ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第四章 中等部

第68話 コンラート王国軍

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 彼は悩む。
 やっと到着をすれば、戦闘は終わり、後は掃討と片付け。
 何処まで行ってもモンスターの死体が転がっている。

 中には巨大なものまで。
「こんなものが居たのか」
 転がっているオルトロスを見て、彼は悩む。

 そう、この地で爆上がりしているコンラート王国軍の評価。
「あの凶悪な双頭のモンスター。コンラート王国軍の術士があっという間に倒したぞ」
「ああ。強えよなぁ」
 こんなものを、簡単に倒した?

 気が付けば、独断専行をしていたシュワード伯爵家とビョルク伯爵家。
 結果から見ると、両家の隊がこれを成したのだろう。
 コンラート王国軍遠征隊大将、アルバート=アヴァロン侯爵はこの結果に驚く。

 この地を治める貴族、クルバトフ侯爵への顔つなぎと救援物資の移譲は行え感謝された。それだけで、功績は十分ともいえる。

 だが…… である。

「なあ、フィリベール侯爵」
 副将である彼に問いかける。
「なんでしょう?」
「我らが先について、これが成せたと思えるか?」
「いやあ無理でしょう。先行の両隊、ほとんど、けが人もいなかったそうです」
「なんと……」
「両家と、なぜか混ざってきた特別隊。彼らは、主に学生ですが、王が気にしておられたので、何か意向ある様です。下手に考えない方がよろしいかと」
「ぬっ。そうなのか」
「ええ」

 とにかく爆上がりの評価の元、できることをして彼らは過ごした。

 そしてその報告と、別系統からの情報だが、ダンジョンの存在が後日イグナーツ王へと報告された。

 無論、確認されたダンジョンと、その内部についてはエンフィールド王国へも報告がされ、王である王イングヴァルは、宰相と共にコンラート王国軍の恐ろしさを知った。

 一月ほど滞在をして、彼らは帰国の途についた。

 拍手と声援が巻き起こり彼らは、少しむずがゆいものを感じながら出立。
 道中フィリップ商国や、アルノシュト王国を通ることになるが、行きと違い、絡まれることなく道中を進む。

 往路は、やはり色々とあった。
 先触れが連絡をしているはずなのに、なんの思惑か邪魔をされて足止めを喰らった。
 ただ、目的地へ向かう途中、他国で騒動を起こせないため、おとなしくしたが。

 帰りは、コンラート王国軍を見ると、怒らせてはいけない雰囲気が周りから漂う。
 その中を隊列を組み進む。
 それは、結構な快感を与えたらしく、終始侯爵の鼻の穴が広がっていたようだ。

 そんな帰る道中、シンは周辺探査を行いながら、その地を流れる力。
 つまりエネルギーの流れを感じていた。

 フィリップ商国のダンジョンから噴き出す魔素。
 それは大気を巡り、やがて地に戻る。
 それはまるで雨のよう。

 集まったものは流れとなり、地の下を竜脈となり流れる。
「ふむ。おもしろいものだ」
 なぜか知識としては知っていた。

 だがそれを、実際に感じることができはじめた。


「アビントン班長。長らくすまなかった」
 シン達は、一応お土産を渡す。

「なんだこれは?」
「ゴブリンの棍棒。以外と使えるぜ」
 彼に渡しながら、マッテイスが笑う。

「ふざけんな。もっと良いものは無いのか?」
「良いものというのはこれか?」
 出てきたのは、酒。乳酒にゅうしゅと言って、山羊の乳で作られたもので、名産というわけでは無いが、みんなが飲んでいた。
 ただ独特の臭みと、酸っぱい味は、熟成と共にひどくなる。
 革袋に入れ、長旅を経た袋は、気のせいかパンパンになっていた。

 それに気が付いたシン達は下がるが、マッテイスとアビントンは気が付いていないようだ。
 そして、まさに限界が来て破裂する。

 周囲に充満する酸っぱい匂い。
 そしてアルコールは気化する。
「うええっ。すっぺぇ」
「おい。くせえぞなんとかしろ」
 シンは黙って、浄化を行う。

 それはそれで終わったと思っていた。
 周囲の匂いは大したことが無かったはずだが、酒など飲み慣れない子ども達。
 少し影響を受けたようだ。

「なぜでしょう? ふわふわして気持ちが良いですわ」
 ふふふっと、ヘルミーナはご機嫌になっていく。
 そして、モニカが予想外にふにゃふにゃになっていく。

「しーん。にゃ。ふへっ」
「ちょっと、モニカ様、いえモニカ離れなさいよ。シンも動いて」
「ああいい。すぐ冷めるだろう」
 酔っ払い、ふにゃふにゃとシンへと絡みつくモニカ。

 あげく、シンの膝の上へ座り込み、猫のように丸まりじゃれつく。
「もう。モニカ」
 だが、モニカはふにゃふにゃと言っているだけ。

 代わりに、頭が冷めてくるヘルミーナは自身の体を恨む。
 どうしてわたくしの体は…… モニカが羨ましい。
 ヘルミーナは、じゃれつくモニカをじっと見る。

 その周囲でも、みんなが酔っ払い、ふにゃふにゃしていたが、なぜかシンは浄化をしなかった。
 だが、その時。彼は風を操作して、アルコール分をマッテイス達の周囲に集めることに一生懸命。そう、その操作がおもしろくて、周りをほったらかしにした。

 この実験で、後に酸素を集めて一気に燃焼させる技を彼は覚える。
 そう微粒子の可燃物質と、酸素を混ぜ火を点ける。

 それだけで、この後、数ヶ月後に発生をしたモンスターの氾濫は消滅をした。
 その威力は、王国の魔道士達を震撼させることになる。
 彼らは、その原理を理解できなかったために、あれ自体が個人の魔法だと思ってしまった。
 そうスキルの限界を彼は超えた。
 その事実が、衝撃だった。

 国の中央で、スキル至上主義を唱える者達に一石を投じる事実。
 見た者達は、認めなくてはならなかった。
 それだけ、圧倒的な力。
 スキルに拘ると、弱者でしかいられない。
 それは、静かに王国内に広がっていく。


 霧のように細かな埃がモンスターたちの周囲に舞い、そこに酸化促進の酸素が高濃度で撒かれる。弱いものはこれだけで死ぬ。
 そう酸素は毒なのだ。

 そして、火が発生。
 その威力は、遠く離れた王国軍の陣すら、テントを吹き飛ばした。
 周囲にあった立木も、その爆心から外周に向けて幾本も倒れていた。
 
 シンは、自分でやって威力に驚いていた。
 耳がキーンと鳴る中、加減することを心に誓う。

「あの子どもがやったのか?」
 王国魔術師団たちが、呆然とする。

「はっ? すまぬ。耳が聞こえん」
 そして団員達は双方で、聞こえないをコントのように繰り返したとか……
 攻撃をするため、他の者より近くにいたのが災いをした様だ。
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