バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
69 / 133
第四章「陽を見あげる向日葵のように」

第十二話「幼馴染のお姉さん」

しおりを挟む
 ほたか先輩との勉強会から数日後。
 先輩のためもあって山の勉強に本気になっていた私は、下校後も勉強をしようと思って図書館に向かっていた。
 山をキャラだと思えば、意外と面白いように知識が頭に入ってくる。
 先輩が貸してくれた本が私好みの解説本だったせいもあり、続きが気になって図書館で探そうと思っていたのだ。


 しかし結論から言うと、この日は図書館に行くことができなかった。
 図書館がすぐ目の前だというその時、バスから慌てるように降りた女の人がたくさんの荷物を歩道にばらまいてしまったからだ。

「あの、大丈夫ですか?」

 目の前のアクシデントを見て見ぬふりなんてできず、私は慌てて駆け寄る。
 女の人は大学生ぐらいだろうか。
 私よりも年上の雰囲気で、パンツスタイルの長い脚がかっこいい。
 赤みがかったポニーテールの髪を揺らしながら、地面に散らばった荷物を拾い集めていた。

「拾うの、手伝います!」

 そう言って最初に拾ったのはオタバッグだった。
 オタバッグとは、自分の好きな作品の推しキャラのグッズなどを大量にデコレーションした鞄のことだ。『痛バッグ』とも呼ばれ、オタクではない一般人に見られると辛い気持ちになるのは言うまでもない。

「ぎゃ! 恥ずかしいから見ないでーっ!」

 持ち主の女の人も辛い気持ちになったのか、叫びながらオタバッグを抱きしめるように隠してしまった。
 その時はじめてお互いの顔を見合わせたのだが、あまりにも意外な再会で驚くことになった。

「あれ? ましろっち?」
陽彩ひいろさんだ! 久しぶり!」

 彼女の名前は『ひじり 陽彩ひいろ』さんといって、私の家の隣に住んでいた幼馴染のお姉さんだ。
 陽彩さんはこの春から大学の近くに引っ越してしまったので、二か月以上は会っていなかったと思う。
 理系が得意な秀才で、今年から東京の有名な情報系大学に行っているはず。
 確か、ゲーム開発のプログラマーが夢だと言っていた。

「東京に引っ越したんじゃなかったの?」
「実家の用事で帰ってきたんだよ~。週末までは出雲にいる予定なんだー」

 そう言って、陽彩さんは歯を見せてニシシと笑った。


 △ ▲ △ ▲ △


 歩道に散らばった荷物を拾い集めたあと、私は陽彩さんの多すぎる荷物を分担して持ちながら家に帰ることにした。

「荷物もってくれて、ありがとね!」
「いいんだよ~。陽彩さんの家はお隣だし、すっごく大荷物だもんね。……それより、ゴールデンウィーク過ぎてからの帰省って珍しいね」
「亡くなったおじいちゃんの法事があるんだよー。何も律義に命日に合わせず、土日にやってくれればいいのにさ~」
「あはは……。大変だね……」

 法事と聞くと、あまちゃん先生に由来を教えてもらった法事パンのことを思い出す。
 陽彩さんの家も法事のお返しはアンパンなのかな。
 そんなことをぼんやり考えていると、陽彩さんが私の着ている制服をじっと見つめはじめた。

「ところでその制服、八重校でしょ? 入試、結構大変だったでしょー?」

 入試のことを思い出すとトラウマがよみがえってくる。
 あまりの緊張で頭の中が真っ白になり、ケアレスミスが積み重なって散々な結果だった。
 補欠入学とは言え、合格できたのが嘘のようでもある。

「あぅぅ……。思い出したくない……」
「あははっ。ましろっちの『あぅぅ』、可愛いなあ~。でもまさか私の母校に入学するとはね~」
「陽彩さんも八重校だったの? うちの卒業生だったなんて、知らなかったよー!」
「ましろっちは三歳も離れてるし、私たちって二次元の話しかしてなかった気がするもんね」

 そう言って、陽彩さんはニシシと笑った。

 陽彩さんは生粋のオタクだ。
 その道の師匠とも言っていい。
 陽彩さんのゲーム趣味の影響で色々な作品に出合い、私は立派なオタクになってしまった。
 今となってはイラストとプログラマーで道が分かれてしまったけど、作品を愛する気持ちはオタバッグを見る限り何も変わっていなくて安心できた。

「ところで、ましろっちは部活どう? 八重校って部活必須だし、大変でしょー?」

 陽彩さんは私の部活嫌いを知っているので、心配そうに聞いてくれる。
 でも今の私はとても満ち足りた気分なので、満面の笑顔で答えた。

「楽しいですよ~。すごく素敵な先輩や仲間に囲まれて、充実してます!」
「そっか、よかったよー! ましろっちって、人と競争するのがすごく嫌いだったでしょ? ましろっちが楽しめるんなら、いい仲間に恵まれたんだねー」
「えへへ」

 いい仲間と言われると、素直に嬉しくなってくる。
 すると、陽彩さんは急に切なげな表情になって、遠い空を見つめ始めた。

「……私はうまくやれてなかったから、後輩に申し訳なかったな」
「どういうこと?」
「普通は毎年のように部員が入るもんでしょ? でも私の一コ下の学年は誰も入らなかったから、私が引退する時には当時の一年生に次期部長を押し付けることになっちゃったんだ。勧誘がうまくいかなかったこと、いまだに後悔してるよ……」

 陽彩さんはプログラマー志望だから、高校でもそれ系の部活に入っていたのだろうか。
 部員が少ない部活というと登山部も同じだけど、やっぱり部活によっては部員の確保も大変なのかもしれない。
 ほたか先輩も勧誘に必死だったし、来年は自分の苦労なのかと思うと、不安になった。

「ていうか、次期部長を押し付けるってことは、陽彩さんって部長だったの? じゃあ、部員もオタク教育されて大変だったかも~」
「ひどいなぁ、ましろっち。私がオタク教育したのはましろっちだけ! さすがに学校ではそんなことしないって。これでも『憧れのお姉さまキャラ』で通ってたんだよー」

 そう言って、陽彩さんは自慢げに胸を叩いた。

「え~? 陽彩さんが憧れのお姉さま? それはないよ~」
「コイツ! そんなこと言う口はコレか?」
「あぅぅ。ごめんなひゃい~」

 私がからかったものだから、陽彩さんは笑いながら私の頬っぺたをつねった。
 こんなやり取りも久しぶりだ。
 陽彩さんが部長をやっている部活も、さぞや賑やかで楽しかっただろうなと思った。

「でも、確かに一年生なのに部長をお願いされると、プレッシャーはすごそう……」
「そうなんだよ……。卒業するから任せるしかなかったけど、元々うちの部に入りたくて入った子じゃなかったから心配だなぁ……」
「どういうことなの?」
「部活自体に入るのを最後まで嫌がったせいで、強制的に担任の先生が顧問をしてる部に入れられちゃったんだよ。それが私の部」

 その話を聞いて、猛烈な既視感デジャヴに襲われた。

(なんか、私みたいな人だなぁ……)

 私も入部自体を嫌がり続けて逃げていたわけなので、そっくりだった。
 その人は最後まで逃げ切ったわけだし、私よりも凄いかもしれない。

「まあ、活動内容自体には昔から興味を持ってたみたいだから、すんなり馴染んでくれたんだけどね……」

 そう言って、陽彩さんはまた遠い空を見つめ始めた。


 その時だった。
 背後から自転車のブレーキ音が響いたと思ったとき、なじみのあるのんびりした声が呼びかけてきた。

「あ、ましろちゃ~ん。こんなところで会うなんて偶然だね!」

 振り返ると、自転車に乗ったほたか先輩がいた。
 さっきまで部活で一緒だったけど、下校後に会うのも新鮮な気分になる。

「ほたか先輩はこっちに用事ですか?」
「うん。スーパーに買い物に行くとこなの! ママは料理で手を離せないんだけど、足りないものがあったって言ってて」

 そう言って、ほたか先輩は微笑んだ。
 すると、急に陽彩さんがほたか先輩に抱き着いてしまった。

「ほたかちゃん! 久しぶり!」
「え……陽彩先輩? 東京に行ったんじゃ……」

 ほたか先輩も陽彩さんのことを知っているようだ。
 陽彩さんはしばらくの間ほたか先輩をぎゅっと抱きしめた後、ほたか先輩の肩や背中をさすり始める。

「お、なんかちょっと見ないうちに体がさらに仕上がってる? あんまり無理して鍛えちゃダメだよー?」
「そうですね……。千景ちゃんにも注意されちゃってます」
「千景ちゃんは元気?」
「はい! 千景ちゃんにはいつも助けてもらってます」
「そっかそっか。ほたかちゃんと一緒なら心配ないね」

 陽彩さんはほたか先輩と親しそうに話している。
 そのやり取りを、私は少し離れた場所からじっと見つめ続けていた。

 陽彩さんは、まるでほたか先輩とずっと一緒だったような雰囲気を感じる。
 それに千景さんの実家のお店についても知っているようだ。
 この状況を見れば、おのずと一つの答えが浮かび上がってくるようだった。

「……もしかして陽彩さんって、登山部の元部長?」
「あれ、よくわかったね~。どっかにヒントでも出してたっけ?」
「え? えええ~~っ?」
「それにしてもビックリだよ~。ましろちゃんが陽彩さんと知り合いだったなんて!」

 陽彩さんとほたか先輩は屈託なく笑っている。
 きっと陽彩さんは気が付いていないのだ。
 ほたか先輩の赤裸々な過去を、登山部の後輩にペラペラとしゃべってしまった事実を。
 
 ほたか先輩も私と同じように部活から逃げていたらしい。
 今の先輩のことを思うと、それが意外で仕方がない。
 私はあんぐりと口を開けながら、隣り合って立っている二人のお姉さんを見つめ続けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...