俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

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第二章 異物混入

第12話 教え

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「はい。足を組む」
「はい…… はぃぃ? 組めません。体はそんな方向へ動きません」
 両の足。太ももの上に足が乗り、足の裏が見えている。

 一見、胡座あぐらと呼ばれる座り方。だけど変?

「これは結跏趺坐けっかふざ。片足だけの半跏趺坐はんかふざという略式の坐法もあるけれど家では駄目。組みなさい」
 コロンコロンと転がる私。

「…… 先に柔軟をしましょう」
 はい…… 静さんの優しい顔は、きっとお面です。
 無表情で私を攻め立てます。私の体から、幾度もベキバキとおかしな音がするのに、止まりません。
 それどころか……

「アマンダ…… 力を抜きなさい。そんなのじゃ、殿方と楽しむときに喜びが半減よ」
 そう言って、ものすごくアクロバティックなモノを見せられた。
 足が背中経由で肩へ乗っている。
 手で歩き始める。
 
「静さん。骨はどちらに?」
「あるわよ。女の特権。関節に余裕があるからできるの。さてやって」
「そんな、無理です…… んぎゃぁぁ」

 わたしは、がたがたに言わされました。
 股関節や肩がおかしいです。
 途中で関節がバキッとか言ったし。

 昼食の後、お風呂へ入り、もう一回だそうです。
 昼食は、酸っぱいキュウリなど、酸っぱいモノがいっぱいでした。

 だけど、昼からは道場ではなく、ジムでした。

 そこは、家の裏にひっそりと佇む蔵?
 確か貯蔵庫。
 
 中へと入り、奥へ進む。
 上へと上がる階段と、地下へ降りる階段。
 ですが、地下への階段は、床板の一部が持ち上がり、隠されていました。
 さすが忍者屋敷です。

 そうこの時私は、自分の身に待ち受ける事を知りませんでした。

 階段を降りると厳重な扉。
 そこを開けると、少し湿気のある、通路が続く。
 そして、また厳重な扉。

 中はそう、一〇畳くらい。
 木製の不思議な道具がいっぱいありました。

「そこに立って」
 静さんが指をさすのは、これはよく見るエアウォークマシン? でも、木製で……

「こうですか?」
 クロスになった棒に背を向ける。
 棒の先には、足乗せ用のステップがあり、ステップはきちんと掘り込まれて乗せた足が滑らない安全設計。
 一瞬で足がベルトで固定され、ステップを支える支柱からもベルトが。

「じゃあきちんと、力を抜いて」
 そう、もう逃げられないとでも言うように、彼女はそう言って笑いました。

 ロックをしていたピンが抜かれると、自身の体重により足が左右に開きます。
エド・モア!!aide-moiたすけて
「大丈夫よ。とりあえず体が硬いと何もできないもの。がんばれ」
 彼女は和やかにそう言って、私の肩に砂袋のような重りを乗せたのです。

 そこで気がつきました。
 この部屋は、chambre de torture拷問部屋
 周りの道具を改めて見る。
 木に残ったシミ。あれは、血では?
 そうだった、忍者とは、諜報機関。
 そんな事すら……

 ああ、いけない、回りを見るためにバランスを変えたから、足があしがあぁぁ。

「さっきお風呂へ入ったから、今朝よりはましね」
 そんなのんきなことを仰る。

「むり、無理です」
「そう?」
 そう言って彼女の手が私の脇に…… こしょこしょされる。

「それ駄目…… 力でません。むり」
「だから抜けって」
 おう、彼女、言葉が……

 この機械、傾斜にあわせて、固定したステップまでバンクするため、ふんばれにゃい。
「もうぅ。少し休む?」
 そう言ってくれたものの、足は外してくれず、お尻の下にプレートの付いた棒が差し込まれる。
 簡易な椅子。

 ちょっと想像してしまう。
 このマシン本当は、杭がお尻の下に?
「ひいいぃ」
 私は、甘く見ていた。反省します。
 忍者は、闇の組織。
 興味本位に近寄ってはいけなかった。

 そこから、椅子はつまみを回すと低くなる。
 もうこの角度から、体を持ち上げる筋力はありません。

 太ももに手を当てて突っ張る。
「それ駄目」
 棒の先に手首を固定され、背中側へ回して、逆の手も結ばれた。

 私の、できる道は塞がれていく。

 どんどんと椅子は下がり、最後スカッと抜かれた。
 きっと私の股は裂け、お尻まで割れたわ……

「痛い? このくらい出来たなら、もう大丈夫よね」
 そう言ったまま、彼女はスマートフォンでゲームを始めたり、お洗濯とか言いながら居なくなる。そうして最後には、私のお尻は彼女が設置していた低い椅子へと到着をした。
 信じられないことに、足が左右に一八〇度。

 椅子に触れる部分で、股が裂けてしまったことが分かる。

 その晩お風呂で見ると裂けていなかった。
「寝る前に柔軟やっておきなさい」
「はい」

 その晩は凄くつかれていたのか、日記も書けずに寝てしまった。

 寝ていると、悪魔のような静に拷問される夢を見た。
 鉄の処女。
 扉が閉まる…… 閉まれば私は……

 逃げたのだろう、私はベッドから上半身が落ちていた。

 頭が爆発したままペタペタと洗面所に向かう。
 洗面所へ行くと、颯司が立っていた。
 彼はまだ一三歳のキッズだったそうだ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
 なぜか彼は、歯磨き粉を飲んだようだ。
 日本の物は飲んでも大丈夫なのだろうか?

「あのさ、アマンダ」
「はい主。なんでしょうか」
「家の中でパンツ一丁はやめて。服を着て。あーいや自分の部屋の中ではいいからね」
 そう言われて、鏡に映る自身を見る。

 爆発をした髪、キュートな顔、美しいブルーアイに、美しい胸。
 きゅっと締まったウエスト、ちょっと透けてる金髪。
「あーはい。気を付けます。あのぅ、揉みます?」
「なんで?」
「はい?」

 そうだった、彼はまだ一三歳のキッズだった。
 ボーイフレンドは、みんな触りたそうだったのに。

 彼はきっとヴァージン。教えて貰う代わりに、私も彼に教えようかしら…… 
 そんな悪い事をふと思う。

 そこで気がつく。そうか柔軟。
 その時わたしは理解をした。
 スペシャルな体位。
 伝説の四八手と呼ばれる奥義、確かに日本に存在をしていたはず。
「そうなのね……」
 諜報とは、すべてを犠牲にして…… 忍者とは奥が深い……
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