神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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最悪な国、ニコ国

第30話 盗賊の殲滅とやっかい事

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 それは、盗賊達の間を舞い踊る何か。

 彼が通り過ぎると、コロコロと首が転がっていく。
「すごい」
「しかたない、俺達も行くぞ」
 すでに突っ込んだカグラ。

 至高の極達と境界の向こうは、お互いに顔を見合わせてから、やれやれと突っ込んで行く。

「盗賊にしては、かなり大きいな」
 そう、此処を管理するのは、ラルスの部下、グレンデス。
 言わば、ニコ国国営の盗賊となっていた。
 通行する商人を襲い金品などが、ニコ国の王都テイネィ、ラルスの元へと送られる。

 普通に他国の軍などが来た場合、山城となっている此処は、ある種要塞となっていた。
 ロープを切れば落石や丸太落とし。
 そして道は複雑に入り組み、丸太による壁を組み替えることで迷路が造られる。
 だぁが、今回は逃がした奴の血が、道筋を教えてくれる。

 武装のために建てられた矢よけが、少人数の移動であれば、上に居た見張りから守ってくれた。

 たとえ、外からの攻撃に鉄壁の防御を誇ろうとも、中に入れば襲うだけである。


「何を騒いでやがる」
 グレンデスは、戦利品の女達を布団にして寝ていた。
 昨日は比較的大きな商隊を襲い、実入りが良かったので朝まで飲んでいたためだ。

「賞金首めっけ」
 寝ぼけた頭に、嬉しそうな声が聞こえた。

「ああん? がっ」
 家から首を出したその瞬間、彼は自分の体を見る事になり、そのまま意識は暗転をした。そう自分の体に沿って首が転がり落ちた。
 
 時間差で倒れた体を踏みつけながら小屋に押し入り、幹部らしき数人もまとめて首をはねる。

 残りは、おびえた女達と、目付きが悪く酒臭い女。
 他の者達と同じで服は着ていないが、背後に手を回し、ナイフを投げた瞬間、意識が消失。

 ナイフには毒が塗られていたが、空中で払われた。
 魔人化以降、集中をすると、時がゆっくりと流れるようになった。
 そう気合いが入ると、カグラは無敵モードとなるようだ。

 息をするように、周囲に対して常時探査をしており、非常時には瞬時にシールド展開。
 その姿は、世紀末覇者の義兄のよう。
 一般人から見ると、彼の残像がまるで流水のごとく見える。


 そしてそれは、囚われていたものからすると、白馬に乗った王子様その者。
 なんと言っても、カグラの顔は幼さが残っているが、この世界の基準でも美人である。

「わたくしを助けるために、来てくれたのですね」
 大店の娘達、ミノヤキーノ商会クレメンスティーナとトリヤキー商会セセリーは共にそう思う。
 だが現状、彼女達は服も着ず、昨夜一晩奴らに汚されたばかり。
 大事な所から、盗賊達により流し込まれたものが流れ出ている状態。

 流石に世間知らずな彼女達でも絶望をする。
 だがそんな体を、白き光が包み込む。

 それは、奇蹟の力…… 浄化魔法。
「ああ、神様」
 彼は王子様から、神へとランクアップしたようだ。
 すでにその場に居なくなった彼に、彼女達はつい手を合わせる。

 現場を見て、つい浄化をしてしまい、やばいとカグラは逃げた。

 そしている間にも、無情にも盗賊達は殲滅される。

「こいつもちがーう」
 カグラによる、お尋ね者選別。

「結局三人だけだな」
 そうして、いつの間にか掘られていた大穴に、彼らの亡骸を放り込み浄化。
 そして埋める。

「終わりかな」
 村の中を見回っていた、ブルーノ達がやってきた。

「あの女の子達はどうする?」
 そう言われても困る。ここは国境が重なる部分、誰がどこから来て何処に行こうとしたのか?
 
「盗賊の財宝を、少し渡して解放しよう」
 そう言って見たが、許してくれないようだ。

「それはそうだが、送っていかないと、また盗賊に襲われないか?」
 やはりそうなる。そう言われて、悩みながらも、妥協する。

「それもそうか、男達はことごとく殺されていたし…… 話を聞いてみるか」
 結局そういう事になったのだが、少し状況がおかしくなる。

「私たちは、ニコ国に居を構えております商店で、わたくしはミノヤキーノ商会の娘、クレメンスティーナで、そちらはトリヤキー商会です」
「トリヤキー商会、セセリーです。実は、私たちの父親が幼馴染みで…… その、家族を順に逃がすという事になって……」
 そう彼女達の話だと、ニコ国も王が代わり、少しおかしな事になってきているようだ。

「国を強くして行く、それは将来国民に富となって帰ってくるのだと……」
「そうです。家族から一人以上人を出せ、出せなければ金貨一枚だと言って、それに加えて、商人には戦費負担金と物資援助金が課せられます。物納かこれまた金貨が必要だと」
 そう言って、彼女達は悲しそうな顔をする。

「戦争の準備か? 相手はどこだ?」
「おそらくダミアン王国かと、父が言っておりました」
 彼女達の父親であるミノヤキーノ商会、ターナボッターも、トリヤキー商会カモネギーも盗賊に殺されてしまった。

 この二商会は、ヨウシア国、ニコ国、ニスカ国を移動しながら商品の仕入れと販売をしていた。
 養蚕、鉱石の採掘、木材、それを加工した商品達。
 それぞれが独特で、同じ物でも価格なども違う。
 安く仕入れて高く売る。
 そのため、中央に位置するニコ国は都合が良かった。

 だが、二年前に王が代わり、そこから事あるごとに税金が上昇し始めた。
 それも、表立っての税金では無い。
 ものが動けば、物品流通税。
 人が動けば、入場と退出税。

 町の維持管理や街道の維持管理、それらは、街道通行税として物品にも掛かっている。
 元の商品に、幾重もの税金が掛かる。
「まるで日本みたいだな」
 カグラはつい口に出してしまう。

「日本? 日本てどこだ?」
 間者の性か、ソフィーが反応をする。
「気にするな、それでどうするか? ……」
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