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第四章 中等部
第58話 女子会
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「今晩」
「ええ」
いつもの訓練。
その一角で激しい戦いが始まる。
そういえば、ローラとカミラは清掃員として採用。
いつの間にか、採用はシンに託されたようで、校長に人事権がなくなったそうだ。
「いつも綺麗にしていただきまして、ありがとうございます。わたくしめに、今日はどのようなご用命でございましょうか?」
そんな応対をされて、ビックリである。
「採用? それはすでに私の手を離れております。すべては、シン閣下のお好きなようになさればよろしいかと」
とまあ…… 言葉はあれだが、態度は棘がある。
そんな校長のことは良いとして、戦っているのは、ローラとヘルミーナ。
幾度目かの負けられない戦いらしい。
ただ容赦が無いから、終わるとヘルミーナは血だらけで倒れていたりする。
治療をすると、それはもう嬉しそうに「お兄様」などと言って、じゃれてくるからシンは少し不安だった。
だが二人の戦いのおかげで、周りの者達も攻守の無駄が減った。
魔素の魔力への変換と放出。
それは、学園で習う見え見えの物でも、大仰な物でも無く、ただ相手を倒す。
そのために、ガードも必要最小限で身を守る。
そんなギリギリの戦い。
学園では、一度ヘルミーナ達が圧倒的な強さで優勝してから、無差別級の個人対抗戦は開催されなくなった。
あれは元々各学年の優勝者を戦わせ、年功序列を教え込む意図があった。
同スキルなら、力や体躯に勝る者が強い。
―― だが、その年は違った……
ヘルミーナや、クリスティアーノ。
身内と、その他の者とは全く違う競技になった。
一〇メートルの距離で立ち、挨拶から始めの声。
その瞬間。
そう、スキル名など言わせる暇など与えない圧倒的なスピード。
すべての試合が、その一太刀で終わってしまった。
ヘルミーナとクリスティアーノの戦いのみが、戦いらしい戦いとなった。
だがそれを見た王国上層部は、危機感を覚える。
「あんな物、勝てる人間など存在しない」
そうスキルとは違い、整然と順番に剣技や魔法が発せられない。
すべてが並列に運用される。
圧倒的な強さ……
それも、立場が弱く嫁に行くしかないとされる女子同士の試合。
いや、クリスティアーノは男だが、勘違いをされた。
そしてまあ、ヘルミーナが学園の常識を覆して総合優勝をした。
それ以降、なぜか大会は開催されていない。
まあ、ヘルミーナのおかげで、武の勇シュワード伯爵家の名声は王国中に広がったのだが。
そうして、新たに加わった仲間?
姉妹とのことだが、妹とされるローラの強さは、人間のそれではなかった。
これは少し天狗になっていた、皆の鼻をへし折るにはよかった。
シン以外にも強き者が居る。
それ以降、定期的に会議が開催されることになる。
「お茶を飲んだり、えー、まあ、お茶会ですわね」
そう言って御茶を濁していたヘルミーナだったが、夜中に、見回りの教官が猛獣に狙われているかの殺気を感じて、部屋へと近づけないようだ。
あそこの部屋には、何かがいる。
半ば伝説と化していくことになる。
いやまあ。本人達は、本当に反省会をしていただけだが、悔しさが周囲に撒き散らかされると、常人では耐えられないことになる様だ。
上下左右の部屋。
住人の生徒達は、化け物に追いかけられる夢を見るとか……
そして……
他の女子会。
「困りましたわね。良さそうな方々は許嫁が当然のようにおられて……」
「そうですわ。先日の夏休みにも、誰かいい男がいれば連れてこい。などと……」
そう中等部になれば、後がもう無い。
この四年間が過ぎれば、普通令嬢達は実家へと帰る。
低ランクの貴族は、花嫁修業として、上位貴族の召使いなどに出されることもあるが、そこの坊ちゃんに傷物にされ闇に葬られるなどと言う事も……
無論伝説的な風聞だが、ありえる話。
傷物にしたのに、しらばっくれた上で、密通ということで追い出されることもある。
「どこかに、貴族で鬱陶しい血縁が無い、自由人なお方でもいればよろしいのに…… 無論高位で……」
「そうですわね。そのお方がよくても、家の繋がりという物は煩わしい……」
「では皆さん、平民からスキル持ちになった方を考えておられますの?」
そう聞いた瞬間、場の空気が変わる。
「あのような、猿など…… いいえ。私ったら、はしたないことを。あの野蛮人…… 」
言い換えても、評価は変わらないようだ。
選定の義で成り上がった者は、どうしたって天狗が多い。
そのような者達は、苦労した分、なぜか見下せる者を探すきらいがある。
『女は力なく、貧弱。黙って端を歩け』
そんな言葉を普通に使う。
そう、たたき込まれた、貴族の上下関係。
養子や後ろ盾となった貴族の力関係が、自分にも及ぶ。
それは、初等部でいやというほど、たたき込まれた。
スキルを得て、持てはやされるのは一瞬。ここに居る者は全員そうだ。
行き場が無い心は、弱き者を探し虐めようと働く。
それが、「女のくせに」と言う言葉となる。
一部の女子は近寄ってはいけないとか、例外はあるようだが、まだまだいるのだ。
かぶり物では無い、本当にか弱い女子達は……
学園の方も、いじめとかの事実が分かれば、親がやって来て被害者の子どもをさっさと退学させるため放置中。
そう傷物になどになれば、政治的利用も出来ない。
貴族の女子には、意外と辛い世界だった。
そう、あくまでも一部を除いて……
「そう、そんな事を言う男がいるの? このモニカ様が教育をしよう。連れて来な」
軽はずみな行動は、鬼の尻尾を踏んでしまうことになる。
貴族の姉弟はまだ爵位など持っていない。
貴族の子弟と言うだけ。
本物はすでに貴族位を持っている。
貴族同士の問題には、こじれた場合、貴族を何とか整理しようとしている王が強引に首を突っ込んでくる。
そう、道理を知らない子ども達は、手を出してしまう。
「ええ」
いつもの訓練。
その一角で激しい戦いが始まる。
そういえば、ローラとカミラは清掃員として採用。
いつの間にか、採用はシンに託されたようで、校長に人事権がなくなったそうだ。
「いつも綺麗にしていただきまして、ありがとうございます。わたくしめに、今日はどのようなご用命でございましょうか?」
そんな応対をされて、ビックリである。
「採用? それはすでに私の手を離れております。すべては、シン閣下のお好きなようになさればよろしいかと」
とまあ…… 言葉はあれだが、態度は棘がある。
そんな校長のことは良いとして、戦っているのは、ローラとヘルミーナ。
幾度目かの負けられない戦いらしい。
ただ容赦が無いから、終わるとヘルミーナは血だらけで倒れていたりする。
治療をすると、それはもう嬉しそうに「お兄様」などと言って、じゃれてくるからシンは少し不安だった。
だが二人の戦いのおかげで、周りの者達も攻守の無駄が減った。
魔素の魔力への変換と放出。
それは、学園で習う見え見えの物でも、大仰な物でも無く、ただ相手を倒す。
そのために、ガードも必要最小限で身を守る。
そんなギリギリの戦い。
学園では、一度ヘルミーナ達が圧倒的な強さで優勝してから、無差別級の個人対抗戦は開催されなくなった。
あれは元々各学年の優勝者を戦わせ、年功序列を教え込む意図があった。
同スキルなら、力や体躯に勝る者が強い。
―― だが、その年は違った……
ヘルミーナや、クリスティアーノ。
身内と、その他の者とは全く違う競技になった。
一〇メートルの距離で立ち、挨拶から始めの声。
その瞬間。
そう、スキル名など言わせる暇など与えない圧倒的なスピード。
すべての試合が、その一太刀で終わってしまった。
ヘルミーナとクリスティアーノの戦いのみが、戦いらしい戦いとなった。
だがそれを見た王国上層部は、危機感を覚える。
「あんな物、勝てる人間など存在しない」
そうスキルとは違い、整然と順番に剣技や魔法が発せられない。
すべてが並列に運用される。
圧倒的な強さ……
それも、立場が弱く嫁に行くしかないとされる女子同士の試合。
いや、クリスティアーノは男だが、勘違いをされた。
そしてまあ、ヘルミーナが学園の常識を覆して総合優勝をした。
それ以降、なぜか大会は開催されていない。
まあ、ヘルミーナのおかげで、武の勇シュワード伯爵家の名声は王国中に広がったのだが。
そうして、新たに加わった仲間?
姉妹とのことだが、妹とされるローラの強さは、人間のそれではなかった。
これは少し天狗になっていた、皆の鼻をへし折るにはよかった。
シン以外にも強き者が居る。
それ以降、定期的に会議が開催されることになる。
「お茶を飲んだり、えー、まあ、お茶会ですわね」
そう言って御茶を濁していたヘルミーナだったが、夜中に、見回りの教官が猛獣に狙われているかの殺気を感じて、部屋へと近づけないようだ。
あそこの部屋には、何かがいる。
半ば伝説と化していくことになる。
いやまあ。本人達は、本当に反省会をしていただけだが、悔しさが周囲に撒き散らかされると、常人では耐えられないことになる様だ。
上下左右の部屋。
住人の生徒達は、化け物に追いかけられる夢を見るとか……
そして……
他の女子会。
「困りましたわね。良さそうな方々は許嫁が当然のようにおられて……」
「そうですわ。先日の夏休みにも、誰かいい男がいれば連れてこい。などと……」
そう中等部になれば、後がもう無い。
この四年間が過ぎれば、普通令嬢達は実家へと帰る。
低ランクの貴族は、花嫁修業として、上位貴族の召使いなどに出されることもあるが、そこの坊ちゃんに傷物にされ闇に葬られるなどと言う事も……
無論伝説的な風聞だが、ありえる話。
傷物にしたのに、しらばっくれた上で、密通ということで追い出されることもある。
「どこかに、貴族で鬱陶しい血縁が無い、自由人なお方でもいればよろしいのに…… 無論高位で……」
「そうですわね。そのお方がよくても、家の繋がりという物は煩わしい……」
「では皆さん、平民からスキル持ちになった方を考えておられますの?」
そう聞いた瞬間、場の空気が変わる。
「あのような、猿など…… いいえ。私ったら、はしたないことを。あの野蛮人…… 」
言い換えても、評価は変わらないようだ。
選定の義で成り上がった者は、どうしたって天狗が多い。
そのような者達は、苦労した分、なぜか見下せる者を探すきらいがある。
『女は力なく、貧弱。黙って端を歩け』
そんな言葉を普通に使う。
そう、たたき込まれた、貴族の上下関係。
養子や後ろ盾となった貴族の力関係が、自分にも及ぶ。
それは、初等部でいやというほど、たたき込まれた。
スキルを得て、持てはやされるのは一瞬。ここに居る者は全員そうだ。
行き場が無い心は、弱き者を探し虐めようと働く。
それが、「女のくせに」と言う言葉となる。
一部の女子は近寄ってはいけないとか、例外はあるようだが、まだまだいるのだ。
かぶり物では無い、本当にか弱い女子達は……
学園の方も、いじめとかの事実が分かれば、親がやって来て被害者の子どもをさっさと退学させるため放置中。
そう傷物になどになれば、政治的利用も出来ない。
貴族の女子には、意外と辛い世界だった。
そう、あくまでも一部を除いて……
「そう、そんな事を言う男がいるの? このモニカ様が教育をしよう。連れて来な」
軽はずみな行動は、鬼の尻尾を踏んでしまうことになる。
貴族の姉弟はまだ爵位など持っていない。
貴族の子弟と言うだけ。
本物はすでに貴族位を持っている。
貴族同士の問題には、こじれた場合、貴族を何とか整理しようとしている王が強引に首を突っ込んでくる。
そう、道理を知らない子ども達は、手を出してしまう。
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