バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第三章「ペンは剱より強し」

第十七話「仲間っていいな」

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(あぅぅ……目が覚めちゃった)

 腕時計を見ると、早朝の五時。
 五月一日の朝だ。
 視線の先にあるテントの天井は、少し明るくなっている。
 日の出の時間が近いかもしれない。
 朝の空気は少し冷たく感じられた。

(少し寝不足かな……。みんなと一緒のテントだと思うと、なかなか寝つけなかったし……)

 テントの中で寝るという非日常の空気で興奮していたのもあったけど、昨日はそれ以外にもいろいろありすぎた。
 剱さんに言われたこともビックリしたし、恋バナの話題でみんなのことを意識してしまったこともあって、悶々として寝つけなかった。
 私は二次元の世界しか興味がなかったはずなのに、この変な気持ちは何なのだろう。
 自分自身の気持ちを言語化できないまま、胸がムズかゆくなるのを不思議に思っていた。


(あれ? 千景さんがいない……?)

 隣で寝ていたはずの千景さんの姿が見えない。
 テントの入り口側から順番に、ほたか先輩、千景さん、私、剱さんの順番で寝ていたのだが、入り口のほうを見るとほたか先輩の姿しか見えなくなっている。
 ふと頭を持ち上げて周りを見渡してみると、私の足元のほうで丸まっている寝袋があった。

(千景さん、こんなスミッコに……)

 なぜか千景さんは私の足元のほうに転がっていた。
 寝袋の穴から顔だけを出して、寝息を立てている。
 普段は隠れている右目が見えていて、その無防備な寝顔が可愛かった。


「ん……んん……」

 急に色っぽい吐息が聞こえてきたので入り口側に視線を向けると、ほたか先輩が寝ながら服の中に腕を突っ込み、胸あたりをかいている。
 そして豪快に寝返りをうつと、インナーウェアが胸元まではだけてしまった。

(うわ! ほたか先輩、ブラが見えちゃってますよ!)

 スポーツブラが丸見えになっている。
 寝顔もあまりにセクシーなので、目のやり場に困ってしまった。

(お腹をしまわないと、冷えますよ……)

 私はせめて服を元に戻してあげようと思って、体を動かす。


 すると、背後から突然、長い手足が伸びてきた。
 剱さんだ。
 私は寝袋ごと抱きしめられ、完全に動けなくなってしまう。

「あぅっ……なに……?」

 突然のことに驚いて背中に視線を向けると、剱さんはいびきをかきながら、眉間にしわを寄せて眠っていた。

(あぅぅ~。やっぱり怖いよ、剱さんの寝顔! 寝相ねぞうも悪すぎる! 私は抱き枕じゃないぃ~)

 剱さんに密着されていると、学校の裏山でおんぶされていた時のことを思い出す。
 あの時の剱さんは、本当に頼もしく、やさしかった。


 その時、ふいに剱さんの声がよみがえってきた。

『ましろぉっ!』

 剱さんに下の名前で呼ばれた夢。
 確か夢だったと思うけど、下の名前で呼ばれると胸がムズかゆくなって、少しうれしかった。
 気安く呼び捨てで呼び合える関係は、距離が縮まった感じがして憧れてしまう。


 私は怖い寝顔の剱さんを見つめ続ける。
 いびきに交じって小さな声で呼ぶだけなら、気付かれないかもしれない。
 私はドキドキしながら囁いた。

「み……みれ。……。……美嶺みれい
「んあ?」

 急に剱さんが薄目を開けた。
 私は顔から汗が吹き出し、焦りで体が硬直してしまう。

(き、聞かれちゃった?)

 しかし、剱さんは寝ぼけた目を再びつむり、「ぐぅ……」といびきをかき始めた。
 私は安堵と興奮が混ざり合い、深く深く呼吸を繰り返す。
 剱さんの腕の中で胸を高鳴らせながら、朝日を待つのだった。


 ▽ ▽ ▽


「ふぁぁ……おはよ~っす」
「あ、剱さん。おはよ~。ご飯の準備、できてるよ」

 剱さんは結局、一番最後に起きてきた。
 すでにテントの前にはシートが広げられ、先生を含めた私たち四人は朝ごはんの支度を終わらせている。
 二つに切ったマフィンや、スライスしたトマトときゅうり。そして刻んだレタス。
 数種類のソースの横には、焼きたての厚切りハムがお皿に乗って鎮座していた。

「ハムのハンバーガーだろ? 楽しみにしてたんだよ」
「それだけじゃないよ。私はこんなものも持ってきました~」

 私は自分のザックから缶詰を五つ取り出して、剱さんに見せた。
 それは牛肉の赤ワイン煮の缶詰だ。
 肉好きの剱さんにはハムだけだと物足りないと思ったので、ナイショで持ってきたのだ。

「やっぱりお肉好きはガッツリした物も欲しいと思って」
「すげぇ……。うれしいよ、空木」

 思った通り、剱さんは目を輝かせる。


 すると、ほたか先輩も何かを持ってやってきた。

「え……ましろちゃんもなの?」
「そう言う……ほたかも?」

 なんと、ほたか先輩と千景さんも、それぞれに缶詰を抱えて立っていた。

「美嶺ちゃんが喜ぶと思って、お姉さんも持ってきてたの。豚の角煮缶だよっ」
「ボクは……焼き鳥缶」

 みんな、剱さんの好物だったことを気にかけており、内緒で準備していたようだった。
 剱さんは見るからに顔がにやけており、とてもうれしそうだ。

「なんすか~。嬉しいじゃないすか~」
「あらあら剱さん。嬉しいのは分かったから、全部開けちゃダメよ! さすがに食べきれないわよぉ~」
「う~。そぉっすね……。じゃあ、三種類を一缶ずつで我慢しますよ……」
「あぅ? ひとりで三缶食べるつもり?」
「え、そういうことだろ?」

 剱さんはきょとんとしているが、すでに三つも蓋を開けてしまっているので、私もうなずくことしかできなかった。


 その時、私はふと思い出したことがあって、剱さんに小さな声でたずねた。

「そう言えば、なんで部室で献立を聞いた時、千景さんの真似して『牛乳』って言ったの?」
「そ……それはだな。……空木が伊吹さんと仲いいから、伊吹さんの真似をしたら興味を持ってくれると思って……」

 そう言って、剱さんは顔を真っ赤に染めてしまった。

「ご、ごめん。そんなこと、わざわざ説明させちゃって……」
「べ、別に、いいよ。……空木には、いまさら秘密もなにもないし」

 そんな風に言われ、私も照れくさくなってしまう。
 二人して赤面し、モジモジしてしまうのだった。


 ▽ ▽ ▽


「はぁ~。朝から肉って、最高っすね!」

 結局一缶ずつだと足りなかった剱さんは、三種類の缶詰の二巡目を開けながら言った。
 献立を考えていた時、朝から焼肉はやめておこうと思っていたけど……、剱さんの食べっぷりを見るかぎりは全く問題ないようだった。

「ところで今日って、どこの山に登るんすか?」

 缶詰を持ってお肉を頬張りながら、剱さんは言った。
 ほたか先輩は食後のお茶をマグカップに注ぐと、近くの山を指で示す。

「そこの弥山みせんだよ~。出雲大社のすぐ後ろのお山。頂上からは街が見下ろせて、いい眺めだよっ」
「そういえばここら辺の山って、街からいつも見えてるけど、意外と登ってなかったっす」
「ましろちゃんはどう?」
「その弥山みせんって山どころか、登山自体が初めてと言っていい気もします……」
「そっか~。でも、そんなに高い山じゃないから、安心してね。初心者なら一時間半ぐらいで登れると思うよっ」

 すると、千景さんがほたか先輩を指でつっついてつぶやいた。

「ほたか。……歩く順番は?」
「あ、そうだった! 決めるのを忘れてたよぉ~」
「歩く順番に決まりがあるんですか?」

 山はただ歩けばいいと思っていたので、私は意外だった。
 そんな疑問にも、先輩たちは丁寧に教えてくれる。

「山道は狭いから一列になって歩くんだけどね、役割や体力によって順番を決めるの。大事なのは先頭と最後尾だよ。それに、安全のためにも、みんなの距離を開けないで歩くのも大事なの」
「一般的には、最後尾がリーダー。……全員の様子やルートの様子を見て、判断する役目。先頭はサブリーダー。……歩くスピードの調整とルート選びが、役目」

 千景さんの言葉を受けて、剱さんは感心したようにうなづいた。

「へぇ……。うちの親は適当だったから、勉強になるっす」
「そうだねぇ……。千景ちゃんは先頭、お姉さんは最後尾だとして……。ましろちゃんは初心者だから、歩きやすい前から二番目がおすすめだよ。千景ちゃんの足運びは丁寧だから真似しながら歩けばいいし、二番目だとペースも乱れにくいから、疲れにくいの」
「あ……ありがとうございます。……剱さんは三番目でいいの?」
「アタシは体力あるし、どこでも構わないよ」
「そして、みんなの後ろを先生が見守りながら歩きますよぉ~」

 スムーズに話がまとまったことに満足したのか、あまちゃん先生も嬉しそうに笑った。



(なんか、登山部って感じがしてきた!)

 まだまだ私は体力不足だけど、このメンバーと一緒だからか、不思議と不安はない。
 きっと疲れ果ててしまうと思うけど、全員がそろって頂上に立つ未来はたやすく想像できる。

(仲間がいるって、いいな!)

 私は晴れやかな気持ちで空を見上げる。
 空も、雲一つない青空が広がっている。

 私は元気に気合を入れるのだった。
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