ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第四章 中等部

第72話 数は力

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 システムは考える。
 個体での強さは限界がある。
 ならば、数でいこう。

 ミノタウルス。
 オーガよりもさらに強力な個体。
 人型最強とも言える。

 彼も活性化された魔力の影響で角が光っている。
 そして、そんな個体が、いきなり五十ほども発生。
 半数は、戦斧を装備。
 半数は鉄棒を装備。

 隊列を組み、彼らは地上を目指し始める。
 だがそれは、目立つ。すぐにギルドへ報告が入る。
「五十体だと……」
 ギルドマスターは、地上へ出たときの危険を考えて領主へと報告。
 当然それは、王家にまで報告が上がる。

「よし。両家へ連絡。対応をしてもらおう」
「まさか、両家とは、シュワード伯爵家とビョルク伯爵家でしょうか?」
「当然だよ。他に対応できる力があるのか?」
「ぐっ」
 宰相は、そう聞かれて口ごもる。

 スキルを持った者達。
 最近のモンスター達は、強くなり、スキルの運用を苦心をしても倒せなくなってきていた。
 かえって、ダンジョン周囲にいる探索者の方が強いくらいだ。

 スキルの無い彼らが、信じられない速さで動き、信じられない力を見せる。
 それは、いくつかの氾濫の中で、報告が上がってきている。

「宰相様。我が軍が苦労していた個体を、探索者が雑魚扱いをしております」
 そんな報告は、月を重ねるにつれ、明確に力の差が広がってきている。

 そしてその裏では、話題の両家による指導が影響をしている。
 秘伝とも言える情報を、彼らは安く教えている。

 その意図はどこにあるのか分からない。
 だがその影響は、大きくなるばかり。
 宰相は独自に両家に対して間者を放っている。

 そして、その内容。
「これは基本の基本。まず覚えてください」
 そう言って教えられた技術は、王家の禁書。
 継承者しか知らないはずの技術であることが判っている。

 なぜ宰相がそんな重要な事を知っているのか?
 それは、王が嬉しそうにしゃべったから。
「民に広がり秘密は秘密では無くなった。そうスキルは至上では無いよ」
 それを聞き、愕然とする宰相。

「王様、それは真で?」
「ああ王家の禁書だが、はっきり書いてある。世間の不満を抑えるための仕組み。つまり飴としてスキル優遇を作った。本来は、スキルなど初心者向けの補助なのさ」
 それをきいて愕然とするのは、宰相も同じ。
 スキル至上は、そこまで一般的に広がっていた。

「スキルを持った者が、率先的にモンスターを狩る。それを見てその他の者は訓練をする。十年ほど修行をすれば、スキルの優位性はなくなる。今はスキルのせいで無能は修行をしない、させない風潮だけどね。スキル持ちだって、運用方法の訓練をするが、地道な特訓は行わないだろ。それはね、王以外の弱体化を狙って作られた仕組み。シン殿が…… ラファエル=デルクセン殿が記憶を持って、今の時代に蘇ったことで、すべてが嘘だとばれてしまった。本当なら人はもっと強いんだよ」
 そう言ってヘラヘラと笑っていた。

 それは、人々を管理しやすくするために、数百年かけて作られた人類弱体化計画。
 一部の為政者のためだけに、人類全体を危険にする計画。

 ダンジョン異常から始まり、モンスターが変化をして強くなり始めた。
「数は力だからね。一部の人が得する時代は終わり、人類全体が強くならないといけない時代が来たんだ。全員が滅べば、利権も何もなくなる。国を強くするんだ」
 王はそう語った。

「では、両家に依頼を出します」

 そして派遣をされた、両家。
 当然競うように凶悪なミノタウルスを退治し始める。

 特殊個体だったはず。
 こいつらは、金級でも苦労をしていた。

 そんなモンスターを、彼らは簡単に屠っていく。
 シンが教えて五年以上。
 その教えによる門下生強化は、いま、しっかりと実を結んでいる。

 その点、ビョルク伯爵家は少し劣る。
「ええい。個で相手をするな。囲めえぇ」
 少しお下品だが、怒声が飛び交う。

 対して、シュワード伯爵家は長年錬られた訓練があり、相手を見て対応が変化をする。
 叫ばなくとも、自然に形は変化をする。

 第一弾、目潰し。
 第二弾、足止め。
 第三弾、急所攻撃。

 その流れ。
 彼らが通り過ぎれば、モンスターは殲滅される。

 無論これらは、対人にも使える。
 様子を見に来ていた王国軍とギルドの見張り。
 彼らは、その強さに絶句をする事になる。

「どうであった?」
「強いです」
「どう強い? きちんと報告をしろ」
「どうもこうも、強いです……」
 そんな、おまぬけな報告が上がることになる。

 だが、彼らが戦う姿は、探索者達には大いなる希望となる。
「おいあれ」
「ああ、スキルを使っていねえ」
「それなのに、あんなに強くなれるのか」
 そこにやって来た、別のチーム。

「強くなりたけりゃ、シュワード伯爵家へ習いに行け。宿舎代と食事代。それに少しの礼金で基本技を教えてくれる。努力をすれば無能者でも魔法が使えるようになるぞ」
「本当なのか?」
「本当だ。こんなふうにな」
 討伐とは関係ないところから、野良ゴブリンが顔を出す。

 しゃべっていた男が手を振ると、手の先から火球が現れゴブリンを貫く。
「炎の槍だ。俺は無能。スキル無しだぜ」
「「「うおお。すげえ」」」
 討伐とは別のところで、盛り上がってく。
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