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第四章「陽を見あげる向日葵のように」
第二十四話「受け継がれる想い」
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私と陽彩さんが話していると、ほたか先輩がゆっくりと歩み寄ってきた。
ほたか先輩は心なしか緊張しているようにも見える。
「陽彩先輩……。わたし、うまくやれてるでしょうか? ちゃんと受け継げているでしょうか?」
ほたか先輩が自分のことを「わたし」と呼ぶのを初めて耳にした。
陽彩さんの前では「お姉さん」ではなく「一人の後輩」に戻るのかもしれない。
そんなほたか先輩の緊張をほぐすように、陽彩さんは笑いながら先輩の肩に手を置いた。
「あったり前だよ! テントを守る判断も冷静でよかった。私が心配してるわけないじゃん!」
その言葉が胸にしみたのか、ほたか先輩の緊張は消え、表情がほころぶ。
「わたし、先輩から受け継いだ部を、しっかり守りますね!」
「そんなに気負わなくても大丈夫だよー。自然体、自然体!」
「いえ! がんばりますっ!」
そしてほたか先輩は私たちを振り返り、こぶしを思いっきり空に突き上げた。
「みんな! これからもよろしくね!」
「もちろんです!」
私たちも三人で答える。
先輩の笑顔は晴れやかで清々しい。
陽彩さんも優しそうに微笑んでいた。
△ ▲ △ ▲ △
「四人に渡したいものがあるんだ」
荷物を部室まで運んだあと、陽彩さんがおもむろに自分の腰につけていたウェストポーチを開ける。
その中からは透明なビニール袋で包まれた色とりどりの布のような物が出てきた。
私たちはとっさに泥だらけの軍手を取り、濡れたタオルで手をきれいにふき取る。
そしてそれぞれに手渡された袋を開け、中の布を広げた。
「これは……私たちのユニフォームと同じ色の……スカーフ?」
「ガールスカウトみたいで可愛いと思ってね。弥山の頂上での写真を見て、それぞれの色に合わせた何かをプレゼントしたいって思ったんだよー」
突然のプレゼントに驚きながら、私たちは雨カッパの首元を開け、いそいそとスカーフを首に巻く。
袋に入っていたスカーフ留めに布の末端を通し、それぞれに見せあった。
「可愛い!」
思わず言葉が漏れてしまった。
チェック模様の入ったシンプルなデザインのスカーフは、首元に花が咲いたように見える。
三人はそれぞれに照れ笑いを浮かべている。
私の顔もきっと、同じように照れているはずだ。
「陽彩さん。どう? 似合ってる?」
私は胸を突き出し、陽彩さんにスカーフを見てもらった。
「うん、よく似合ってる! それぞれの個性が出てて、すごくいいよ。ましろっちは相変わらず赤が好きなんだなって思うし、剱さんは青が似合っててカッコいい!」
「美嶺、かっこいいってー」
「いや……。そんなこと言われると、照れるっす」
美嶺は頬を染め、頭をかいて「へへへ」と笑った。
「千景ちゃんは……紫にしたんだね。去年は悩んでたのか、よく変えてたけど。……うん。その色は千景ちゃんの強さを感じられて、似合ってると思う。千景ちゃんのひたむきな努力には、いつも助けられてたんだよ」
陽彩さんに言われると、千景さんは微笑みながらうなづいた。
「ありがとうございます……。それに、黒っぽい色は……ましろさんが、似合うと言ってくれたので」
「ましろっちの影響か~! なに? 千景ちゃんまで口説いちゃったの?」
「あぅぅ! 節操なしみたいに言わないでよぉ」
私がほっぺを膨らまして抗議すると、陽彩さんはニシシと笑った。
そして最後に、ほたか先輩に向き直る。
「……ほたかちゃんはやっぱり黄色だね。うん。太陽みたいなほたかちゃんっぽさが出てて、私は昔から好きだったよ」
「え……。太陽みたい、ですか?」
「そうだよ。私なんて一コ下の学年の勧誘に失敗しちゃったから、すごく悩んでたんだ。でも、ほたかちゃんの優しさと笑顔に救われてた。ほたかちゃんは本当に太陽みたいで、ずっと元気づけられてたんだよ。ほたかちゃんと千景ちゃん……私はいい仲間を持って幸せだった」
その言葉を受けたほたか先輩は静かに震え、涙を我慢しているように見える。
その気持ちはとてもよく分かった。
憧れていた人から「実は救われてたんだ」って言われることのうれしさは、何物にも代えがたい。
自分は太陽なんかじゃないって思い込んでいた先輩。
その呪縛から解き放たれたのなら、これほどうれしいことはなかった。
「じゃ、私は行くよ」
満足そうな笑顔を見せた後、陽彩さんは私たちに背中を見せる。
ただのオタクのお姉さんとしか思っていなかった女性の背中は、いつの間にか大きなものに感じられていた。
「引退した者は消え去るのみ。……みんな、元気でね!」
そう言って、陽彩さんは颯爽と去っていく。
その大きな背中は、すでに大切な物を私たちに残してくれていたのだと分かった。
太陽のような笑顔はほたか先輩と千景さんに受け継がれている。
それはもう美嶺と私の中でも芽生えており、これからもきっと、その先の世代に渡っていくのだ。
ほたか先輩を見ると、清々しく笑っている。
不器用で怖がりだけど、誰よりも優しくてあったかい。
そして私のことを「大好き」でいてくれる。
私は先輩の想いに答えを出すことが出来るだろうか。
でも、少なくとも、自分を『道端の草』のようだなんて思い込む必要はなくなっていた。
――そんな凄い人に大切に思ってもらえるのだから。
自分に自信を持とう。
そして、頑張ろう。
大好きなみんなのために――。
第四章「陽を見あげる向日葵のように」 完
ほたか先輩は心なしか緊張しているようにも見える。
「陽彩先輩……。わたし、うまくやれてるでしょうか? ちゃんと受け継げているでしょうか?」
ほたか先輩が自分のことを「わたし」と呼ぶのを初めて耳にした。
陽彩さんの前では「お姉さん」ではなく「一人の後輩」に戻るのかもしれない。
そんなほたか先輩の緊張をほぐすように、陽彩さんは笑いながら先輩の肩に手を置いた。
「あったり前だよ! テントを守る判断も冷静でよかった。私が心配してるわけないじゃん!」
その言葉が胸にしみたのか、ほたか先輩の緊張は消え、表情がほころぶ。
「わたし、先輩から受け継いだ部を、しっかり守りますね!」
「そんなに気負わなくても大丈夫だよー。自然体、自然体!」
「いえ! がんばりますっ!」
そしてほたか先輩は私たちを振り返り、こぶしを思いっきり空に突き上げた。
「みんな! これからもよろしくね!」
「もちろんです!」
私たちも三人で答える。
先輩の笑顔は晴れやかで清々しい。
陽彩さんも優しそうに微笑んでいた。
△ ▲ △ ▲ △
「四人に渡したいものがあるんだ」
荷物を部室まで運んだあと、陽彩さんがおもむろに自分の腰につけていたウェストポーチを開ける。
その中からは透明なビニール袋で包まれた色とりどりの布のような物が出てきた。
私たちはとっさに泥だらけの軍手を取り、濡れたタオルで手をきれいにふき取る。
そしてそれぞれに手渡された袋を開け、中の布を広げた。
「これは……私たちのユニフォームと同じ色の……スカーフ?」
「ガールスカウトみたいで可愛いと思ってね。弥山の頂上での写真を見て、それぞれの色に合わせた何かをプレゼントしたいって思ったんだよー」
突然のプレゼントに驚きながら、私たちは雨カッパの首元を開け、いそいそとスカーフを首に巻く。
袋に入っていたスカーフ留めに布の末端を通し、それぞれに見せあった。
「可愛い!」
思わず言葉が漏れてしまった。
チェック模様の入ったシンプルなデザインのスカーフは、首元に花が咲いたように見える。
三人はそれぞれに照れ笑いを浮かべている。
私の顔もきっと、同じように照れているはずだ。
「陽彩さん。どう? 似合ってる?」
私は胸を突き出し、陽彩さんにスカーフを見てもらった。
「うん、よく似合ってる! それぞれの個性が出てて、すごくいいよ。ましろっちは相変わらず赤が好きなんだなって思うし、剱さんは青が似合っててカッコいい!」
「美嶺、かっこいいってー」
「いや……。そんなこと言われると、照れるっす」
美嶺は頬を染め、頭をかいて「へへへ」と笑った。
「千景ちゃんは……紫にしたんだね。去年は悩んでたのか、よく変えてたけど。……うん。その色は千景ちゃんの強さを感じられて、似合ってると思う。千景ちゃんのひたむきな努力には、いつも助けられてたんだよ」
陽彩さんに言われると、千景さんは微笑みながらうなづいた。
「ありがとうございます……。それに、黒っぽい色は……ましろさんが、似合うと言ってくれたので」
「ましろっちの影響か~! なに? 千景ちゃんまで口説いちゃったの?」
「あぅぅ! 節操なしみたいに言わないでよぉ」
私がほっぺを膨らまして抗議すると、陽彩さんはニシシと笑った。
そして最後に、ほたか先輩に向き直る。
「……ほたかちゃんはやっぱり黄色だね。うん。太陽みたいなほたかちゃんっぽさが出てて、私は昔から好きだったよ」
「え……。太陽みたい、ですか?」
「そうだよ。私なんて一コ下の学年の勧誘に失敗しちゃったから、すごく悩んでたんだ。でも、ほたかちゃんの優しさと笑顔に救われてた。ほたかちゃんは本当に太陽みたいで、ずっと元気づけられてたんだよ。ほたかちゃんと千景ちゃん……私はいい仲間を持って幸せだった」
その言葉を受けたほたか先輩は静かに震え、涙を我慢しているように見える。
その気持ちはとてもよく分かった。
憧れていた人から「実は救われてたんだ」って言われることのうれしさは、何物にも代えがたい。
自分は太陽なんかじゃないって思い込んでいた先輩。
その呪縛から解き放たれたのなら、これほどうれしいことはなかった。
「じゃ、私は行くよ」
満足そうな笑顔を見せた後、陽彩さんは私たちに背中を見せる。
ただのオタクのお姉さんとしか思っていなかった女性の背中は、いつの間にか大きなものに感じられていた。
「引退した者は消え去るのみ。……みんな、元気でね!」
そう言って、陽彩さんは颯爽と去っていく。
その大きな背中は、すでに大切な物を私たちに残してくれていたのだと分かった。
太陽のような笑顔はほたか先輩と千景さんに受け継がれている。
それはもう美嶺と私の中でも芽生えており、これからもきっと、その先の世代に渡っていくのだ。
ほたか先輩を見ると、清々しく笑っている。
不器用で怖がりだけど、誰よりも優しくてあったかい。
そして私のことを「大好き」でいてくれる。
私は先輩の想いに答えを出すことが出来るだろうか。
でも、少なくとも、自分を『道端の草』のようだなんて思い込む必要はなくなっていた。
――そんな凄い人に大切に思ってもらえるのだから。
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大好きなみんなのために――。
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