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第一章 異変の始まり

第26話 思い通りには行かない

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 少し騒動があったが、やって来ました。予測地点。
 場所は閑静な、住宅街。
「こんな所で開くのか? 家の中だと、どうしようもないぞ」

「そう言われても、マッピングをしたら、此処になっただけだからな」
 工藤と木下が、周りを探す。
 ゴブリンはいねがぁ。状態。
 住人からすると、不審者で通報間違いなしである。

 するとどこからか、ゴブリンの声が聞こえ始める。
「どっちだ」
 工藤と木下が方向を見定めたのか、走り始める。

 曲がり角を曲がったところで、誰かにぶつかる。
「あっ。すみません」
 そう言いながら見上げると、尻餅をついた工藤の前には、角ウサギを咥えたオークさんが立っていた。

「やったな。最高のシチュエーションじゃないか」
 こそこそと、木下が工藤に伝える。

「それは、食パン咥えた女の子の場合だ。ウサギを咥えたオークはいらん」
 それが聞こえたのか、オークの手が伸びてくる。

「変身ヒーローキック」
 そう言って、改が飛んでくる。
 すでにオークは、工藤の足を掴むため、しゃがみかけていた。
 そのため改は、オークの背中でバウンドしズリ転ける。

「何やっての?改」
 だが改は、ただではずっこけない。
 オークの股間を、後ろから思い切り蹴りあげる。
 足に伝わる、いやな感触。
 コロコロしたものが、潰れていく。
 そのぐしゃっとしたイメージで、自身もダメージを食らう。

「プゴーオオッ」
 断末魔的な叫びが、周囲に響く。

 さらに、膝の後ろへ攻撃が加えられ、膝立ちのオークに攻撃が加えられる。

 すると、住民達が、何だ何だと出てくる。
 そして非現実的な、光景を見て叫ぶ。
「虐待しているわ。だれか、警察を呼んで。あのままじゃ。……あれ、なあに?」

 怒り狂った、オークは再び大地に立つ。
 小柄なのかは知らないが、2mを超えた体躯。
 無論、鬱陶しい改達よりも、雌の匂い。
 すべてにおいて、優先される。

 オークは体の割には、俊敏で、さっき叫んでしまった女性は、あっという間に捕まり、連れ去られてしまう。

 住民達は、それを見て蜘蛛の子を散らすように自宅へと逃げ帰り、鍵を閉める。
 あちらこちらから、雨戸を閉める音がする。

「無茶苦茶丈夫だな。きっちり玉を蹴ったのに」
「あれ、どうやったら倒せると思う?」
「どこかその辺りの岩に、剣が刺さっていないか?」

 そんなことを、話していると人が出てくる。
 先ほど攫われた女の人の、旦那さんだろうか? 出てきて、周囲を見回している。
「さっき、攫われた女性の旦那さんかな?」
 声をかけてみる。

「さっき攫われた、女性の関係者さんですか?」
「女房が、いつものように叫んでいた声が聞こえたのだが」
「警察呼んで。の方ですよね」
「そうだ。またご近所に、ご迷惑でもかけているかと思って」
「いやそれが。叫んだ後。モンスターに攫われちゃって。本当に警察に連絡した方が良いかと思います」
 そう話していると、悠翔がやって来た。

「巣の位置は確認した。警察には発見の連絡をしたよ」

「モンスターに攫われると、どうなるんだね」
「女性の場合は、性的な暴行を加えられますが、命は助かる可能性が高いです」
「なんだと。助かるのかぁ」
 旦那さんの残念そうな顔。
 その時俺らは、闇を見た気がする。

 そそくさと、巣の方に移動をする。

「さっきは、ゴブリンの声がしていたよな?」
「ああ、最初だろう。俺も聞いた」
「悠翔、巣のところは、どうだったんだ?」
「仲良く出てきている」

「奴ら、仲が良いのか」

 そして奥へ行くと、宴が始まっていた。
 オーク達が5体ほどいて、女の人たちが抱えられている。
 そこへ、次々と人が捕まって、連れてこられる。
 すぐ脇に揺らぎがあり、ゴブリン達がまるでアリのように、出入りをしている。

 俺たちは、手前の壁に隠れてそれを見ている。
「さすがに、これに手を出すのは怖いな」
 やがてパトカーの音が聞こえ、集まってくる。だが、ここは住宅地。いつもの発砲音が聞こえない。

 やがて、お巡りさん達まで、被害に遭い出す。

「これ、どう見てもやばいよな」
「応援くらいは、呼んだだろ」
 そう言いながら、俺たち自身がゴブリン君と交戦中。
 気を抜けば、ヤバイ事態。

「あのヤバイ姉ちゃんに、連絡でもしてみるか?」
 悠翔とそんな話をしていると、本人が目の前を連れて行かれた。
「あー。現場に来ていたんだ」
「そうだな」

 あの門番のような、オーク達が居なければ、もう少し何とかなるだろうが。
 さっきの攻撃でも、倒しきれなかった。

「悠翔、改。ぼちぼち息が上がってきたぞ」
 工藤と木下から泣きが入る。
 周りには魔石が、結構転がっている。
「一体。どれだけ大きい。集落なんだよ」

「ごめん。改。私も限界が近い」
 万結にまで、弱音が出始めた。
 万結はメリケンサックと、特殊警棒で武装しているのだが。
 薬研は早々に、へたり込んで壁際に座っている。
 俺たちは、それを守りながら戦っている状態。

「あっ。やっぱり日本だ。やっと帰ってこられた」
 揺らぎの向こうから、見たことがある顔が出てくる。
 そして出てきた瞬間。
 オーク達の頭が爆散した。

「なんだあれ? すご」
 皆が注目する。
 そう。帰ってきた奥村沙羅。
 万歳をしたまま、エレメンタル達に異世界側へ引き戻される。
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