ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第三章 初等部

第46話 新年

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 地上へ出て、わらわらと残っているモンスター達を退治する。
 探索者達や、駆けつけたのか兵達が掃討を行っていたため、大規模魔法では無く、普通に剣で倒していく。

 それでも、小さな子どもが行うそれとは違い、十分に目立つことになる。

「おいあれ、何者だ?」
「さあ、探索者じゃ無いだろ。あの年じゃ見習いにもなれん」
 こそこそと逃げていたが、もうモンスターよりも人の方が多い。
 どうしたって、この地獄のような所で、子どもは目立つ。

 一通り掃討して、剣を収納し、とぼとぼと歩く。
 へたれなマッテイスが、追いついてこないからだ。

「おおい。チビ。どうしたこんな所で」
 人の悪そうな探索者に見つかる。

「えっと、モンスターに追われて」
 それだけ言うと勘違いをしてくれた。
 どう見たって、普通の平民。
 武装などしていない格好。
 そして何より子どもだ。

「もう仕事は終わった。もうすぐ暗くなるから家へ来い」
「ええと。多分大丈夫だから」
「なんだよ。ガキが遠慮すんな」
 そこへ女の人がやって来る。

「お兄ちゃん。その子どうしたの?」
 お兄ちゃんだと。シンは衝撃を受ける。

「モンスターに追われて迷子のようだ」
「ふーん。平民ね。かわいい。家が近くなのおいで。暗くなるとモンスターも獣も出るわよ」
 彼女はしゃがみ、目線を合わせて話しかけてくる。

 しかし、お兄ちゃん?
 こいつと、兄妹?
 ああ、父親でも違うのか?
 ひょっとすると母親も?
 そんな失礼なことを考える。

 兄の方は、どう見たってオークだ。
 妹は、美人ではないが、かわいい感じで悪くない。

「おおい、シン。まってくれ」
 ヘタレが来た。

「なんだあんた。この子の保護者か。もう暗くなる。あんたも来い」
 疲れていたマッテイスは、あっさりと受け入れてしまう。

 兄妹は近くの村。
 入り口付近の掘っ立て小屋に住み、守衛みたいな事をしつつ探索者をしている様だ。

 過去に村は、大規模盗賊により襲われたようで、遠征から帰ってくると、知っている者が居なくなっていたそうだ。

 たった数ヶ月の事。
 親の遺体もないまま、墓だけを造ったそうだ。

 兄は、ダリル二十歳位。
 妹は、イーダで、十七歳位。

 小屋の中は、十畳ほど。
 床もなく土間。
 殺風景で、適当に造ったテーブルが一つ。
 水瓶が座る台所。
 床より少し高いベッドが一つと、その上に敷かれた藁。
 二人で抱き合ってねてるのか?
 一つしかないベッドに、余計なことを考える。

 だがまあ、聞けば妹は怖がりで、一人だと泣くのだそうだ。
 そんな物は、何時の話か知らないが、話の流れで子どもは作るなと言っておく。

 そう、家に入ったが、食料もまともになく、この暮れに超貧乏で、遠征用の携帯食を囓っていた。

 誘ってくれた気遣いは嬉しいが、この状態を見ると、こちらが気を使ってしまう。
 そこでシンが、開き直る。
「まあ食え」
 材料を出しつつ料理をふるまい、マッテイスがごねるため、酒を出す。

 そして、泣きながら飲み食いする兄妹と、色々話をした。
 なかなか、厳しい生活のようだ。

 酒が進んでくると、お前も飲めとか言い出すオーク。流石のシンも体に悪そうだから、酒を我慢をした。

 翌朝、二人が起きると、シン達の姿は無く、朝食と数枚の金貨が積んであった。

 夜半になってからさらけ出した、シンの迫力と物言い。そして説教。
 きっと子どもの姿を取った神様だと納得をして、その年は幸せな年越しをした様だ。
 そして数年後、妹にそっと教えた魔力操作により、彼らは大成する事になる。
 

「うう寒い。もう掃除するところなどないだろ」
 学園内は、シンの魔法により、ピカピカになっていた。
「一応明日は、年越しの式典をする様だ。その準備があると班長のアビントンが言っていただろうが」
「えー」
 そういえばこいつ、わしが来るまで、仕事が出来ないろくでなしだったな。素だったのか。
 
 そう学園でも、一応新年のイベントがある。
 ささやかにふるまわれるごちそうは、平民の職員にとって嬉しい物らしい。

 こうしてゆったりと新年を迎えた学園。


 その頃、学園都市アルフィオから遠く離れた武の名門貴族シュワード伯爵家。
 ここでも例年通り、当主ロナルド=シュワードは例年通り、代官などを招いて年越しの宴を執り行っていた。

 例年と違うのは、七歳となった娘ヘルミーナが会場に現れ、社交界へとデビューをしたこと。

 奥方のアウロラと共に会場に現れたが、薄青いドレスを纏い、にこりともせずただ周りに冷気を放っていた。

 同世代の男の子が、親にせかされダンスに誘えと言われるが、皆尻込みをして、彼女に近付くことは出来なかった。

 数年ぶりに、姿を現した養子のヴィクトルは、なぜか彼女と目を合わそうともせず。父親をせかし、挨拶参りを始めようとする。
「ここは我が家。伯爵家当主は、挨拶に出向くのではなく迎えるのだ」
 そう言われて、彼は絶望的な顔をし、気が付けば体が細かに震えていた。

 この一件から、ヘルミーナが浮かべた笑みは、氷の微笑と噂が立つ。
「お嬢様、わたくしと踊っていただけますか?」
 無理矢理、誘いに来させられた子どもが一人。

 表情を変えなかったヘルミーナはそちらを一瞥し、愛想笑いを浮かべる。

 目は相手を射貫く様に冷たく、口元の口角だけが半月のようにつり上がる。
 その表情は、普通の子弟では太刀打ちできず、心を折る。
 折りまくる。

「御父様、駄目です。わたくしでは彼女をダンスには誘えません」
 そう言って泣き出してしまう。

 それは、シンには、絶対見せない姿。
 シンの前では、朗らかな小春日和のような笑みを浮かべ、猫のようにまとわりつく姿を見せる彼女。
 シンは、ヘルミーナの距離感とそんな姿に、悪い男に騙されたりいたずらをされることを、心配していた。

 男は、絶対女の本性を見る事が出来ないことを、親しい者だけが理解をしていた。
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