不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第5章 獣人国平定

第98話 惨劇、悲しみと怒り

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 それは一瞬だった、黒い煙は一気に人々を喰らう。
 なぜか、ヨシュートの周りには煙は来ない。

 だがほかの者達は、容赦なく飲み込まれていく。
「はっ、ヴァレリー」
 ヨシュートは、観客席へと走る。

 ヴァレリーとベルトーネの周りには、なぜか煙が寄ってこない。
 ロニーとユキは、襲撃事件が片がついたので来ていない。
 対獣王戦にはくるらしいが、今回の相手は一度勝っているし、興味など無いようだ。

「ヴァレリー」
 ヨシュートの声が、観客席に響く。
 ヴァレリーは喜び、ベルトーネは少しむっとする。

 判っていた、彼にとってヴァレリーは初めての女だし、こっちは歳上だし……
「良いけどね。ヨシュートぉ、こっちぃ」
 声のした方向に向けて、まばゆい浄化の光が降り注ぐ。

 霧が晴れる。だが、二人以外はすでに死んでいた。
 いや一部、従業員が生きている。
「なんで?」
 それは、ロニーが与えた、魔導具。
 光の導が示すように、ペンダント型の浄化アイテムが皆に配られていた。
 それは信心の証。

「ここは駄目だ、一度屋敷に向かう」
 少しくらい浄化をしても、後から後から吹きだしてくる。
 きっと全開で浄化をすれば、周囲の浄化が出来る。
 だが、煙に触れた人々は、ほぼ即死。
 そのため、屋敷の方へと向かうことを決断をする。

 だが屋敷は、あの装置が動いている。
 何でもかんでも浄化する強力なもの。
 全く問題が無かった。

 問題はそこに向かう途中、人々が倒れ、地獄のような景色。
 スタジアムで宣言をしたあの女は、すぐに居なくなっていた。

 そう彼女は、瘴気が噴き出したのをみた後、転移装置で魔人国に戻り、大陸を掌握し魔王となることを望んだ。
 そう彼女は自信の研究目的を、自信の身によって成した。
 相性がよかったのか、凶暴な衝動を持つが意識がある。
「何だ大丈夫じゃない」
 彼女はそう思ったが、正気なら、魔人国を制覇しようとは考えない、それこそが破壊衝動、瘴気にやられている証拠なのだが本人には理解できない。

「とりあえず、食料はあるし様子を見るか?」
「そうですわね。いまゴーレム達が浄化用魔導回路を組み立てていますので、それができれば街に設置いたしましょう」
 ユキがすでに動いたようだ。

 彼の信者達も、光を放つ館へと集まってくる。
 そして、時間がたつにつれて、地に倒れ伏していた者達がむくりと動き始める。

 ひどく顔色は悪く、動きも緩慢。
 此処のダンジョンの二階や三階でよく居る奴だ。
 皆そのお仲間になってしまった。

 だが、この獣人族の国ではその判断が、そうなのだ、獣人の見た目では判断が難しい。
 なんと…… 顔にまで毛が生えているから、顔色が判らない。
 黒目が大きく白目も見えない。
 見やすいのは、耳の内側、位だろうか?

 そのため、一見をすると黒い霧の中を平気で徘徊する人々、異様な光景だが、霧さえなければ全く日常の景色のように見える。
 ただ徘徊の目的が、生者を襲う事であるが……

 
「さてどうするか?」
「関係者は屋敷の戻って来ております。予想外に信者のメダルが効果を発揮……」
「信者? メダル? ロニーなんだそれは?」
 そう聞かれ、一瞬ひるんだが、一呼吸。

「これは、偉大なるヨシュート様を崇拝する者達の証、気にしないでください。同士の証と言ったところでしょうか」
 そんな事を平然と言い放つ。

「崇拝?」
「良いじゃありませんか。ヨシュートなら、あれよりも何倍もましです」
 そう言ってユキは天井を指で指し示す。

「あれなあ、何かの折に干渉して来ているんだよな。思えばこの前も危険とか頭の中で声がしていたし」
「むうっ、それはいきません」
 そう言ってユキに抱きしめられる。

「あっズルい」
「私も」
 結局三人にたかられる。

 その状態を、ロニーがキラーンと言う目をして指を鳴らす。
 すると、どこからともなく豹人族が現れて、俺達を撮影し始める。
 俺にすら気配を察知できないとは、どんな装備をしているんだ?
 何か、話しているが、物騒な言葉が聞こえる。
「承知いたしました。偉大なるヨシュート様、足跡の庭ですね。十メートル。はい」


 像を造れとか聞こえたが……
「何をする気だ?」
「いえ、お気になさらず」
 そう言ってにっこり。

 長い付き合いだし、有能だが、こいつは先走ってやっかいごとを拾ってくるし、敵も作る。総合すると、有能の方が少しだけ勝つのか?
 ヨシュートが、ロニーの進退について少し本気で考え始めたようだ。
 出会ってからすぐ、異常なほどの忠誠心を見せた彼。

 ロニーにとって、テントの中で見た光景は、それほど衝撃的だった。
 初めて人知を超えた存在を、その目で見て、彼は確信をした。
 その奇蹟。

 ヴァレリー様を触媒として、その場に居ながら敵の動きを見ていた。
 その時から、このお方は神に違いない、何があっても付いて行く。
 そんな決意を彼はした。
 その過剰な崇拝が、多少空回りをするだけである。

 だがまあ、彼の思う以上に物事は進み、あっという間に帝へとなってしまった。
 おまけのベルトーネと、部下であり愛人のユキ様。お三方に慕われ微笑みをこぼすヨシュート様。
 この一瞬を残さねば。

 数年後、この彫像に彫られていた銘を見て、ベルトーネは怒り狂う事になる。
 『獣人国において、厄災時のヨシュート様。半身であられるヴァレリー様と部下のユキ様、愛玩物のベルトーネ様と共に』
 怒りはしたが、なんとなくそういう気もして、泣き始めたらしい。
 ご機嫌を取るために、三日を要したとか。
 無論ロニーは折檻を受けて、銘板は変更された。

 『獣人国において、厄災時のヨシュート様。寵愛をする三人の姫と共に』
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