バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第四章「陽を見あげる向日葵のように」

第二十二話「陽を見あげる向日葵のように」

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(ほたか先輩が……私を、大好き?)

 私を抱き起してくれる先輩の腕がたくましくて、胸が高まってしまう。
 台風並みの暴風雨のさなかにいるのに、ほたか先輩の真剣な表情しか目に入らない。
 こんなに間近で見つめ合っていると、あの日のキスを思い出してしまう。

 この『好き』という言葉は『ライク』なの?
 ……それとも『ラブ』?
 私は考えすぎて頭がクラクラし始めてきた。

「ましろちゃん、大丈夫?」
「あの……いえ……」
「怪我……しちゃったの?」
「だ、大丈夫です。……全然」

 こんな時に、私は何を思い出してるんだろう。
 私は妄想を振り払い、部室棟の外壁に身を寄せてうずくまる。
 冷静になって崖側を見ると、この場所がいかに危険なのかが身にしみてわかった。
 私の不安を察してくれたのか、ほたか先輩が抱きしめてくれる。

「大丈夫だよ。お姉さんはこういう時のために体を鍛えてきたんだから、心配しないで」

 先輩の言葉が頼もしくて、私はコクリとうなづく。

「こんな無茶はしちゃダメだよ」
「ごめんなさい。……ヒマワリがダメになると、ほたか先輩が悲しむと思ったんです……」

 私がそう答えると、先輩はとても優しく微笑んでくれた。

「ありがとう。ましろちゃんのそんな優しさが……大好きなんだよ」

 また『大好き』という言葉。
 それを聞くだけで冷静でいられなくなってしまう。

「どうして。どうして私なんか……」

 そもそも私のようなモブキャラが先輩に好かれる時点で、理由がよく分からなかった。
 そんな私の動揺を和らげるように、ほたか先輩は穏やかに笑う。

「……ましろちゃんが部活や競争が嫌いだって言うことを天城先生から聞いた時、お姉さんにそっくりだなって思ったの。だから、最初は親近感……だったかな」
「……なんで部活が嫌だったんですか?」
「引っ越しが多かったお話、覚えてる?」
「……はい」
「部活の仲間って、お姉さんにとってはすごく特別なの。クラスメイトよりもずっと身近に感じるんだ。転校自体に慣れても、部活の友達との別れは……慣れることができなったな……。もうあんな思いをしたくなくって、だから高校では最初から部活に入りたくなかったの……」

 友達との関係を大切にするのは、ほたか先輩らしい理由だった。
 そして、それは私もすごく共感できる。
 私は競争することで友達との関係がこじれることがあるから、部活というものが嫌だった。
 友達との時間を大切にしたいから、あえて部活に入らない。
 その選択は私とそっくりだった。

「最初は親近感だったの。……でも、閉じこもってしまった千景ちゃんを助けてくれた時、ましろちゃんのすごさを知ったんだよ。誰よりも繊細に人の心を感じることができて、思いやれる優しさ。そして、人の心に飛び込んでいける勇気」

 ほたか先輩の目にこもる感情は、なんだかいつもの優しさは違う。
 まるで美嶺が私に向けるような、熱いまなざしに変わっていた。

「……千景ちゃんとの間に具体的にどんなことがあったのかはわからなくても、今の元気で楽しそうな千景ちゃんを見るだけで、ましろちゃんのすごさがわかるの。……そしたら、ましろちゃんのことを思うと安心している自分に気づいちゃったの……」
「……だから私のぬいぐるみを?」
「ごめんね。……き、気持ち悪い……よね? す、捨てたほうがいいかな」
「捨てないでください! わわ、私、実はけっこう嬉しかったんです! こんな私がモデルでよければ、大事にしてください……」

 その言葉を聞いて、ほたか先輩の顔がぱあっと明るくなった。

「よかったぁ! 大事にする。絶対にっ!」

 私はその笑顔が照れくさくて、直視できなくなる。
 すると、先輩は立ち上がった。

「長話をしてる場合じゃないよね。ちょっと風が弱まったし、今のうちに安全な場所まで行こっか」
「そ、そうですね! ヒマワリも一緒にです!」
「ましろちゃん……。ありがとう」


 △ ▲ △ ▲ △


 ヒマワリの植木鉢を二人で分担して運ぶ。
 部室棟の前の広場までやってきて、ようやく安心することが出来た。

「もうすぐ夜明けだね」

 ほたか先輩の言葉から間もなくして、幾筋もの光が差し込んできた。
 分厚い雲が吹き払われ、木々の間から太陽が昇ってくる。
 暴風は弱まり、試練の終わりを告げてくれているようだった。

「あああ……! ほたか先輩、鉢を見てください!」

 私は植木鉢の真ん中を見て叫ぶ。
 ほたか先輩もうずくまり、植木鉢をじっと見つめた。

「先輩! 芽が……出ました!」

 土の隙間から、わずかではあるけど緑色の芽が顔をのぞかせている。
 四つの植木鉢のヒマワリの芽が、それぞれに芽吹き始めていた。

「ふぇぇぇぇ……出てくれたぁ……」

 ほたか先輩は感極まったように泣き始める。
 やっぱりヒマワリは大切だったんだ。
 危ない真似をしてしまったけど、駆け付けてよかったと心から思った。

『ぜ~んぶ陽彩ひいろ先輩に教えてもらったことをやってるだけだもん。陽彩先輩が凄いんだよ……』

 昨日のほたか先輩の言葉を思い出す。
 あの時から、ずっとこの言葉が胸に引っかかっていた。
 私は陽彩さんの部活での凄さなんて知らない。
 今の部を率いているのは、ほたか先輩に他ならなかった。

「先輩は、陽彩さんから教わったことをやってるだけって言ってましたよね?」
「……うん」
「それでいいと思うんです。いや、それが大事だと思うんです! ヒマワリだって花を咲かせて種を作って、次の代につなげていくじゃないですか。先輩も、陽彩さんから受け継いだ種をすでに花咲かせてるってことに、気付いてください」
「ましろちゃん……」
「陽彩さんがほたか先輩にとっての太陽だったみたいに、ほたか先輩は私にとっての太陽なんです。だから、自信を持ってください!」

 そう。
 これが昨日の私に言えなかったこと。
 ヒマワリの芽が出てくれたから言えたこと。
 私は力いっぱいに、ほたか先輩を抱きしめた。

「……ましろちゃん、やっぱり凄い」

 先輩は涙ぐみながら、ゆっくりと私と目を合わせる。

「大好き。大好きだよ」

 その笑顔は光輝いて見えた。
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