バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
55 / 133
第三章「ペンは剱より強し」

第十八話「縁結びのお山」

しおりを挟む
「あぅぅ……。坂がけっこう、急ですね……」

 暑いし、坂は急だし、ザックは重い。
 目の前は当たり前だけど、ずっと坂道が続いていた。

「歩幅は、なるべく小さく、細かく……。靴全体で、地面を踏んで」

 前を歩いている千景さんが、振り返って教えてくれる。
 私は自分がいつの間にか大股歩きになっていることに気が付き、慌てて歩幅を狭めた。

「そうでした! さっき教えてもらったばかりですもんね」

 千景さんが言うには、坂道を大きな歩幅で歩くと疲れやすいということだった。
 それに、つま先やかかとだけなど、一部分だけで地面を踏むと、靴のグリップが十分に活かせないらしい。靴の裏全体で地面を踏みしめるのが、滑らずに登るコツということだ。
 急な坂道を登り切ったところで、ほたか先輩が最後尾から千景さんを呼び止めた。

「千景ちゃん! そろそろ五〇分は歩いたし、休憩しよっか。……確か、あと二〇メートルぐらい進んだところに広い場所があるから、そこで~」

 千景さんは小さくうなづくと、私を見た。

「大丈夫?」
「あ、はい!」
「……よかった」

 そう言って微笑む千景さん。
 たびたび私の様子を見てくれていて、その気遣いがありがたかった。



 休憩場所は、ちょうど『五合目』と書かれた木の札が地面に刺さっている場所だった。
 全員が道の脇にザックを下ろし、地面に座って足を休める。
 ウェストポーチに入れていたお菓子を食べると、少し元気が戻ってきた気がした。

「さすがに疲れました……」
「ましろちゃん、すごく頑張ってるよ~。大股に歩かず、姿勢もいいし」
「いやいや。千景さんの後をついて行ってるだけです~」
「階段トレーニングの効果も出てきてるんだよ~」

 そう言って、ほたか先輩はザックから小さなポリタンクを取り出した。
 このポリタンクの中には、キャンプ場であらかじめ作っておいたスポーツドリンクが入っている。
 私と剱さんはそれぞれのマグカップにドリンクを注いでもらうと、一気に飲み干した。

「……うまいっすね」
「ね! 今日は暑いし、汗もいっぱい出てるもんね~」
「それにしても、……いつの間にかこんなに高い場所まで登ってたんですね!」

 この五合目の広場は視界が開けていて、木々の間から遠くを見渡すことが出来る。
 建物はミニチュアのように小さくなり、遠くには弓なりに曲がる海岸線が見えた。
 かなり疲れているけど、一歩一歩、確実に進むことが出来ていると実感できて、嬉しくなる。

「見て。三瓶山さんべさんが見える」

 千景さんが指さすほうを目で追うと、霞がかるほどに遠くの地平線に、小高く盛り上がっている山が一つ見えた。

「……三瓶山って、なんでしたっけ?」
「ましろちゃん。……もしかして『自然観察』のテキストを読んでないのかな?」
「あぅ……ぅ……。すみません……」
「三瓶山は、次の県大会があるお山だよ~」
「あ~。あんなところにあるんすね。アタシは登ったこと、ありますよ。……その時はリフトに乗ったから、たいして歩いてないっすけど」
「じゃあ、大会ではたくさん堪能たんのうできるね! 三瓶さんべのお山を歩き回ることになるんだからっ」

 ほたか先輩はそう言いながら、腕時計を確認した。

「そろそろ一〇分たったから、出発しよっか。……お山では移動五〇分、休憩一〇分のサイクルで行動すると、ペース配分もうまくいくんだよ」

 私はほたか先輩にうながされるままに立ち上がる。
 さっきまでよりも体が軽く感じられ、再び歩けそうに感じた。


 ▽ ▽ ▽


 『九合目』のと書かれた木札が設置されていたのは、まるで崖にしか見えないような場所だった。

「あぅぅ……。これ、本当に道なんですか?」

 その問いに、ほたか先輩も千景さんも無言でうなづく。
 学校の階段なんて比較にならない急斜面の岩壁。
 でも、よく見ると人が踏んで丸みを帯びた岩もあり、かろうじて道だと感じられた。

「ほとんど崖ですけど、登るんですね……」
「気を付けながら、一人ずつ登ろっか」
「ましろさん、ボクが踏む場所を……しっかり見てて」

 そう言って、千景さんは足の運び方を教えてくれるように、ゆっくりと登っていく。
 私は自分の命がかかっているので、必死にルートを覚えていった。



 そして、私の順番はすぐに来てしまった。
 千景さんが岩場の上で、静かにうなづいてくれている。

空木うつぎ、大丈夫だ! もし滑ったら、アタシがキャッチするから」
美嶺みれいちゃ~ん……。そんなことしたら、巻き込まれて危ないよぉ。ましろちゃんも、不安にならなくていいよっ。見た目よりも、実際は登りやすいから!」

 ほたか先輩はガッツポーズをみせる。
 道はここしかないみたいだし、もう、覚悟を決めるしかないようだった。

「い……行き……ます」
「ここが最後の正念場だよ! 登り切れば、頂上はすぐそこだから!」
「そうですね! とにかく行く。行くぞ~っ!」

 私は一歩を踏み出した。



 ……踏み出したはよかったけど、私の足はすぐに止まってしまった。

(ひぃぃ……。やっぱり怖いですよぉ……)

 足を前に出すたびに、剱さんとほたか先輩が下方に遠ざかっていく。
 岩の斜面はやっぱり急で、いつ滑ってしまうか不安になってくる。
 私は怖くて、進めなくなってしまった。
 学校では二階から飛び降りたり、山の中を全力疾走できたのに、なんで今はこんなに怖いんだろう。
 必死にその時の勇気を思い出そうとして考えていくうちに、気が付いてしまった。

(……そうだ。いつも無茶するとき、頭に血が上ってたんだ)

 私の緊張癖がピークを迎えた瞬間、頭の中が真っ白になって、自分でも訳の分からない行動をしていた。
 今はそこそこ冷静さがあるせいで、怖さに勝てないのかもしれない。
 ……それが分かったところで、足が前に進むわけではないのだけど……。

 その時、千景さんが意外にも大きな声で呼びかけてくれた。

「ましろさんの靴は……自信を持ってお売りしたもの。グリップの強さを、信じて!」
「は……はい!」

 千景さんの言葉が、私の恐怖を消し去ってくれた。
 ……いつも小さな声しか出さない千景さんが、……銀色のウィッグをつけていないのに、こんなにも大きな声で励ましてくれたのだ。
 勇気が出ないはずがなかった。
 あの知識豊富な千景さんが言うのだから、絶対だ。
 私は靴の裏をしっかりと地面に押し付け、体を押し上げる。
 そしてついに、私は一人で岩場を登り切ったのだった。


 ▽ ▽ ▽


「あらあら~。すぐ下に出雲大社いずもたいしゃが見えるわよぉ~!」

 頂上にたどり着いた私たちは、あまちゃん先生が指し示す先を視線で追う。
 ひときわ大きくて目立つ四角い建物は歴史博物館。その向こうに見えるうっそうと茂った木々のある場所が出雲大社だ。
 お正月に初詣に行ったことのある場所が見えると、なんだか嬉しくなった。


 剱さんはというと、頂上に立っている大きな木を興味深そうに見つめている。

「へえ。御神木か……」

 しみじみとつぶやいているので、私も気になって近寄った。
 木の枝には一枚の板がぶら下がっている。

 板に書かれた文字には『この木なんの木「エノキ(榎)」』と見出しが書かれ、その下に説明文が書かれていた。
 文末には『エノキは「縁の木」とし御神木ともする』とある。

「ほんとだ。御神木なんだね。ごえんのある木だって!」
「確か、出雲大社も『縁結えんむすびの神様』だったよな。……このあたりって『縁結び』にゆかりがあるのかな」

 すると、突然背後から、鼻をすする音がした。
 びっくりして振り返ると、なぜかほたか先輩が涙ぐんでいる。

「あぅ……。どうしたんですかっ?」
「な……なんでもないの。……二人を見てたら、お姉さん、急に嬉しくなっちゃって」

 そう言って、ほたか先輩は涙をぬぐう。

「……本当に廃部寸前だったからかな。二人が入ってくれて、こんな風にお山の上に立ってるのを見るだけで、グッと来ちゃったっ」

 すると、あまちゃん先生が、涙ぐんでいる先輩の後ろから寄り添うように肩に手を置いた。

「きっと縁結びのご利益があったのよぉ~」

 そう言って微笑んでいるので、先輩を元気づけようとしてくれているのかもしれない。
 先生と先輩の様子を見ていると、私が入部する前にも色々あったことが想像できた。

「先生はお腹が減っちゃったわぁ~。確かお昼ごはんはアンパンよね?」

 すると、千景さんも、いつもの小さな牛乳パックを五本抱えてやってきた。

「牛乳も……ある。アンパンに牛乳は……最高。ふふ」

 そう言って、千景さんはとても満足そうに笑った。

「そういえば出雲のアンパンは出雲大社にルーツがあるのを知ってたかしらぁ?」

 唐突に、あまちゃん先生は授業中のようなしゃべり方をし始めた。

「ルーツって何すか、先生?」
「昔から餡子餅あんこもちを大社にお供えする風習があって、その影響もあって出雲では法事でも餡子餅を用意する習慣ができたの。……でも、法事のたびにお餅を作るのは大変でしょう? だからパンが日本に根付いた頃から、お餅の代わりにパンを使ったアンパンが親しまれるようになったらしいのよぉ~」

 そう言えば、私の家によく置いてあったアンパンも、袋になぜかハスの葉が描かれていた。
 特に気にしていなかったけど、あれも、おばあちゃんの家からもらっていた法事のパンだったのかもしれない。

「そっか。じゃあこのアンパンは縁結びの神様へのお供え物ですね!」
「そう! まさに先生が言いたかったのはそのことよ! だから、みんなで仲良く食べましょうね~」

 そう言って、先生は我先にと袋を開けて、アンパンにかぶりつくのだった。



「……よかった」

 私がパンの袋を開けようとしていると、千景さんが横で微笑んだ。

「あぅ? どうしたんですか?」
「最初はお山に興味がないって、ましろさんは言ってたので。……無理に連れてきたと思うと、申し訳なかった。……でも、なんだか楽しそう」
「……いやぁ~。実際に登ると、やっぱり疲れました。……でも、頂上ってなんか不思議ですね。景色を見てるだけで、楽しいなって思ってきます!」
「……本当に、よかった」

 そう言って、千景さんはしみじみと微笑んでくれる。
 山道でも私をよく振り返ってくれていたので、私が山を楽しめているのか心配だったのかもしれない。
 そうやって気をかけてくれることが、何よりもうれしい。

(もっともっと、縁結びのご利益があるといいな)

 私はそう思いながら頂上の縁の木エノキを見つめ、アンパンを口いっぱいに頬張った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...