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第2章 魔法の使える世界

第11話 決して覗いてはいけない(ぷぷっ)

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 誰得か分からない、技術開発秘話。
 
 今回、個人用バリアの売れ行きに気を良くして、次の開発に着手した。

 そう、すべての基本は回転だ!!

 高梨さんが、いま魔石の利用は燃料位と言っていたが。そんなはずはない。きっともっと色々使えるはずだ、きっと魔道具には無限の可能性があるはずだ。

 そうじゃないと、俺の儲けにならない。

 そう全ては、俺の儲けのために。

 ……と張り切って宣言しても、魔法って変なのだよ。

 魔石から磁石をイメージして金属を引き付けるって事を考えて、その特性を与えた魔道具を作ると金属を引き付けるんだよ……。

 何を言っているかわからないだろうけど、世の金属(全物質だが、ここでは金属を主としているので)には磁性というものがあるのだよ。

 磁性体。金属の種類によって、ヒステリアス曲線というものがある。

 魔道具はこれを無視して、条件の通り。多分製作者が金属だとイメージしたものを引き付ける。
 それも均等な力で。物質の特性である磁気モーメントなんかもまるで無視。

 面白いことに、離れても引くと定義する。すると途中に紙だろうが鉄板だろうが透過して金属を引き付ける。

 結果が、量子力学なのだよ。やってみるまで結果は出ない。
 猫なんだよ。ハイハイお立ち会い、この箱の中には猫がいる。
 放射線源が箱の中にあって、ある程度の時間がたつと原子崩壊して放射線が出始める。すると青酸ガスが噴き出し猫を殺すという怖い実験をして、見ている人間(観測者)が中を確認するまで猫の生死は50%で猫は生きている状態と死んでいる状態が重なり合っている状態で、箱を開けて中を見なければ結果はわからないという理屈だ。

 中の猫がフレイヤなら、結果は中を見ることなく絶対生きているというのが答えになるけどね。多分青酸ガスなんか効かないし、魔素があれば生きていける。多分殺しても死なないよねこいつは。

 ・ ・ ・

 それはさておき。目の前には、失敗作と言えるのかわからないけれど。財布の中に入っていた小銭を見事持ち上げた魔道具。

 今使われている硬貨は、賽銭泥棒を防ぐためか磁石にくっつかないんだよね。
 たしかに、50円・100円・500円玉もニッケルを含むから強力な磁石ならつくかもだけど、銅やアルミや亜鉛がくっつくのがおかしい。
 アルミや銅が引っ付くなら、アラゴの円盤は動作せず電力メーターが動かなくなる。

「だから目の前の状態、1円も5円も10円も仲良くくっついているのは、謎の現象というわけだよ。フレイヤくん」

 人が一生懸命なのに、魔石をかじっている。ああ君も一生懸命食べているのね。

 邪魔して悪かった。


 さてと困った。

 回転と、その制御。

 あれ? 何で磁性体の沼にハマっていたんだ?

 動力を取り出す部分と、回転する部分。
 
 シャフトを用意します。
 バランスを取って、魔石を円柱状の真鍮に埋めます。
 魔石を埋め込んだ円柱の真ん中に、貫通穴を通してシャフトを圧入します。

 上部がY字型の支えにシャフトを引っ掛けて。
「回れ」
 素直で良い子だ、
「加速」…… …… 「停まれ」
 出来たな、小学生の自由研究みたいだけれど。

 コントロール用コマンドワードは俺が作って部品と共有してある。
 これのお陰で、特許が出せない。

 気を取り直して、回転子のシャフトに丈夫なゴムチューブを差し込み、その先に、たまたま手元にあったDCモーターをつなぐ。
「回れ」

 テスターでDCモーターの電極で電圧を測る。
「うーん、3V近くはでているな」

「魔石で発電できるな」

 まあ回った時点で使えることはわかっていた。問題は材質とかでトルクと耐久性、後は魔力の供給方法だよな。周辺の魔力で永久に回ってくれれば楽なんだけどな。
 そうか今のうちはケースを作り、その中に周囲から魔素を供給する。これからもっと魔素が濃くなればケースを外せばいいか。

 さっき作った回転子のシャフトに紐をくくりつけて、反対側にばねばかりをくっつけた。回転子の大きさは車の1/10サイズラジコンに使われるモーターのサイズくらいだから1kgも測れれば十分だろう。

「回れ」

 何故か、ばねばかりの端を持った俺ごと持っていかれ、紐が切れた……

 簡素な木の板に、Y字型の支えをつけて置いているだけなのに。

 確かに移動しないように、テーブルに支えの木の板はクランプ(固定)しているが、あり得ない。

 後から気がついたが、普通ならY字型の支えに乗せているだけだから、回転子ごとこっちに外れて来そうなものだ。

 頭の中がパニックを起こす。

 ここまで物理法則を無視するとは思わなかった。

 切れた紐は、ぱしぱしと机の上を叩き、まだ回っている回転子。

「停まれ」

 ピタッと止まる。

 そっと、回転子を持ち上げてみる。

 軽い。真鍮製の円柱だから少しは重みがあるが、俺を引っ張れるほどじゃない。

 これを発表すると、世の中の研究者が発狂するな。



 試しに、車用のオルタネーター(発電機)をオークションで安く購入して、プーリー(ベルトを引っ掛ける丸い奴)に回転する魔道具化を施した。

「回れ」

 オルタネーター本体は固定してあるが、シャフトの先で何もつながっていないプーリーが回っている。
 すごくシュールな絵だ。
 電磁クラッチのスイッチを入れるとオルタネーターが作動をし始める。

 今回の回転子は1000rpmで固定にしてある。そのため発電電圧は13Vくらいの電圧。だが十分だろう。

 車用のインバーターで100Vに昇圧してみると、普通に家電も使えるようだ。

 むっちゃ便利。

 魔道具って素晴らしい。

 最も世の中の基本法則は完全に破壊するけどね。リバースエンジニアリングしようと誰かがこれをばらして…… 「ぷぷっ」見た瞬間にパニックを起こしているのが目に浮かぶ。「ふふ…… ふはははは……」


「ねえねえ、フレイヤちゃん。一司が壊れちゃった」
〈こ奴がおかしいのは、最初からだろうが……〉
 なぜか、言葉の繋がらない二人が共感していた。

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