不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

文字の大きさ
86 / 135
第5章 獣人国平定

第86話 陰謀

しおりを挟む
 スヴャトスラフ=スタローンが放棄したせいで、空いていた一つの枠。
 そこは今回、推薦枠となっていた。
 
 そこに名前が挙がったのは、なぜかスヴャトスラフ=スタローン。
 そう、陰謀がドロドロにかみ合い、この結果となった。

 目的は、スタローン家の名を地に落とすための、えげつないもくろみ。

 弱くなった者を、皆の目の前で再度晒す。
 推薦した者達は、そう思って画策を行った。

 だが、予想に反して、当然彼は喜んだ。
 そして、本戦が実際に開始されるとかれは強かった。

「なんだあれは?」
 その試合、圧倒的だった。
 前評判では、それは拮抗した者だった。
 スタローン家の神童対ステイサム家の神童。

 ただ家としては、ステイサム家の方が新興。
 だが嫌らしそうな視線が集中する試合は、あっさりと、本当にあっさりと終わってしまう。
 にやけた顔は、開始のかけ声と共に挑発して来る。

「来いよ、神童様」
「良いのか? そんなに隙だらけで」
 スヴャトスラフがそう言ったのは、張ったりではない。
 自分よりも圧倒的な高み、そんな者と対峙をして彼は変わっていた。

 経験が人を変える。
 周りはもう、何年も前に相手にならなかった。
 きっと目の前に居るコイツもそうなのだろう。
 だが、彼は経験をした。
 圧倒的強者との試合を、それにより彼は一気に成長をした。

 隙を無くし最小限での防御と攻撃、無駄をなくし流れの中で合気を見極める。
 自身と相手、相対的な力が働きあって流れを作る。
 
 ただ、彼はその流れに付いてこられなかった。
 自力の不足。

 軽く出したパンチ。
 それすら、避けられず、もろに喰らう。


 ―― こいつは、地方会で負けた愚か者だ。
 敗者復活的に本大会に出てきたが、所詮は負け犬だ。

 じいさま達には、散々うちを新興だと馬鹿にしてきた家の小僧をコテンパンに、惨めに大衆の目にさらしてこいと言われてきた。

 何が歴史だ、この際違いを見せてやる。

 そう彼は、前評判を聞いて、舐めていた。
 彼を倒した、半端者の強さを知らないが為に……
 
 開始の挨拶後、挑発をして、奴が来た。

 ゆらりと揺れた体……
 次の瞬間には、意識が飛んだ……

 はっ? 何が。
 そう思ったら、ずしりとボディに何かが来た……
 動かない体。
 先ほどまで、絶好調だった。
 本戦に合わせて、体を作ってきたんだ。

 だが、気がつけば俺は、舞台に座り込み、奴を呆然と見上げていた……
 立とうとしても、言うことを聞かない体。
 動け、動けよ。

 奴はすでに、興味を無くしたように俺を見ておらず、客席をぼーっと眺めていた。

 俺は絶望の中、動かない体と格闘する。
 だが審判は、薄ら笑いを浮かべて、俺の負けを宣言をする。
 『まだやれる』
 そう言いたかったが、体が動かない。

 結局担架で運ばれることになった。

「残念ですが、背骨が砕けています。もう歩けないでしょう」
「ふざけるな、なんとかしろよ」
 だが教会の治療師は首を振る。

 治療師は、竜人族の最高峰…… なのに。

 そして、俺は治療について奇妙な噂を聞いた。
 スヴャトスラフは地方会で、体の半分を失い死にかかった。
 そんな馬鹿な噂。
 欠損は治せない。
 それがこの世界の理。
 それは覆せない現実。


「どういう事だ、弱いのではなかったのか?」
 ステイサム家の祖父は金を積み、この茶番を組んだ。
 でかい面をする古い家の一角。
 それに、一矢報いる事が出来るチャンス。
 それなのに、孫はたった二発で再起不能となった。

 確かに早いが、なんと言うことはない。
 ヤル気も無いような自然に出された二発。
 それを、もろに受けた孫も孫だが、あの威力があるなんて思えなかった。

 本戦では、魔法や武器も許可されている。
 だが、それを使った気配もなかった。

 ただ放たれた軽い二発…… それだけで…… 孫は終わってしまった。



「強いじゃないか……」
「ああ出来損ないに、簡単に負けて死にかかったと聞いたが」
「おい、新しい屋台、当たりだ、ナニを食っても美味いぞ」
「おまえなぁ…… そんなにか? ちょっとよこせ」
「これは、ポップコーンと言うらしい」
 もぎゅもぎゅと、彼は美味そうにそれを頬張る。

「いけるな。これ色々な味が混ざっているのか?」
「ああキャラメルとか、薄塩とか、抹茶とか色々あるんだ。これは初心者向け、種類を決められ無い人のための、初めての体験ミックス、あまずっぱい杏味入りスペシャルだ。冒険者向けの、からしミックスとか、唐辛子ミックスもあったぞ。売っていたケイティちゃんが猫族だがかわいいんだよ。美味しくなあれって、キュンキュンしてくれたんだ」
 それを聞いて、全く理解できなかったが、彼らは屋台へ走った。


「なんだよあれ、こっちには客が来ず、あっちばかり、しかも試合中でもたかっているじゃねえか。いつもの、試合が始まるから早くしろの声も出ねえ」
「あれのせいだろ」
 指さす先には、大型のスクリーン。
 食事をしながら、試合見物が出来る。

「なんだありゃ?」
「あの屋台の奴ら、なんとかの光が持ち込んだとさ。あれ一つで白金貨十枚は必要らしい」
 値段を聞いて、つまみ食いをしていた串焼きが、ポトリと落ちる。

「そんな物、屋台の儲けじゃ、元が取れねえじゃないか」
「奴らが造っているんだよ」
 やれやれという感じで教えてくれる。

「なっ。何者だよ」
「なんとかの光だ」
「知っているよ」
 騒動は、まだまだ始まったばかり。

 一部の者に対する混沌と困惑は広がり、安易に実行された策謀がヨシュートを怒らせることになる。
 だがそれは、もう少し後の話し。

 それを見てロニーがぽつり。
「結局こうなるんですね」
 笑顔で彼は、そう言ったとか……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...