神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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最悪な国、ニコ国

第28話 出逢い

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「なんですって? 姫様が帰ってこない?」
「そうです。様子を見に行ってください」
 
 ニコ国に向かい、とらわれたと思われる姫。
 ヨウシア国の姫ロジーヌが、王の代理としてニコ国で開催された園遊会へ出席。
 
 ニコ国で王が代わり、その時に周辺国に挨拶も無かったため、今回の招きに対して周辺国は代理を立てた。
 だがヨウシア国は、東側で国境を接している隣国、流石に義理と面子があり王族が出席することになった。

 第一王女ロジーヌは十五歳、ニコ国の第一王女ヴァイオレットも見知っている。
 事務方の代表、セフレノ=カルイヨン侯爵達と共に出立。
 なのにだ、行ったものの音信不通。
 その話は速やかに上へ上げられて、王の知るところとなる。

 そして、王から宰相へと命令が下る。
「姫の安否を探れ。必要なら出兵も考える」
 国の規模は同等だが、ヨウシア国の王エタルーノが、なぜか少し過激である。
 熱しやすく冷めやすい性格。

 そう喉元を過ぎれば、忘れてしまう、良い王と言えばいえる。
 だが、沸騰しやすい性格から、行動は早い。

「承知いたしました」
 宰相は考える。
「冒険者風を装い、彼らを一班潜入させましょう」
 宰相直属の調査機関。
 闇の騎兵団、男性部隊『錆びたくさび』女性部隊『くれない』、彼らの中から、潜入調査に長けた者達が選出。

 五人チームが組まれた。
 チーム名『至高の極オルガスム』で、ギルドに話しを通して、人数が一番多い銅級とした。
 リーダーはブルーノ。十八歳くらい。男で双剣使い。
 サブリーダーがソフィー。女でやはり十八歳くらい。弓とナイフを使う。
 ストランドは男で、建前上盾持ち。彼は十六歳くらい。
 フィーネとリエッタも女性で、十五歳くらい。本来は暗殺が得意なのだが、適当に細めの剣や弓を使う事にする。ただ、暗器は忍ばせてある。

 彼らは貴族では無い。
 小国であるがため、生活の知恵というか、どうせ必要で育てるならば、食い物と寝るところだけで、死に物狂いで敵に突っ込んで行く兵を作ろうと考えた。
 教会などで育てられていた孤児達。その中から、適当に選出して宰相が育てて鍛え上げている。
 まあ国としては、使い捨てのコマ。
 それが彼らだが、仕事としては非常に小回りがきき重要である。

 大体、成人をする十五歳から二十歳くらいまで仕事をして、後は開放されるためそのまま冒険者とかになる。
 まあそうは言っても、用事があれば声が掛かり、各国で諜報を行う。

 国に救済されて育てられた者達。
 他の国に比べれば、天国である。

「お勤めだ。俺達が働けば、同じ様な子ども達が助かる。頑張るぞ」
 リーダーであるブルーノから、耳タコな言葉。

「へいへい。ターゲットはお姫様。人相書きを覚えておけ」
 バサッと似顔絵と、今回の依頼内容が書かれている紙が、無造作に机の上に投げられる。
「美人だな」
「そうか?」
 ソフィーのような女から見ると、そうでもないらしい。
 似顔絵を見ると実際王族とは言え、小国の辛さ、かわいげはあるが垢抜けない印象の姫様。

「兵に聞かれると切られるぞ」
「判った、気を付ける」
 固まってごちゃごちゃと話し合い、ギルドへ行って登録のタグを貰う。

 そして彼らは、王都シモンコマスを出立をして、東へと向かう。

 

 カグラは、境界の向こう達と一緒に、ヨウシア国とニコ国そしてヴァーラ国が国境を接している緩衝地帯周辺で盗賊を退治していた。

 境界の向こうは五人。
 リーダーはジャンで十七歳。
 ツィリとリーバルはジャンと同じ村出身で十七歳、ツィリは男で、リーバルは女の子。
 フィロとメーナは女の子で、前にいたチームが壊滅して、拾われた。共に十六歳。
 山の中で薬草採取中に、突然狼たちの群れに出くわし、弱い二人をチームメイト達が囮となり、逃がして貰った辛い記憶がある。

 無論二人を逃がしてくれた者達は、その時に命を落としている。

「さあ行こうか」
 彼らは、適当に挨拶をして出発をした。
 ヴァーラ国から、南へ向かう道。
 ここもある程度主要な街道となっているのに、薬草街道に比べるとひょいひょい盗賊が出てくる。

 無論大規模では無く、少数。
 それもまともな武器も無く、食い詰めた農民崩れのようだが、カグラに慈悲はない。

「あっ、と」
 フィロが盗賊のと、そこまで言いかけると、すでに盗賊達の首が飛ぶ。

「うーん、違うなあ」
 適当に、首を見聞し始めるカグラ。

 初めて間近で見て、カグラに好意を持ったリーバル、フィロとメーナだが、全員ドン引きである。

「すげえな、あの技もだが、全く躊躇無い」
「ああ、どう見ても。出てきたのは農民だろ?」
 ツィリは少し呆れたように言ったが、理屈に対して納得はしている。

「だろうな。だが、出てきて金を出せと言った以上、盗賊には違いない」
 ジャンとツィリは、逆に感動をしていた。

 今見逃せば、将来他の誰かが殺される可能性が高い。
 一見すると、カグラは女性のような顔。
 まだ若く、背も小さいがその動きは流れるようで美しい。

 姉御であるユスティから、弟の様に扱われていた記憶。
 もっと、あの時は笑顔が多く、ここまで非情な戦いをする様には見えなかった。
 まさに無慈悲。

 本人も、
「盗賊だからな。人の命を奪いにくる以上敵だ」
 そんな感じで、あっけらかんと返してきた。

 その心構えは、見習うところだ……
 だが……


「もっと場所を移動しない?」
「まだ、見聞が終わっていない」

 少し前。
 彼らは、昼飯を食うというカグラに付き合い、普段食べない昼飯に付き合っていた。

 そこに、結構大きな盗賊達が現れた。
 

 ここはすでに、裏街道へ入ってきている。
 ヨウシア国とニコ国の国境も近い。

 例によって、あっという間に倒した後、昼食に戻ったカグラ。
 すでに、何でもカグラに従うディアナは、当然の様にカグラの隣へ座る。

 その血臭がただよう現場へ、異変を感じてやって来たのは、至高の極達。

 道沿いで、焼き肉パーティ。
 まあそれは、あると言えばある光景。
 だが、背後の森を覗き込めば、盗賊達の死体だらけ。

 網の上で焼けて良い匂いをあげているのは、猪の骨付きスペアリブなのだが……。
 知らない者達に対して、演出効果は満点だ……

「あんた達、それ……」
「うん? 材料は幾らでもある。食うか?」
 カグラは笑顔で誘う……

「それって、人間じゃないよね……」
 思わず聞いてしまう。
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