バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

文字の大きさ
80 / 133
第四章「陽を見あげる向日葵のように」

第二十三話「ほたかの想い」

しおりを挟む
 午前五時を過ぎ、周囲は明るく照らされている。
 校庭には千切れとんだ木の葉や水たまりが、嵐の足跡のように点在していた。

「嵐も過ぎ去ったみたいですね……」
「うん。……みんなのところに戻ろっか」

 ほたか先輩と私は立ち上がる。
 ヒマワリの植木鉢を陽の当たる安全な場所に置き、テントに戻ることにした。

 でも、私の足は動かない。
 心臓の鼓動が激しすぎて、これ以上負荷をかけると死んでしまいそうだった。

「あ……ああ……あの」
「ましろちゃん、どうしたの?」
「あのですね、あの。変な質問をするので、バカだと思ったら怒ってくださいね」

 ほたか先輩は息をのむようにじっと私を見つめている。
 私は恥ずかしくてその眼を見返すことが出来ず、まぶたを強くつむって言葉を吐き出した。

「ほ、ほたか先輩の『大好き』って、英語でいう『ライク』っていうことでしょうか?」

 聞いてしまった。
 もし『ライク』だったら、今のままの関係が続くと思う。
 そうじゃなかったら、何かが変わってしまうかもしれない。
 変わるのは怖い。
 でも、日本語の曖昧な部分を、曖昧なままにできなかった。
 ほたか先輩の言葉に正面から向き合わないのは、不誠実だと思ったからだ。

 私は言葉を待つ。
 ……いつまでも待つつもりだった。

 でも、すぐに答えは返ってきた。

「『ラブ』……だよ」

 まるで時間が止まったような気がした。
 ほたか先輩は優しく微笑んでいる。
 そのまなざしは、本当にいつもと同じ穏やかなものだった。

「あ……あの、私……」

 私は自分の気持ちが分からない。
 いや、整理できていない。
 ほたか先輩はすべての気持ちをさらけ出してくれたのに、自分の答えがまるで決められていなかった。

「いいよ。ましろちゃんの答えなんて、すぐにもらえるなんて思ってないの」

 ほたか先輩は私の心が見えているのか、優しくそう言ってくれた。

「……ましろちゃんは千景ちゃんのことも美嶺ちゃんのことも好きだって、分かってるから。……お姉さんはみんなのお姉さんだから、一番最後でいいの」

 私が……千景さんと美嶺を好き?
 今まで考えたことのない発想に、動揺してしまう。
 でもしっくり来てしまう。
 二人に対する想いに、ぴったりの言葉だと思えてくる。
 だけど、ほたか先輩に対しても同じ感情を抱いているのも事実だった。

「えっと……。ちょっと考える時間を……ください」

 そう答えるのがやっとのことで、今の私にはこれ以上を判断する余裕はどこにもない。
 ほたか先輩は「うん」と微笑んでくれた。


 △ ▲ △ ▲ △


 風が弱まってきたおかげで、何事もなくテントをたたむことができた。
 雨水を含んだテントはぐっしょりと濡れ、袋に入れるとものすごく重くなっている。
 ほたか先輩はテントの袋をザックにしまい込んだ。

「みんなありがとう! なんとかテントも片付いたねっ!」

 ほたか先輩は何事もなかったように笑っている。

「晴れたら、干そう……」
「ペグも泥だらけっすね……」

 千景さんも美嶺も軍手が泥だらけだけど、テントを最後まで壊さず守り切った達成感に、二人とも充実した顔をしていた。

「ましろ、顔赤いぞ」
「あうぅ? あ、赤い?」
「今度は何の妄想をしてるんだ? 梓川さんとなんかあったのか?」

 美嶺が鋭すぎる。
 いや、私が正直すぎるのかもしれない。
 ほたか先輩の告白をまだ引きずっていて、心臓の鼓動が収まっていなかった。
 美嶺の指摘に、私はぶわっと顔から汗が吹き出してしまう。

「い、いやね……。部室のほうでなんか割れる音がしたから行ってみたんだよ! 結果的に異常はなかったんだけど、部室脇の崖から落ちそうになっちゃって……」
「ましろは落ち癖あるのを自覚してくれよ……」
「で、でも、ほたか先輩が助けてくれたから。だからほらっ、こうしてピンピンしてるよ。ああ~っ、ほたか先輩の腕、たくましくてかっこよかったなぁ~~!」
「ましろぉぉ……」

 美嶺が涙声で急に抱きついてきた。

「怪我がなくて本当によかった……」

 そして千景さんもムッとした目で私を見ている。

「行き先は言わないと、ダメ」
「そうそう。梓川あずさがわさんが行き先に心当たりあったからよかったけど、本当に気を付けてくれよな……」
「あぅぅ……。反省してます」

 確かに今回は本当に危なかった。
 もう二度と無茶はするまいと心に誓う。
 すると、陽彩ひいろさんが近づいてきて、私だけに聞こえるような小さな声で囁いた。

「それにしても、ましろっち……。君ってば罪な子だなあ……」
「あぅ?」
「ましろっちが飛び出ていったときの、ほたかちゃんの慌てぶりは大変だったよ。好かれてるんだねぇ……」

 陽彩さんがそんなことを言うので、またしても頭が沸騰したように熱くなった。
 そろそろオーバーヒートして倒れてしまいそうだ。
 私が赤面しているのに、陽彩さんは私をいじるように念押しする。

「ほたかちゃんをよ・ろ・し・く・ねっ」

 そしてニシシといたずらっぽく笑うのだった。
 陽彩さんはどこまで察しているのだろう。
 私のオタクの師匠なので、ひょっとしたら全部分かっちゃっているのかもしれない。
 私は無言のまま、ウンウンと頭を縦に振り続けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...