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第五章「百合の花を胸に秘め」
第四話「百合をめぐって勝負です!」
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「ましろ、この人誰だ?」
「あぅぅ……。わかんない……」
本当に意味が分からなかった。
美嶺と私はショッピングモールのフードコートでご飯を食べようとしていただけなのに、なぜか初対面の女子が目の前に座っているのだ。
彼女は何の料理も注文していないようなので、食事が目的の相席ではないようだ。
さっきからずっと私を見つめている。
美少女といえば美少女なのだが、青みがかった黒髪ロングに腰高ではいたロングスカートの清楚な印象とは裏腹に、メタリックな眼鏡の奥に光る蛇のような鋭い目が怖かった。
「これは失礼しました。わたくし、五竜と申します。……さっき彼女が転んだときにイラストが見えましてね。あまりにも素晴らしいイラストでしたので、お話を聞きたくなったんですよ」
言葉遣いは丁寧だが、抑揚のない声は何を考えているのか分からない。
「転んでイラストが? ましろ、やっぱり鞄を置いていったほうがよかったじゃないか……」
「あぅぅ……。今度からそうする……」
「ところで……五竜だっけ? イラストのすばらしさがわかるとは、あんた、見る目があるな。……でも、彼女の絵のことは口外しないでくれないか?」
美嶺が強い口調で伝えると、五竜と名乗った女子はゆっくりとうなづいた。
「ふむ。それはもちろん、マナーとして当然ですよ」
そして今度は、なぜだか美嶺の顔をまじまじと見つめ始める。
「ところで金髪のあなた、モデルになった方ですね?」
「モ……モデルって、なんだ? アタシはファッションモデルとかになった覚えはねぇし、人違いだろ。……そんなに、きれいじゃ……ないし……」
ビックリしたように声を上げつつ、美嶺は照れているのか顔を赤くし始めた。
彼女は私のイラストのモデルになったことを知らないので、モデルという言葉がファッション系のモデルと結びついてしまったようだ。
私はイラストのことに気付かれなくないので、必死に手を振って否定した。
「ち、違うんだよ! 彼女はモデルじゃないよ!」
「ましろ~。そんなに強く否定しなくてもいいじゃんかよ~」
「ご、ごめん……。美嶺はきれいだよ……」
「きれいって言うな!」
美嶺は頬を真っ赤に染めて、顔を手で覆ってしまった。
すると、五竜さんは何かを察したように意味深にうなづく。
「なるほどなるほど。だいたいの事情は察しました。ましろさん……と言いましたか? あなたが誰にも秘密で絵を描いていることはよ~く分かりました。では話題を変えましょう」
五竜さんは言葉を区切り、私の目の前に迫ってきた。
「……あなたの才能を埋もれさせておくのはもったいないと思います。ペンネームでの活動でよいので、試しにわたくしの言う通りに絵を描いてみませんか? きっと流行りますよ。一次創作で天下を取りましょう。ジャンルは……百合です」
それはあまりにも唐突で、予想外の提案だった。
一次創作とは、つまり『オリジナルの作品』のことだ。
私はいつも既存の作品を題材にして妄想を膨らませる『二次創作』ばかりを描いていたので、オリジナル作品は未知の分野だった。例外があるとすれば、部活のみんなをモデルに絵を描いたイラストぐらいしかない。
そもそもこんなスカウトっぽい言葉、田舎町で学生っぽい相手に言われることに違和感がある。
私が困惑していると、美嶺が私を守るように、間に割って入ってきた。
「何を言ってんだ。会っていきなりする話じゃねぇだろう? 絵師に失礼ってもんだ」
「わたくしの目はけっこう確かなんです。描きましょうよ。……いや、描くべきだ。」
「だいたい、アタシたちは百合に興味はないんだ。他を当たってくれ」
「おやおや。百合の魅力をご存じではない? 友愛と恋愛の間で揺らめく想いは尊くて最高なのですよ。何よりも女の子は柔らかくて可愛い。……それ以上、何が必要なのです?」
「お……男同士だって、熱い友情や戦いによって深まる絆があるし、かっこいいだろ!」
「別に、わたくしはBLと百合の世界で対立したいわけではないのです。百合の魅力を広めたい……それだけのこと。現にあなたたち二人だって、とても魅力的な百合に見えますよ?」
「み、み、魅力的とか、言うな!」
さっきから美嶺は顔を赤らめて大変そうだ。
私は私で、自分の心が見透かされたのではないかと思い、心臓がバクバクと高鳴り始めた。
変な汗が顔から噴き出してくる。
このままでは、私が美嶺のことを好きになってしまったことまで言及されてしまいそうだ。
「そ……それぐらいにしましょうよ! 私はどっちもいいと思います!」
あまりこの話題を深掘りされても困るので、慌てて仲裁に入った。
しかし五竜さんのターゲットは私に移っただけだ。
眼鏡の奥で、彼女の鋭い目が光った。
「では、描いていただけるんですね?」
「か……描かないですよ。それに、ジャンルがどうあれ、自分の作品を世の中に公開すればネガティブな意見もあるだろうし。だから……」
「もったいない。本当にもったいない。……では無理やりにでも後押しするしかありませんね。……私と勝負をしましょうか」
「しょ……勝負?」
話がなにか妙な方向に転がり始めた。
美嶺も私と同感なようで、五竜さんをいぶかしげに見ている。
「勝負だと? あんたも絵が描けるって言うのか?」
「わたくしに画力はありませんよ。あるのはプロデュースの力だけ。あなた方『八重垣高校の女子登山部』とわたくしが編成した『松江国引高校の女子山岳部』で次の県大会を戦うんです。あなた方が勝てばあきらめますが、わたくしたちが勝てば、わたくしの全面的なバックアップの元で百合百合な作品を量産するのです」
唐突に出てきた登山部の名前。
まさか、ここで部活のことに話がつながってくるとは思わなかった。
「……五竜さんって、何者なんですか?」
私が聞くと、五竜さんは姿勢を正した。
「わたくしの名前は五竜天音。松江国引高校に通う二年生です。……まあどこにでもいる、ただの美少女萌えの百合好きですよ。祖母の強い勧めもあって仕方なく山岳部に所属したんですが、ついつい最高のチーム編成を考えてしまう悪癖が出てしまいましてね。……なかなか強いチームが出来たと思っています」
初対面の相手に自分の性癖を堂々と言えるなんて、五竜さんはタダモノではない。
そして自慢げに語る『プロデュースの力』……。
それがどれだけの強さなのか分からないが、五竜さんが持つ強者のオーラからは得体のしれない恐ろしさが感じられた。
美嶺はというと、話が急展開したことについていけてないようで、困惑している。
「ちょっと待てよ。なんで絵と山が関係あるんだ?」
「あ……そっか。弥山の頂上の写真を見られてたんだ……」
私の百合イラストが見られてしまったとき、同時に写真も見られていたことを思い出した。
だからこそ、絵の勝負を登山とつなげてきたのだろう。
「ご名答。先ほどの写真を見れば、あなた方の絆の深さがわかります。……絆が本物であれば、わたくし程度が作ったチームに負けるはずがないと……そう思ったんですがね」
彼女は目を細め、初めて『笑み』と呼べるような薄ら笑いを浮かべた。
こんな勝負を突きつけられるのは初めての経験だった。
何よりも、私には勝負を受けるメリットがない。
描く絵を指示される筋合いはないし、勝負に乗る必然性もない。
「……そんな勝負、私が受ける理由はないです」
はっきりと断った。
それなのに、五竜さんの表情はまったく変化がない。
唐突に身を乗り出し、私にだけ聞こえる声で囁く。
「この場であのイラストのことをお友達に教えても、いいですか?」
部活のみんなをモデルにした絵のことは絶対に秘密だ。
特に美嶺が知ってしまえば、ヤキモチを焼いてふて寝してしまいそうだ。
「あぅぅ……。卑怯じゃないですか……」
「情報は交渉のカードですよ」
卑怯と言っても五竜さんは動じていない。
弱味を握られてしまった状態でとやかく言っても、すべては無駄に思えた。
私は肩を落とし、力なく答えようとした。
しかし、美嶺が私を守るように立ちふさがる。
「何を吹き込まれたのか分かんねぇけど、勝負を受ける必要はねぇぞ。何だったら、アタシが身代わりになる!」
「美嶺……!」
「おやおや。あなたも絵が描けるんですか? ……その鍛えられた拳は、絵描きの手とは思えませんが」
「百合好きだって言うんなら、アタシを使って好きにすればいい。ましろが守れるなら本望だ」
美嶺は鋭い眼光を飛ばす。
私のために怒ってくれるのはうれしいけど、本当に好きにされてしまったら大変だ。
美嶺の尊厳を守るためなら、私が百合の絵を描くぐらいは些細なことだ。
「……その勝負、受けます!」
「ましろ?」
「美嶺も、簡単に変な約束しちゃダメ! それに、ほたか先輩だって全国大会に行きたいって言ってたし、県大会で勝負することには変わらないよ。今回のことだって、あくまでも私個人の話なだけだし!」
私は一歩も引く気なんてなく、美嶺を見つめる。
その本気を分かってくれたのか、美嶺は静かに席に座ってくれた。
するとその時、五竜さんが唐突に拍手をし始めた。
私たちのやり取りを見て満足したのか、目を細めて笑っている。
「素晴らしい。あなた方の絆は、わたくしが思っていた以上でした。とても尊い百合のポテンシャルを感じます」
「や……やめろよ。アタシたちはそんなんじゃ……ねぇよ」
美嶺は恥ずかしそうに、口ごもる。
私も照れくさくなって、美嶺の顔を見れなくなってしまった。
このモジモジしている様子も五竜さんの大好物らしく、細めた目で見つめ続けている。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
「大会が本当に楽しみになってきました。……あなた方は百合のつぼみ。試練という名の水を注ぎ、立派な花を咲かせてみせましょう」
五竜さんはそう言い残して去っていく。
私はその背中を見送ることしかできなかった。
「あぅぅ……。わかんない……」
本当に意味が分からなかった。
美嶺と私はショッピングモールのフードコートでご飯を食べようとしていただけなのに、なぜか初対面の女子が目の前に座っているのだ。
彼女は何の料理も注文していないようなので、食事が目的の相席ではないようだ。
さっきからずっと私を見つめている。
美少女といえば美少女なのだが、青みがかった黒髪ロングに腰高ではいたロングスカートの清楚な印象とは裏腹に、メタリックな眼鏡の奥に光る蛇のような鋭い目が怖かった。
「これは失礼しました。わたくし、五竜と申します。……さっき彼女が転んだときにイラストが見えましてね。あまりにも素晴らしいイラストでしたので、お話を聞きたくなったんですよ」
言葉遣いは丁寧だが、抑揚のない声は何を考えているのか分からない。
「転んでイラストが? ましろ、やっぱり鞄を置いていったほうがよかったじゃないか……」
「あぅぅ……。今度からそうする……」
「ところで……五竜だっけ? イラストのすばらしさがわかるとは、あんた、見る目があるな。……でも、彼女の絵のことは口外しないでくれないか?」
美嶺が強い口調で伝えると、五竜と名乗った女子はゆっくりとうなづいた。
「ふむ。それはもちろん、マナーとして当然ですよ」
そして今度は、なぜだか美嶺の顔をまじまじと見つめ始める。
「ところで金髪のあなた、モデルになった方ですね?」
「モ……モデルって、なんだ? アタシはファッションモデルとかになった覚えはねぇし、人違いだろ。……そんなに、きれいじゃ……ないし……」
ビックリしたように声を上げつつ、美嶺は照れているのか顔を赤くし始めた。
彼女は私のイラストのモデルになったことを知らないので、モデルという言葉がファッション系のモデルと結びついてしまったようだ。
私はイラストのことに気付かれなくないので、必死に手を振って否定した。
「ち、違うんだよ! 彼女はモデルじゃないよ!」
「ましろ~。そんなに強く否定しなくてもいいじゃんかよ~」
「ご、ごめん……。美嶺はきれいだよ……」
「きれいって言うな!」
美嶺は頬を真っ赤に染めて、顔を手で覆ってしまった。
すると、五竜さんは何かを察したように意味深にうなづく。
「なるほどなるほど。だいたいの事情は察しました。ましろさん……と言いましたか? あなたが誰にも秘密で絵を描いていることはよ~く分かりました。では話題を変えましょう」
五竜さんは言葉を区切り、私の目の前に迫ってきた。
「……あなたの才能を埋もれさせておくのはもったいないと思います。ペンネームでの活動でよいので、試しにわたくしの言う通りに絵を描いてみませんか? きっと流行りますよ。一次創作で天下を取りましょう。ジャンルは……百合です」
それはあまりにも唐突で、予想外の提案だった。
一次創作とは、つまり『オリジナルの作品』のことだ。
私はいつも既存の作品を題材にして妄想を膨らませる『二次創作』ばかりを描いていたので、オリジナル作品は未知の分野だった。例外があるとすれば、部活のみんなをモデルに絵を描いたイラストぐらいしかない。
そもそもこんなスカウトっぽい言葉、田舎町で学生っぽい相手に言われることに違和感がある。
私が困惑していると、美嶺が私を守るように、間に割って入ってきた。
「何を言ってんだ。会っていきなりする話じゃねぇだろう? 絵師に失礼ってもんだ」
「わたくしの目はけっこう確かなんです。描きましょうよ。……いや、描くべきだ。」
「だいたい、アタシたちは百合に興味はないんだ。他を当たってくれ」
「おやおや。百合の魅力をご存じではない? 友愛と恋愛の間で揺らめく想いは尊くて最高なのですよ。何よりも女の子は柔らかくて可愛い。……それ以上、何が必要なのです?」
「お……男同士だって、熱い友情や戦いによって深まる絆があるし、かっこいいだろ!」
「別に、わたくしはBLと百合の世界で対立したいわけではないのです。百合の魅力を広めたい……それだけのこと。現にあなたたち二人だって、とても魅力的な百合に見えますよ?」
「み、み、魅力的とか、言うな!」
さっきから美嶺は顔を赤らめて大変そうだ。
私は私で、自分の心が見透かされたのではないかと思い、心臓がバクバクと高鳴り始めた。
変な汗が顔から噴き出してくる。
このままでは、私が美嶺のことを好きになってしまったことまで言及されてしまいそうだ。
「そ……それぐらいにしましょうよ! 私はどっちもいいと思います!」
あまりこの話題を深掘りされても困るので、慌てて仲裁に入った。
しかし五竜さんのターゲットは私に移っただけだ。
眼鏡の奥で、彼女の鋭い目が光った。
「では、描いていただけるんですね?」
「か……描かないですよ。それに、ジャンルがどうあれ、自分の作品を世の中に公開すればネガティブな意見もあるだろうし。だから……」
「もったいない。本当にもったいない。……では無理やりにでも後押しするしかありませんね。……私と勝負をしましょうか」
「しょ……勝負?」
話がなにか妙な方向に転がり始めた。
美嶺も私と同感なようで、五竜さんをいぶかしげに見ている。
「勝負だと? あんたも絵が描けるって言うのか?」
「わたくしに画力はありませんよ。あるのはプロデュースの力だけ。あなた方『八重垣高校の女子登山部』とわたくしが編成した『松江国引高校の女子山岳部』で次の県大会を戦うんです。あなた方が勝てばあきらめますが、わたくしたちが勝てば、わたくしの全面的なバックアップの元で百合百合な作品を量産するのです」
唐突に出てきた登山部の名前。
まさか、ここで部活のことに話がつながってくるとは思わなかった。
「……五竜さんって、何者なんですか?」
私が聞くと、五竜さんは姿勢を正した。
「わたくしの名前は五竜天音。松江国引高校に通う二年生です。……まあどこにでもいる、ただの美少女萌えの百合好きですよ。祖母の強い勧めもあって仕方なく山岳部に所属したんですが、ついつい最高のチーム編成を考えてしまう悪癖が出てしまいましてね。……なかなか強いチームが出来たと思っています」
初対面の相手に自分の性癖を堂々と言えるなんて、五竜さんはタダモノではない。
そして自慢げに語る『プロデュースの力』……。
それがどれだけの強さなのか分からないが、五竜さんが持つ強者のオーラからは得体のしれない恐ろしさが感じられた。
美嶺はというと、話が急展開したことについていけてないようで、困惑している。
「ちょっと待てよ。なんで絵と山が関係あるんだ?」
「あ……そっか。弥山の頂上の写真を見られてたんだ……」
私の百合イラストが見られてしまったとき、同時に写真も見られていたことを思い出した。
だからこそ、絵の勝負を登山とつなげてきたのだろう。
「ご名答。先ほどの写真を見れば、あなた方の絆の深さがわかります。……絆が本物であれば、わたくし程度が作ったチームに負けるはずがないと……そう思ったんですがね」
彼女は目を細め、初めて『笑み』と呼べるような薄ら笑いを浮かべた。
こんな勝負を突きつけられるのは初めての経験だった。
何よりも、私には勝負を受けるメリットがない。
描く絵を指示される筋合いはないし、勝負に乗る必然性もない。
「……そんな勝負、私が受ける理由はないです」
はっきりと断った。
それなのに、五竜さんの表情はまったく変化がない。
唐突に身を乗り出し、私にだけ聞こえる声で囁く。
「この場であのイラストのことをお友達に教えても、いいですか?」
部活のみんなをモデルにした絵のことは絶対に秘密だ。
特に美嶺が知ってしまえば、ヤキモチを焼いてふて寝してしまいそうだ。
「あぅぅ……。卑怯じゃないですか……」
「情報は交渉のカードですよ」
卑怯と言っても五竜さんは動じていない。
弱味を握られてしまった状態でとやかく言っても、すべては無駄に思えた。
私は肩を落とし、力なく答えようとした。
しかし、美嶺が私を守るように立ちふさがる。
「何を吹き込まれたのか分かんねぇけど、勝負を受ける必要はねぇぞ。何だったら、アタシが身代わりになる!」
「美嶺……!」
「おやおや。あなたも絵が描けるんですか? ……その鍛えられた拳は、絵描きの手とは思えませんが」
「百合好きだって言うんなら、アタシを使って好きにすればいい。ましろが守れるなら本望だ」
美嶺は鋭い眼光を飛ばす。
私のために怒ってくれるのはうれしいけど、本当に好きにされてしまったら大変だ。
美嶺の尊厳を守るためなら、私が百合の絵を描くぐらいは些細なことだ。
「……その勝負、受けます!」
「ましろ?」
「美嶺も、簡単に変な約束しちゃダメ! それに、ほたか先輩だって全国大会に行きたいって言ってたし、県大会で勝負することには変わらないよ。今回のことだって、あくまでも私個人の話なだけだし!」
私は一歩も引く気なんてなく、美嶺を見つめる。
その本気を分かってくれたのか、美嶺は静かに席に座ってくれた。
するとその時、五竜さんが唐突に拍手をし始めた。
私たちのやり取りを見て満足したのか、目を細めて笑っている。
「素晴らしい。あなた方の絆は、わたくしが思っていた以上でした。とても尊い百合のポテンシャルを感じます」
「や……やめろよ。アタシたちはそんなんじゃ……ねぇよ」
美嶺は恥ずかしそうに、口ごもる。
私も照れくさくなって、美嶺の顔を見れなくなってしまった。
このモジモジしている様子も五竜さんの大好物らしく、細めた目で見つめ続けている。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
「大会が本当に楽しみになってきました。……あなた方は百合のつぼみ。試練という名の水を注ぎ、立派な花を咲かせてみせましょう」
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