バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第五章「百合の花を胸に秘め」

第十七話「審査員は甘くない!」

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 ついに五月の最終週になった。

 県大会はあさっての六月一日、水曜日から始まるのだ。
 大会の日程は三泊四日で、競技は真ん中の二日間のみ。
 初日は会場までの移動のみで、最終日は閉会式のみとなる。

 大会の準備は計画書の製本とザックの荷造りだけになったので、作業のために職員室の隣にあるコピー室を間借りしていた。

「計画書、できた~っ!」

 出来上がったばかりの計画書を掲げ上げ、しみじみと眺める。
 ウェストポーチに入れやすいようにハガキぐらいの大きさで作ってあり、ホチキスと製本テープでとじてある。
 私が描いた表紙の絵もきれいに印刷できていて、とても満足できる仕上がりだった。

「ましろちゃんの描いた表紙の絵、やっぱりすごくいいね~」
「うん。本当に」

 ほたか先輩と千景さんも笑いながら褒めてくれる。

「えへへ……。モノクロ印刷になるから、マンガのスクリーントーンみたいに処理してみました~」

 私は照れくさくなって頭をかきながら、ページをパラパラとめくっていく。
 すると、私の横で美嶺が目を細めて震えていた。

美嶺みれい……大丈夫?」
「家宝が増えた……」

 なんか、うっとりと表紙を見つめている。
 よく見ると、美嶺は同じ計画書を三冊も持っていた。

「ねえねえ……。確か一人一冊じゃなかったっけ?」
「これはアタシが勝手に増やしたんだ。大会用と、予備用と、家での保管用……。大会用はラミネート加工しなきゃな……」

 後半の言葉はもうひとりごとのようだ。
 喜んでくれるのはうれしいけど、家宝だなんていわれると恐縮してしまう。
 私は「えへえへ」と気持ち悪い笑顔が止まらなくなってしまった。


 △ ▲ △ ▲ △


「あらあら。これが空木うつぎさんの絵なのね! プロのマンガ家みたい。すごい才能なのねぇ~」

 私たちがコピー室ではしゃいでいると、あまちゃん先生がやってきた。
 すごく直球でほめてくれたのが嬉しくて、あまちゃん先生を振り返る。

 すると、そこには全身を緑色の迷彩柄で身を包んだ先生が立っていた。
 ズボンも含めて全身が緑色。
 フードも深くかぶっているので、一見すると不審者にしか見えない。

「……あまちゃん先生、何着てるの? ……雨カッパ?」
「そうよぉ~。新調したので~す。先生のみどりっていう名前に合わせてみたの。どうかしらぁ?」

 そう言われて、ようやく思い出す。
 あまちゃん先生の名前は『天城あまぎ みどり』といって、入学後の自己紹介では「みどり先生って呼んでねぇ~」と言っていた。
 ……誰一人、そう呼んでいる人はいないけど。

「どうと言われても……。すごく、迷彩です……」

 なんというか、森に隠れたらよく溶け込みそうだ。
 すると、千景さんとほたか先輩が心配そうに雨カッパを見つめた。

「先生……。山で迷彩は……危ない」
「あらっ……そうなのぉ?」
「えっと……。もし遭難した時、見つけてもらいにくくなっちゃいますよ?」

 確かに森の中で身動きが取れなくなっても、これだと誰にも見つけてもらえないかもしれない。
 部室にある雨カッパはカラフルな物ばかりなので、そのあたりも考えられてるのだろう。

「そんなぁ~。これ、結構いいお値段だったのよぉ?」
「新品だったら、交換してもらえばいいじゃないっすか」

 美嶺が当然のツッコミをするけど、先生は駄々をこねるように首を横に振る。

「嫌よぉ。イヤイヤ! サバイバルゲームでも使えるし……」
「あまちゃん先生って、サバゲーやるの?」
「そうよぉ~。主にスナイパーをやることが多いので~す。隠れるのも得意なんですよ~」

 サバイバルゲーム……。
 略してサバゲーとは、エアソフトガンという空気圧で小さなプラスチック弾を撃ち出す銃を使う遊びだ。
 敵味方のチームに分かれて、色々なルールでゲームすることが多い。

 あまちゃん先生は緑色の迷彩柄を身に着けているので、きっと森の中にあるゲーム会場に遊びに行ってるのだろう。
 スナイパーは文字通り、超遠距離を狙撃する役割で、スナイパーライフルという長くて大きな銃を使うはずだ。

「た……多趣味なんだね……」

 あまちゃん先生はオタクな話題にも詳しいようだし、本当に底が知れない。
 私が感心していると、ほたか先輩がカッパを食い入るように見つめている。

「……でも、確かに審査員がそのカッパで隠れてると、見つけられなくて大変かも……」
「……先生って大会の審査員なんすか?」

「そうよぉ~。登山部のある学校は少ないから、どうしても顧問が持ち回りで審査員や役員になるの。それでも足りないから、山岳連盟に協力を募ったりと、大変なのよぉ~」

「見つけられなくて大変って……どういうことなんですか?」
「審査員は……山に隠れて、選手の歩行チェックをしてる」

 私が不思議に思っていると、千景さんが答えてくれた。

 山に隠れて……。
 審査員は忍者か何かなのだろうか?
 特にあまちゃん先生はスナイパーもやってるっていうから、潜伏スキルは高いかもしれない。


「歩行チェックって、何を見るんすか?」

 美嶺が聞く。
 登山大会では安全に山を登る技術を審査すると言われていたけど、そういえば細かいルールは聞いていなかったと思う。
 すると、先生はいつもの授業のように人差し指を立ててしゃべり始めた。

「歩行審査では体力と技術を見るのだけど……。体力審査では、前を歩く人と距離が離れすぎると減点ね。チームの中で二から三メートル以上、チーム同士の間は四から五メートル以上開いてしまうと減点よぉ~」

 確かに疲れると歩くのが遅くなるので、前の人との距離が離れてしまうだろう。
 体力の有無が距離として見えてしまうわけだ。


「あぅぅ……不安です……。ザックの中身を軽くしちゃダメなの?」
「チーム四人の合計重量が基準を超えていれば、チーム内での配分は自由よぉ。男子は五十二キロ以上、女子は四十キロ以上。一人平均で十キロなら、そこまでの負荷ではないはずよぉ~」

 十キロの荷物なら、いつもやっている歩荷トレーニングと同じ重さだ。
 ほたか先輩と美嶺は一人で四十キロを担いでいたりするので、私は少し安心できた。


「そして技術審査なのだけど……。転んだり、走ったり、バランスを崩して木をつかまったりすると減点よぉ。……適度な歩幅なのかも見るし、ザックの荷造りパッキングのバランスも見るわぁ~」
「で、でもあまちゃん先生は優しいから、見逃してくれたり……」

 すると、いつもの笑顔が消えて、あまちゃん先生はとても真剣な表情になった。

「先生も審査員としての信用がかかってますからね! 甘くはありませんよぉ~。……そ、れ、に。……特に今年は、校長からも厳しめに見ろと言われてますからねぇ~」

 特に今年は……?
 気になる言い回しだ。

 すると、ほたか先輩が慌てたように口をはさんできた。

「天城先生! ……あの、そのお話は後にしたいなっ」
「あらぁ、梓川あずさがわさん。まだ伝えてないのぉ?」

 あまちゃん先生は目を丸くして驚いている。
 何のことだろう。
 ほたか先輩は浮かない顔をしているし、すごく気になった。


「なにか……あったんですか?」

 私がそう言いかけた時、コピー室に別の先生がやってきた。

「あー、天城先生っ! こんなところにいらっしゃったんですか!」

 その大きな声で、私の言葉はかき消されてしまう。
 やってきた先生の手には、なにやら封筒のようなものが握られていた。

「こちらの封書、うちの女子登山部宛てのものらしいですわよ」
「あらあら! 松江まつえ国引くにびき高校からなのねぇ~」

 あまちゃん先生は封筒の表裏を確認すると、私たちを振り返った。

「このお手紙、皆さん宛てのものらしいわよぉ。相手チームの部長さんから!」

 こんな直前に、五竜ごりゅうさんのチームからの手紙……?
 いったい何が書かれているのか。
 私は胸がむしょうにザワついた。
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