ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第二章 幼少期

第18話 結果的に手柄は……

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 ダンジョンを進みながら、魔法だけではなく、剣技に関してもシンがスキルを使ってないことを守人達は気が付く。

 そうそれは、スキル無しの者達に希望を与える。
「おい。俺あの子に弟子入りするぞ」
「あの男爵が、先生かな?」
「なら、貴族の道場なのか?」
「じゃあ、駄目じゃん……」
 などという無駄話が聞こえる。

 浅い階では、本格的に湧きが始まっていたようで、行きとは違い、エンカウント率は数秒に一回。
 かなり忙しい。

 だが……
 濃密な殺気がばら撒かれて、周囲からゴブリンなどが逃げていった。

「ちょっと来い」
 さっきの会話が聞こえていたシンは、少しだけ助言をする気になった様だ。
「えっ、おれ? はい」
 素直にやって来る、ブレトン。
 いつもの様に、額へピタッと掌があてられる。

「体内で、魔力の流れを感じるか?」
「ええと…… はい」
「そしたら、毎日心臓から末端へ。そして、必要なところから必要なところへ、体中を巡るように、意識によりコントロールをしろ。それで身体の強化が出来る。そして、それを錬り、外へ出せば魔法も使える。魔法は具体的にどうしたいのかを考えれば、現象として起こる。このようにな」
 振り向きざまに、暗闇に紫電が走る。

 立っていたのは、オークだった。

 次の瞬間には、消えてしまう。
 売れるから、シンが収納をした。

 それを見てメンバーは、シンの前に並ぶ。
「うわぁ」とか「ほへぇ」とか各自で反応は色々だが、やっている間に戻ってきたゴブリン達。右手は額なので、左手で先に教えたブレトン達に対峙をするように指図する。

「魔力の扱いと、その意味を考えながら戦ってみろ」
「はい」
 足に、魔力を集めてサポートをしたのだろう。
 ブレトンはゴブリン達を蹴り倒しながら、壁に向かって走っていった。

 他の者は、ホルヘがサポートをしながら、初攻撃魔法を撃ち込み喜んでいた。
 その様子を見て、リーディエが目を丸くする。

 そう、彼女達のアドバンテージ。
 このチームの中での優位性が、なくなった瞬間である。
 スキル持ちだから、少しくらいの我が儘も通してもらえた。
 だが、スキルが必要なくなり、これで横並びとなってしまった。
 いや、でも…… これに、スキルがあればきっと…… もっとすごくなるに違いない。
 かの女はそう考えた。

 マティルダは手を離されると、少し考えながら、走り始める。
 その動きは、いつもと全然違う。
 それを見ながら、リーディエは神に祈るように跪く。

 手を当てられ、胸から広がり始める流れ。
 それを感じ、それが末端へ。
 戻ってきて、胸から頭へ。
 その時、何かが降ってきたように、すっきり、はっきりとした頭と、変わる感じ方。
 なんとなく、目の前に居るちびっ子が、神のように思えた。

「うーん。分かる」
 そう言いながら、リーディエも壁に向かって突撃をする。

 だが、その簡単な指導で、すっかりと動きが変わり、魔法も使えだした皆。
 特に男達三人は、涙をこぼしながら魔法を使っているが、普段使っていないから器が小さい。
 いい加減頭痛がし始めているだろうが、嬉しそうだから良いか。
 そう…… 泣きながら、笑っている。
 撃ち尽くして、魔力が枯れて復活したら、多少器が大きくなる。
 ただ魔力が切れると、動けなくなるが……
 
 なんとなく。。喜んでくれるのが、嬉しいシンであった。
「うんうん。素直で良い子達じゃ」

 つい昔のイメージで、好々爺こうこうやな部分が表に出る。

 千年前、知っている人間で、そんな姿を見た者は少ない。
 大部分の人間は、彼のことを鬼神とか悪魔と呼んでいた。
 笑顔で、ドラゴンを殴り殺す姿は、肖像画として描かれていた。
 優しい姿を知っているのは、共に戦った仲間。ドミニク=ライナスかノエル=デュー辺りだろうか……

 案の定、動けなくなった男どもは、引きずられていく。
「助けてくれぇ。ゴブリンに食われるぅ」

「えっちょっと。何をしているのよ」

 仕方が無いとばかりに、シンが駆け寄り、彼らを救出をする。

 それから少し休憩をしながら、地上へと戻る。

 地上でも、なんとかしのぎきった様だ。
 早めにシンが原因を特定して対処したために、湧いたのが一階から五階までのモンスターだけだったので、なんとかなったようだ。

 裏へ回ると、流石にバーベキューは終わっていた。

「終わったかね」
「ええ。三十一階で、ヒュドラみたいなのが詰まっていました」
「三十一階?」
「ヒュドラ?」
 なぜか守人達まで驚いていた。

 そうして、湧きが収まったことが理解されたのだろう。入り口の方から高笑いと拍手が聞こえる。

「不本意だが、手柄はオイゲン=エルーガー侯爵のモノに、なってしまったな」
 男爵が、嫌そうな感じで、やれやれとぼやく。

 そうこの事は、結果的に少しだけ騒動の種となったが、問題ない。

 そうして、シュワード伯爵家には、噂を聞きつけた探索者達。
 それも、本気の者達がたまに修行に訪れるようになった。

 そして、ヘルミーナの所へ、オイゲン=エルーガー侯爵の息子と婚約をしないかと、随分上から目線な申し込みがあった。
 まあ貴族としては、向こうが上。だがしかし……
「嫌っ」
 ヘルミーナの一言で終わった。
 こっちではだが……

 だが、それを聞いた相手方の息子。
 オラガは、断りの返答を聞いて、考える。上級貴族からの申し込み。せっかくの申し出を断るとは…… 普通なら喜び、娘を差し出してこいよ。それが普通だろう。
 どうやら彼は、気に食わなかったようだ。

 せっかく私が、そう、伯爵家などの娘などに、婚姻の申し込みをしてあげたのに、断るとは。美しいと聞いたから格下に申し込んだ。
 断るとは、なんと無礼な。

 そう、オラガと言えば、銀級チーム、『愚者の集い』を引率として、ダンジョンの異常を発見した、我が儘野郎である。
 しかも、人の言うことを聞かない。

 学園で、そのろくでもないグループに、ヴィクトルが入っているらしく、話が出たらしい。
「力が無くバカですが、見目だけはよろしい妹がいます」
「ほう、それは良いな。妾として貰おう。見せびらかすには従順なほうが良い」
 全く迷惑な話だ。

 そして、時が流れ。ヘルミーナが七歳になる。
 学園へ入学するにあたり、この事が気になり、伯爵は悩む。
 今のヘルミーナは、多少の心得がある。
 そこらの、スキルを持っているだけの者には負けやしない。

 実際、この二年の間、帰ってくる度にヴィクトルは焼かれていた。

 だがしかし、ヘルミーナを捕らえるために、百人二百人とそろえてこられるとまずい。そこまでする者が居るかどうかは不明だが、伯爵は真面目にそう考えてしまった。

「助けてシン君」
 そう言って、娘の安全のために、シンを従者としてつけようとしたが、平民ではまずい。
 関わりのある貴族に養子にしてくれと申し込むが、スキルを持っていないものを養子にするのは、貴族として問題ありと親族からもいわれてしまい諦める。
 そう、無能者を養子など、隠し子なのかと勘ぐられる事になる。

 さらに学園からは、貴族でもない平民。それも男を、たとえ従者だろうが、女子宿舎へ立ち入らせることは出来ないと断られる。
 だが伯爵は諦めない。
 かれは頑張り、シンを清掃員として、なんとか住み込みで送り込むことができた。

 そうして、秋から学院へ通うことになったヘルミーナお嬢様と、シン。
 はてさて、どうなることか……
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