バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第五章「百合の花を胸に秘め」

第十八話「百合の花を胸に秘め」

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 職員室の横のコピー室にみんなでいた時、私たち登山部宛てに手紙が届いた。
 差出人は松江まつえ国引くにびき高校の女子山岳部。
 つまり……五竜ごりゅうさんのチームからの手紙だった。

「五竜からの果たし状っすね」

 美嶺みれいは険しい表情で見つめている。
 ほたか先輩は緊張の面持ちで封を破り、中に入っていた便箋びんせんを広げた。
 そこには、すごく可愛い丸文字がつづられている。


八重垣やえがき高校の女子登山部のみなさんへ
 松江国引高校の女子山岳部の部長、恵那山えなやまつくしと申します』


「あれ? 五竜さんじゃない?」
「っていうか、五竜……。あんなに偉そうだったのに、部長じゃなかったんだな」

 てっきり五竜さんからの手紙だと思い込んでいたので、少し拍子抜けする。
 私たちはさらに続きを読んでいった。


『先日はうちの二年生の五竜さんが脅かしてしまったようで、本当にごめんなさい……。

 三年生の私が力不足なあまりに、いつも五竜さんにはお世話になってるんですけど……、まさか八重垣高校の皆さんに宣戦布告してきたなんて知って、私は驚いてしまって……。
 しかも、どんなお話をしたのか、教えてくれないんです……。

 可愛い女の子を見つけると、急に迫っていくところがあるので……。もし失礼なことを言っていましたら、本当にごめんさない……。

 五竜さんは威圧的で怖い印象があると思うんですけど……、彼女自身も、本当はとっても可愛くて、いい子なんです……。
 だから、大会でも仲良くしてくださいね。
 一緒に山に登れる日を楽しみにしています。

 恵那山つくし より』


 手紙の内容は最後まで丁寧で、思いやりを感じさせてくれる。
 恵那山つくしさん……。
 会ったことはないけど、絶対に優しい人だと思った。
 あと、五竜さんは向こうの学校でも美少女を追い回しているらしい……。

「……なんか、部長さんは真面目そうな人っすね」

 美嶺が言うと、ほたか先輩と千景さんも笑顔で同意する。

「つくしさんはいい人だよ~」
「ボクも、同盟を組んでる」
「同盟……ですか?」

 千景さんから不思議な単語が飛び出たので、首をかしげる。
 すると千景さんは私を見上げながら微笑んだ。

「つくしさんは……ボクと同じぐらい、背が低い。……仲間」

 私はちっちゃな千景さんが可愛くて大好きなんだけど、背の低さはやっぱり悩んでいるらしい。
 そして、会ったことがないのに、つくしさんのイメージが勝手に広がり始めていた。


 するとその時、職員室のほうに行っていたあまちゃん先生が戻ってきた。

「みなさ~ん。松江国引高校の五竜さんからお電話ですよ~」

 五竜さん!
 つくしさんからの手紙で緩み切っていた気持ちが、その名前を聞いて張り詰めた。
 なんてピッタリのタイミング。
 私は瞬く間に警戒心がマックスになった。

「……ほたか先輩。私に関係する話かもしれないので、受話器に耳をつけててもいいですか?」
「うん、いいよ~」

 ほたか先輩が快諾してくれたので、先輩が持つ受話器に耳をくっつける。
 そして電話の『保留』が解除されると、低い女性の声が聞こえてきた。
 いつかのフードコートで聞いたのと同じ、抑揚のない声だ。

「わたくし、松江国引高校の五竜ごりゅう天音あまねと申します」
「お……お久しぶりっ! 登山部部長の梓川あずさがわほたかです~。……覚えてるかなっ?」
「覚えています。覚えていますとも。梓川さんは本当に美少女ですからね」

 美少女と言われ、ほたか先輩は少しうろたえる。
 五竜さんはさらに追い打ちをかけるように言った。

「梓川さんの名前はわたくしのリストにもちろん載っていますよ。去年のクライミング大会の写真はしっかり保存済みです」
「えっと……。えへへ。……リスト?」

「わたくしの美少女リストですよ。……ああ、ちなみに伊吹いぶき千景ちかげさんもリストに載せてあります。いつも隠れていらっしゃいましたが、彼女からも、とてつもない美少女力を感じましたね」

 その言葉が聞こえたのか、受話器の近くで耳を傾けていた千景さんがうずくまってしまった。

「……美少女……りょく?」

 千景さんは恥ずかしそうに顔を手で覆っている。
 恥ずかしがり屋の千景さんには耐えられないようだ。


「あの……。今日はどんな用事なのかなっ?」
「……そうでした。うちの部長がおかしな手紙を送ったと思いますので、中身は読まずに捨ててください。郵便局に問い合わせたところ、今頃そちらに届くころだと聞きましたので……」

「えっと、えっと……。読んじゃいました……」
「む……」

 ほたか先輩がそう告げると、しばらく言葉が途絶えてしまった。
 五竜さんは配達を阻止しようとしたけれど、時すでに遅しという状況だったようだ。

「……そうですか。では仕方ありません。……ところで手紙にはなんと?」
「えっと……ね。『五竜さんから宣戦布告があって驚いたと思うけど、気にせず、仲良くお山に登りましょうね』……っていう内容だったよっ」
「そうですか……。では問題ありません」

 五竜さんは、つくしさんからの手紙の中身を把握していないようだった。
 さすがに手紙の内容をそのまま伝えることをためらったのか、ほたか先輩はあたりさわりのない内容だけを伝えている。
 五竜さんと部長のつくしさんは意思疎通がうまくいってないんだろうか?
 他校のことだけど、少しだけ心配になった。

「……まあ、勝つのはわたくしたちですので。八重垣高校の皆さまは、楽しい登山をお楽しみいただければ大丈夫ですよ」
「こらぁー、五竜! 勝手に勝利宣言してるんじゃねぇ!」

 いつの間にか受話器に耳を当てていた美嶺みれいが叫んだ。
 美嶺がほたか先輩から受話器を奪うと、私は会話の続きが気になって、再び受話器に耳を当てる。

「おやおや。その声は美嶺さんですね?」
「な……なんでアタシの名前を?」
「フードコートでましろさんがそう呼ばれていましたからね。……あなたがいるということは、百合カップルのましろさんも横においでなのですか?」
「百合……カップル……」

 やばい。
 そんな直球の言葉を投げかけたら、美嶺が倒れてしまう。
 案の定、美嶺は顔を真っ赤にしてふらつき始めた。

「美嶺、大丈夫っ?」
「大丈夫だ……。ちょっと座って休んどく」

 五竜さんは、千景さんに続いて美嶺までも倒してしまった……。
 なんて恐ろしい人なんだろう。

 私は美嶺から受話器を受け取り、耳を澄ます。

「ご……五竜さん。お久しぶりです……」
「ましろさん。……いえ、ましろ先生。声が聞けて光栄ですよ。大会が終わったら、作品の打ち合わせをしましょう」
「あぅぅ……」

 ここまで言われると悔しくなってくる。
 私はこぶしを強く握りしめた。

「勝った気になるのは早いですよ! うちのチームはみんなスゴイんです! ……く……首を洗って待っててください!」

 私は精一杯に強がって叫ぶ。
 そんな渾身 こんしんの宣言が少しは届いたのか、五竜さんは「ふむ」と興味を持つようにうなづいた。

「そうですね。あなた方の百合の力が楽しみです。……大会の会場でお会いましょう」

 その言葉を最後に、この通話は終わりを告げたのだった。


 つくしさんは五竜さんのことを『本当はとっても可愛くていい子』なんて書いてたけど、とてもじゃないけど信じられない。

(あぅぅ……。まるで悪の魔王みたい)

 五竜さんが魔王なら、会場となる山はさしずめ魔王城だ。
 そして私たちは、百合の花を胸に秘め、絆を力に変えて立ち向かう勇者一行というところだ。

 そう。
 これは最初から、私だけの勝負ではないのだ。
 松江国引高校がいかに強豪校だろうと、私の大切な人たちをあなどっている五竜さんには負けたくない。
 私はみんなのほうを振り返った。

「私たちの力を、見せつけてやりましょう!」

 みんなも、大きくうなづいてくれたのだった。
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