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第四章「陽を見あげる向日葵のように」
第二十三話「ほたかの想い」
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午前五時を過ぎ、周囲は明るく照らされている。
校庭には千切れとんだ木の葉や水たまりが、嵐の足跡のように点在していた。
「嵐も過ぎ去ったみたいですね……」
「うん。……みんなのところに戻ろっか」
ほたか先輩と私は立ち上がる。
ヒマワリの植木鉢を陽の当たる安全な場所に置き、テントに戻ることにした。
でも、私の足は動かない。
心臓の鼓動が激しすぎて、これ以上負荷をかけると死んでしまいそうだった。
「あ……ああ……あの」
「ましろちゃん、どうしたの?」
「あのですね、あの。変な質問をするので、バカだと思ったら怒ってくださいね」
ほたか先輩は息をのむようにじっと私を見つめている。
私は恥ずかしくてその眼を見返すことが出来ず、まぶたを強くつむって言葉を吐き出した。
「ほ、ほたか先輩の『大好き』って、英語でいう『ライク』っていうことでしょうか?」
聞いてしまった。
もし『ライク』だったら、今のままの関係が続くと思う。
そうじゃなかったら、何かが変わってしまうかもしれない。
変わるのは怖い。
でも、日本語の曖昧な部分を、曖昧なままにできなかった。
ほたか先輩の言葉に正面から向き合わないのは、不誠実だと思ったからだ。
私は言葉を待つ。
……いつまでも待つつもりだった。
でも、すぐに答えは返ってきた。
「『ラブ』……だよ」
まるで時間が止まったような気がした。
ほたか先輩は優しく微笑んでいる。
そのまなざしは、本当にいつもと同じ穏やかなものだった。
「あ……あの、私……」
私は自分の気持ちが分からない。
いや、整理できていない。
ほたか先輩はすべての気持ちをさらけ出してくれたのに、自分の答えがまるで決められていなかった。
「いいよ。ましろちゃんの答えなんて、すぐにもらえるなんて思ってないの」
ほたか先輩は私の心が見えているのか、優しくそう言ってくれた。
「……ましろちゃんは千景ちゃんのことも美嶺ちゃんのことも好きだって、分かってるから。……お姉さんはみんなのお姉さんだから、一番最後でいいの」
私が……千景さんと美嶺を好き?
今まで考えたことのない発想に、動揺してしまう。
でもしっくり来てしまう。
二人に対する想いに、ぴったりの言葉だと思えてくる。
だけど、ほたか先輩に対しても同じ感情を抱いているのも事実だった。
「えっと……。ちょっと考える時間を……ください」
そう答えるのがやっとのことで、今の私にはこれ以上を判断する余裕はどこにもない。
ほたか先輩は「うん」と微笑んでくれた。
△ ▲ △ ▲ △
風が弱まってきたおかげで、何事もなくテントをたたむことができた。
雨水を含んだテントはぐっしょりと濡れ、袋に入れるとものすごく重くなっている。
ほたか先輩はテントの袋をザックにしまい込んだ。
「みんなありがとう! なんとかテントも片付いたねっ!」
ほたか先輩は何事もなかったように笑っている。
「晴れたら、干そう……」
「ペグも泥だらけっすね……」
千景さんも美嶺も軍手が泥だらけだけど、テントを最後まで壊さず守り切った達成感に、二人とも充実した顔をしていた。
「ましろ、顔赤いぞ」
「あうぅ? あ、赤い?」
「今度は何の妄想をしてるんだ? 梓川さんとなんかあったのか?」
美嶺が鋭すぎる。
いや、私が正直すぎるのかもしれない。
ほたか先輩の告白をまだ引きずっていて、心臓の鼓動が収まっていなかった。
美嶺の指摘に、私はぶわっと顔から汗が吹き出してしまう。
「い、いやね……。部室のほうでなんか割れる音がしたから行ってみたんだよ! 結果的に異常はなかったんだけど、部室脇の崖から落ちそうになっちゃって……」
「ましろは落ち癖あるのを自覚してくれよ……」
「で、でも、ほたか先輩が助けてくれたから。だからほらっ、こうしてピンピンしてるよ。ああ~っ、ほたか先輩の腕、たくましくてかっこよかったなぁ~~!」
「ましろぉぉ……」
美嶺が涙声で急に抱きついてきた。
「怪我がなくて本当によかった……」
そして千景さんもムッとした目で私を見ている。
「行き先は言わないと、ダメ」
「そうそう。梓川さんが行き先に心当たりあったからよかったけど、本当に気を付けてくれよな……」
「あぅぅ……。反省してます」
確かに今回は本当に危なかった。
もう二度と無茶はするまいと心に誓う。
すると、陽彩さんが近づいてきて、私だけに聞こえるような小さな声で囁いた。
「それにしても、ましろっち……。君ってば罪な子だなあ……」
「あぅ?」
「ましろっちが飛び出ていったときの、ほたかちゃんの慌てぶりは大変だったよ。好かれてるんだねぇ……」
陽彩さんがそんなことを言うので、またしても頭が沸騰したように熱くなった。
そろそろオーバーヒートして倒れてしまいそうだ。
私が赤面しているのに、陽彩さんは私をいじるように念押しする。
「ほたかちゃんをよ・ろ・し・く・ねっ」
そしてニシシといたずらっぽく笑うのだった。
陽彩さんはどこまで察しているのだろう。
私のオタクの師匠なので、ひょっとしたら全部分かっちゃっているのかもしれない。
私は無言のまま、ウンウンと頭を縦に振り続けた。
校庭には千切れとんだ木の葉や水たまりが、嵐の足跡のように点在していた。
「嵐も過ぎ去ったみたいですね……」
「うん。……みんなのところに戻ろっか」
ほたか先輩と私は立ち上がる。
ヒマワリの植木鉢を陽の当たる安全な場所に置き、テントに戻ることにした。
でも、私の足は動かない。
心臓の鼓動が激しすぎて、これ以上負荷をかけると死んでしまいそうだった。
「あ……ああ……あの」
「ましろちゃん、どうしたの?」
「あのですね、あの。変な質問をするので、バカだと思ったら怒ってくださいね」
ほたか先輩は息をのむようにじっと私を見つめている。
私は恥ずかしくてその眼を見返すことが出来ず、まぶたを強くつむって言葉を吐き出した。
「ほ、ほたか先輩の『大好き』って、英語でいう『ライク』っていうことでしょうか?」
聞いてしまった。
もし『ライク』だったら、今のままの関係が続くと思う。
そうじゃなかったら、何かが変わってしまうかもしれない。
変わるのは怖い。
でも、日本語の曖昧な部分を、曖昧なままにできなかった。
ほたか先輩の言葉に正面から向き合わないのは、不誠実だと思ったからだ。
私は言葉を待つ。
……いつまでも待つつもりだった。
でも、すぐに答えは返ってきた。
「『ラブ』……だよ」
まるで時間が止まったような気がした。
ほたか先輩は優しく微笑んでいる。
そのまなざしは、本当にいつもと同じ穏やかなものだった。
「あ……あの、私……」
私は自分の気持ちが分からない。
いや、整理できていない。
ほたか先輩はすべての気持ちをさらけ出してくれたのに、自分の答えがまるで決められていなかった。
「いいよ。ましろちゃんの答えなんて、すぐにもらえるなんて思ってないの」
ほたか先輩は私の心が見えているのか、優しくそう言ってくれた。
「……ましろちゃんは千景ちゃんのことも美嶺ちゃんのことも好きだって、分かってるから。……お姉さんはみんなのお姉さんだから、一番最後でいいの」
私が……千景さんと美嶺を好き?
今まで考えたことのない発想に、動揺してしまう。
でもしっくり来てしまう。
二人に対する想いに、ぴったりの言葉だと思えてくる。
だけど、ほたか先輩に対しても同じ感情を抱いているのも事実だった。
「えっと……。ちょっと考える時間を……ください」
そう答えるのがやっとのことで、今の私にはこれ以上を判断する余裕はどこにもない。
ほたか先輩は「うん」と微笑んでくれた。
△ ▲ △ ▲ △
風が弱まってきたおかげで、何事もなくテントをたたむことができた。
雨水を含んだテントはぐっしょりと濡れ、袋に入れるとものすごく重くなっている。
ほたか先輩はテントの袋をザックにしまい込んだ。
「みんなありがとう! なんとかテントも片付いたねっ!」
ほたか先輩は何事もなかったように笑っている。
「晴れたら、干そう……」
「ペグも泥だらけっすね……」
千景さんも美嶺も軍手が泥だらけだけど、テントを最後まで壊さず守り切った達成感に、二人とも充実した顔をしていた。
「ましろ、顔赤いぞ」
「あうぅ? あ、赤い?」
「今度は何の妄想をしてるんだ? 梓川さんとなんかあったのか?」
美嶺が鋭すぎる。
いや、私が正直すぎるのかもしれない。
ほたか先輩の告白をまだ引きずっていて、心臓の鼓動が収まっていなかった。
美嶺の指摘に、私はぶわっと顔から汗が吹き出してしまう。
「い、いやね……。部室のほうでなんか割れる音がしたから行ってみたんだよ! 結果的に異常はなかったんだけど、部室脇の崖から落ちそうになっちゃって……」
「ましろは落ち癖あるのを自覚してくれよ……」
「で、でも、ほたか先輩が助けてくれたから。だからほらっ、こうしてピンピンしてるよ。ああ~っ、ほたか先輩の腕、たくましくてかっこよかったなぁ~~!」
「ましろぉぉ……」
美嶺が涙声で急に抱きついてきた。
「怪我がなくて本当によかった……」
そして千景さんもムッとした目で私を見ている。
「行き先は言わないと、ダメ」
「そうそう。梓川さんが行き先に心当たりあったからよかったけど、本当に気を付けてくれよな……」
「あぅぅ……。反省してます」
確かに今回は本当に危なかった。
もう二度と無茶はするまいと心に誓う。
すると、陽彩さんが近づいてきて、私だけに聞こえるような小さな声で囁いた。
「それにしても、ましろっち……。君ってば罪な子だなあ……」
「あぅ?」
「ましろっちが飛び出ていったときの、ほたかちゃんの慌てぶりは大変だったよ。好かれてるんだねぇ……」
陽彩さんがそんなことを言うので、またしても頭が沸騰したように熱くなった。
そろそろオーバーヒートして倒れてしまいそうだ。
私が赤面しているのに、陽彩さんは私をいじるように念押しする。
「ほたかちゃんをよ・ろ・し・く・ねっ」
そしてニシシといたずらっぽく笑うのだった。
陽彩さんはどこまで察しているのだろう。
私のオタクの師匠なので、ひょっとしたら全部分かっちゃっているのかもしれない。
私は無言のまま、ウンウンと頭を縦に振り続けた。
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