メーヴィス王国は騙された。

久遠 れんり

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第四章 帝国の滅亡へ向けて

第22話 帝国は忙しそうだから、その間に……

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 両方面から惨敗の報が入ってくる。

「何をやっておる」
 宰相リヴィオ=アレッサンドロが、頭を抱えながらため息を付く。
 そして、速やかに軍の再編を命令する。

「流石に捨て置けんな」
 そんな事を言いながら、軍団長ブラット=バクスター侯爵が立ち上がる。

 兵を招集して、普段の倍以上を双方の国へ向かわせる。
 エルドランド王国方面へ五千人。
 エッカルト王国方面へ五千人。

 それにより、メーヴィス王国で遊んでいた兵も招集される。
「まいったなあ。戦争かよ」
 ぶつぶつ言いながら、メーヴィス王国方面から帝国方面へ兵達が引き上げてくる。


「何か異物が、紛れ込んでおるな。我が楽しみを崩すとは、おろか……」
 均衡していた戦力が、いきなり崩れてしまった。
「何か、仰りましたか?」
「いや。何でも無い」
 そう言ったまま、皇帝カリスト=ウルバーノは黙り込んでしまう。

 宰相リヴィオ=アレッサンドロは、数年前から皇帝が恐ろしくてたまらない。
 昔は、聡明で明るく。良い子だった。
 即位後、いきなり変わってしまった……

 皇帝は、即位後。帝都の改築を行った。
 その時、一つの小さな碑を破壊する。
 そう、たったそれだけ。

 その後、妙な夢を見始め、十三日後。黒い影に食われた。
 そう。本当に食われてしまった。
 封印された碑は、前時代の強力な物だった。
 封じられていたのは魔人。

 元は人だったが、力を求め。触れてはいけない禁忌に触れた。
 それは、強大な力。
 言わば、魔法ともいえる力を得る代わりに、人の心を失い、凶悪な人類の敵となってしまった。

 そう。自分以外は、矮小なコマ。
 暇つぶしのために適当に動かし、破滅する姿を見て楽しむ。

 そうアリの行列を俯瞰し、フェロモンの道を切ってしまう。
 そして道を見失い、慌てふためく姿を見て楽しむ子供のように……

 それに気が付いた神は、昔、人に知識を与えて、封印した。

 だが、今回それを破られたことに気が付き、神は偶然にもこの世界に紛れ込んだ異物にその力を与えた。
 むろん本人は気が付いていないが、対峙したときには、その力が封印を解除され、発動する。
 だが、本人はそれを知らない……

 そう、すでに神による予定調和は成されている。
 その大いなる流れに乗っていることは当人は知らず、知恵を絞り。あがく。

「ねえ。今日は、私」
「そうか…… たまには、一人でゆっくりと寝たいな…… なんて……」
 困った顔で言ってみる……
 疲れていようが、こっちのことは関係なく、誰かがやって来る。

「私のことが、嫌いなの?」
 じっと見つめられて、そんな事を言われては、優しい彼は否定など出来ない。

「いや、そうじゃ無い」
 一度、手を出せば、それは共有されて広がった。

 優柔不断は己を追い込み、体力の限界を知ることになる。

「ブラックじゃねえかぁ」
 だが。ヘタレなマジシャンは、優柔不断さをこじらせ、女の子の誘いを断ることもできず。順に相手をする。
 せめてもの抵抗は、先に寝かしつけること。
 そうすれば、ゆっくり寝られる。

 すべてのことに凝り性で真面目な彼は、技を考え、相手の反応を見て、その技を昇華させる。
 マジシャンは、手先の器用さと人の反応を見るのが得意。
 ゆっくり寝たいがため、彼は立派な、たらしともいえる技を覚えていく。

 この星に、愛をばら撒く。
 それは、使命か偶然か……
 だが、彼の予想に反して、お相手を願う者が増えてくることになる。
「ねえ。私たちだけじゃ、満足させられないようなの。あなたもオネスティの相手をなさい」
 そんな勧誘が、広がっていくことをオネスティは知らない。

 そうすべては裏目。自業自得ともいえる。
 せっかく相手をしたのに、先に意識を飛ばされた彼女達は焦った。
 私では彼のお相手が、満足に務まらない…… 絶望の中で、涙をこらえて、他の子に託す。オネスティのために……


「両国が頑張ったおかげか、メーヴィス王国内の帝国兵は、数を減らしています」
「よし。王城へ攻め入るぞ」
 オネスティはあらかじめ、王都近くの村々に、武器を与え、決起の合図を待てと通知していた。
「よし行け」
 連絡員達が、周囲の村に散らばっていく。

 実は引き上げる帝国兵達も、農民達の反応が、変わっていたことは知っていた。
 前は、自分たちの姿を見かけると、目を合わせず、こそこそと逃げていっていた。

 ところが最近、ふとしたときに視線を感じる。
「この辺りで、誰か娘を攫ったか?」
「もうどこもかしこも、年頃の奴らはやっちまった。今じゃ食いもんのためにすぐ股を開くじゃねえか」
「そうだよなぁ。でも最近視線を感じるんだよなぁ」
「まあ、恨まれてはいるんだろ。すぐに本国に帰れって言う通達は来ているし、問題ないだろ」
「それもそうか……」

 村々に伝令が走る。
 闇に紛れ、農民達は武器を手に走り始める。
 自分たちの夜明けを求めて……

 そして王城への決起は、真っ昼間に行われる。
 むろん、異変を帝国に知ってもらうためだ。

「いいか、帝国兵を幾人かは逃がさなきゃいけないが、兵装の奴らは皆殺しでいい。密告者は、普通の格好をしているからな。そいつらは逃がせ」
「分かった。一〇年ぶりで練習をして体が痛え」
「ああ、俺達もだ。酒を貰っている。決起の為だそうだ。第三王子オネスティ様に感謝をしろ」
「第三王子オネスティ様が王になるのか?」
「いや、予定では、第二王子ウェズリー様が王位に即くそうだ」

 そんな話が決起前に、おおっぴらに流れていた。
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