メーヴィス王国は騙された。

久遠 れんり

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第二章 いかに騙すか、それが問題だ……

第9話 不名誉な称号

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 奇妙な面をかぶる何者かが、道ばたにぼーっと立っている。

 当然の事だが、皆、遠巻きにして近寄らない。
 立て札には奇術見せますと書かれているが、奇術など知らないし、たいていの人は字が読めない。

 半日ほど、ぼーっと立ちすくむ。
 考えた末、午後から目立つための道具を作り始める。

 ショーならば、目当てに客が来るが、ここでは、認知度などあるわけがない。
 簡単な、造花をステッキから出す小道具。
 子供だましだが、それで良い。
 シルクハットみたいなものを作り、その中にも造花を仕込む。

 それだけで、一日が終わった……
 マジシャン復帰、一日目の収益はマイナス。

 立つところにも折りたたみの簡易型板壁を作り、後ろや横に回り込まれないようにする。そして折りたたみの、机も作る。

 横で、ジャンナとアネットに薄着をさせて、串焼きを焼かせる。
 少し割高に設定して、飲み水をつける。
 買った客は、その串を頬張りながら、奇術を見てもらう。

 最初は、値段を見て売れなかったが、一人二人と買ってくれる。
 そして、簡単な技。
 ステッキや、シルクハット型の帽子から造花が出てくる。

 そこで場を掴み、コインマジックへ進む。
 そして、トランプみたいなカードから、一枚選んで貰い、山に戻してシャッフルする。
 そして、どや顔をしながら、そのカードを抜き出す。
「おおー」
 その日は、十人ほど。

 だが、口コミは広がる。
 串焼きの評判が良く、客は増えはじめる。
 そのたびに、新しいマジックアイテムを作り、演目を増やす。

 すると……
「その増えたコインは、元は俺のだ。よこしな」
 そういう輩が出始める。
 多分、同じような屋台で、商売をしている連中の嫌がらせだ。
 そこでオネスティは、コインを一度消して、預かった分だけを戻すつもりだったが、手伝いに来ていたイサークが禁句を言ってしまう。

「ばかだなあ。ホントに増えるわけがないじゃないか……」
「あっ」
 場に、ざわざわと声がし始める。

「じゃあ、ペテンじゃねえかぁ」
 その日、マジシャンは、奇術師ではなく、ペテン師という名で呼ばれ初めて、急激に広がっていく。

 がっくりとしながらも、演目は続く。

「どうやっているんだ?」
 うろうろしながら、見ている連中。

「それを考えて、楽しむのが奇術です」
「奇術ってなんだ? ペテンじゃないのか?」
 そう、あっという間に、ペテン師が定着をしてしまった。

 そして、下手くそな偽者が出始める。
 そいつらは、酔っ払い相手にコインを出させ、金を単なる似せた形の木にすり換え、金を巻き上げだした。

 楽な形で、布を手にかぶせて、右手と左手で持ち換えるような子供だまし。
 だが、すれていない人達は、それでも驚いてくれる。銅貨くらいなら、無くなってもチップ代わりに文句を言われない事が多い。

「だぁー。上手く行かない」
 ショーとして運営をするのは、以外と面倒であることを理解して、少し賢くなったようだ。
『色々と、自分でやることも経験だよ』
 世話になり、一緒に水槽に沈んだマスター。
 彼の苦労が、今になって分かる。


 そんな頃、代官は責められ、シンキ総合商会へと捜査の手は伸びた。
 そんな中で、発見された数枚の偽金。
「これは、入った泥棒が落としていったものです」
 言い訳をするが、それ以前に、あくどい手口で商会を幾つも潰し、命を絶った人達がいることを、侯爵が知ることになる。

 これにより、真実も言い訳とされ、覚えのない偽金の入手方法を自白することになる。

「山中に偽金を扱う盗賊がいます。安く買いました」
 その自白により、代官と共に縛り首になる。

 棚ぼた式にオネスティ達の罪は闇に葬られ、大量の金だけが手元に残った。

 やがてその偽金は、辺境伯領から出て、王都でも問題となる。
 そう、最初にすり替えた物が、商人によって広がった。
 帝国は急遽、各貨幣の回収と意匠を変更した硬貨へと、変更を始める事になる。

 そうして、少し有名になったオネスティ達は、次の町へと帝国内を移動していく。

 だが街道には、盗賊がつきもの。
 オネスティ達も例外ではないようで、出くわすことになる。

 だがまあ、王族であり多少は剣の心得もある。
 そして皆も、レナートが芋のために殺されたように、自分たちの命は軽い事を知っている。身を守るため、狩りと共にオネスティに習っていた。
 だけど……
「なんで、盗賊達。こんなに人数が居るんだ。剣がもたん」
「俺もやばい」

 盗賊達もたいした武器は持っていないが、藪はらい用の無骨な刃物が意外と重くて丈夫。
 まともに受けると、こちらの剣。刃が潰れる。

「くそう……」
 そして、時間が経てば、ここは街道。他の人間も通る。

「助太刀するぞ」
 何とか、救われる。

「助かったよ、ありがとう」
「いや、盗賊の場合は、お互い様さ…… あっ。ペテン師」
「えっ?」
「酒場にも似たような奴がいたが、君が一番すごいよ。おおい皆。彼ペテン師だよ」
 冒険者だろうが、叫んで仲間を呼ぶ。

「マスクをしていたのになぜ?」
「あんな美人はあまり居ないし、服と背格好。君と違うのかい?」
「いえ、違いません」
 服は高いんだよ……

「ペテン師君、よろしくね。僕らは銀翼の傭兵団。まあ冒険者だけどね」

 彼らの境遇もイサーク達と同じだが、村の大人が戦争で徴兵されて帰ってこなかった。
 善意で育てられていたが、成人をしたため出てきたようだ。

 リーダーは、話しかけてきたニクラス。
 彼は背が低く、この地方に多い赤髪で目はブラウン。
 笑ったときの顔が、トムクルーズぽい。
 なんだか、腹が立つ。

「ペテン師じゃなく、奇術師オネスティだ」
 右手を出し、握手する。

 これが、運命の出逢いとなる。
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