ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

文字の大きさ
11 / 97
第二章 幼少期

第11話 思惑と困惑

しおりを挟む
 ヴィクトルは、馬車に揺られながら考える。

 自分を撃った雷は、スキルによる物では無い。
 スキルでの魔法は、当たれば死んでしまう。

 ヘルミーナが未熟だから?
 そんな事はない。
 誰にでも、等しく一定の力を与えるのがスキル。

 では自分が知らない、スキルの制御が伯爵家にある?
 各貴族家には、道場があり修行をしている者達がいる。
 だがそれは、スキルの効率的な使い方や、つなぎを研究して鍛錬をする。
 学園でそう習った。

 すべての祖であるラファエル=デルクセンが、強力ではあるが単調であったスキル。
 それを対人向けに使えるようにした。つまり、戦争のために効率的な運用を開発したのが始まりと言われている。
 彼と、彼の仲間達は、それにより小国の鎮圧と統合を行い。この大陸に平和と安寧を与えた。

 それ以降も、モンスターの氾濫を効率的に収め、対処するマニュアルもできている。

 すべてはスキル持ちの効率的運用により、兵の力を底上げをする為のもの。
 スキルは、素人を存在させない。
 初めて剣を持ったときから、鋭い剣技と魔法が使える。

 先生は言った。
 スキル無しが習得に何十年もかかるものを、初めての時から使えるのがスキル。スキル持ちは神に選ばれた者だと。

 だが、不意を突かれたとはいえ、ヘルミーナにしてやられ、夏休みを潰してしまうとは…… 不甲斐ない。
 これが先生の言っていた、若さ故の…… 慢心。
 常時、戦場の心であれ。気を抜くな。
 そう仰っていたのに。

 ヘルミーナ。覚えていろ……

 うだうだと考えながら、学園への道を帰っていく。
 だが、ヘルミーナは五歳。
 まだ手ほどきを受け始めて、一月ちょっと。
 冬休みには、手がつけられなくなっていることなど、彼には思い及ばなかった。

「スキルに頼るな。自力を鍛えて、攻撃の一瞬に使えばいい。剣技なら一と二。それ以上は隙になる」
「「「はい」」」

 道場では、その差が分かり、何とか文句を言っていた奴らも、全員従うようになっていた。
 特に、魔法については、その自由度とスキル使用時の上限を超えた威力が、皆の目を覚ました。
 
 誰でも使える、生成。
 つまり生活レベルの魔法は、単に火を発生。水を発生のように、念じることで現象となる。 
 それは誰でも知っている。

 だがその先、火球や槍、破裂などは、スキルに頼る。
 これらは、火水土風を基本として、光と闇が存在する。
 その上位に、氷や雷、神聖の光魔法があり、スキル持ちにも使える者と使えないものが居る。
 そして、摂理から外れた、空間や重力はスキルでは発動できない。いまでは、文献に残っている程度。

 そう、ヴィクトルは自身が喰らったのに、ヘルミーナが使った雷魔法を認めたくなかったのは、そんな理由もある。
 雷は、エリートしか使えない。

 見下すためには、妹が自分より優秀だと認めてはいけない。


 だが、修行の進んだ道場では、皆が使っていた。
 学園で言う所の、選ばれたエリートがおおよそ三十人。
 シンが連れてきた皆は、使えていたし、道場生二十人も何とか使え始めた。
 無論スキルと違うため、本人の素養により強弱はある。
 だがそれは、修行で何とかしていく。
 本当の意味で、鍛錬を日々行っていく。

 たまたま覗きに来た伯爵が、事実を知って驚くのはもう少し後になる。
 無論、アウロラは使えるようになっていた。
「ビリビリ最高」
 とか言って……

 だがまあ、空間や重力については、イメージがうまく出来ないようで習得ができていない。

 この世界の人にとって、空間とは何か重力とは何かを理解するには、ハードルが高すぎた。
「まあ仕方が無いか」
 使い方を間違えれば、この星すら切ってしまう危険な物。
 シン本人も、実はあの時に貰った新しい知識。
 昔には、物が落ちることは当然知っていたが、それが星により与えられる力だとは思いもよらなかった。
 物同士は引き合う。
 星は大きいから、その力が大きくなる。

 現実に宇宙があり、この星は丸く、太陽の周りを回っているのを理解しているのは、リッチだったアンラ=マンユの知識による。
 彼は言わば大賢者ともいえる。膨大な知識。この世の法則までを理解し絶望をした者。
 その知識の大部分も引き継いだシン。

 そう一度、短時間ではあるが死に、異世界の術式により生き返った。
 世の理から少しだけ外れたもの。
 そんな偶然はこれから先も、普通では起こらないだろう。
 そう、彼は特別。

 そんな所に、ドラゴンダンジョンの異変が伝えられる。

 シンが死んだあの事件。あれはやはり異変の前触れだったようだ。
 深層階から強力なモンスターが、這い上がってきた。
 しかも、状態異常が見られ、出会えばただ襲ってくる様だ。

 スラムの子が襲われたが、今回は無事退け、ギルドへと報告があった。
 それを聞いて、シンは理解する。
 スラムで指導と監視をしている二人。エミディオ一四歳と、パークス一二歳。
 彼らが仕事をしたのだろう。
 彼らなら、オーガクラスでも倒せるはずだ。

「そう言う事で、我が領にも援軍の要請があった。流石にシン君が隊長というのは駄目だが、ラウレンス男爵を隊長として派遣する。よろしいかねシン君」
「ええ。男爵も多少まともになりましたから。後は兵糧とか、荷運びに幾人か必要です」
 それを聞いて、驚く。
「無論、彼だけを派遣するわけではない」
「違うのですか?」
「ああ、部隊を編制して、派遣だ」
「なんて無駄な」
 シンはそう思ったが、現実はもっと無駄だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...