地球に奇跡を。-地球で魔法のある生活が、始まりました-

久遠 れんり

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第三章 国との関わり

第40話 小さな疑問

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 すれ違う人が振り返る。

 本人は気がついていないようだが……。
 いや、興味が無いだけ。

 男が一人、大型商業施設を歩いている。
 それも、かわいい女子達を連れて。
 きっと、心の中で血の涙を流した者達が、居たことだろう。

 そしてある者達は、横にいる彼女に、肘で突かれ、ある者は足をふまれる。

 着る服が無いので、買い物へ来た。
 隊長さんには、報告をして、写真を撮られた。

 適当な戸籍はすぐに出来るそうだ。
 ついでに歳も合わせて、転入手続きもお願いをする。
 マイリの人工脳は強力で、小学校からの勉強を数時間で終了させる。
 その恐るべき能力は、俺の力作である落書きのページまで。完璧だった。

 日本語に関しては、俺が船でスキャンを受けたので、インストール済みのようだ。
 男言葉だったので、少し修正を教える。その時データトランスファ用有線ケーブルを出してきたが、PCよりもまずい記憶を見られたくなくて拒否をした。

 今の記憶もそうだが、前世の記憶はもっとやばい。
 軍の仕事は、色々とあったのだよ。
 思わず深淵を覗けば、帰れなくなるぞと言いそうになった。
 マイリの性格なら良いよと軽く言いそうだが、セクスタプレト以上が知っている秘密もある。それを知れば魂ごと分解される。

 そんな事が分かっているのに、見せる事は出来ない。

 そして、戸籍取得の代金代わりと言ってはなんだが、宇宙人の作った人工生命体の検査がしたいと言ってきた。

 彼女は、バイオベースで、細胞内にケイ素系の光子伝達系を持っている。
 髙次エネルギーと、光刺激による生体を越えた反射と力。
 元々、サポート用の人工生命体はイメージとして、コンピューターを持ったボディーガードという側面が高い。
 教授が、航行用の補助として彼女を入手したように。

「では、行きます」
 ドンと腹に響く音。
 マイリの投げた鉄球は、音速を超えた。

 ジュラルミンの壁にめり込む。
 手前の緩衝材など無かったように穴が開く。
 種目名、砲丸投げ。

「これはまた……」
「時速で、千五百キロを超えています」
「だろうな。衝撃波が発生をした」
「彼女を特例で、オールジャパンに入れましょう。優勝できます」
 嬉しそうに、若手の研究員が言ってくる。

「それはそうだが、どうやって受ける? グローブじゃあ穴が開くぞ。まあいい。次だ」
 心肺運動負荷試験でも常識を越える。

「酸素量標準、二酸化炭素量も標準。全く負荷があっても変わりません」
「うーむ。そもそも彼女、酸素を必要としているのか?」
「CTを撮ると同じような作りなんですがね。DICOM医用画像の共通規格データ必要ですか?」
「いやいい」

 ある程度調べて納得したようだが、俺は知っている。
 彼女の体には、モード二がある。戦闘用フォーマット。
 きっと、ミサイルの直撃でも平気だろう。

 むろん、言わないけれどね。

 そして、体内部の画像は、嘘だ。反応して偽情報を返している。
 スキャンする物。X線だろうが磁気だろうが、はじき返してその時に絵を重ねて返す。

 内部、特に頭周辺には人工物が埋まっているし、骨格には金属と髙次エネルギーを使った強化機構が働いているはずだ。

 彼女には、機能的に呼吸や指先で、人を殺す事が出来る機能が付いている。

 それがなくても、抱きしめても良いし、キスしてもいい。
 それで相手は死ねる。

 そうなんだよ。
 俺の命は、彼女の掌。

 そして偉い手さんは、手を上げた。

「彼女、本当に人工物なんだねえ、スーパーコンピューターに演算で勝ったよ」
 そう言って、ため息を付く。

 いや前提がおかしい。
 アポロ計画の時使用されたコンピューターが、初期のゲーム機よりも圧倒的に遅いという話は聞くが、ドラガシメルの中央システムは、リアルタイムで全宇宙やマクロな人の動き、そこから導かれるミクロな事象。つまり犯罪とかまで予測できる。

 俺の事件の時も、アラートは出ていたはずだ。

 そんな事でびっくりされても。

 だが今回のテストで、良い発見もあった。
 マイリが市販品の服を着て本気で動き回ると、付いてこられなくてボロボロになる。
 見た目や織りをスキャンして、宇宙船で作ることにした。

 そして当然だが、俺と共に、彼女も最重要人物として登録をされる。
 彼女に何かあれば、宇宙人と戦争になる。
 政府は、そんな思い込みをしているようだ。

 絶対に殺せない人物の、警護に悩むことになる。

 そして、また俺も悩む。

 そうだ、俺の事故。
 思い返せば、システムからはアラートが出ていたはず。
 それなのに、保護プログラムも出なかった。

 自分で言ってなんだが、重要人物。
 普通は、何かの手が打たれる。
 俺に連絡をするだけでも十分だ。

 ましてや、俺に何かあるとなると、ばあちゃんが動く。
 賢者様がだ。
 それが無かったというのが、そもそもおかしい。

「ミー=キャエル? 人の相手をしながら考え事?」
「ああ。悪い。システムマザーは、アラートを出さなかったのかと」
「うん? 出したみたいよ。ミー=キャエル。死んでしまうとは情けないって思ったみたいよ」
「何処のゲームだよ」
「でも、あなたならって思っていたのは、本当らしいわ。その時に、宇宙全体に異変が起こったとも言っていたし。それもあって、これから色々とお願いがあるみたいよ」
「俺にか?」
 そう言って見つめ合う。

「ねえ真面目にして。早く終わって。順番を待っているの。二人のいちゃつく姿を間近で見ながら。いい加減、焼き餅を焼くわよ」
 横で待ちきれず、伶菜が我が儘を言う。
 そう言っても、後から来て、負けるものかという顔で、ベッド脇に座り込んだのは彼女。
 頭をなでて、引っ張り上げる。

「我が儘言う子は、なめてやる。溶けろ」
「ちょっ。まああっ」
 マイリと二人で、伶菜を虐める。

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