不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

文字の大きさ
15 / 135
第2章 冒険者時代

第15話 不思議な少年

しおりを挟む
「秘技クラスター爆弾」
 大きな炎はイメージ通りに細分化をして、一頭一頭を燃やし尽くす。

 モンスターと、麦の焼ける不思議な匂いが周囲に立ちこめる。

 細かい奴らは焼けたようだが、大きな奴らはもう少し撃ち込まないと駄目なようだ。

 その威力に、こちら側みんなが驚いている。
 いやオレが一番驚いた。

 きっと宮廷魔道士でも無理だろうと考える。
 実際会ったことはないが、冒険者なり魔法兵なり程度というものがある。
 人の扱える魔法。
 それをどう考えても超えている。

 それを繰り返し発動。
 そうそれを非常識という。
 熱さのせいか、ヨシュートの周りから、人が離れて行っていた。
 ヴァレリーはそれを見ながら、ついユキの首を絞め、怒ったユキに腕を噛まれる。
 食いちぎるほどではないが、牙が四本ほど刺さり、血が流れ出す。

「ごめんね」
 あわてて頭をなでるが、ご機嫌は悪いようだ。

 布で縛り血を止める。

 結局、極大ともいえる魔法は、向こうからモンスターが来なくなるまで続けられた。

 その後兵達は、村などをチェックしに行く。
 森から出たモンスター達は、基本同心円状に広がり、満遍なく被害を及ぼす。
 そのため、町が安全になったなら、掃討戦に移る。

 ヨシュートは、ユキに噛まれて血を流し、青い顔をしているヴァレリーを治療する。

 その姿は、迂闊と言えば迂闊。
 周囲全員が見守る中、治癒魔法に浄化をあっさりと使う。

 血が流れていた腕が治り、布に滲んだ血が消滅。
 教会の、上位治療師にもできない。
 そう人はそれを、非常識という。

 アルーに踏まれても大丈夫な奴。
 大規模殲滅魔法を平気で何発も打てる奴。
 司教クラスでも無理そうな治療魔法を使う変な奴。
 ベルトーネさんを、手なずけてしまった最悪な奴。

 まあまあ、評価はまとめると、変な奴という事になったようだ。

「御報告いたします。例の者。ギルドにて『変な奴』と呼ばれております」
 辺境伯、アドリアヌ=レンセンブルク侯爵は、家宰のセバース=エドモンドと共にギルドにいた。町の門に近く、何かのときに命令が出しやすい。

「『変な奴』? ヨシュートのことですか?」
 ティミオは、変な奴というキーワードでつい答えてしまう。

「知っているのかね」
「ええまあ、と言ってもよくは知りませんが」
 そこで一瞬悩んだ。
 神の使いという事は聞いている。
 だが、それを言って良いものか?

 奴の非常識さで、神の使いという事は確信をしている。
 普通の人間に同じ事は、絶対にできない。
 奴はきっと、エンシェントドラゴンも笑いながら殴り飛ばすに違いない。

 そう思い、ふとおかしくなる。
「ギルドマスターどうしたね」
「いや、神の使いのくせに、やつは結構人間味があって…… あっいや」
 口を押さえる。

 だが、その時、ベルトーネがお茶を持って来ており聞いてしまう。
「それで、だからあんな」
 その言葉を聞いて、家宰のセバースが反応する。

「彼と親しいのかね」
「えっ。ええまあ」
「何か彼についての情報があるのかね?」
 流石に、エッチが上手とは言えないし困ってしまう。

「その…… 彼に愛されると、この世界から溶けていなくなる感覚がします」
 結局ばらした。

「ふむ。神の使いねえ」
 レンセンブルク侯爵は、よく分かっていないようだが、それが本当なら、教会ともめるだろう。
 セバースは少し困り始める。

「今の情報は広めないように」
「「はい」」

「だが会わぬ訳にはいかんな。彼は我が領の救世主。いなければもっと被害が大きかったであろう」
「それはそうですな」

 せっかく内緒の話をしたのに、教会は知っていた。
 町の危機、正門前で、浄化と治療。
 目立たないわけがない。

「その者、冒険者だと? 連れてこい」
 神の御業を使えるなど、許せん。

 普通なら、教会に入り下働き後、教えを請い修行をする。
 その秘伝ともいえる技を、ひょいひょい使われてはかなわん。
 それもあっという間に怪我が消え、汚れが浄化されただと。

 そんな事が広まれば、数回必要な私が手を抜いていると思われる。
 一回、最低でも金貨一枚くらいからのお布施をいただく。

 それを無料で、ポンポンと施すなど許せん。

 そう言う事で、町の司教オーシエ=ヒローゲの命令により、牧師さんや、修道女さん達が攫いにきた。
 目立つなと言うので、わざわざ馬車まで借りて。

 場所は、ギルドの前。
 入ろうとした所を捕まる。
 ユキが目印にされたようだ。

「あなたが、ヨシュートと申すものですね」
 声をかけてきたのは、二〇代後半。
 自分すら律しているような厳しい感じの女性。
 頭から、足まで真っ黒。
 この世界、下っ端教会関係者は、何物にも染まらないという事で、黒を着るようだ。武闘系なら返り血が目立たないとかもありそうだが。

「そうですが、今領主様が呼んでいるらしくて、あちらの約束が先ですのでよろしいでしょうか?」
「領主様が? すっ少しお待ちください」
 馬車に顔を突っ込み相談中。
 なかなか立派なお尻。

「そうですわね。それでは、ヨシュートとやらそちらを優先することを許可します」
 しっくりこないが、許されたようだ。

 だが、教会関係者は、ずっと待つことになる。

「そなたが、ヨシュート殿か」
 レンセンブルク侯爵は腹を割って話したいらしく、酒場を所望する。
 そのため、マムの店へと移動。
 ドンちゃんと宴会から、ギルドマスターの家へと雪崩れ込む。

「あれ? 何か……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...