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第3章 レジスタンス

第17話 ガイドの帰還

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 次は、俺と同じ。施設からの仲間候補脱出補助。
 静流も当然参加。

 運転手だけが、暗視スコープを使い。
 真っ暗な中を、トラックで疾走する。

 適当なところで、二手に分かれ。攻撃を始める。

「おい。ぼけっと突っ立つな」
「へーい」

「誰か来た?」
「来るとしてもまだよ。自分のときを思い出して」
 言われて思い出す。
 道を探せとか、感じろとかそんなことを言われて、躊躇していたら吹っ飛ぶところっだったっけ?

「そうだな、大変だった」
「うん?あれ誰か来た」
 静流が、無線で人発見と警戒と言っている。

 誰かが叫ぶ。
「остановка」
 そうだ。ロシア語で止まれだよな。
 意味が分かって、止まれば撃つのだから。とんでもない話だ。

 対象は、手を上げながら走ってくる。
 おや?あいつは。

「やあ、久しぶり」
 そう声をかける。
「おふっ。おお。生きていたか」
 そう言って、なんとなく手が出たのだろう。
 腹に向かってくる、拳を掴み。体を崩して投げてしまった。

「久しぶりなのに、ひでえ」
 そう言いながら、息がまだ整っていない。
「すまない。つい手が出た」
 手を伸ばし助け起こす。

「何だ。誰かと思ったら、中根か。つまらん」
「静流。知り合いか?」
「ああまあ。潜入のプロだな」
「つれないな。俺とおまえの仲じゃないか」
 中根が嫌らしそうな目で、静流の全身を見ながら、そんなことを言う。
「知らんな。つまらないことを言うと、締めるよ」
「おお恐」

 そんなことを言っていたが、帰りのトラックに荷台で、あることないこと俺に言いふらし。あげく静流に締められ。本当に落ちた。

「あのな、こいつが言っていたのは、本当だが。任務なんだ」
「俺と一緒なんだな」
「あーうん。教育は必要だしな。もう、今はすべて断っている。から。うん」
 なぜか泣きそうな顔で、静流が言い訳をする。

「分かっているさ」
 そんな、ほのぼのムードだったが、運転席から合図が来る。

 赤外線スコープを取り出し、後方を見る。
「装甲車が一台」
「了解」
 静流が、中長距離用の対戦車ライフルのHEAT弾装填済みのライフルを取り出す。
 こいつは、弾頭が装甲に着弾すると、へばりつき内部で炸薬が爆発する。
 そして、その炸薬の爆発する威力で、後部に詰めた弾頭がさらに打ち込まれる特別構造をしている。
 だが、表面に力場的なシールドがあるのか止まらない。

「くそ。止まらない」
 静流がうめく。
「落ち着いて。奴らが止まれば、迎えに来るように運転手に言って」
 そう言って、荷台から飛び降りる。
「ちょ。ばか流生。流生~」

 向かってくる装甲車へと、全力で走り、相対する。
 向こうの速度は、未舗装路だし60~70km/hだろう。こちらも同じくらいで突っ込んでいく。

 多分向こうからは、人間が突っ込んできているのは、見えているはず。
 多分爆弾を抱いているか、そこらだと思っているのだろう。
 上部小銃が動き始める。

 マークされたか。

 気を使い、周辺にシールドを張り巡らす。
 3点バーストで発射される弾を、手の甲ではじき返す。
 どうだ。そろそろ、焦ったか?
 目前に迫ってきた俺を、躱そうとハンドルが切られる。
 左側を抜けようとする車体。
 位置的にフェンダーとドアの間。
 Aピラーの下辺りになったが、思いっきり気を込めて殴る。

 腰高な足回りがネックになったのか、横転して転がっていく。
「速度は、落ちていなかったからな。結構転がったな」
 一応横倒しで腹を出しているが、車体底のアンダーカバーに向け。力がパネルを撃ち抜くタイプのパンチ。鎧通しをお見舞いする。それでも30cm位は、車体が横滑りをする。
 これは離れた相手に打撃を通すことができる。古の技である。
 そして、車体はパタンと背面に倒れる。

 周囲を見回し、他にいないことを確認する。
「丁度裏返しになったし。しばらく起こせないだろう」

 空気に干渉して、風を巻き起こし、タイヤの跡を消していく。
 トラックの後ろに、一応ブラシがついているため、タイヤ跡はあまり残っていないが、念のためだ。
「最近完全に、人間離れしてきたな。忍術じゃなく魔法だな」

 目の前にやってくる、トラックの荷台に飛び乗る。

「怪我はない? 大丈夫?」
「大丈夫。最近。大分、力の使い方を覚えたし」
「そう。なら良いけれど。無茶しすぎよ」
 そう言って、寄り添ってくる。

「何だよ。そういう事か、ちょっと目を離した隙に盗られちまったか」
「何よ? あんたと付き合っていた覚えはないわよ」
「まあそうだが。そうか。俺は結構本気だったのだが」
「そりゃ、すまない」
「おっ。返す気になったのか?」
「それはない。それに百歩譲ってそうなっても、あんた。泣く羽目になるぞ」
「なっ。そんなにか」
 静流が大きく頷く。

 中根は、がっくりと手をつく。
「教えてくれ」
「やだよ。男を抱く趣味は無い」
 俺が茶化して言うと、中根もいやそうな顔をする。
「俺だっていやだよ。わずか1年半で。化け物め」

 そうして基地に戻り、出浦紡の変わり様を見て、さらに中根は驚くことになる。
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