メーヴィス王国は騙された。

久遠 れんり

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第四章 帝国の滅亡へ向けて

第30話 葛藤

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 魔人の意識が大半となり、目に付くものを殺すと、すぐに何もいなくなってしまう。
 彼は考える。これではいけない。
 楽しみを少しでも、長く続けるために、手加減をする。

 それにより、人々は致命傷を与えられず、生かされる。
 だが、それのおかげで、逃げ延びる者が増えた。

 噂が広がり、恐怖に駆られ、多くの人々はすべてを投出し、帝都から逃げた。

 あれは決して興味本位で、見に行ってはいけない。
 あれと会ってしまうと、殺される。
 あれが居る、広場には近付くな。迂回しろ。

 それでも幾人かは、のぞきに行き捕らえられた。
 生きたまま食われる。
 おぞましさと痛み、そして後悔……

 そうして、多くの人々は帝都から逃げたが、やはり、住み慣れた家。
 数割の人間は、帝都から脱出をせずに、とどまっていた。
 息を潜めて、魔人が帝都からいなくなることをただ願う。

 だが、潜んでいることが判っているからこそ、魔人はとどまり続ける。
 得てして、世の中とはそうしたもの。
 自分が望むように、物事は動いてくれない。

 そして日に数件、家が壊され、巣から引っ張り出される餌達。
 家族が目の前で少しずつ壊され、食われていく。
 それを周りの建物から見ている視線。
 逃げれば良いのに、怖くて逃げられなかった。

 そんな恐怖と戦った、一月程度。
 そして、転機はやって来た。
 そう、地方へ行っていた軍が帰って来た。

「今しか無い。どさくさに紛れて逃げるぞ」
 窓から外を見ていた彼は判断をする。奥さんと子どもに向かい意思を伝える。

「でもあんた、軍が倒してくれれば」
 それは理想的な希望。だが……

「無理だ。奴を倒すのは、人間じゃ無理だ。いま逃げないと、機を逸してしまう。それに、こうやって潜んでいたって、いずれ捕まる。夢を見ないで逃げるんだ」
 そう、そんな聡明な市民もいた。

 ただ、奥さんと同じ様な、考えも多かった。
 住み慣れた家を離れて、今更新天地で、新たな暮らし? どうやって?
 そんな、命に比べれば些細な不安。

 軍が何とかしてくれる。
 きっと大丈夫。
 根拠のない希望を持ち、留まってしまう。
 その不安は、自身の命よりも重要かどうか、それを彼らは考えられなかった。

 逃げる自分たちと逆。次々と突っ込んでくる、自軍の兵。
 逃げろと声をかけたい。でもそれを聞かれたら……
 彼らは軍の流れに逆らい、町の外へとひた走る。


 中に入っていく軍。それを見ているフレーベ侯爵。
 やがて軍の流れを避けながら、市民達が出てき始める。
 軍を横目に、彼らは止まることなく逃げていく。
「おい、話しを聞いてこい」
「はっ」

 多くは無視をされるが、帝都から出られて気が緩んだのか、話しをしてくれるものを見つける。

「一月ほど前、王城が吹き飛んだ。そこからあの黒い奴が出てきて…… 皆を襲い始めたんだ。兵や騎士達も一発でやられちまった。悪い事は言わねえ。あんたらも、逃げられるなら逃げろ。あいつを見てしまうと最後だ…… 忠告はしたからな…… おっと軍なら食料があるだろ。少し分けてくれ」
 意外としっかりした者だったようだ。

「いま抜けるのは厳しいが、自分の命も大事。死んじまうと報告が出来ないからなぁ」
 ぼやきながら、ちゃっかり男は、デルヘーストの町へ向かう。
 そう、彼はオネスティの手の者。
 見張っていて、逃げる事が出来なくなり町に留まっていた。

 かくまって貰った、未亡人と娘を連れて逃げる。
 一月の間に、娘と仲良くなり、デルヘーストの町で暮らそうと考えた。
 まあそれがあるから、二人も家を出たのだが、以外と余所で暮らす不安といものは大きいようだ。成れた暮らしを手放すのはどうしても……

 
「そういう事で、帝都は近寄ると危険状態です。国境にいた軍が戻ってきて、いま餌になっていますから、しばらく動きは無いでしょう」
「そうか。ご苦労」
 オネスティは、鍵を取り出す。

「夜とぎですかい?」
「バカだろ。お前達はどいつもこいつも。そんな趣味はない。おまえが言っていた家の鍵だ」
 眉間に皺を寄せ、嫌そうにオネスティは鍵を渡す。

「ありがとうございます。場所は?」
 受け取って、真新しい鍵を眺める。

「さっき馬鹿なことを言った罰だ。自分で探せ」
「ええっ? 殺生な。オネスティ教えてくれよぉ」
 彼は、カール。つまり昔からのダチだ。
 オネスティの手伝いで、諜報をやっていた。
 今回の報償に、家をたのんだ。
 無論あの娘と暮らすため。
 母親も付いてきているが仕方ない。

 どうしても、オネスティが言ってくれないため、ニクラスに聞く。
 いまニクラスは、オネスティの右手として動いている。

「ああ。それなら、新興の住宅地だ」
 頭の中で、思い出す。
「あそこか。それで何処なんだ?」
「鍵に番号が付いているだろ。入り口に案内板がある」
「なるほど」
 どうやら、自分で探しても、たいした手間では無かったようだ。

「ううん。オネスティったら。お茶目なんだから」
 などと言いながら、家を探しに行く。


「さあてと、魔人君をどうしたもんかなぁ。ニクラス。俺死にたくないんだが、どうしよう」
 オネスティでも、怖いものは怖い。

 作ってみた武器は有るがしかし……
 爆弾で手足がもげかかった話しは聞いた。
 だが不安。

「だけどお前が倒さないと、この世界の安寧とやらが来ないんだろう?」
「それはそう……」
「まあお前が先に死んだら、後のことは見られないし、心配しなくて良いんじゃ無いか」
「それは、そうだなぁ。でも、死ねなかったらどうしよう。カールが言うには、生きたまま食うのが好きみたいだぞ」
 情報を伝えると、流石のニクラスでも嫌そうな顔になる。

「それは痛そうだな。毒いるか?」
「持っておこうか」
 前に発見した、トリカブト。

 魔人に食わすために採取をした。
 やばそうなら、自分でも飲める。
「死にたくないなあ……」


「あれ? ママん。オネスティは?」
「おや、聞いていないのかい? いま帝国の拠点に行っているよ」
「―― 僕って要ります?」
「オネスティは動き回らないといけないからね。良いじゃ無いか王に成れて。この国の王は楽だろ」
「ええ、まあ」
 普通の王と違い、何もすることが無い。
 勝手にすべてが決まっていく。
 それどころか、今何が起こっているのか僕は知らない。

 オネスティに聞くと、「知らなければ漏洩もない…… 安全優先」
 王は代表なのに、それで良いのかと。そう思いながら、今日もウェズリーは王座に座る。
「うむ。良かろう…… 後に精査する」
 書類を受け取り、そう答える。
 それが僕の仕事…… 
 給与は、月に金貨一枚……
 王って意外と安月給……
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