ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

文字の大きさ
22 / 97
第三章 初等部

第22話 学園案内。そして定番……

しおりを挟む
「あー。偉い目にあった」
 マッテイスに校舎を紹介されながら、施錠をして回る。

「自業自得というモノじゃ。愚か者め」
「そ…… そんな言い方はないでしょう。誰のせいですか?」
「何じゃ? あれは、わしのせいか?」
 意地悪く聞いてみる。

「いえ。すみません」
 そう答えながら、こやつは肩を落として元気がなさそうに、歩いて行く。
 学園は、建物は思ったより多く、広かった。

 北側に王都へ続く街道があり、北側が正門となっている。

 正門を入って、西側に大きなグランドがあり、東に初等部の建物、そして初等と中等の女子寮と続く。
 その南側。グランドの東側初等部の建物に並んで教官の居る管理棟。そして、奥の建物は食堂や浴場がある建物。
 西側のグランドが終わり、雨天練習場兼魔法演習場が見えてくる。
 そして、練習場の東に中等部、その東側奥には初等と中等の男子寮が建っている。
 ここまでの建物は、南北に長い。

 一番南側には、東西に長い、高等部用の建物が二棟。
 西側の建物に、講義棟並びに、研究室。
 東側に寮や食堂が、ひとまとめになった建物がある。
 高等部になると、女子はほとんどいないため、寮は階で、男女が別れているようだ。
 そう…… 高等部は、学校と言うよりも、軍や騎士団の基礎訓練施設としての意味合いが強くなる。

 中等部が終わり、高等教育の始まる十五歳から二十歳までになると、女子はほとんど親元に帰り、嫁入り修行が始まる。

 そして、わしらが管理棟から中等部棟へと渡ってくると、左手に、魔法演習場が見えてくる。
 そして、学生はいないはずなのに、火系統の魔法が発する明かりが見える。
「ちっ」
 マッテイスが、嫌そうな顔をする。

「中等部の、編入組が虐められているのか?」
 十二歳で、『判定の儀』を受けて貴族に引き取られた者達は、新学期に中等部の三年生として入ってくる。『判定の儀』から三ヶ月程度の作法勉強とダンスの基礎を詰め込まれ、いきなり学園に放り込まれる。
 新貴族であり、何も出来ない中途組は、格好の餌食だ。

「いくぞ」
 気合いを入れると、マッテイスはそう言って演習場へ急ぐ。
 だが、なぜか叫び声を上げている人数の方が多い?
「何だこりゃ? おおい。もう閉館の時間だ。出て行ってくれ」
 マッテイスが声をかける。

「はーい。先輩方。ご指導ありがとうございました」
 ニヤニヤしながら、意地悪そうにそう言って、寮の方へ戻ろうとした男の子。
 だが、シンと目が合う。

「おや。しーん君じゃないかぁ。急に姿を消すから淋しかったぜぇ。まさか無能のお前が貴族に引き取られるとはなあ」
 その男が、なれなれしく声をかけてくる。

「デューラー」
「おっと俺は、此処の学生様だ。スキルを得てなあ。お前は、その格好。労働大変だなあ。御貴族様に捨てられちまったのか? ああん?」
 ニヤニヤと、嫌らしい笑みを浮かべながら聞いてくる。

「貴族の子弟になったのなら、それなりの行動をしなさいと習っていないのか?」
 横から、マッテイスが声をかける。

「ああ。すみませんね。何せなったばかりなので。先ほど先輩にも言われたところなのに。いやあ。貴族も面倒だ。オルガ=シュゴーデンに迷惑をかけると大変だから気を付けなくては。それじゃあな。シン。また、昔みたいに遊ぼうぜぇ」
 そう言って奴は、ぴらぴらと手を振って帰り始めた。

「知り合いか?」
 去って行く、デューラーを見ながら、マッテイスが聞いてくる。
「記憶が戻る前に、わしを虐めていた連中の一人だな。一度ぶちのめしておとなしくしていたが…… そうか、侯爵家が後ろ盾となったから、わしが手を出せないと判断をしたのか?」

 そう思ったが、少し違ったようだ。

「畜生あいつ。スキル無しで魔法を使いやがる」
「ああ、斬りかかってきながら、顔に向かって火球を放ってきた。一体どうやっているんだ?」
 やられていたガキども。
 もとは、不慣れな奴を虐めようとして返り討ちに遭ったようだから、治療もしないが、気になることを言うじゃないか…… エミディオやパークスはあいつのことを知っているから、教えるはずはない。

 だが、専用の道場もないスラムでの修行。覗き見て盗んだか?
 一度見に行った方が良いかもしれんな。
 素行の悪い奴らが、覚えたとなれば面倒じゃ。

「ほら、早く寮に帰りなさい」
「判っているよ。お前清掃員だよな。口の利き方に気を付けろ」
 最後の足掻きのように、言い放って行った。

「たく……」
 だが、文句を言いながら、マッテイスも彼らが言っていたことに気が付いたようだ。
「奴にも教えたのか?」
「いや教える相手は、選別をしていた。信じられんが、見て覚えたようじゃな」
「下手に吹聴されると面倒だな。こちらでも監視をつけておこう」
 そう言いながら、彼はもっと大きい面倒。そう、目の前に居る騒動の種。
 この大物をどうするか、まだ結論が出せずにいた。


 その頃。
 女子寮の自室で、ヘルミーナは笑いをこらえていた。
「おおっ、あそこに潜った。スフレイヴ早く捕まえて……」
 それは、モニカの寝言。

 勤めて、お嬢さんの雰囲気を出していたが、寝始めたと思ったら、なかなか活発な生活をしていたのを全暴露状態。
「男の子達やお友達と、健康的な生活をなさっていたのね」
 これから共に生活をするモニカ。
 その素顔を垣間見て、少し安心をしたヘルミーナだった。

「もう少しすれば、夕食の時間。起こさないといけないですわね。シンお兄様は、どうなさっているかしら?」
 ふと顔を上げ、ヘルミーナが覗く窓から見える景色は、学園都市の東側。
 そこには、夕日に染まる、見慣れない町並みが広がっていた……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...