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第一章「ぶかつ狂騒曲」
第二話「ようこそ八重垣高校 女子登山部へ!」
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例えば部活に入れば、親密な付き合いもあるだろうし、友達ぐらい作れるかもしれない。
でも私は、部活に入りたくなかった。
中学校の頃に、水泳部に入ってしょんぼりしたからだ。
水泳部に入ったのも、情熱があったわけじゃない。
なんとなく小学校から続いていたスイミングスクールの延長線で入っただけ。
そして、途中で辞めてしまった。
別にいじめられてたとかじゃないけど、リレーメンバーに選ばれずに悔しい思いをしたり、仲間同士で競い合う毎日に疲れ果ててしまったのだ。
私はいつの間にかフェードアウトし、そのままオタク趣味にどっぷりつかってインドア派になった。
なんだか競争全般が苦手になってしまったので、それ以来、部活というものへの興味を失ってしまった。
それなのに、入った高校がまさか『部活必須』だなんて、思わなかった。
唯一の友達だった小桃ちゃんは料理コンクールに力を入れてる『家庭部』に入っちゃうし、クラスの人たちもみんなどこかに所属してしまったらしい。
私は何とか逃げ切りたくて、のらりくらりと担任の先生から逃げていた。
一週間、そして二週間と逃げ続けた。
すると、だんだん先生の追求が激しくなる。
さすがにしびれを切らしたのか、「女子登山部の見学に行くのよぉ~」と強く勧めてきた。
女子……『登山部』?
中学校では聞いたことがない。
それに、なんでわざわざ登山部を指名するんだろう?
先生はその部活の顧問なんだろうか。
そんなわけで、仕方なく放課後の女子登山部を訪れたのだけど……。
私の第一声は、自分でも予想外の言葉だった。
「お尻!」
部室の扉を開けた瞬間、フリフリとスカートを揺らしているお尻に驚いてしまった。
女の子が四つん這いになってお尻を振っていたのだ。
どうやら床に大きな黄色いシートを広げて何か作業をしているようだ。
部室の中はひとりきりのようなので、無防備になっていたのかもしれない。
「あっ……。いらっしゃ~いっ」
目の前にかがんでいる女の子は、慌てて立ち上がる。
その顔が見えた時、私は「あっ」と声を上げた。
今日、ベランダにロープを伝って降りてきた女の子。
八重垣高校の二年生で、惚れてしまいそうなほどの美少女・梓川ほたか先輩だった。
立ち上がる動作に、とても長いツインテールが軽やかに揺れる。
私の髪の毛は肩ぐらいまでしかない癖っ毛なので、きれいな長い髪はうらやましい。
そう言えば、スカート越しに見えたお尻や腰の形もうらやましくなるぐらいに整っていた。
「梓川……ほたか先輩?」
「あれ? お姉さんのことを知ってるの?」
「それはもう……一年生の間では有名です! 学園一の美少女だって……」
「え……えっと……。び、美少女なんかじゃないよぉ……」
そう言って、困り顔で頬を赤らめる。
ほたか先輩は自分の可愛さをまったく鼻にかけておらず、むしろ無自覚なようだ。
伏せがちの目元が可愛くて、それを見た私は内心で小躍りしてしまう。
「空木ましろちゃん……だよねっ。ずっと部活に入らなかったから気になってたけど、うちの部を選んでくれて嬉しいな」
「いや……まだ、入ると決めたわけでは……」
反射的にそう答えたけど、「ずっと気になってた」という言葉に引っかかり、ほたか先輩の目をまじまじと見る。
「……っというか。私のこと、知ってたんですか?」
「うん。うちの学校は部活が必須だから、入らない子って目立つんだよ~。一年生の担任をしてる天城先生に聞いたら、ましろちゃんのことを教えてくれたの」
天城先生とは、私のクラス担任の先生だ。
まさか憧れの先輩が、先生に聞いてまで私を知ろうとしてくれてたなんて、思いもよらなかった。
「あぅぅ……。私なんて注目に値しないモブキャラみたいな奴なんで。その辺に生えてる道端の草みたいに思っていただければ十分ですよぉ……」
私が自嘲気味に話していると、急にほたか先輩が手を握りしめてくれた。
「草って、いいと思うよ」
先輩の瞳と手はとても温かで、優しさに満ちている。
その眼に魅入られて息をのんでいると、ほたか先輩はゆっくりと話してくれた。
「……道端の草はお山の土を崩れないように支えてくれる、とっても大事な物なんだよ。モブキャラっていう言葉はなんのことか分かんないけど、植物は大事ってお姉さんは思ってるの。だから、ましろちゃんも自分のことを注目に値しないとか、悪いようには言ってほしくないな……」
先輩の声は、陰気な私を癒してくれるようだった。
とても素敵な言葉に、胸がどきどきしてくる。
「あ……ありがとう、ございます……」
ヤバイ。
私に百合の趣味はないはずなのに、惚れてしまいそうだ。
ほたか先輩の目をまともに見れなくなって、私は床に視線を落とした。
そこには黄色と銀色の大きなシートが広がっている。
いくつかの金属の棒も置かれていた。
「あ……あのっ! これは何をされてるところだったんですか?」
「これはね、テントを張ろうと思ってたの~」
ほたか先輩は思い出したようにしゃがみ込むと、再び作業を始めた。
シートにくっついてるいくつもの輪の中に、金属の棒を差し込んでいく。
あっという間に、部室の中央に大きな黄色い建物が姿を現していた。
テントというと三角屋根のものを想像していたが、これはお饅頭のようなまん丸のドーム型だ。金属の棒は弓状にしなって柱のようになっていた。
「あぅ……っ! テ、テント? 部室の中で?」
「えへへ……。登山部のことを体験してもらおうと思ったんだけど、初心者にいきなり山登りはハードルが高いでしょ? だから、気分だけでも味わえるように、テントの中でお話しようと思って!」
「テントは楽しそうですけど……。部室がパンパンですよ……」
テントはかなり大きくて、四畳半はありそうな部室の中を完全に占領してしまっている。
私は目を丸くして驚いているけど、ほたか先輩は無邪気に笑う。
「なんか、秘密基地みたいでワクワクしない? お姉さんはワクワクするの~」
そして、先輩は急に私の手を握り、引っ張る。
テントの中に連れ込もうとしているに違いない。
「ようこそ八重垣高校 女子登山部へ!」
その笑顔を見ていると、あらがうことはできなかった。
でも私は、部活に入りたくなかった。
中学校の頃に、水泳部に入ってしょんぼりしたからだ。
水泳部に入ったのも、情熱があったわけじゃない。
なんとなく小学校から続いていたスイミングスクールの延長線で入っただけ。
そして、途中で辞めてしまった。
別にいじめられてたとかじゃないけど、リレーメンバーに選ばれずに悔しい思いをしたり、仲間同士で競い合う毎日に疲れ果ててしまったのだ。
私はいつの間にかフェードアウトし、そのままオタク趣味にどっぷりつかってインドア派になった。
なんだか競争全般が苦手になってしまったので、それ以来、部活というものへの興味を失ってしまった。
それなのに、入った高校がまさか『部活必須』だなんて、思わなかった。
唯一の友達だった小桃ちゃんは料理コンクールに力を入れてる『家庭部』に入っちゃうし、クラスの人たちもみんなどこかに所属してしまったらしい。
私は何とか逃げ切りたくて、のらりくらりと担任の先生から逃げていた。
一週間、そして二週間と逃げ続けた。
すると、だんだん先生の追求が激しくなる。
さすがにしびれを切らしたのか、「女子登山部の見学に行くのよぉ~」と強く勧めてきた。
女子……『登山部』?
中学校では聞いたことがない。
それに、なんでわざわざ登山部を指名するんだろう?
先生はその部活の顧問なんだろうか。
そんなわけで、仕方なく放課後の女子登山部を訪れたのだけど……。
私の第一声は、自分でも予想外の言葉だった。
「お尻!」
部室の扉を開けた瞬間、フリフリとスカートを揺らしているお尻に驚いてしまった。
女の子が四つん這いになってお尻を振っていたのだ。
どうやら床に大きな黄色いシートを広げて何か作業をしているようだ。
部室の中はひとりきりのようなので、無防備になっていたのかもしれない。
「あっ……。いらっしゃ~いっ」
目の前にかがんでいる女の子は、慌てて立ち上がる。
その顔が見えた時、私は「あっ」と声を上げた。
今日、ベランダにロープを伝って降りてきた女の子。
八重垣高校の二年生で、惚れてしまいそうなほどの美少女・梓川ほたか先輩だった。
立ち上がる動作に、とても長いツインテールが軽やかに揺れる。
私の髪の毛は肩ぐらいまでしかない癖っ毛なので、きれいな長い髪はうらやましい。
そう言えば、スカート越しに見えたお尻や腰の形もうらやましくなるぐらいに整っていた。
「梓川……ほたか先輩?」
「あれ? お姉さんのことを知ってるの?」
「それはもう……一年生の間では有名です! 学園一の美少女だって……」
「え……えっと……。び、美少女なんかじゃないよぉ……」
そう言って、困り顔で頬を赤らめる。
ほたか先輩は自分の可愛さをまったく鼻にかけておらず、むしろ無自覚なようだ。
伏せがちの目元が可愛くて、それを見た私は内心で小躍りしてしまう。
「空木ましろちゃん……だよねっ。ずっと部活に入らなかったから気になってたけど、うちの部を選んでくれて嬉しいな」
「いや……まだ、入ると決めたわけでは……」
反射的にそう答えたけど、「ずっと気になってた」という言葉に引っかかり、ほたか先輩の目をまじまじと見る。
「……っというか。私のこと、知ってたんですか?」
「うん。うちの学校は部活が必須だから、入らない子って目立つんだよ~。一年生の担任をしてる天城先生に聞いたら、ましろちゃんのことを教えてくれたの」
天城先生とは、私のクラス担任の先生だ。
まさか憧れの先輩が、先生に聞いてまで私を知ろうとしてくれてたなんて、思いもよらなかった。
「あぅぅ……。私なんて注目に値しないモブキャラみたいな奴なんで。その辺に生えてる道端の草みたいに思っていただければ十分ですよぉ……」
私が自嘲気味に話していると、急にほたか先輩が手を握りしめてくれた。
「草って、いいと思うよ」
先輩の瞳と手はとても温かで、優しさに満ちている。
その眼に魅入られて息をのんでいると、ほたか先輩はゆっくりと話してくれた。
「……道端の草はお山の土を崩れないように支えてくれる、とっても大事な物なんだよ。モブキャラっていう言葉はなんのことか分かんないけど、植物は大事ってお姉さんは思ってるの。だから、ましろちゃんも自分のことを注目に値しないとか、悪いようには言ってほしくないな……」
先輩の声は、陰気な私を癒してくれるようだった。
とても素敵な言葉に、胸がどきどきしてくる。
「あ……ありがとう、ございます……」
ヤバイ。
私に百合の趣味はないはずなのに、惚れてしまいそうだ。
ほたか先輩の目をまともに見れなくなって、私は床に視線を落とした。
そこには黄色と銀色の大きなシートが広がっている。
いくつかの金属の棒も置かれていた。
「あ……あのっ! これは何をされてるところだったんですか?」
「これはね、テントを張ろうと思ってたの~」
ほたか先輩は思い出したようにしゃがみ込むと、再び作業を始めた。
シートにくっついてるいくつもの輪の中に、金属の棒を差し込んでいく。
あっという間に、部室の中央に大きな黄色い建物が姿を現していた。
テントというと三角屋根のものを想像していたが、これはお饅頭のようなまん丸のドーム型だ。金属の棒は弓状にしなって柱のようになっていた。
「あぅ……っ! テ、テント? 部室の中で?」
「えへへ……。登山部のことを体験してもらおうと思ったんだけど、初心者にいきなり山登りはハードルが高いでしょ? だから、気分だけでも味わえるように、テントの中でお話しようと思って!」
「テントは楽しそうですけど……。部室がパンパンですよ……」
テントはかなり大きくて、四畳半はありそうな部室の中を完全に占領してしまっている。
私は目を丸くして驚いているけど、ほたか先輩は無邪気に笑う。
「なんか、秘密基地みたいでワクワクしない? お姉さんはワクワクするの~」
そして、先輩は急に私の手を握り、引っ張る。
テントの中に連れ込もうとしているに違いない。
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その笑顔を見ていると、あらがうことはできなかった。
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