不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第5章 獣人国平定

第81話 歴史は作られる

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「もう行ったか?」
「どこへ?」
 そいつは、その返答で、まだ行っていないと判断をする。
 にやりと笑いながら説明を始める。

「闘技場の屋台だよ。今年は……」
「ああすごいよな、串焼きだけじゃなく、唐揚げにお好み焼き。それにライスサンドが今一番だな」
「ライスサンド?」
「ああご飯という穀物に、色々と挟んだ物だ。美味いぞ。あれに使われているソースが絶品なんだよ。辛子と、マヨネーズ…… ああ…… 買ってくる」
 人にそこまで言って、放り出して行っちまいやがった。
「だが、ライスサンドか、俺も買いに行こう」

 新作が追加されて、売られる。
 そんな中に、密かに異臭を放つ逸品が出来上がっていた。

 ヨシュート以外は見るのも始めて。
 ターメリックやクミンとコリアンダーその三種類だけをとりあえず見つけた。
 胡椒とか、唐辛子もある。

 実はそれ以上何が入っているのか判らず、なんとなく配合をしたら、それらしくなった。

 うどん屋のカレーは美味い。
 その記憶だけで、出汁を引き、小麦粉と油。
 牛乳を入れて、伸ばして……
「ホワイトクリームが出来た……」
 なぜだ?

「あれ? なにそれ? 美味しそう」
 クリームシチューは皆に受けた。
 ジャガイモやタマネギ、ニンジン。
 鶏肉をグリルして、適当に切り放り込む。

 我慢できず、ご飯に掛ける。
 賛否両論あるだろうが、途中までカレーを作っていたんだ。

 美味い。美味いが、これは違う。

 そういえば、ターメリックとかを入れていない。
 途中でシチューになってしまったから、つい食べてしまった。

 違う、美味かったけれど。
 また作り始める。
 配合は、適当。
 一対三体三くらい。

 これだけで、結構らしい匂いがする。
 チョビチョビと少量を作っては試食をしていると、さっきは喜んできていた連中が、遠巻きになっている。

「その、それなに? 匂いは独特だけど、動物の内臓の中身は食べない方が良いわよ」
 ヴァレリーも当然動物を捌いたことがある。

「これはうんちじゃない。匂いが全然違うだろ」
「そうなんだ、ヨシュートってたまに変な物を食べるから」
 あれは片栗だろう。
 水と砂糖を加えて、お湯を入れながらかき混ぜる。
 子供の時に、風邪で調子が悪く、食欲がなかったときに作って貰った記憶がある。
 片栗が出来たので、なんとなく作ってみた。

「これは肝臓とかに良い、ターメリックとかを引いて炒めて合わせた物。体に良いものだ…… 医食同源というものがあってだな、体のためには食にこだわり、悪いところに効く様に悪いところと同じ物を食べると…… あれ?」
「やっぱり」
 ものすごく変な目で見られる。

 ターメリック。つまりウコンの芋を目の前に置く。
「これが色の元、肝臓に良い」
 匂いの元のクミンとかコリアンダーを置いていく。
「これが材料、どれも体に良い」

 そう言いながらも、試食中だが何か足りない。
 コクか?
 ヨーグルトを足す。

 うーむ。
 鶏油だったり、バターだったり…… ニンニクを炒めて入れた。
 ちょっと良くなった。

 そういえばチョコレートだったり、インスタントコーヒーだったり入れると聞いたな。
 ソースだったり、醤油ベースの串焼きのタレを少し入れてみた。
 思っていたカレーとは違うが、美味しくはなった。

 試食たーいむ。
 少し顔が引きつっている、ベルトーネさん。
 さっきから、ひたすら匂いを嗅いでいる。
「さあ試食だ」
「うん」
「はい」
 ヴァレリーは先日味見させたから、味は分かっている。
 もう少し中途半端なスープカレーだったが、今回はもっとねっとりしている。

「あっ、この前より美味しい」
 ヴァレリーの目が見開く。
 相変わらず、安いからチキンベースだが、取りに下味をしっかり付けている。

 実は、親鳥のガラで、スープを取った。
 身の方もじっくりグリルをして、美味しくいただいた。
 親鳥は固いが、噛めば噛むほどうま味は出る。
 香川県の丸亀では、鳥の足が名物なのだ。

 柔らかい、若鶏と、うま味の親鳥。
 鶏油を回しかけながら焼かれた鳥は、無茶苦茶ビールが進む。

 さて、そんなものを、付け合わせに出した。
 カレーと共に。

 最初は、敬遠されたが、獣人だ。
 匂いにひかれて、やって来る。
「一つくれ」
「おお? うめぇ」

 一人が買って叫べば、もう十分だ。
 うちの従業員もサクラとして食っているし、その光景は広がっていく。
 

 そしてこれも、トーナメントの名物として定着をして行く。

 同時に、今年の試合は伝説となる。
 Aサイドは、スヴャトスラフ=スタローンが連戦連勝。
 Bサイドは、ヨシュートが勝ち上がる。

 それはトーナメント表の両サイドが、勝ち上がる図が出来上がる。
 そして、それに番狂わせなど起こらず、決勝戦。

 「では双方共、準備は良いか? では始め」

 その戦いは、静かに始まる。
 会場も、開始の合図と共に、静まりかえる。
 
「動かないぜ、二人とも……」
「しっ……」
 その瞬間スタジアムの気圧が上がる。

 両者は動いていない、だがその中央で、空気が弾けた。

 それは、観客には見えなかったが、拳同士のぶつかり合い。
 その中間で圧縮された空間。
 それは圧縮をされて限界を迎える。
 そして、弾ける。

 当然、ぶつかったのは空気だけではない。
 両者が練り込んだ魔力……
 波長が違う、その力は相反し弾ける。

 スタジアムの中央から、外へ。
 
「ぐわっ、何があった? 耳が」
 そんな声が、会場のあちらこちらで聞こえる。

「王様、大丈夫ですか?」
「これは、本戦の対戦並みだ、シールドのない観覧席では危険だ。王様戻りましょう」
「ならん。この戦いは見なければならんのだ」
 王は、なぜかかぶりつきで見始める。

「なぜそこまで?」
 王は、本戦の戦いを見たことがなかった。
 本戦は、招待を受けたもので無いと、金を払わねば入れない。
 迫力や余波で、一瞬ひるんだが、ヨシュートの姿も見たいし、これが獣王戦の本物。
 見なければぁ。
 王様、わっくわくだった。
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