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第3章 アミサム王国 動乱

第99話 災難来襲

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「さて復旧は、AIのステラに任せて、放っておこう。村長もそれでいいな」
「うん。まあそれでいい」
 見るからに、ハギレの悪い回答。

「なんだ?」
「あのじゃが、魔王先代となったが。依頼されたのは有効そうな武器を」
「却下」
 軽くにらみながら、村長の言葉を遮る。
 ビクッとしながら、村長は、言葉を続ける。
「やはりのう。それに、ここにある武器でも、おぬしらがいる限り。効き目があるとは思えぬ」

「まあそれはいい。それでどうする? 生活がかなり厳しいと、ダニエラに聞いたぞ。あそこの土地自体。誰の土地かは知らないが、あそこでそのまま暮らすか、プローペへくるか。それとも、この基地で暮らすか?」
「この基地で暮らせるのか?」

「おい。ステラ。ここって食料とかは、どうなっている?」
〈地下6階から8階が植物プラントとなっています〉
「他は?」
〈9階が連絡用通路。5階が工場。3階と4階は居住スペース。2階がこの階司令部。1階が格納庫と整備工場となっています〉

「暮らせそうだぞ」
「ふむ。帰って皆に聞いてみよう」
「ステラ地上に出られそうか?」
〈埋まっておりましたので、採掘し正面に通路を確保いたしました。その際メンテナンスロボットが一台転落破損いたしました〉

 そう言って空間に画が出る。
 切り立った崖の中腹に、ぽっかり穴があいている。
〈基礎部分。基地の周囲は、岩盤が強化されており。浸食を免れ、その上に堆積土砂が残留したようです〉
「横方向に、目立たないように通路を作ってくれ」
〈承知しました〉

「長。私はプローペへ行くぞ」
 ダニエラが宣言する。
「ちょっと本気?」
 美咲が噛みつく。
「本気だよ。主は強い。そして私は女。強い種をもらうのは必然」
 そう言って鼻息荒く。腰に手を当て胸を張る。
「おお、そうじゃな。それはいい」
 村長まで、手を叩く始末。
「ついでに、村の娘達にも、種をくれまいか」

「あのね」
 俺たちが、それを聞いて、頭を抱えていると、真一がニヤニヤしながら笑ってやがる。

「まあ上に出て、位置がどこか見ようか?」
 話を、ぶった切ってみる。

 だが、こそこそと、美咲が俺に言ってくる。
「はっきり。駄目なら駄目って言いなさいよ。相手をしたいのなら良いけど」
 眉間にしわが寄っている。

 エレベーターで上がり、外に出てみる。
 洞窟を抜け、崖の脇を左に曲がる。
 崖下は10mくらい。
 川は、少し向こう側だが、眼下に見えるから小高い丘?

「うわぁ。足下怖いわね」
「これなら攻められたときにも、ちょっと崩せば防御できるな」
「そうですな。自然の要塞。良きかな」
 村長は嬉しそうだ。

 崖は、川の流れによる浸食で、反対側は、普通の山肌。
 下っていけば、街道に出ることができた。
 比較的緩やかなので、凪沙ちゃんも一緒に歩いた。

 そういえば基地を出るときに、ステラから通信機を渡された。
 骨伝導タイプ?で、頭の中でステラの声が響く。
 俺も、考えるだけで通じるようなので、イメージは念話の方が正解かもしれない。


 街道に出たことで、大体位置が分かったので、村長を送って村へ帰る。

 この村、周りからの脱走農奴が過半数。
 それに、村長にくっついてきた研究者が10人ほど。
 ダニエラはこう見えて、俺たちと同世代。
 つまり40歳くらいだと聞いて驚いた。
 村長は、200歳くらいで、この種族。300年は生きるらしい。
 
 それを聞いて、再び皆は驚いた。
 ダニエラのご両親も健在で、120歳と100歳だそうだ。
 ただ家庭という物は無く、適当に子供ができたら、お母さんが育てるらしい。
 ここにいる皆は違うが、魔族は戦闘こそが命の種族なので、明確な婚姻がないようだ。

 まあ来たついでに、畑の土を調製して。ついでにちょっと深くまで掘り返す。

 適当に、すぐ食べられそうな、イモ類を植えていく。

「さてと戻るか」
 しばらく食べられる食料を置き、説明をした後、プローペへ帰る。

 なぜか、ダニエラの年を聞いてから、美咲がちょっとおとなしくなった。

 そして戻ると、インターフォンにクスティの映像が、大量に録画されていた。
「最後の方は、泣きそうだな。どう見ても会いたくないぞ」
「そうだな。俺たちは帰るよ」
 そう言って、真一達はそそくさと帰っていった。

 だが、真一の家は周りを、なぜか兵が警護していた。
 真一の後ろにいる、マリアーナを見ると、兵が控える。
「なあ俺、いやな予感しかしないのだが」
「誰が来たのだろうか?」
 家に入ると、疲れた顔をしたビルギッタとクトゥルフが居た。
 王に言われた各領の状態は、流し見程度の見学で、馬車をかなりの勢いで走らせ、一気に来たようだ。
 そして当然、その後ろには疲れた顔をした、カリーネが仁王立ち。

「ただいま。なんで王族が集合をしているの?」
 カリーネの目は見ず、問いかける。
「日本の方々との友誼を固めるため。特に、窪田殿、いえ真一さん。あなたと、ご友人の松田様。特に親しくなれるように。まいりました」
 ビルギッタは、旅で窶れ、疲れでくぼんだ目を、怪しく光らせ宣言をする。
 そして、胸を張り高らかに笑う。

「うわー。広大。大変だ」
 全くもって他人事で、真一は笑う。
 
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