを振るようなしぐさをしながら言った。
 なんだか、おもちゃのおさるさんの動きのようで可愛い。
 すると、荷物の整理を終えたほたか先輩が、私たち三人の元にやってきた。

「じゃあ、あと三〇分ぐらいはゆっくりしよっか。千景ちゃんはお姉さんと一緒に来てくれる? 先生と明日の打ち合わせをしよっ!」
「うん、わかった」

 千景さんはうなづくと、ほたか先輩と一緒に管理棟のほうに歩いて行ってしまった。



 しばしの自由時間となったので、私はテントの中に飛び込んでみる。
 黄色いテントなので、中は当然のようにまっ黄色。
 低くて丸い壁に囲まれていると、なんだか秘密基地の中に隠れている気分になって、それだけで楽しくなってくる。

(こういう狭い空間、自分の部屋にも欲しいかも……。イラスト描くのに集中できそう……)

 私は手足を伸ばして、思いっきり大の字になって寝そべってみた。
 すると、入り口のファスナーが開かれ、剱さんが中を覗いてきた。

「入っていいか?」
「当たり前だよ。今日はここがみんなの家なんだもん」
「……そっか」

 剱さんは長い手足を折りたたむようにテントの中に滑り込ませると、私の横にあぐらをかいて座った。

「あのさ。……Tシャツのこと、秘密にしてくれて……ありがとな」
「あぅ……。別に、気にしなくていいよ! オタバレは私も怖いし、お互いに秘密にしようよ」
「いいと思う。……頼む」

 剱さんはそれだけを言うと、黙り込んでしまった。
 そんな剱さんを見つめていると、一つ聞きたいことが出来た。

「……もしかして、まだキャラTシャツを……着てるの?」
「……ああ」
「あまちゃん先生に登山用のインナーを借りたのに、まだ着替えてないの? ……いや、オタクだってバレたくないなら、そもそも着てこなければいいのに!」

 それはもう、当然の疑問だった。
 車での移動中に起こったオタク発覚未遂の事件だって、そもそも剱さんがそんなTシャツを着てこなければ起こらなかったのだ。
 私が正論をぶつけると、剱さんはちらちらと私に視線を送ってくる。

「……わかってるよ。でも、敬意を示したいというか、なんというか……」
「あぅ? 敬意?」

 なんで「敬意」なんて単語が出てくるのか、意味が分からなかった。
 キャラが大きくプリントされたTシャツは、純粋にそのキャラへの愛があふれてしまって着るほかに、映画館やイベント会場でキャラ好きのアピールをしたり、声優さんが歌うライブで「あなたの演じるキャラが推しです」っていうアピールするためだったりと、いろいろなシチュエーションで着こなすことができる。……らしい。
 まあ、島根でそんなイベントはないので、半分以上はネットで得た知識だけど……。

 でも、ここはイベント会場でもないし、声優さんも来ていない。
 ただのキャンプ場だ。

「よくわかんないよぉ……。千景さんに敬意を払うのに、なんでキャラTシャツが関係あるの?」

 私は寝っ転がりながら、そっぽを向いて座っている剱さんを見つめた。
 よく見ると、剱さんはなんか、わなわなと震えている。
 またしても私は失言してしまったのだろうか?

 そう思った瞬間、突然に剱さんは私のほうに体を向けた。

「あのな! 空木うつぎは誤解してる!」

「ご、誤解?」

「アタシが仲良くなりたいのは、伊吹いぶきさんじゃねえ! お前なんだよ!」



 その言葉を浴びて、一瞬で私の頭の中は真っ白になってしまった。
 言葉は確かに聞き取れたけど、理解が追い付かない。

「あぅ……。う? どういうこと?」

 しかし剱さんは顔を真っ赤にして、何も答えない。
 目をそらし、胸を押さえ、呼吸も乱している。

「あ……ぅ……。ちょっと待って。……え?」

 剱さんの動揺が私にも伝染してきたのか、自分の顔が火を噴いたように熱くなってくる。
 まったく思考がまとまらず、私は動けなくなってしまった。



 その時、ほたか先輩ののんびりとした声が近づいてきた。

「ねぇねぇ、先生からカメラを借りてきたの~! せっかくだから、みんなで記念写真を撮ろうよ!」

 言葉が終わると共に開けられる、テントのファスナー。
 外気が流れ込んできたのと同時に、剱さんは一陣の風のようにテントの中から飛び出していった。
 足元を確認すると、靴もなくなっている。

「あ……あれ? 剱さん、どうしちゃったの?」

 ほたか先輩があっけにとられたようにつぶやいているけど、私には答えられない。
 剱さんのことは、私の胸の中だけに収めなければと思った。


 まさか、剱さんのお目当てが千景さんじゃなく、……私だったなんて。
 私は自分がどんな感情になればいいのか分からなくなって、乱れ続ける鼓動を胸に感じていた。
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