不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第7章 宇宙(そら)へ

第119話 動乱

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 それは突然始まった。
 
 様に見られた。
「行け、あいつは今日、教会の方にいるはずだ」

 エドメ=クラヴリー伯爵率いる本隊は、夜の町中を走る。
 丁度、夜中二時となり、外灯が減光した時間。

 だが国民の知らない魔導カメラは、その姿を捉えていた。
 律儀にマザーから警告がくる。
『武装した集団が接近中。経路から目的地は此処か王城だと思われます』
「判った、ありがとう」
 そう答えて、ソファーから起き上がる。

「来たの?」
「ああ予定通り」
 彼らの動きは聞いていた。

 彼らの別働隊は、街を制圧する形で兵を配置をする。
 カメラで位置を確認し、特殊部隊へ連絡が入る。
「特殊部隊陽炎かげろう出ろ。その後に捕獲部隊。門の外に居る奴らは防御システム作動。子守歌発動」

 子守歌というシステムは、精神波。
 ヨシュートの持つ魅了の一つ。

 音がせず、ただ敵を眠らせる。
 人質を取る山賊用に、開発された。

 武力を使わず一網打尽。
 危険な鉱山での、労働力を減らさないために作られた。
 そう鉱山でさあ、人的危険回避と効率化のためにゴーレムを使ったんだよ。
 だけど彼らは、危険予知というのか、そう言う異変に対する機微が鈍い。

 そのため落盤と崩落を繰り返し、大量に埋まってしまった。
 それから、捕まえた盗賊や野盗、犯罪人をカナリアよろしく使い始めた。
 するとだ、危険予知に優れていて、使いやすかった。

 そのため、カナリアの捕縛に開発されたというわけだ。
 今回も大量に獲れる様子。

「さて、建物内、防御発動。メイズシステム起動、経路を変更し奴らをホールに導け」
 この教会、壁が出たり入ったり。
 廊下が、命令により変化をする。

「これで賊は、どう移動をしても最終的には、ホールに集まってくる。見に行くか」
 そこは、半円形のドーム。
 窓は天井付近にしか付いていない。

 しかも、入り口は閉じると見えなくなる親切設計。
 ドアにはとじ代が必要なので、その隙間状の飾りが壁の全周に作ってある。
 そう、完全にドアの痕跡を消すのは難しいが、それなら全部をその形にすれば良い。
 
 コントロールルームは、今宴会場。
 まあ夜食会場だな。
 壁面のパネルには、カサコソと警戒をしながら、動く奴らが映っている。
 その有様は、彼らにすれば真剣なのだろうが、見ているこちらは愉快としか言いようが無い。

「こっちは良い。外は?」
「切り替えます」
 陽炎たちが布陣をして、カメラから姿が消える。
 そう光学迷彩。

 足元も、特殊な魔獣の革を鞣したもので、足音がほとんどせず、ショックも吸収をする。

 その様子はカメラで見ると理解できる。
 すぐ背後に迫っても、敵は全く気がつかない。

 片側のモニターは、可視光と電波式を並べてある。
 街角で武装をして立っている敵、そこにカサカサと近寄り、スタンさせる。
 背中から支えて、音を立てないように寝かせていく。
 瞬間捕縛ベルト、『縛るんです』を使い、ガチャコンと動けなくする。

 無論、口にもマスクをはめる。
 鼻と口をカバーするもので、うめき声もおさえる。
 呻こうとした瞬間、口元に展開されるシールドが、空気を遮断する。

 つまり呻き続けると、息ができなくなる。
 ちなみに、舌も噛めないように、直径三センチ、長さ十二センチほどの柔らかい棒が口の中に差しこまれる。

 ヴァレリーとベルトーネは、なぜかそれを見たとき喜んでいた。

 さて陽炎とかが作業を終えると、一般の兵達が捕まえに走る。
 だがそこで、予想外が起こる。
 憲兵達が割り込んできた。

 そう、奴らの息が掛かっている。
「こんな夜中に武装をして何のつもりだ? そいつは一般市民を拉致しているのか?」
「これのどこが一般市民か?」
 捕まえているのは、完全武装の怪しい奴。

「ああっ? それを判断するのはおまえらじゃねえ、俺達だ。ここじゃ俺達が法なんだよ」
 面倒だから割り込む。

「ヨシュートだ、そんな権利は憲兵に渡していない。職権乱用。そいつらも捕縛」
「はっ」
 街角にある、警戒用放送システムで割り込みをかけた。

「ちっ、人数はこっちが上だやっちまえ」
 貴族の息が掛かった隊長は吠える。
 だが……

「ヨシュート様が…… やっぱり見ている……」
 そう言って、憲兵達は皆しゃがみ込む。

 ヨシュート様は、現人神。
 お年寄りを中心に、その信仰は広がっている。
 『あの方は、世界をいつも見ている。悪さをすれば、罰せられるからね』
 日本で言われている、お天道様はいつも見ているからねと言う言葉。それと同じ感じで浸透してきているようだ。
 きっとそんな言葉を、聞かされているのだろう。

 内心で、やっぱり見ていたぁ。とまあ、ガクブル状態。

「ちっ」
 隊長が逃げ始めたが、背後には当然だが陽炎たち。
「ぐえっ」

 倒れた隊長は、速やかに捕縛される。
 だがそれを見ていた憲兵達は、なぜかマスクを付けるとき顔を背けていた。

「あれって陽炎以外には、渡していなかったっけ?」
「渡していません。憲兵とかが日中使うには…… その刺激が強いと意見がありまして……」
「そうか?」
「ええ、あの押し込む棒の形がどうしても……」
 そう言って、警備オペレーターの責任者。
 彼女も『神の光芒』の関係者であり、此処に配備されている。メリザンド=ラウルト嬢はなぜかぽっと赤くなる。

「そうか?」
 あの棒、差しこんだときに、先がパタパタしないように、ちょっとだけ太くなっている。そして中央には、空気穴も開いている。


 そして端のモニターでは、街の外で三千人ほどの兵達がお眠りになっていた。
 彼らはそのまま運ばれて、明日には鉱山の中で目が覚めるだろう。
 ただ話を聞いて、徴兵に従っただけの農民達は開放をする。

 権利は奪っても、やはり長年の力関係が生きているようだ。
 今後の課題だな。
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